
3-3.LIXIL
次に紹介するLIXILは、浴室、キッチン、トイレなど水回りの住設メーカーです。
事業環境としては、人口減少に伴う新築着工減少がほぼ確実な未来として予測されており、新築からリフォーム需要への切り替えが、会社の成長に重要な戦略だと位置づけています。
そのリフォームのニーズをつかむには、エンドユーザーとの接点をいかに持つかということを考える必要がありました。
そして、たとえ接点を持ったとしても、ショールームなどエンドユーザーと現場で接点を持つ社員がエンゲージメントの低い状態で接客しても、エンドユーザーは満足しない可能性が高いと考えました。従業員のエンゲージメントと顧客ロイヤリティは相関関係にあると考えられるからです。
そのような事業環境がきっかけとなり、2019年11月から「変わらないと、LIXIL」と題した人事プログラムを打ち出し、その中の取り組みの1つとして社員のエンゲージメントを高める施策を行いました。
具体的にまず行ったことは、月1回のエンゲージメントサーベイの実施です。
エンゲージメントサーベイを始める前は、年に1回従業員満足度調査を行っていましたが、短いサイクルでタイムリーに従業員の意識をつかむ必要があると考え、エンゲージメントサーベイを月1回実施し、定点観測することにしました。
エンゲージメントサーベイを始めてわかったことは、事前に仮説としてあった課題感と、実際にデータで見えた課題にズレがあったことです。
例えばショールームの社員の傾向として、職務や自己成長、使命や目標の明示といった「支援」項目は比較的高いスコアだった一方、「やりがい」や「達成感」は事前の想定より低い傾向にありました。
このように、感覚や想像ではなく、客観的な数値として現状を把握することからスタートし、マネジメント層からエンゲージメントスコアに対する理解を深めてもらうよう取り組みました。
マネージャーに対しては「スコアの良し悪しに固執しすぎないように」と、社長自らや人事部からも発信していましたが、それでも低いスコアにショックを受けてしまうマネージャーも一定数いたようです。
その際には、マネージャーが孤独を感じないよう、人事部が定期的にフォローアップミーティングを行うようにしました。
従業員エンゲージメントを向上させるための具体的な取り組みの1つとしては、情報共有システムを活用し、社員が必要としているサポートをリアルタイムに提供することです。
例えば、ある商品を購入した顧客と同じニーズの顧客を接客する場合に、以前成約に至った顧客データを参考にしてアクションに繋げられるようにするなど、成約に至りやすい仕組みを構築するなどといったことです。
そのような情報共有の仕組みにより、ニーズに合った提案が受けられることで顧客満足度向上が見込めます。従業員も成約率が上がり、自信を持った仕事へと繋がっていきます。
また、経営層から現場レベルの施策を提案するのではなく、現場が施策案を積極的に出せる環境づくりにも取り組みました。
気兼ねなくアイディアを出し合い、相互に協力しながらチームとして施策に取り組むことで、結束力や貢献意欲が湧き、エンゲージメントが高まる好循環になると考えたからです。
従業員エンゲージメント向上の施策として注意するべき点は、地域性や県民性など、地域によって働き方やライフスタイルも微妙に異なるという点です。
LIXILは、日本はもちろん、世界的に広く進出している企業であるため、そのことをより実感する機会が多くありました。
そのような地域性を考慮すると、企業として一律な施策をしていてはエンゲージメントの向上が難しく、ある程度現場レベルの施策判断が必要だということがわかりました。
つまり、現場へのエンゲージメント向上施策の権限移譲が重要だということです。
エンゲージメント向上に取り組んだ結果として、2020年4月のサーベイの時点で、開始当初から10ポイントエンゲージメントスコアが改善しました。
ただし、売上成長はマイナスであり、特に日本市場は直近の2021年1-3月期決算で10%のマイナス成長になっています。
このように業績への反映はまだですが、リフォーム市場などは回復基調にあります。
エンゲージメントスコアの改善が今後の業績や定着率にどう影響していくのか、注目を続けたい事例です。
LIXILが実践する従業員エンゲージメント向上と顧客志向の徹底:https://www.sapjp.com/blog/archives/33982
LIXILグループ総合報告書:https://kabuyoho.jp/discloseDetail?rid=20200828486865&pid=140120200828486865
「“繋がる”価値が今ほど高い時代はない」LIXIL Advanced Showroom社長が語るエンゲージメントの価値:https://get.wevox.io/media/plan-lixilas
株式会社LIXIL 2021年3月謂決算説明資料:https://ssl4.eir-parts.net/doc/5938/tdnet/1959424/00.pdf
3-4.小松製作所
https://home.komatsu/jp/ir/library/annual/
最後の事例として、建設機械メーカーとして日本トップシェア、世界でも2位のシェアを誇る小松製作所を紹介します。
小松製作所の従業員エンゲージメント向上への取り組みは、まず2011年に以前から掲げられていた「コマツウェイ」という「永続すべき価値観」を、より簡潔に伝わるように形を再編して行われました。
翌年の2012年にマネジメント層に向けた「コマツウェイ」の説明会を行い、さらに研修やワークショップなどを実施します。
マネジメント層にエンゲージメント向上施策のアプローチした理由は、イノベーションを起こす思考や発想を生むチームを作るためであり、現場の従業員エンゲージメントを高めるには、直属の上司が重要な役割を果たすと考えたからです。
そのアプローチの中で、マネジメント層が特に気を配るべき要素が以下の5つあり、それらが満たされることで、チームのエンゲージメントがあがり、結果パフォーマンスが向上すると、小松製作所は考えました。
①信頼
言い換えると、心理的安全性のある環境にするということです。
信頼があることで、リスクを冒すようなチャレンジをすることに抵抗がなくなります。
結果、斬新なアイディアがアウトプットされ、イノベーションが起こりやすくなります。
②モチベーション
新たな挑戦をし、成長できそうな仕事ができる環境を作ることで、やりがいを感じ、モチベーション高く取り組むことができます。
③変化
変化に対応できる組織、チーム、人になることで柔軟性が育まれるなど、変化はエンゲージメントの向上に影響すると考えられています。
④チームワーク
オープンなコミュニケーション、相互信頼の下での連携など、チームワークが良好な職場は人間関係のストレスが少なく、共に高め合うことができ、結果チームの生産性も向上する可能性が高いと言えます。
⑤権限移譲
任せられること自体にやりがいが生まれ、主体性、当事者意識を持つことができます。
これら5つの要素を満たすために、マネージャーは研修などで学びながら現場で実践をすることで、エンゲージメントの向上に取り組んでいます。
そのほか、プロフェッショナルとして活躍するための教育体系など、成長意欲がある従業員が成長できる環境も用意しています。
エンゲージメント向上に取り組んだ結果、取り組み前は33だったエンゲージメントスコアが70に増加し、離職率は33%も低下しています。
佐藤滉輔 日本の「働く」を考える~企業と従業員はどのような関係性が望ましいのか~:http://www2.econ.tohoku.ac.jp/~takaura/18kosukesato.pdf
total engagement group 従業員エンゲージメントの向上に成功した小松製作所:https://www.total-engagement.jp/812/
小池商店日記 従業員エンゲージメントが高い企業の成功事例|建設機械メーカー小松製作所の取組と考え方:https://www.sksp.co.jp/blog/y-koike/post-99861.php
mitsucari 従業員エンゲージメントを向上させた企業事例とは?高める要素を理解しよう:https://mitsucari.com/blog/engagement_case_studies/
sixseconds The Komatsu Case:https://www.6seconds.org/2020/09/23/komatsu-case-eq/
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4.従業員エンゲージメント向上のポイント
ここまで紹介してきた事例も踏まえて、従業員エンゲージメント向上に取り組む際のポイントを整理していきます。
4-1.適切なフィードバックを行う
スターバックスの事例のように、たとえアルバイトであっても適切なフィードバックを行うことで、エンゲージメントを高めることができます。
フィードバックをする前に抑えておくべき点は、目標設定をすること、理念やビジョン、バリューなどを浸透させることです。
指標となるものがなければ、適切にフィードバックを行うことができないからです。
また、フィードバックのスタイルとして、指摘や𠮟責などではエンゲージメントにマイナスの作用を及ぼします。
そのようなやり方ではなく、本人に気づきを与えるような質問をして、自分自身で解を導き出せるようにすることで、主体性や当事者意識を育むことができ、それがエンゲージメントの向上につながります。
4-2.わかりやすくて共感できる経営理念などを策定する
ユーザーベースの事例では、ミッションやバリューを明確にすることで、従業員がマネジメント層に対して抱いていた不満を解消することができました。
何のために仕事をしているのか、大事にするべき価値観は何かなどを明確にすることで、迷いなく日々の仕事に取り組みやすくなります。
ただし、経営理念などはきれいごとを並べただけであったり、ただ掲げるだけではほとんど効果がありません。
いかに心に響き、わかりやすくするかということを突き詰める努力と、浸透させる仕組みや工夫もセットで必要です。
4-3.定期的にエンゲージメントを測定する
LIXILの事例のように、感覚や予測だけでは、エンゲージメントを正しくつかむことができません。
エンゲージメントサーベイを定期的に行うことができる仕組みを導入するなどをして、数値として見える化することで、取り組むべき課題を明確にすることができます。
また、エンゲージメントは日々変動するものです。できるだけ短いサイクルで測定することをおすすめします。
4-4.マネージャーを教育する
エンゲージメント向上は、経営陣が声を挙げるだけでは実現できません。現場レベルで向上に取り組まなければ効果は期待できないのです。
小松製作所の事例のように、現場の状況を理解したマネージャーが、現場レベルでエンゲージメント施策に取り組めるようにしていく必要があります。
そのため全社的なエンゲージメントへの理解はもちろん必要ですが、特にマネージャーに対するエンゲージメント向上、エンゲージメントを高めることの重要性を理解してもらい、動いてもらえやすくるする仕組みが、非常に大事です。
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