
5.フリーアドレス導入に向いている会社・向いていない会社
この章では、フリーアドレス化に向いている会社と向いていない会社について、まとめてあります。
【向いている会社】
- 営業職や派遣の多いSE職がメインの企業
- 電話業務がない、または電話が外注
- 在席率が40%未満
- オフィス外でも仕事ができる通信・共有環境
- フレックス・直行直帰など、働き方の自由が既にある
- 社員の構成比が20~30代が多い
- 社員の働き方改善への意識が高い
営業時間中の在籍率が低い会社は、フリーアドレス化に向いています。例えば、日中は営業で社員の半分が外出してしまうオフィスは、営業時間中、約50%が空席のままです。
フリーアドレスを導入すると、この使われていないスペースを縮小して別のことに利用できます。または、そのスペース分を除いた、より小さいオフィスに引越しをして賃料を下げることもできます。
さらに、フリーアドレスを導入すると、会社から支給される貸与機器が移動しやすいものに変更がされるため、結果的にリモートワーク・在宅ワークの準備が整っていきます。特に20〜30代の社員は、生まれた時からノートパソコンや携帯電話がある世代ですので、
- 1つのところに固定されずに仕事をする
- 印刷物がない仕事の仕方
に抵抗感がありません。総合的に見て、社員が若く、働き方改善への意識や関心が高い会社の場合は、フリーアドレスの導入を積極的に検討する価値があります。
【向いていない会社】
- 総務職や電話対応の多い事務職
- デスクトップが必要なクリエイターがメインの企業
- 在席率50%以上
- 持ち出せない機密性の高いデータ、容量の大きいデータを扱っている
- 受電が多い職種
- 営業でも直行直帰・フレックスが不可の会社
- オフィスの在席時間で仕事を管理している企業
- 40歳以上が多い
毎朝、社員が全員揃って朝礼をするようなタイプのオフィスは、常に全員分の座席が必要になります。
そのため、省スペース化ができませんのでフリーアドレスには向いていません。
さらに、このようなスタイルの企業では、定年までずっと自分のデスクがあるのが当然で、昇進するごとにデスクやオフィス家具が大きく、豪華になっていくのがステイタスでした。
それをフリーアドレスのような自由席タイプに変えてしまうと、企業内での居場所の喪失を感じ、精神的なダメージを受ける社員が出てくる可能性があります。特に、社員に40才以上の人が多い企業は、現時点ではフリーアドレスは適していません。
代表電話への受電が多い場合、フリーアドレス化すると誰かが固定電話を担当することになります。受付がある場合は問題ありませんが、その人的リソースがない場合は、フリーアドレスには不向きです。解決策としては代表電話を外注する方法はあります。
また、オペレーターが必要なタイプの受電がある企業も、全ての電話業務がスマホからになるフリーアドレスは、通話記録以外にお客様情報を記録しながら対応することが難しく、システム的に不向きと言えます。
また、アップロードやダウンロードが難しい大容量のデータ、社外秘の情報が多い会社、デスクトップ型のパソコンが必要な職種が多い企業は、情報共有化によるペーパレス化が進まないため、書類・情報・空間・備品までなんでも共有をするフリーアドレスには不向きです。
6.フリーアドレスの導入事例
本章では、フリーアドレス化に成功した企業の事例を紹介します。各企業の導入目的、具体的な変化、デメリットについて調べました。
カルビー株式会社
- きっかけ:2010年、本社移転をきっかけにフリーアドレス化
- 目標: 在宅勤務推進
- 対象となった社員:全社員
- 具体的な変化
- 「今まで話せてなかった人と話せるようになった」という反応は非常に多く、固定席であることがいかに限定された人間関係しか生み出せてこなかったかを理解した。
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- フリーアドレスであることは「空いている空間が会議室」と同義語。会議室予約の必要がないので、部門横断型メンバーでのプロジェクトであってもメンバー同士で互いに声を掛け、簡単に集まれるようになった。
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- ペーパーレス化が6割も進捗した。「会社を紙の置き場にしない」をモットーに、ペーパーレス化を推進できた。
- デメリットの解決法
①「座席の固定化」
せっかくのフリーアドレスでも、気に入った席はできるもの。
いつも同じ人が座っていると、なんとなく「あの席はAさんのだから」と忖度し、その結果、席が固定化していく。あらゆるフリーアドレス化の中で、最も多い問題だと言われている。
解決法①定期的にダーツシステムを利用し、強制的に移動させる仕組みを作った。
解決法②清潔でクリーンなデスクであること徹底し、「座りたくない席」を無くした。
解決法③少なくとも昨日とは違う席に座る、という浅いルールにする
yahoo株式会社
- 2016年、本社移転にあわせてフリーアドレス制を導入
- 目標:オフィスからイノベーションを生み出すこと
- 対象となった社員:エンジニアやクリエーターなど、固定席と大容量データ、持ち出しできないPC機器など、フリーアドレスには不向きと思われる職種でチャレンジをした。
- 具体的な変化
- 全壁面ホワイトボード化で、オフィスが会議室化する。「活発な会議」と「静かな開発」の両立が1つの場所でできるようになり、会議室に移動しないでも、作業や開発の手を一旦休めなくても会議に参加できるので、業務効率が上がる。
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- ペアで開発をしている時に使える、ペアプログラミングブースの作成
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- 一人集中席を作り、開発作業に集中したい人エリアを作った。ここは話しかけてもいけない場所。
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- QuietAREA という、電話もお喋りもしない静かなエリアを作り、創造の邪魔をしないようにした結果、集中力途切れず、業務効率が上がった。ここは話しかけても良い場所。
- デメリットの解決
①「ネットアクセスの集中でWi-Fi重たい問題」
ネット環境が整備されていてたはずだが、フロア人口の偏りによりWi-Fiが遅くなることがあった。
解決法:位置情報ツールを利用し、社員の居場所とオフィスの占有率を示す。これにより、空席を探す社内旅人が減った。このツールにより、「誰がどこにいるのかわからない問題」も解決。
②「人口の偏りによって起きる、空調の暑い・寒い問題」
フロア人口の偏りによって起きる、空調の暑い寒いの問題が起きた。
解決法:ネット空調ボタンで、自分のパソコンから空調管理可能できるようにした
③「物が多い問題」
クリエイターや開発者は物にこだわりがある人が多く、自分の持ち物がロッカーに入りきらない。それがないとメンタル的な面で仕事が捗らないなど、問題になった。
解決法:自分の持ち物はダンボール一個までに限定し、ダンボールで移動。それ以外で共有する物に関しては専用のブースから持ち出して、帰る時に戻す。本は共有本棚を設置。
7.フリーアドレス導入フロー4ステップ
1.導入スタイルや目標を設定する
まず、自社にとってのフリーアドレス導入の目標を設定します。フリーアドレスの導入で、どの企業にも共通するのは
- 生産性の向上
- 優秀な人財の確保
- コストカット
ですが、これだけだと導入を進めていく際、社員からの協力・共感を得にくい可能性があります。フリーアドレスを実際に利用する社員にとって、働く場所がどういうスタイルであれば、より気持ちよく、より高いパフォーマンスの仕事ができるのかを念頭に
- 活力ある組織風土を育成するために
- 効率よく手際よく集中して仕事をするために
- 自分にとって最高のスタイルで仕事をするために
- 長く安定して働くために
企業と社員がともに享受できる共通の目標が必要になります。自社にとって理想のワークスタイルを創造するきっかけになるのがフリーアドレスですので、
- 社内の意識調査・アンケート
- 社員との対話
- 試験的なフリーアドレスオフィスを解放し、社員の反応をみる
など、現場の声を丹念に拾って、現実に即した目的を模索していきましょう。
また、フリーアドレスは働き改革が強く後押しする形になった、これからの新しいワークスタイルなので、古参の役員クラスからは反対の声が出る可能性があります。会議などで反対された場合に備え、各部署役員クラスの理解を取り付ける方法や根回しも考えておく必要があります。
2.試験導入する
最初は、自分の部署でだけ試験をします。その際、とりあえず仮説を立て、その通りにやってみましょう。その後、結果を試験したメンバーで討議し、再トライアルを繰り返す。
思っているのと違う結果になる場合は、すでに採用して成功している企業の模倣をしてみるのも役に立つ。
ある程度、運用に問題なくなったら、協力をしてくれそうな特定部署にトライアルをしてもらう。
1.ルールの作成
2の他部署のトライアルの際、
- 困ったこと
- 戸惑ったこと
- 嫌だったこと
- あった方がいいもの
などを細かに聞き出しておく。それを解決できるように、設計を考え直す。その後、ルールを作りマニュアルにして、そのルール通りにやってみる。これらを揃えた上で、採用・不採用を考える。会議に提出する。
2.採用・全社導入
採用となった場合、予算の都合によりいつからできるかを把握する。
必要な空間作成をしながら、現場で確認をしつつ、再度、想定出来るトラブルを想定し、それに対応するルールをマニュアルに追加。人的リソースがあれば、担当者を数人配置し、あらゆるトラブルに対応させる。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。フリーアドレスについて調べてまとめました。
フリーアドレスは自分の席を持たない、新しいスタイルのオフィスです。この導入を成功させるには、
- 目的の明確化
- 丁寧な下準備
- 計画に基づく必要な整備を行うこと
が重要であることがわかりましたね。フリーアドレスを導入後もうまく運用するためには、フリーアドレスを導入した目的に適っているかを軸に、修正と改善を繰り返していくことで、現場に定着していきます。
フリーアドレス化が適している、またはやってみたい企業は、ぜひ、前向きに検討をしてみることをお勧めします。