heyがEmployee Experience専門チームをつくった理由

従業員体験が変わるとチームが変わる

チームの活力を上げ、仕事への情熱や会社へのエンゲージメントを高めるために、IBMやGE、Airbnbといった世界の名だたる企業が実践し、注目されているのがEmployee Experience(従業員体験)。今なぜ、Employee Experienceが組織に欠かせないのか、社内にExployee Experience専門チームを立ち上げユニークな施策を打ち続けているヘイ株式会社(hey) 代表取締役副社長の佐俣奈緒子氏に伺いました。

※本イベントレポートは、2018年11月21日「Tokyo Work Design Week」(渋谷ヒカリエ)にて開催された、hey佐俣氏とFringe代表取締役CEO 田中との対談をまとめたものです。

Employee Experienceは離職防止につながる重要な要素

hey社はコイニー社とストアーズ・ドット・ジェーピー社の経営統合により生まれた新しい企業です。誰でも簡単に使える「キャッシュレス 決済サービス」と「オンラインストア 開設/運営サービス」を開発・提供しており、佐俣氏を始めとする4名の役員が経営しています。

ユニークなのは、いち早くEmployee Experienceに着目し、専門チームを社内に設けたこと。しかし、そもそも「Employee Experience」とは何なのでしょうか。

Fringeの田中はEmployee Experienceについて「従業員が企業や組織の中で体験する経験価値」と説明。採用難が叫ばれる昨今、給与だけでなく「どういった体験がその会社で得られるのか」が離職防止の鍵を握っていると述べます。

「会社で褒められて嬉しいとか、そういう一連の感情の上下が“体験”です。もはや給与を払えばそれで良いというわけではなくなっています」(田中)

 

Employee Experienceが注目される背景としては、デジタル化により従業員の健康と生産性の追跡が可能になったことも挙げられます。これまでは従業員が会社のどこに不満を持っているのか、人事部や上司がヒアリングして初めてわかるものでしたが、現在は従業員のエンゲージメントスコアなどでわかるようになってきました。そうした状況が、より一層Employee Experienceへの注目を高めているといえます。

さらに30歳手前くらいまでのミレニアル世代が会社の中心になることも重要な要素です。田中はこの世代について「景気が良い時期を経験していないため、給与よりもむしろ職場体験を重要視する」のだと分析。

今までは、採用や研修、報酬やファシリティそれぞれにリーダーを配置していましたが、今後は、トータルとしてEmployee Experienceに責任を持つ人材を配置し、エンゲージメント向上や組織文化づくりに一貫して取り組む必要が出てきているのです。

 

heyは会社組織と採用活動にUXの考え方を持ち込んだ

 

そうした従業員体験=Employee Experienceを重視して専門チームをつくったのがheyです。なぜheyはEmployee Experienceに力を入れるのでしょうか。その理由について佐俣氏は次のように述べます。

「コイニー社とストアーズ・ドット・ジェーピー社が経営統合してheyが生まれ、どう動かしていくかを考えました。まずやるべきは組織拡大に向けて採用を進めること。そのためにはheyの認知を向上させる必要がありました」(佐俣氏)

そこでhey社が取り組んだのは、会社組織と採用活動にUXの考え方を持ち込むことでした。heyを一つのプロダクトと捉え、Attention→Interact→Discovery→Engageという一連の流れの中で、どれだけ多くのお客さん(入社してくれる人)にどのようにheyの魅力を伝えるのか。そのテーマに取り組むのがEmployee Experienceチームというわけです。

「Employee Experienceチームの仕事はheyのファンを増やすこと。そのためにheyに実際に足を運んでもらってイベントや勉強会を開催したり、お金を払ってでもほしいと思えるheyグッズを作ってみたり、写真で経営陣が全員アロハを着てみたりもしました」(佐俣氏)

その結果、グッズがSNSで話題になり多くの応援コメントが寄せられるなど狙い通りの効果が得られたそうです。

「自分たちがやっているファンを増やす取り組みは間違っていなかったんだと思いました」(佐俣氏)

また、入社後のエンゲージメントを高める施策も様々行っているといいます。

たとえば産休や育休に入ったら支援金を出したり、子どもが小学生の間は一律で有給を5日付与したりといった制度です。

加えてUniposも導入し、社員同士のやりとりを可視化。それまで個別だったコミュニケーションがオープンになり、様々なメリットが生まれたそうです。

「会社で表彰などするとき、どうしても日の当たりやすいポジションや職種が選ばれがちです。しかしUniposを導入したことで、それ以外の人への感謝も見えるようになり、小さな喜びが集まって幸せな気持ちになれるのです」(佐俣氏)

離職者が増える“倦怠期” “安定期”を乗り越えるためにUniposが有効

一方でFringeのEmployee Experienceはどのようなものでしょうか。

田中は入社してからの期間をカップルに例えて説明します。

「入社したては付き合いたてと同じ。大歓迎されるのでEmployee Experienceも上がります。ところが倦怠期になると、従業員同士の相互理解こそ進むものの、仕事での嫌なことも経験してEmployee Experienceは上がったり下がったりします。そこでさらにひどい体験をすると、がくんと落ちて別れ=離職に至ってしまうのです」(田中)

Fringeでは、様々な施策を行うことで入社から退社まで一貫してEmployee Experienceを下げないことを意識していると田中は言います。

たとえば入社時には垂れ幕で歓迎し、忘れられない日を演出。さらに新しく入社した人とのウェルカムランチは会社が費用を支給して後押し。四半期ごとのMVPはUniposでシェアされた他薦を集計して「発見大賞」として表彰するなど、社員同士の相互理解を強化しているのです。

ただし、そうしたイベントや制度だけではカバーできない領域もあります。カップルに例えると、倦怠期を過ぎた頃の「安定期」の時期です。この時期になると「もう馴染んだから放ってもいいだろう」となりがちで、それが離職の引き金になることも少なくありません。

そこで効果的なのがUniposなのです。

日々の成果に対してUniposで感謝の言葉が送られることで、社員のEmployee Experienceは高まり、会社にとっても業務や組織を越えたつながりが可視化されるというメリットがあります。

「どういうときに評価されたと感じるか?」という意識調査を行った結果、若い世代ほど「感謝・賞賛」を重要視しているという結果が出ているといいます。その数字は、20代前半では「昇給・昇進」を上回るほど。

さらに感謝された頻度が高い人は、低い人よりも一年の仕事の目標を達成する割合が高いこともわかっています。

Employee Experienceは会社のステージに合わせアジャイルに変える

最後のテーマは「Employee Experienceに取り組むとき気をつけたいポイント」について。

これに田中は「ABテストしながらアジャイルで取り組むこと」と述べます。

「1年放ったらかしの人事制度では何も改善されません。もしそれが自社の製品だったならどうでしょうか。1年間も放置しますか?」(田中)

一方、佐俣氏は「会社のステージでやるべきことは変わります。自分たちがどういう状態かを認識して、適したやり方を洗い出しましょう」とアドバイス。

「何をすればいいかわからないときは、分解して一番やるべきことから取り組んでいくことが大切です」(佐俣氏)

イベントのラストには質疑応答の時間が設けられ、来場者から多くの質問が寄せられるなど、熱気にあふれたイベントとなりました。