
3.種類別 モンスター社員対処法
この章では、1−2章までに出てきたモンスターの種類別に、具体的な対処法をまとめています。
モンスタータイプ |
原因 |
モンスター・スタイル |
モンスター対処法 |
①ひねくれ |
性格
|
自己卑下・被害妄想 |
● カウンセリングによる傾聴 |
②メンタル不安定 |
情緒不安定・依存・社則悪用 |
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③自己アピール |
承認欲求暴走・キラキラ |
||
④パワハラ |
攻撃 |
悪意の攻撃・ハラスメント |
就業規則・法案で対処する |
⑤親介入 |
親子依存 |
ヘリコプターペアレンツ |
クレーマー対応方法で対処する |
①②③性格に問題があるモンスター社員への対処法
性格に問題があるタイプは全員、認知の歪みがありますので話を聞いてあげ、会話によって認知の歪みを取り除くと問題が解決に向かうことがあります。悪意のない・あるに関わらず使える対処法です。
・悪意のないタイプ
このタイプは、現実への認知が歪んではいても、自分が何かしらの問題を抱えやすい性格だという自覚だけはあります。なので、話を誰かに聞いてもらって、認知を整理していくプロセスで「気づき」が起きるケースが多いようです。
話を聞いてあげても問題が解決しない場合は、配置転換をしてみるなど環境変化がきっかけで改善が起きることがあります。
・悪意のあるタイプ(社則の悪用・休業と復職の繰り返し・備品や経費の使い込み)
企業に害悪と損失をもたらし、他の誠実で優良な社員がやめていく原因になりますので、以下の対処法ABCを試しても改善見込みが薄いと判断した場合は、放置しておくと社会問題を起こす可能性がありますので、ステップを経て退職勧告をするしかありません。
<対処法A>カウンセリング(共感と傾聴)
カウンセリングといっても、先輩や上司の共感と傾聴が基本になります。口を挟まずに、ひたすら相手の言い分に耳を傾け、何が問題なのかを本人が見つけ出す手助けをするイメージです。大変骨の折れる作業ですが、認知の歪みには非常に効果があります。
「自分のことを最後まで聞いてくれた」という行為に対する信頼*は絶大であり、日々、何かと不安になりがちな性格型のモンスター社員にとっては、唯一、職場で声が良く聞こえる上司や先輩になります。全てが解決しなかったとしても、この社員にとっては、このカウンセリングをしてもらう以前とでは職場への安心感はまるで違うものになります。職場と職場の人間への信頼により、不安が減り、認知の歪みが内側から修正されていくきっかけになります。
ただし中には、親との根深い問題や、トラウマを抱えているケースがあります。このようなタイプは、修正の過程で突然激しい不安や強い感情が吹き出す可能性があり、素人には対処ができません。そのような可能性があると判断した場合にはすぐに、カウンセリング専門家(産業カウンセラー・心理療法士)によるサポートをお願いしましょう。
【参照:共感と傾聴】
【参照:信頼* 臨床心理学・ラ・ポール】
【参照:神奈川県立総合教育センター長期研究員研究報告コミュニケーションを促す「聴き方」に関する研究】
<対処法B>コーチング
コーチングは、対処法Aで認知の歪みがある程度修正された半モンスター社員、または認知の歪みが最初から少なめのモンスター社員に使うと効果的です。コーチングとは、運動・勉強・技術などの指導を通じて個人の能力開発をする手法ですが、社員教育にも使えます。
コーチングの基本はコーチと1対1で
- 本人によるゴール設定をする
- コーチからの問いかけによる、自己修正をする
- 問いかけによる新しい認知の追加・加筆修正をしていく
がメインです。コーチングのゴールはあくまで「本人が希望する着地点」なので、社員にとっても「やらされ感」がなく、改善努力のしがいがあります。また、コーチからの問いかけがきっかけとなり、自分が目指すゴールの障害になる様々なことを見直す作業が含まれるので、変化速度が早いことも特徴です。
コーチングにより認知の改善がさらに健全な方向へと進んで変化する中、本人の変化を周囲からも褒められることが多くなりますので、副産物的に承認欲求が満たされていき、自己実現へのシフトがスムースに進みます。コーチングは専門家がいますので、社内教育として定期的にモンスター社員・潜在モンスター社員・その他社員などをミックスして受けさせると良いでしょう。
事例>Yahoo株式会社 「1on1ミーティング」
これはモンスター社員の直接的な解決事例ではありませんが、企業内に「コーチング」を取り入れてマネジメントに成功した実例です。Yahooの社員数は6000人もいますから、問題のある社員がゼロということはなかったでしょう。
2012年から「1on1ミーティング」というコーチング式の面談を続けています。Yahooがこのやり方を採用した背景に
- 上司が、部下の考えていることが分からなくなった
- 時短勤務・リモートワークなど、多様な背景を持った部下を持つことになった
- ダイバーシティを意識せざるを得なくなった
- 年上の部下を持つようになり、処し方が分からない
- プログラミングなど、上司が部下よりもスキルがないことが増えた
など、今までのような進捗管理と業務連絡のためのミーティングでは仕事が捗らず、社内のマネジメントそのものを見直す必要がありました。そこで、社員の自発的成長と自律を促す方法として、「1on1ミーティング」というコーチングを採用しました。
ミーティング時間は、週一回・一人30分。その中で
- この会社で何をしたい?(ゴール)
- 100点満点中、今の自分のゴール達成率は何点?(内省)
- どうしたら、自分の100点になると思う?(内省と認知の書き換え)
- そのためには何をすればいいと思う?(新しいゴール)
など、社員のやる気や問題解決のきっかけを、本人の内側から「引き出す」ことが目的の時間を取り続けています。その結果、Yahooでの上司と部下の関係は、かつての
管理するもの・されるもの という関係から、あたかも コーチと選手 のような関係性に変わり、双方の誤解や思い込みがクリアになっていきました。さらに、企業側は
- なぜ部下が突然、会社を辞めてしまうのか
- どうしてあの社員はあんなに反抗的なのか
- どうして上司がお願いしたことをしてくれないのか
などの今までの枠に入りきらない社員への疑問がクリアになり、問題のある社員を含めた社員全員に対する問題解決に役立っています。
【参照:コーチングとは】
【参考:コーチングコンサルタント/ヤフー株式会社上級執行役員・コーポレート総括本部長 本間浩輔著 「ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法」】
【参照:yahoo株式会社:「1on1ミーティング」で強い組織をつくる人材育成のための部下とのコミュニケーション】
【参照:ダイヤモンドオンライン記事 ヤフーはなぜ6000人の社員を巻き込む「1on1ミーティング」を続けるのか?】
【参照:2013年9月22日東京新聞記事「モンスター社員急増中】
<対処法C>活躍できるフィールドを与える
仕事内容に納得が行かない・仕事場で激しいストレスを抱えたことが原因で、職場への認知が歪んでしまった場合は、配置換えだけで問題が消える場合があります。
モンスター社員の中には、問題は起こすものの、能力は優秀であるという人も少なくありません。感性や感覚が尖っているからこそ、過敏に反応しているケースもあります。繰り返しのカウンセリングやコーチングで修正すべき内面がクリア出来てきた場合は、モンスター社員が活躍できるフィールドを探し、適切に配置することも考えましょう。
例>
- 部署Aで人間関係がうまくいかないモンスター社員がいる
配置転換:無口でおとなしいため、黙って仕事をしていたいタイプ。そのため、人との関わりが最低限の業務連絡だけで済む職場に再配置したら、ストレスがヘリ、問題を起こさなくなった。 - 部署Bで精神不安定ですぐ泣くなどのモンスター社員がいる。
配置転換:黙って仕事をするのが苦痛なタイプだった。周囲の人と楽しく会話や軽口をききながら仕事ができる営業補佐に配置換えしたら、見違えるように元気になった。
④悪意のあるモンスター社員への対処法
ハラスメントなど、攻撃型のモンスター社員に対しては、ルールと罰則で縛ります。
まずは自社の就業規則でハラスメントに関した規則・罰則・解雇などの処分があるのかを確認し、ない場合は整備をします。就業規則を使って注意・指導をし、就業規則に則って処分をします。
また、2019年5月に成立したパワハラ法案(職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止を企業に義務付ける労働施策総合推進法の改正法)は、中小企業は令和元年5月施行済、その他は令和2年6月より施行します。この日程以後、政令に定められるまでの3年間、企業には努力義務があります。
つまり、事業主がハラスメントを防ぐように動くことは義務化されましたので、法案に則って迅速に対処をしていきましょう。対象となるハラスメントは
- パワーハラスメント
- セクシュアルハラスメント
- マタニティハラスメント(妊娠、出産、育児・介護休業)
の3つになります。今の所、パワハラ法案に違反した企業への罰則はありませんが、厚生労働大臣が労働施策総合推進法の施行が必要があると認めた時は、事業主に対して助言・指導または勧告ができます。(労働施策総合推進法33条1項)
また、同様に厚生労働大臣の発令のもと、
・ハラスメントに対して企業が適切な処理をしなかった場合
・ハラスメントの立証を手伝った社員に対して、不利益な取り扱いをした場合には、その行為が公表される可能性があります。(労働施策総合推進法33条2項)
【参照:厚生労働省東京労働局 パワーハラスメント対策】
【参照:改正労働政策総合推進法の主要条文(パワーハラスメント防止対策に関する主要条文)】
【参照:YouTube厚生労働省動画チャンネル】
【参照:労働施策総合推進法】
⑤親介入型モンスター社員への対処方法 10ステップ
親介入型モンスター社員の親である「モンスター親」に対しての対処法10ステップです。ここを黙らせないと、モンスター社員の改善はありません。
モンスター例)
残業を1日1時間ほどお願いしたら、5日目に親から毎日クレーム電話がある。
- 応募要項に定時18時と書いてあったのに過重労働だ
- 上司に顧客対応で叱られたそうだが、息子に落ち度はない!
- パワハラの可能性があると騒ぐ
- 労働基準監督署に訴えるなどと騒ぐ
- 電話時間が数時間と長く、一方的に怒鳴り続ける
- 電話にでないと職場に乗り込んできて怒鳴り続ける
対処法10ステップ
- 初期の段階で、クレーム内容に対して、一切反論せずに耳を傾けメモをする
- 内容の事実確認をすると言って、一旦、帰す(電話を切る)
- モンスター社員本人に、起きた内容を細かく聞き、その時の感情なども聞く
- 関係者全員に事実確認をし、クレーム内容が実際に起きたかの証拠を集める(勤務記録などの数字上のデータ・法案に基づくパワハラ事実確認など含)
- 事実ではないことがわかったら、連絡をする・連絡を待つ
- 法的に問題のある労働条件・ハラスメントではない事実がわかったことを伝える(クレーム内容が事実ではないことを伝える)
- その上で、このような行為は弊社への明らかな業務妨害であることを伝える
- 今後は全て録音などを残し、クレーマーとして警察へ相談する意向がある旨を伝える
- 相手がクレーマーとしてNG言動をするまで話させる(NG言動があった場合は、その場で警察に電話ができます)
・土下座で謝れ!
・殺してやる!
・言いふらしてやる!
・物を壊すなどの破壊行為 - クレーム行為が止まらない場合は、自衛のため裁判所に「迷惑行為の差し止め請求」をする
親のモンスター度合いにもよりますが、10ステップのどこかで必ず引き下がります。幼少時代からモンスター親は子供を守ろうとしてやっているわけで、自分が子供にとって迷惑な存在になりたいわけではないからです。また、労働法は労働者を守る傾向はありますが、労働者の親を守る方向性にはないため、裁判にまで持ち込みたい親はほぼいません。
【参照:援川聡 対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル 100業種・5000件を解決したプロが明かす23の技術】
⚫️⚫️モンスター社員本人への対応策は?⚫️⚫️
モンスター社員本人に対しては、家庭のルールから社会のルールへと移行してもらい、社会人になってもらう必要があります。親介入型のモンスター社員の常套句に
「そういうのは先に言っておいて欲しいな。知っていたらやらなかったんだから!」
という自分の常識外れを棚上げにした、企業への責任転嫁があります。もちろん、これはモンスター親に社会常識を教わらなかったからなのですが、今更言っても始まりません。これを逆手にとって、社内で守るべきルール作りを新入社員や若手全員で作らせましょう。例えば
- 業務中の私用メールは良いのか悪いのか
- タイムカード打刻のタイミングはいつがベストか
- 遅刻や欠勤の連絡方法はどうするのがベストなのか
- 残業はどの程度なら受けるべきなのか
- なぜそのようなルールとすべきで、なぜ別の方法では問題なのか
- どうしてそれが、社会常識なのか?
などを若手全員で考えさせ、社則に準じたことを考えます。何事も、自分たちで考えれば納得もします。
最終的には社長や役員クラスの承認が必要になりますが、例えば、勤怠関しては
「当日の欠勤は上司に電話すべきだが、遅刻ならメールでOKである」
など、「今」の時代に即したルールへと落ち着くでしょう。自分たちが参加したルール作りのプロセスの中で、自分たちが大切にしようとしている会社のクレド(信条)がハッキリするので、徐々にあらゆるシーンで正しい判断ができるようになります。
【参照:石川弘子 モンスター部下】
【参照:石川弘子 あなたの隣のモンスター社員】
【参照:石川弘子 マンガでわかる 心理学的に正しいモンスター社員の取扱説明書】
【参照:田北 百樹子 「シュガー社員」から会社を守れ! 組織を溶かす問題社員への対処法】
【参照:フレデリック・ラルー ティール組織】
【モンスター社員は解雇できるのか?】
モンスター社員の解雇はできますが、処分の中で最も重いため、突然の解雇を良い渡すのは得策ではありません。かえって、モンスター社員から解雇権の乱用・不当解雇だと訴えられる可能性があります。解雇には
の2種類があり、まずは、どちらで解雇をするのか明確にする必要があります。 <普通解雇> ● 病気や怪我による就業不能 など、能力不足で周囲に迷惑をかけ続けるモンスター社員に対して使えます。ただ、この解雇事由はよほど明確な能力欠如が証明できない限り、後で裁判になりやすい傾向があります。しかも裁判所が不当解雇と判断すれば多額の賠償金支払い命令がおるため、リスクの大きい解雇方法です。 普通解雇をする場合には、万が一の裁判に対抗するために
などを証拠を準備しておく必要があります。それでも、100%勝訴できるわけではありません。 <懲戒解雇> ● 業務上横領など業務に関する不正 などが該当します。普通解雇と同じく、モンスター社員から不当解雇だと訴えられる可能性がありますので、以下のような手順が必要です。
という注意・指導→勧告→処分という経緯を経た後であれば、たとえ解雇後に労働基準監督署や労働組合にモンスター社員が泣きついたとしても、企業側はこの経緯を証明できます。 注意しておきたいのは、セクハラ・パワハラなどのハラスメント系は、被害者と加害者の意見が食い違うケースも多く、本当にそのようなことがあったかを立証するのが難しいケースもあります。調査を繰り返してもハラスメントの有無が不明である場合には、解雇はできません。 また、ハラスメントは近年になって問題になりはじめた解雇事由ですので、自社の就業規則の懲戒解雇理由にハラスメントが定められていない場合は、解雇ができません。 |
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