
3. 人事制度を設計する上で注意したい7つのチェックポイント
前章では人事制度の設計手順を解説しました。本章では、実践の上で注意したい「7つのチェックポイント」をご紹介します。
①トップダウンで行おうとしていないか?
②会社のフェーズに合った設計になっているか?
③社会環境に合った設計になっているか?
④「その会社らしさ」が伝わる人事制度になっているか?
⑤法的リスクを十分に確認したか?
⑥移行までの猶予期間を十分に設けているか?
⑦従業員の納得感を醸成できるか?
ひとつずつ見ていきましょう。
3-1. トップダウンで行おうとしていないか?
1つめのポイントは「トップダウンで行おうとしていないか?」です。
人事制度の改革は経営に与えるインパクトが大きく、当然トップや上層部が戦略を練ることは不可欠です。しかし、従業員の声を軽視するとうまくいきません。
というのは、すでに運用している人事制度を再設計する際の大きなリスクは「従業員の支持が得られないこと」だからです。
- 現場ではどんな問題が起きているのか
- 社内の業務実態はどうなっているのか
- 従業員は何に不満を抱えているのか
- 人事制度がどう変われば従業員にやる気になってもらえるのか
など、従業員のリアルな現場の声を十分にヒアリングして「社内の実態」を把握した上で、設計を進めていきましょう。
3-2. 会社のフェーズに合った設計になっているか?
2つめのポイントは「会社のフェーズに合った設計になっているか?」です。
ここでいう「会社のフェーズ」とは以下を指します。
- 会社の規模感(従業員数、売上高)
- 創業期、成長期、成熟期などの段階
例えば、従業員数15人の会社と150人の会社では適合する人事制度は異なります。
また、「これから急成長させるぞ!」という成長期の会社と、「できる限り安定させて業績を維持したい」という成熟期の会社でも、採用すべき人事制度は変わってきます。
会社の現況を見極めながら「最適な人事制度を採用できているか?」という視点で見直しを行いましょう。
3-3. 社会環境に合った設計になっているか?
3つめのポイントは「社会環境に合った設計になっているか?」です。
「人事制度が効果的に運用できるかどうか」は、その会社のフェーズや社内環境だけでなく、外部的環境(社会情勢)にも大きな影響を受けます。
例えば「働き方改革」や「ダイバーシティ(多様化)」が叫ばれる社会では、長時間労働につながる制度や、個性を埋没させる制度は好まれません。
「社会環境がどう変化しているのか」に目を配って人事制度を設計することは、優秀な人材を確保する上で重要です。
3-4. 「その会社らしさ」が伝わる人事制度になっているか?
4つめのポイントは「『その会社らしさ』が伝わる人事制度になっているか?」です。
人事制度の設計の難しいところは、決めるべき事項が数多くあることです。そのため、ネット上で入手した他社の規程や書籍添付のテンプレートを丸ごと流用している企業も少なくありません。
しかし、人事制度は本来「その会社の考え方(企業理念)を人的マネジメントの仕組みを通して制度化したもの」。これは経営の中核となります。
必要に応じてテンプレートなどを参考にしつつも、「うちの会社らしい人事制度」を目指して、オリジナリティのある設計を心がけましょう。
3-5. 法的リスクを十分に確認したか?
5つめのポイントは「法的リスクを十分に確認したか?」です。
先に述べた通り、人事制度には「労働基準法」「労働契約法」などの法律が絡んできます。経営戦略の視点に偏りすぎて、法的リスクへの配慮を怠ることのないよう十分に留意してください。
特に、専門の人事部がない企業は注意が必要です。経営者・経理担当者など人事の知識が浅い人が人事制度を設計する場合は、専門家に助言を求めながら進めましょう。
3-6. 実行までの猶予期間を十分に設けているか?
6つめのポイントは「実行までの猶予期間を十分に設けているか?」です。
人事制度の設計が完成すると、すぐにでも実行したくなるものです。しかし、新たな人事制度を実際に導入するには、数年単位の猶予期間が必要なケースも多いことを知っておきましょう。
<人事制度 設計〜運用スケジュール例>
- 人事制度の設計:6ヶ月
- 従業員への説明:6ヶ月
- 試験運用期間:1年
- 運用開始:3年目以降〜
できるだけ短期間で運用を開始したいのであれば、早めに設計を開始すること、従業員への説明を前倒しで進めることが必要です。
3-7. 従業員の納得感を醸成できるか?
7つめのポイントは「従業員の納得感を醸成できるか?」です。従業員が納得できない人事制度では、従業員のパフォーマンスを最大化することは難しいでしょう。
また、報酬(給与・賞与)に従業員にとって不利益になり得る変更がある場合は、従業員の納得感を醸成するのに時間がかかります。前項でご紹介した「実行までの猶予期間」を、長めに取るようにしてください。
納得感のないままに制度導入を強行突破すると、従業員の不満が募って組織崩壊のリスクさえありますので、注意が必要です。
※「人事制度と従業員の不満」については「人事制度の評価が不満な人は62%!不満ランキングTOP10と対策」 で詳しく解説していますので併せてご覧ください。
4. 自社で設計が難しいとき検討したい方法
人事制度の設計は、さまざまな方向へ配慮する必要があり、難しい面があるのも事実です。自社での設計が困難な場合、外部へサポートを求める方法もあります。
本章では「自社で設計が難しいとき検討したい方法」として2つをご紹介します。
①外部の人事コンサルタント・社会保険労務士に依頼する
②人事制度設計のセミナーを受講する
4-1. 外部の人事コンサルタント・社会保険労務士に依頼する
1つめは「外部の人事コンサルタント・社会保険労務士に依頼する」という方法です。
つまり人事制度の設計をアウトソーシングするということですが、メリットとデメリットがあります。
メリット |
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デメリット |
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依頼先のコンサルタントや社会保険労務士のレベルや自社との相性によっても、結果は大きく変わってきます。まずは何社か見積もりを依頼して、比較検討してみると良いでしょう。
4-2. 人事制度設計のセミナーを受講する
2つめは「人事制度設計のセミナーを受講する」という方法です。
人事制度は、法改正やトレンドの影響を大きく受けるため、各地で定期的にセミナーが開催されています。人事制度の設計の知識を得るために、セミナーを受講してみるのも良い方法です。
民間企業が主催する有料セミナーのほかに、厚生労働省が開催しているセミナーもあります。
<厚生労働省 開催セミナーの事例>
・労使関係セミナー
・勤務間インターバル制度導入セミナー
・グッドキャリア企業アワード2019企業向けセミナー
・人材育成セミナー『認定社内検定を活用した人材育成・職場活性化』
定期的に厚生労働省のホームページを確認してみると良いでしょう。
5. さらに学びを深めたい人向けの本
最後に、人事制度を設計する上でさらに学びを深めたい方におすすめの書籍を3冊、ご紹介します。
①『経営人事ノート』
②『人事こそ最強の経営戦略』
③『小さな会社のための“こぢんまり“人事・賃金制度のつくり方』
5-1. 『経営人事ノート』
出典:Amazon
1冊目は二宮靖志著『経営人事ノート』です。
経営と人事を強くつなぐ「経営人事」をテーマにした本で、人事制度を構成する「等級」「評価」「報酬」の3本柱に自社独自の要素をどう組み込むかを学ぶことができます。
制度の詳細設計についても解説されており、人事制度設計の実務にストレートに役立つ内容になっています。
5-2. 『人事こそ最強の経営戦略』
出典:Amazon
2冊目は南和気著『人事こそ最強の経営戦略』です。
本記事の中で「人事制度は企業の考え方を表したものである」とお伝えしました。
では、具体的に「人事制度に経営戦略をどう反映していけば良いのか」を学びたいとき、本書が役立ちます。
日本の人事制度の特徴や企業事例も多く含まれ、これからどのように人事を設計していくべきかが、体系的に記されています。
5-3. 『小さな会社のための“こぢんまり“人事・賃金制度のつくり方』
出典:Amazon
3冊目は河合克彦著『小さな会社のための“こぢんまり“人事・賃金制度のつくり方』です。
「人事制度の本」というと大企業の人事担当の人向けに書かれた本も多いのですが、本書は「小さな会社」にフォーカスしているのが特徴です。
中小企業向けに、簡単な内容で容易に作ることのできる人事制度が提案されており、ゼロから人事制度を設計するときに役立ちます。
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6. まとめ
人事制度の設計は9つのステップで行います。
人事制度を設計する上で注意したい7つのチェックポイントは、以下の通りです。
①トップダウンで行おうとしていないか?
② 会社のフェーズに合った設計になっているか?
③社会環境に合った設計になっているか?
④「その会社らしさ」が伝わる人事制度になっているか?
⑤法的リスクを十分に確認したか?
⑥実行までの猶予期間を十分に設けているか?
⑦従業員の納得感を醸成できるか?
自社で人事制度の設計が難しいときには、以下の方法を検討しましょう。
①外部の人事コンサルタント・社会保険労務士に依頼する
②人事制度設計のセミナーを受講する
さらに学びを深めたい人向けの本として、以下の3冊をご紹介しました。
①『経営人事ノート』
②『人事こそ最強の経営戦略』
③『小さな会社のための“こぢんまり“人事・賃金制度のつくり方』
「人材こそ最重要資源」という考え方が主流となっている今、優れた人事制度を設計することは、経営の基盤となります。
ぜひ本記事をきっかけに、企業理念の本質を貫いた「骨太の人事制度設計」に取り組んでみてください。想像以上の成果が得られるはずです。