
2. トレンド人事制度として注目を集める5つの最新手法
前章では、最新トレンドの全体的な傾向を大まかに捉えました。本章ではさらに掘り下げて、「トレンドを反映した具体的な制度」を解説します。
ご紹介するのは、こちら5つの制度です。
①バリュー評価
②360度評価
③パフォーマンス・デベロップメント(PD)
④チェックイン(Check-in)
⑤ピアボーナス
2-1. バリュー評価
「バリュー評価」は、“行動”にフォーカスした評価制度の一種。「その企業のバリュー(価値観)に合った行動をしているかどうか」が評価されます。
つまり、「企業理念に基づいて定められた行動規範に則る行動」が評価対象になるのです。実際の運用例を見てみましょう。
たとえ大きな成果を上げていても、バリューに則った行動がなければ高い評価が得られないのが特徴です。
バリュー評価のメリットは、組織全体の足並みをそろえやすいこと。「企業の目指す方向性と合致した行動での貢献」に評価を絞るところが、バリュー評価のポイントです。
つまり、企業の目指す方向性へ従業員を導きやすく、組織力の強化に効果的な制度といえます。
逆にデメリットとして挙げられるのが「評価の難しさ」。成果主義のように数字で明確にわかる指標がないため、工夫が必要です。これを解決するために、多面的な評価手法が開発されています。次項でご紹介しましょう。
2-2. 360度評価
バリュー評価のような「多面的な評価」が要される制度とともに増えているのが「360度評価」。評価を直属の上司以外の従業員(同僚や部下)も行う評価制度です。
従来の人事制度では「上司(評価者)」が1人で、部下の社員を評価するのが一般的でした。
一方「360度評価」では、上司以外の同僚・先輩・後輩・部下も評価者となり、さまざまな視点からの多角的な評価を可能にします。
上司から見える部分だけでなく、まさに360度の方向から従業員を評価できるのが、360度評価の強みです。
この360度評価がトレンドとなっている背景には、2つのポイントがあります。
1つめのポイントは、前項で紹介した「バリュー評価」のような“行動”を評価対象とする制度と相性が良いこと。行動評価制度とともに、360度評価を導入する企業が増加しています。
2つめのポイントは、企業のコンプライアンス意識の高まりです。パワハラ・セクハラをはじめとする職場のハラスメントを防止する意義でも、360度評価の有用性が注目されています。
360度評価なら、従来の上司視点での評価では死角となっていた「部下や同僚に対する行動」まで評価対象とすることが可能。健全な職場づくりの一助となるのです。
2-3. パフォーマンス・デベロップメント(PD)
次に、行動評価をリアルタイムに行う人事制度「パフォーマンス・デベロップメント(PD)」をご紹介しましょう。GEや日本マイクロソフトが導入していることが知られています。
まず「Performance Development(=パフォーマンスをデベロップメントする)」という名称から理解すると、本質がつかみやすくなります。
従来の人事制度ではよく使われていたのは「Management(マネジメントする)」という言葉です。
マネジメントには「管理・考課・評価」というニュアンスがありますが、デベロップメントにはありません。「開発・成長・発展」を目的とした制度なのです。
具体的には「パフォーマンスを高めるための行動」を促していくので、行動評価制度の一種といえます。細かな運用方法は企業によって異なりますが、共通の特徴は以下の通りです。
従来の制度との違いを比べてみましょう。
パフォーマンス・デベロップメントのメリットは、大きく分けて2つ挙げられます。
①短いサイクルで【評価→改善→評価…】を繰り返すため、事業のスピード・従業員の成長速度の両方が向上する
②従業員の考課査定に対するストレスが緩和し、パフォーマンスが向上する
一方デメリットは、まだ新しい制度のため、はっきり明らかになっていません。パフォーマンス・デベロップメントに切り替える企業が世界中で増えていることから、現時点では「メリットが大きい」と判断する経営者が多いことがうかがえます。
実際にパフォーマンス・デベロップメントを導入している企業事例は、この後「3. 新しい人事制度を導入した先進3社の企業事例」の章でご紹介します。
2-4.チェックイン(Check-in)
パフォーマンス・デベロップメントと似ている制度に「チェックイン」があります。チェックインはIllustrator・Photoshopなどを手がけるアドビシステムズが導入している人事制度です。
その狙いは、マネジャーと従業員による継続的な面談を通じて強固なリレーションシップを築き、従業員一人ひとりの成長を促進することです。
1年に1度の評価制度の廃止や、上司・部下の頻繁な面談など、パフォーマンス・デベロップメントと共通する面があります。
違いを挙げるとすれば、チェックインの方がより「上司と部下の関係性の強化」に重点を置いており、面談で話すべき内容も定められています。
<面談で話されるトピック>
①期待(Expectations)
②フィードバック(Feedback)
③キャリア開発(Development)
詳しくは「3. 新しい人事制度を導入した先進3社の企業事例」にてご紹介しますので、そちらも併せてご覧ください。
2-5. ピアボーナス
最後に「従業員1人ひとりの貢献を見える化する」ピアボーナスⓇをご紹介します。
「評価を見える化してオープンに運用」する動きがあることは前述の通りですが、ピアボーナスはその流れを汲んだ制度になります。
ピアボーナスとは、全従業員が見られるオープンな場で、従業員同士が感謝・称賛のメッセージと少額のインセンティブを添えて送り合う仕組みのことです。その多くはweb上で運用されているので、伝えたいと思った時にすぐに、ピアボーナスを送ることができます。
つまり、互いの日々の仕事に対してリ、アルタイムにポジティブフィードバックを送り合えるということです。
オープンな場で日々の感謝を伝え合うことで、送った側・送られた側以外のメンバーも
「こんなことがあったのか!」「〇〇さんはすごいな」と、それまで知らなかった仲間の貢献やがんばりを知ることができ、仕事への前向きな気持ちが高まります。
ピアボーナスはその多くがwebサービス化されており、日本初のものとしては「Unipos(ユニポス)」があります。
成果だけでなくそのプロセスにも光を当て評価したい、互いに認め合い切磋琢磨し合う称賛文化をつくりたい、リアルタイムなポジティブフィードバックで部下の成長を促したいなど、企業ごとに様々な目的で導入されています。
┗参考:「心理的安全性を高め挑戦し続ける組織へ。Uniposを活用したトヨタ自動車TC第2車両開発部の取り組み」
┗参考:「さらなる成長を目指してマイナビが取り組む組織活性 Uniopsがもたらした効果とは」
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