人事制度2020年代の最新トレンド傾向と事例3社に学ぶ取り入れ方

3. 新しい人事制度を導入した先進3社の企業事例

ここまで、人事制度のトレンド傾向と具体的な制度をご紹介してきました。なんとなくイメージはつかめてきたでしょうか。

本章では、企業事例を通じて、現場での運用方法を見ていきましょう。ご紹介する企業は次の3社です。

アドビシステムズ
ゼネラル・エレクトリック
メルカリ

3-1. アドビシステムズ

出典:Adobe

まず「チェックイン」の項で簡単にご紹介した、アドビシステムズ株式会社(以下アドビ)の事例からご紹介します。

従来のアドビでは、年間目標の達成状況によって評価を行う仕組みを導入していました。

しかし、評価を行うマネジャーに膨大な負担がかかる一方、従業員のモチベーションは低下。年に1度のパフォーマンスレビュー(評価結果をフィードバックする面談)の直後に、離職者が増えるという状況にありました。

こで新たに導入された人事制度が「チェックイン」です。原点には「評価の目的は、従業員をランクづけして報酬を決定することではなく、それぞれのパフォーマンスを最大化すること」という考えがありました。

そのためには「1年に1回のフィードバックでは不十分」と考えたアドビ。年間を通じた上司と部下の頻繁なコミュニケーションで、部下の成長を支援する体制へと、大きく方針転換したのです。

新たな制度の主軸となるのは、「チェックイン」と呼ばれる面談です。チェックインとは上司と部下が11で対話する場を指す言葉。

チェックインは最低でも3ヶ月に1回以上行うことが推奨され、チェックインで話すトピックは下記の通り定められています。

出典:SELECK

チェックインを導入した結果、従業員の満足度や離職率は改善し、株価も3倍に上昇しているとのこと。

従業員アンケートの結果も、「アドビを働きがいのある会社として勧められる」と回答した社員が10%増え、「上司からのフィードバックが役立つものである」と回答した社員も、同じく10%増加しています。

離職率も大幅に減り、導入から5年を迎えた今では、株価が当初の3倍に上昇するなど、順調に成長しています。

出典:SELECK

アドビが人事制度の改革プロジェクトに着手したのは2012年。収益は2011年〜2014年頃までほぼ横ばいで推移していましたが、2015年以降は著しく伸長2019年度の収益は過去最高となる1117,000万ドルに達し、前年比24%増となっています。

この快進撃の裏には、「チェックイン」という新たな人事制度導入があったのです。

参考:『Works 138』リクルートワークス研究所,2016

3-2. ゼネラル・エレクトリック

出典:GE.com Japan

次にご紹介するのは、ゼネラル・エレクトリック(以下GE)です。かつて「9ブロック」という厳しいランク付け制度を導入していたことは、前述の通りです。

 9ブロックをやめて「パフォーマンス・デベロップメント(PD)」の人事制度へ大きく舵を切ったことについて、GEの人事担当者は以下のように語っています。

「上司と部下のコミュニケーション量を増やし、頻度を高める仕組みを導入した」と、GEヘルスケアのアジアパシフィック人事本部長、工藤司氏は説明する。「従来の仕組みでは、部下と前年の振り返りをし、レーティングを決定するまでの1月から3月の間は上司と部下の対話量はぐんと増えるのですが、そのほかの時期には減る。これを平準化し、年中、オンタイムでコミュニケーションを取るほうが明らかに社員を成長させると考えました」

出典:『Works 138』リクルートワークス研究所,2016,P.18

「年中、オンタイムでコミュニケーションを取る」ための仕組みとして軸となるのが「タッチポイント」「インサイト」です。

タッチポイントは、前項でご紹介したアドビの「チェックイン」にあたるもので、おおむね月に1度、上司と部下の11の面談が行われます。

タッチポイントで話されるトピックは、会社やチームとして優先すべき課題、進捗状況、今後のキャリアなどです。

さらに特徴的なのが「インサイト(気付き)」と呼ばれる360度・オンタイムのフィードバック。上司や部下、同僚など周囲の誰もが、誰に対してもタイムリーに、そして気軽にフィードバックを行います。

このインサイトの交換が行われるのは口頭ではありません。GEではパフォーマンス・デベロップメント用のツールを導入しており、インサイトはスマホやパソコンで使える専用アプリでやり取りされるのです。

イメージとしては、LINETwitterのコミュニケーションのようなフランクさで、日々フィードバックが積み重ねられています。

このような新たな人事制度が導入された結果、GEでは社員が失敗に対して前向きな姿勢を持つようになり、社員の能力とモチベーションが引き出されるようになりました。

アドビと同じくGEにも見られるのが、「従業員の成長を最大化しパフォーマンスを向上させるために、そもそも必要なこととは?」と原点に立ち返る姿勢です。

既存の枠を取っ払い、「そもそも論」として人材制度の存在意義から見直す姿勢こそ、参考にすべき点なのかもしれません。

参考:『Works 138』リクルートワークス研究所,2016

3-3. メルカリ

出典:メルカリ

ここまで外資系企業2社を取り上げましたが、国内企業の中にも、トレンドの人事制度を取り入れている企業が増えてきました。

例えば、2013年創業の株式会社メルカリでは、3ヶ月に1度という短期スパンで「OKR評価」と「バリュー評価」の2軸を用いて評価を行っています。

以下はメルカリ人事担当者のインタビュー記事からの引用です。

石黒さん:私たちは「OKRObjective and Key Results)」と「バリュー」という2つを用いた人事評価を行っています。
OKR」は、シリコンバレーのIT企業などで用いられている手法で、全社の目標(Objective)に従って、それを実現するために達成すべき結果(Key Results)を各組織・各個人で設定するというもの。「バリュー」は、メルカリが大切にする3つの行動指針「Go Bold」「All for One」「Be Professional」が実践できたかを評価するものです。
一般的な言い方をすると、定量評価と定性評価の2軸だと捉えていただければわかりやすいかと思います。メルカリでは、この2つをもとに、3ヶ月に1度のタイミングで振り返り、見直していくことを繰り返していますね。(中略)

出典:メルカリ人事 石黒氏インタビュー超成長企業の人事評価制度

OKRは成果主義型の人事制度における目標管理制度の一種です。メルカリでは、OKRとバリュー評価を共存させることで、多面的な評価を可能にしています。

さらに注目したいのは、バリュー評価への取り組み方です。

メルカリには、

  • Go Bold(大胆にやろう)
  • All for One(全ては成功のために)
  • Be Professional(プロフェッショナルであれ)

という3つのバリューがあります。

バリューに則った行動をしたメンバーには「Value賞」、そのすべてを体現したメンバーには「MVP賞」が贈られます。表彰制度として社内に浸透させることで、「バリュー」重視の企業姿勢を強く打ち出しているのが特徴です。

加えてメルカリは「ピアボーナス」も導入しています。「mertip(メルチップ)」という名称で運用されており、スタッフ同士でリアルタイムに感謝・賞賛し合うと同時に、インセンティブとして一定額を贈り合える仕組みになっています。

ピアボーナスの導入により、3つのバリューを体現する考え方や働き方の可視化を促し、従業員のバリュー実践を多方向から後押しする仕掛けを構築しているのです。

※さらに詳しく知りたい方は「メルカリメンバーが会社の出来事に我が事感を持つ理由」も併せてご覧ください。

スキル設定・部下育成を担うリーダー必見!挑戦しない部下に共通していたこととは?|お役立ち資料公開中!

4. トレンド人事制度を導入する3つのメリット

「うちの会社でも人事制度にトレンドを取り入れたいけど、長所・短所を知っておきたい」
そんな方のために、ここからはトレンドの人事制度を導入するメリットとデメリットを見てみましょう。

まずは3つのメリットから解説します。

組織の生産性の向上が期待できる
人材獲得の競争力を高められる
生産性の低い人材を放出できる

4-1. 組織の生産性の向上が期待できる

1つめのメリットは「組織の生産性の向上が期待できる」ことです。

ここまでお伝えしてきたように、新しい人事制度の多くは「組織の生産性をアップさせるためには、どうすれば良いのか?」という視点から生まれています。

古い人事制度が、形式的に運用されている企業がトレンドの人事制度に変更すれば、生産性が劇的に向上することもあり得ます。

あるいは「成果主義型の人事制度で成長が頭打ちになっている」という企業では、次の段階に進む突破口となるかもしれません。

4-2. 人材獲得の競争力を高められる

2つめのメリットは「人材獲得の競争力を高められる」ことです。人事制度のトレンドは、社会情勢を色濃く反映しています。トレンドの人事制度を導入することは、社会のニーズに応えることにもつながるのです。

就職・転職活動中の人にとって、人事制度は「その会社に入社するか否か」を決定づける重要ポイントです。人事制度が古い企業は「時代遅れ」とネガティブな印象を持たれ、人材獲得の競争力が低下するリスクがあります。

適宜トレンドを取り入れながら人事制度を変えていくことは、優秀な人材の獲得力を高める効果があるのです。

4-3. 生産性の低い人材を放出できる

3つめのメリットは前項とは逆に、「生産性の低い人材を放出できる」ことです。

現在トレンドとなっている人事制度には「透明性のあるオープンな運用」という特徴があります。これは、企業側だけの話ではありません。

多角的な評価を実施する分、従来の人事制度であやふやとなっていた従業員の勤務実態も、明るみに出ることになります。

会社が成長していく中で悩ましいのは、成長についてくる意欲のない従業員の存在ではないでしょうか。トレンドの人事制度には、そういった従業員の隠れみのを排除し、問題を顕在化させる効果があるのです。

オープンな人事制度が肌に合わない従業員は居心地が悪くなり、自然と離職していきます。結果として生産性の低い人材の放出につながることも珍しくありません。

次ページ「トレンド人事制度を導入する2つのデメリット」

人事としてステップアップを目指せる

メールマガジン登録

学びを得られる、試してみたくなる、動きたくなる。 最新の組織論・人事制度のトレンド・他者事例のキャッチアップでき、組織改革や人材育成に関するヒントが詰まった、ステップアップを目指す管理職や人事のための無料メールマガジンです。