
Googleの実証研究で一躍有名となった「心理的安全性」を取り入れた組織づくりをしてみたい、そう考える企業が増加しています。
そこでまず「うちの社員の心理的安全性ってどれくらいなんだろう?」と、心理的安全性を測ってみたいと思う方や、
「測ってみたいけど、部下たちの心理的安全性が低かったら、どうしよう…」と不安を感じる方もいるかもしれませんね。
しかし、心理的安全性の本質を知れば、心理的安全性が低いからといって不安に感じる必要はまったくありません。適切なアプローチを行えば、どんな職場でも心理的安全性を高めていくことが可能だからです。
ただ、ここでひとつ注意したいのは、多くの人が心理的安全性の“本当の意味”を勘違いしているのです。
例えば、“心理的安全性が高い状態”とは「スタッフ同士が仲良しで、職場の居心地が良く、プレッシャーがなく安心できる」というイメージがありませんか?
実はこれは間違いです。逆に、職場の心理的安全性を高めると、厳しいフィードバックや激しい議論も可能になるのです。
この記事では、多くの人が誤解しやすい心理的安全性の本当の意味、測定方法、心理的安全性を高めるためのGoogleを参考にしたメソッドまでわかりやすく解説します。
下記の3つのポイントに沿って解説をしていきますので、
・心理的安全性って何?
・どうやって測るの?
・高めたいけど、どうすれば良いの?
最後まで読み終えれば、心理的安全性を自分の職場でどう活かしたら良いのか、すべきことが明らかになるでしょう。さっそく続きをご覧ください。
1.心理的安全性とは何か?知っておくべき基礎知識
心理的安全性を測るためには、まずは正しい理解が不可欠です。そこで、心理的安全性の測り方をご紹介する前に、この章では「心理的安全性とは何なのか」について基礎知識を解説します。
すでに心理的安全性についてご存じの方は、この章はスキップして、次章の2.「心理的安全性を測定する方法 」からご覧ください。
心理的安全性は「Psychological Safety」を日本語に訳した言葉です。その概念は1960年代のアメリカでの組織変革に関する研究に端を発しています。
1999年に心理的安全性研究の第一人者であるハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が「チームの心理的安全」という言葉をグループレベルの構成概念として紹介したことで、大きく注目されました。
関連記事:心理的安全性とは?高める5つの方法とメリットを解説
1-1.Googleによる定義
エドモンドソン教授が提唱した「チームの心理的安全」をマネジメントに取り入れたのがGoogleです。Googleでは心理的安全性を下記のように定義しています。
心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。
心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。出典:Google re:Work
簡単にまとめると、“他の人から「こいつは無能だ」「仕事ができない」などネガティブに思われそうな行動をしても、このチームなら大丈夫!と信じられるかどうか”が、心理的安全性の意味するところです。
例えば、会議中に「よくわからないから質問したい」と感じたとします。しかしメンバーから「そんなこともわからないのかよ」と馬鹿にされるかもしれない。だから発言ができない。これは心理的安全性が低い状態です。
逆に、「自分が何を発言しても、誰にも馬鹿にされない。罰せられることがない」という信頼感の元に、のびのびと思ったままを発言できる。これが心理的安全性が高い状態です。
つまり、「他の人のネガティブな反応を心配する必要がなく、自分らしさを十分に発揮しながらチームに参加できるという実感」が心理的安全性だといえます。
1-2.心理的安全性はチームごとに異なる
ところで、「“チームの”心理的安全性」という表現に、違和感を覚えた方もいるかもしれません。
エドモンドソン教授を源流とする心理的安全性は、個々人ではなく、グループレベルの構成概念としての心理的安全性に着目しています。
以下はエドモンドソン教授の書籍からの引用です。
一九九九年に、私は「チームの心理的安全」という言葉をグループレベルの構成概念として紹介した。研究からわかっているのは、心理的安全は従業員一人ひとりの性質ではなく単一体としてのチームを特徴づけるということだ。
多くの組織といくつかの産業にわたって行った一連の研究で、心理的安全は、同じチームのメンバーやチーミングを実現しようとしているメンバーなど緊密に仕事をする人たちが同様に覚えるものであることもわかった。これは、ともに仕事をする人々は状況から受ける同じ一連の影響を与え合う傾向があるからであり、また人々の認識は共通の重要な経験から生まれるからである。
出典:エイミー・C・エドモンドソン『チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』英治出版,2014年
まとめると、
・心理的安全性は従業員一人ひとりの性質ではなくチームの特徴である
・チーム内のメンバーは心理的安全性を同様に感じる
つまり、心理的安全性を高めるためには、個々人にアプローチするのではなくチーム全体にアプローチする必要があるのです。
1-3.心理的安全性が高いチームの特徴
では、心理的安全性が高いチームには、どのような特徴があるのでしょうか。
エドモンドソン教授が『チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』で説いている“心理的安全性が高いチームの特徴”を2つ、ご紹介します。
1-3-1.厳しいフィードバックや話し合いができる
1つめは「厳しいフィードバックや話し合いができる」という点です。
心理的安全性がある環境では、上司が部下に厳しいフィードバックを与えたり、チームメンバー同士が真っ正面から向かい合って厳しい話し合いをしたりすることが、可能になります。
冒頭でも触れた通り、「安全」という言葉のイメージに引っ張られて「厳しさのない環境である」と勘違いしやすいのですが、むしろ逆です。
心理的安全性のあるチームでは、メンバーは次のように感じています。
-
何かミスをしても、そのためにほかの人から罰せられたり評価を下げられたりすることはない
-
手助けや情報を求めても、不快に思われたり恥をかかされたりすることはない
-
このチームではっきり意見を言ってもばつの悪い思いをさせられたり拒否されることはない
こういった確信があるからこそ、厳しい意見を述べることも可能になる。それが、心理的安全性の効果といえます。
1-3-2.反対意見が歓迎される
2つめは「反対意見が歓迎される」という点です。
心理的安全性は、チームメンバーが自然と仲良くなるような“居心地の良さ”を指す言葉ではありません。
それどころか逆に、チームの結束性が強いことによるデメリット「集団思考」を払拭する効果があります。
集団思考とは、集団で意志決定を行うと、不合理あるいは危険な結論が容認されやすい傾向のこと。
チームの結束性が強すぎるがゆえに調和を乱す異論を唱えにくくなり、間違った方向へと突っ走ってしまう。ビジネスの現場のみならず政治の世界でも散見される悲劇です。
一方、心理的安全性のあるチームでは反対意見であっても期待・歓迎されます。異論であっても寛容に受け止められるため、集団思考に陥るのを防ぐことができるのです。
1-4.心理的安全性を高めるメリット
心理的安全性が高いチームは、組織にとって大変有益であることが、徐々にご理解いただけたかと思います。
ここで「企業が心理的安全性を高めるメリット」について、まとめておきましょう。
エドモンドゾン教授は「職場での心理的安全によって7つの明確なメリットがもたらされることが研究で明らかになっている」と述べています。その7つのメリットとは、以下の通りです。
1.率直に話すことが推奨される
心理的安全があれば、きまりの悪い思いをすることになる可能性を持つ態度や行動について、ほかの人がどう反応するかという概念が軽減される。
2.考えが明晰になる
不安が原因で脳が活性化されると、探求したり計画したり分析したりする神経の処理能力が弱まってしまう。
3.意義ある対立が後押しされる
心理的安全があると、自己表現や生産的な話し合いが可能になり、対立を思慮深く処理できるようにもなる。
4.失敗が緩和される
心理的に安全な環境のおかげで、ミスについて報告して話し合うことがたやすくなり、結果としてそれが日常茶飯事になる。
5.イノベーションが促される
率直に話す不安が取り除かれると、革新的な製品やサービスの開発に不可欠な、斬新なアイデアや可能性を提案できるようになる。
6.成功という目標を追求する上での障害が取り除かれる
心理的安全があれば、保身ではなくやる気を刺激される目標の達成に集中できるようになる。
7.責任が向上する
心理的安全は、自由気ままな雰囲気を後押しするのではなく、対人リスクを冒す——高い基準を追求したり挑戦しがいのある目標を達成したりするのに欠かせない——人々を視線する雰囲気を生み出す。
出典:エイミー・C・エドモンドソン『チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』英治出版,2014年
組織の生産性を向上させるには、心理的安全性は必要不可欠であるといえるでしょう。
これらの7つの項目を満たすチームであれば、事業目標の達成に向けて、自律的に動いていくことが期待できます。
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2.心理的安全性を測定する方法
さて、いよいよこの章では「心理的安全性の測定方法」について解説します。
エドモンドソン教授が提唱した心理的安全性の測定方法を2つ、ご紹介しましょう。
1-1.7つの質問
1つめは「心理的安全性を測る7つの質問」です。
チームの心理的安全性の程度を調べたいときには、次の7つの項目が自分自身に強く当てはまるかどうかを、チームメンバーに尋ねます。
<心理的安全性を測る7つの質問>
1. If you make a mistake on this team, it is often held against you.
チームの中でミスをすると、たいてい非難される。
2.Members of this team are able to bring up problems and tough issues.
チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える。
3.People on this team sometimes reject others for being different.
チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある。
4.It is safe to take a risk on this team.
チームに対してリスクのある行動をしても安全である。
5.It is difficult to ask other members of this team for help.
チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい。
6.No one on this team would deliberately act in a way that undermines my efforts.
チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない。
7.Working with members of this team, my unique skills and talents are valued and utilized.
チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる。
1・3・5の度合いが低く、2・4・6・7の度合いが高いメンバーが多いほど、心理的安全性の高いチームであると判断できます。
具体的な測定手法としては、この7つの質問を元にアンケート票を作成しチームメンバーに記入してもらうと良いでしょう。
または、面談時や普段の会話の中で、上司から部下へ7つの質問を意識した問いかけをすることでも、心理的安全性の状態を予測することができます。
1-2.職場が心理的に安全であることを示すサイン
2つめは「職場が心理的に安全であることを示すサイン」を確認する方法です。
心理的安全性が高い職場では、次のようなサインが確認できます。
・チームメンバーが次のような言葉を口にする。 「私たちはみな互いに尊敬し合っている」 「誰かがあることを気掛かりに思うと、みんなでそれに取り組むことができる」 「グループの誰もが、プロジェクトに対して責任を持っている」 「職場で仮面をかぶる必要がない。ありのままの自分でいられる」
・メンバーが、成功だけでなく、失敗や問題についても話をする。
・職場が笑いとユーモアを促しているように思われる。
出典:エイミー・C・エドモンドソン『チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』英治出版,2014年 |
これらのサインは、チームリーダーがチームの心理的安全性を知る上で、役立つ指標となるでしょう。
・メンバーが尊敬し合っているか・自然体でいられるか
・失敗や問題点が自然と話されているか
・笑いやユーモアが忘れられていないか
こういった面を意識してチームを観察することで、心理的安全性を測り、現状を把握することができます。
3.心理的安全性を高めるGoogleの取り組み事例
前章の2.「心理的安全性を測定する方法」を実践していただくと、チームの心理的安全性が高いのか低いのか、しっかりと把握できるはずです。
把握した後に大切なのが、いかにそれを今後に活かしていくか。心理的安全性が低かったのなら高めるためのアクションを、高かったのなら維持してさらなる高みを目指すアクションを行っていきたいところです。
では、チームの心理的安全性を高めるためには、何を行ったら良いのでしょうか。そこで大変参考になるのが、Googleの事例です。
Googleが実際に行っている次の2つをご紹介します。
・心理的安全性を高めるためにマネジャーがしていること
・Googleが導入している制度
3-1.心理的安全性を高めるためにマネジャーがしていること
Googleでは「心理的安全性を高めるためにマネージャーにできること」として下記の5つのポイントを挙げています。
①積極的な姿勢を示す
②理解していることを示す
③対人関係において相手を受け入れる姿勢を示す
④意思決定において相手を受け入れる姿勢を示す
⑤強情にならない範囲で自信や信念を持つ
それぞれの具体的な事例は、Googleがドキュメントとして下記のリンク先にてPDFを公開しています。
例えば、積極的な姿勢を示すためには「今」を大切にし目の前の会話に集中する(会議中はノートパソコンを閉じる)、理解していることを示すためには互いの理解が一致していることを確認するため、相手の発言内容を要約する( 「あなたがおっしゃったのは…ということですね?」)、など、今すぐに取り入れたいことばかりです。
ぜひ、PDFにて詳細を確認してみてください。
3-2.Googleが導入している制度
前項3-1.「マネジャーがすべき5つのこと」でご紹介したのは、マネジャーの“姿勢”に関わるエッセンスでした。
一方、Googleでは心理的安全性を高めるための“制度”も、多数導入しています。その中でも代表的で、心理的安全性を高める効果の高い2つをご紹介しましょう。
3-2-1.1on1(ワン・オン・ワン)
Googleでは、マネジャーは「1on1(ワン・オン・ワン)」を行うことが求められます。
1on1は「1on1ミーティング」を略したもの。マネジャー(上司)とチームメンバー(部下)が、1対1で行う個人面談を指す言葉です。
Googleの1on1には、次の特徴があります。
・マネジャーは、週に1回・1時間、すべてのメンバーと1on1を行う
・1on1はマネジャーではなくメンバーの時間
・基本的にはメンバーが話したいことを話してもらう
・タスク(作業)を管理するための打ち合わせではない
・時にはプライベートな悩み相談の場となることもある
こうした1on1を通して、マネジャーはメンバーそれぞれの状況や望みを把握して、チームの生産性を高めることができます。同時に、メンバーの心には「自分は承認されている」という安心感が芽生え、心理的安全性を高めることができます。
Googleでは、良い1on1ができないマネジャーは、どんなにチームの成果が上がっていても、評価が下がる仕組みになっているそうです。
それだけ1on1は、チームの心理的安全性を高めるために重要であるといえます。
3-2-2.ピアボーナス
もうひとつ、心理的安全性を高めるGoogleの制度が「ピアボーナス」です。「“ピア(Peer)=同僚”へのボーナス」で、同僚にボーナスを渡すことのできる仕組みです。
Googleでは社員一人ひとりにピアボーナスの決裁権が与えられています。自分の選んだメンバーに、ボーナスを支払うことができるのです。
運用ルールは次のようになっています。
・社員1人につき約15,000円の決裁権がある
・1年間で払える人数や回数は決められている
・ピアボーナスの社内システムに送りたい相手の名前とその理由を入力すると承認後ボーナスが支払われる
・マネジャーは承認時にピアボーナスの申請内容を見て受け取るメンバーを褒めることができる
ピアボーナスのやり取りを通じてメンバー同士の心のつながりを深めることができ、さらにメンバーはマネジャーにがんばりを認めてもらうことで、承認されていると感じることができます。
日本では、日本初のピアボーナスサービス「Unipos(ユニポス)」が有名です。
Uniposは、Googleのものとはだいぶ仕組みが異なり、「従業員同士がインセンティブを送り合うこと」が主目的ではなく「従業員同士が感謝・称賛のメッセージを伝え合うこと」が主目的になっています。
- インセンティブの理由となる感謝・称賛のメッセージがないと、ピアボーナスを送ることができない
- 送り合えるインセンティブは少額で、チップのような感覚
- 全従業員が見られるオープンなタイムラインに、送り合ったメッセージとピアボーナスが表示される
トヨタ自動車TC第2車両開発部、マイナビ、ベネッセコーポレーション、など国内でも有数の企業が導入し成果を上げていることから、現在非常に注目を集める施策の一つです。
参考:世界最高のチーム グーグル流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法
心理的安全性向上の実践者に学ぶ、組織の巻き込みに成功した施策をご紹介!|詳細はこちら
まとめ
心理的安全性とは、「ネガティブな反応が予想される行動をしても、このチームであれば大丈夫」と信じられるかどうかを意味します。
心理的安全性が高い状態であれば「自分らしさを発揮して、のびのびとチームに参加できる」という実感が持てます。
心理的安全性はチームごとに異なり、心理的安全性が高いチームの特徴として次の2点が挙げられます。
①厳しいフィードバックや話し合いができる
②反対意見が歓迎される
心理的安全性を高めれば、企業の事業目標の達成に向けて、責任感を持ち自律的に行動する強いチームを作ることができます。
心理的安全性が高いのか低いのかは、次の2つを利用して測ることができます。
①7つの質問
②職場が心理的に安全であることを示すサイン
心理的安全性を高めるための試みが、最も進んでいるのはGoogleです。Googleのマネジャーがしていることや導入している制度は、自社の心理的安全性を高める上で大いに参考になります。
具体的な制度の「1on1」や「ピアボーナス」は、すぐ導入を検討しても良いでしょう。
さっそく職場の状態を心理的安全性の視点から見直して、心理的安全性を高めるための施策をスタートしてください。