ダイバーシティ&インクルージョンとは?意味と具体例、メリットを解説

「ダイバーシティ&インクルージョンという言葉をよく聞くけれど、あまり意味がわかっていない」

「これからはダイバーシティやインクルージョンが重要だというが、何をどうやって進めればいいのだろうか?」

ビジネスシーンで「ダイバーシティ」「インクルージョン」という言葉が出るたびに、そんな疑問やモヤモヤを感じている人も多いのではないでしょうか。

語義を調べると、「ダイバーシティ=多様性」「インクルージョン=包括・受容」という意味だとわかります。

したがって、よく使われる「ダイバーシティ&インクルージョン」という表現は、「人材の多様性(=ダイバーシティ)を認め、受け入れて活かすこと(=インクルージョン)」となります。

性別、年齢、国籍などが違う人々に、それぞれの個性や能力に応じて活躍できる場を与えよう、という考え方です。

具体的には、

・女性の活躍推進

・外国人雇用の促進

・高齢者の活用

・障害者の活躍推進

LGBTへの理解促進

・多様な働き方制度の整備

などが含まれます。

実際にこれらを推進している企業では、優秀な人材が定着するようになったり、社員のモチベーションが向上したりといった成果が上がっているようです。

そこでこの記事では、

◾️ダイバーシティ&インクルージョンとは何か

・その考え方

・重視されるようになった背景

・「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の関係性

・ダイバーシティとは

・インクルージョンとは

◾️ダイバーシティ&インクルージョンの具体例

◾️ダイバーシティ&インクルージョンを推進するメリット

◾️ダイバーシティ&インクルージョンの推進を妨げる問題点

といった基礎知識から詳しく解説していきます。

その上で、さらに実践的な、

◾️ダイバーシティ&インクルージョン推進のために企業がすべきこと

◾️ダイバーシティ&インクルージョンを実践する際の注意点

◾️ダイバーシティ&インクルージョンを知るための参考文献

などについても具体的に提示していきます。

この記事を最後まで読めば、ダイバーシティ&インクルージョンの初歩から実践までがひととおり理解できるはずです。

これを踏まえて、あなたが正しくダイバーシティ&インクルージョンを推進できるようになることを願っています。

1 ダイバーシティ&インクルージョンとは

そもそも「ダイバーシティ&インクルージョン」とは何でしょうか?

前述したように、「ダイバーシティ=多様性」「インクルージョン=包括・受容」という意味です。

つまり、「多様性を包括し受容すること」と言えそうですが、それが企業活動とどう関係するのでしょうか。

この章ではまず、「ダイバーシティ&インクルージョン」という考え方の正確な意味や背景などを深掘りしていきましょう。

1-1 「ダイバーシティ&インクルージョン」という考え方

「ダイバーシティ&インクルージョン」を一言で表せば、「人材の多様性(=ダイバーシティ)を認め、受け入れて活かすこと(=インクルージョン)」と言えるでしょう。

性別、年齢、国籍などさまざまな属性を持つ人々を等しく認めて、それぞれの個性、能力に応じて適材適所で活躍できる場を与えよう、という考え方で、D&Iと略されることもあります。

近年、各企業が打ち出している、

女性の活躍推進

外国人雇用の促進

なども、このD&Iの一環です。

また、

経験と実績を持つ高齢者の活用

障害者の活躍推進

LGBTへの理解促進

なども、多様性を活かす取り組みです。

さらに、属性だけでなく「働き方の多様性」を認めることもD&Iであり、

時短勤務、在宅勤務など多様な働き方制度の整備

妊娠・出産・子育てしやすい職場環境や制度づくり

介護と仕事を両立できる制度づくり

といったワークライフバランスの重視も必要とされます。

1-2 ダイバーシティ&インクルージョンが重視されるようになった背景

このように、人材の多様性を認めて活かすダイバーシティ&インクルージョンが企業や社会で重視され、推進されるようになったのには、以下のような社会的背景がありました。

1-2-1 労働人口の減少・人材不足

少子高齢化が進んだ結果、労働人口が減少し、企業は人材の確保が困難になってきました。

そこで、従来のような男性中心で終身雇用・定年制を基本とする雇用方針を転換し、人材の門戸を広げる必要が出てきたのです。

その結果、女性の雇用、活躍の場を拡大したり、定年の延長や再雇用によって高齢者の経験と能力を活かしたり、外国人を積極的に受け入れるなどの取り組みが広まってきました。

1-2-2 価値観の多様化と旧来の日本的な企業文化との齟齬

以前の日本では、一度就職した企業には定年まで勤続し、プライベートよりも仕事を優先するのが当然、と考えるサラリーマンが多くいました。

が、近年ではその価値観は崩壊しつつあります。

若い世代では企業に対する忠誠心が希薄になり、転職に対する抵抗がなくなった結果、早期離職をする人が増えました。

また、仕事と同様にプライベートも大切にし、ワークライフバランスを重視する傾向も高まっています。

これらの価値観の変化によって、企業側も旧来型の日本企業の文化を見直さざるを得なくなり、多様な人材を多様な働き方で許容するようになったのです。

1-2-3 ビジネスのグローバル化

日本が不況に突入した1990年代以降、企業はグローバル化を推し進めてきました。

新しい市場や低コストな労働力を求めて海外に進出したり、海外資本と提携するなど、その形はさまざまですが、情報通信技術の進歩によって、この傾向はますます加速しています。

その結果、国籍や経歴に関わらず多様な人材、多様な価値観を取り込む必要が生じてきました。

これらの社会的背景があいまって、D&Iは今後の日本企業の成長にとって重要な経営戦略とみなされるようになったわけです。

1-3 「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の関係性

 

「ダイバーシティ&インクルージョン」は、もともとは「ダイバーシティ」「インクルージョン」という個別の概念から成っています。

が、同時にこの2者は相互に密接に関わっていて、両輪で実践することが理想です。

ではなぜこのふたつが相関関係にあるのか、その関係性について考えてみましょう。

1-3-1 ダイバーシティとは

前述した通り、ダイバーシティの語義は「多様性」です。

ビジネスにおいては、「組織の中に多様な人材が集まっている状態」を言います。

もともとはアメリカで生まれた考え方で、ジェンダーやさまざまな人種、年齢の人材を積極的かつ平等に雇用しようという意図がありました。

ダイバーシティは、以下のようにいくつかの分類をすることができます。

◾️不変的か可変的か

※参考:「ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義」中村豊 より表作成

◾️表層的か深層的か/可視的か不可視的か

※参考:「ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義」中村豊 より表作成

このように、ダイバーシティにはさまざまな属性が想定されます。

「多様性を受け入れる」というと、「女性にも男性同様の職責や待遇を与える」、「外国人を受け入れる」といった目に見えるわかりやすい施策にばかり注目しがちですが、もっとさまざまな個性や差異にも配慮して、区別や差別することなく認めて受容する必要があるのです。

1-3-2 インクルージョンとは

一方、「包括、受容」という意味を持つ「インクルージョン」は、もとは教育分野で使われ始めた概念で、障害を持った子どもが学校や社会に参加することを「インクルーシブ教育」と呼んでいます。

障害があるからと支援学級などに通うのではなく、通常クラスに属して、障害の有無に関わらずそれぞれの能力を伸ばす教育目指そう、という考え方です。

ビジネスにおける「インクルージョン」もまた、「それぞれに違いを持った人々を組織が受け入れ、能力や個性を伸ばして活かす」ことを指しています。

ダイバーシティとインクルージョンは非常に似ていて区別がつけにくい概念ですが、この「能力や個性を活かす」という考え方が、インクルージョンならではのポイントだと言えるでしょう。

ダイバーシティでは、「多様な人材が存在している状態」であるのに対して、インクルージョンは「多様な人材を組織が受け入れ、その能力をそれぞれに伸ばし、適材適所で活躍できるようにする」ことを目指しているのです。

1-3-3 ダイバーシティとインクルージョンは両立してこそ意味がある

では、ダイバーシティとインクルージョンはどんな関係性にあるのでしょうか?

この両者では、ダイバーシティの方が先に提唱された概念でした。

が、多様な人材を受け入れてはみたものの、それだけではさまざまな問題が生じることがわかってきました。

例えば、

▼雇用された人材が、マイノリティとして他の社員から差別されたり排斥されたりする

▼女性や障害者などは「人雇用する目標があるから、能力がないのに雇用された」とみなされてしまう

▼雇用はしたが社内に活躍の場がなく、結局退職してしまう

といったケースです。

そこで適用されたのがインクルージョンです。

インクルージョンがダイバーシティと違うのは、

人材を組織の一員、仲間として受け入れること

社員それぞれの能力を伸ばし、存分に活躍できる仕事の場を与えること

2点です。

これが実現して初めて、ダイバーシティも意味を持ちます。

そこで、最近ではこの2者を不可分のものとして、「ダイバーシティ&インクルージョン」とあわせて呼ぶ企業が増えているのです。

2 ダイバーシティ&インクルージョンの具体例

では、ダイバーシティ&インクルージョンを実行する場合、どんな施策が考えられるのでしょうか?

この章ではその具体的な例を挙げていきましょう。

2-1 女性の活躍推進

ダイバーシティ&インクルージョンとしてもっとも代表的な取り組みが、女性が企業でより活躍できるようにさまざまな制度を定めたり、職場環境を整えたりすることです。

これについては国も積極的に政策を進めていて、2016年には「女性活躍推進法」が施行されました。

この法律により、企業は社内での女性の活躍を推進する義務が生じます。

具体的には、国・地方公共団体、301人以上の大企業であれば、

◾️自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析

◾️その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表

◾️自社の女性の活躍に関する情報の公表

を行う必要があります(300人以下の中小企業の場合は努力義務)。

また、これらの取り組みをしている企業は、申請の上で優良と認められれば、厚生労働大臣より「えるぼし」という優良企業認定を受けることができます。

各企業の取り組みとしては、

女性社員向けの研修を行う

社内で活躍する女性のロールモデルを提示する

女性リーダー向けの教育制度を設けて育成し、女性管理職を増やす

結婚・出産後にも仕事を続けられるよう、休暇や時短・在宅勤務などの制度を整える

などの例があります。

女性がライフステージの変化に直面しても、家庭や育児と両立しながら無理せず仕事を続け、キャリアアップを目指せるよう、職場環境を整え、社員の意識を改革することが重要です。

2-2 シニア層の活用

旧来の日本の企業では60歳定年制が一般的でした。

定年後のシニア層は、希望しても雇用を継続してもらえるとは限らず、キャリアとかけ離れた職種でパートタイム勤務をしたり、リタイア生活を余儀なくされたりする例もありました。

が、現在の60歳といえばまだまだ元気で働くことができる上、長年培ってきた仕事のスキルと豊富な経験を持った有用な人材です。

そこで、シニア層を貴重な戦力として活用しようという取り組みが、国や企業で始まりました。

2013年に施行された「改正高齢者雇用安定法」では、定年後の継続雇用を促進するため、

◾️継続雇用制度の対象者を、事業主が限定できる仕組みの廃止

◾️継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大

◾️高年齢者雇用確保措置義務に違反する企業を公表する規定を導入

◾️高年齢者雇用確保措置の実施や運用に関する指針の策定

といった定めが追加されました。

現在では各企業も、

定年後の再雇用制度を整え、65歳まで働けるようにする

再雇用を見据えて、定年前から研修を実施したり、長く働ける部署に移動して経験を積める制度を作る

などのシニア活用施策を行なっています。

また来年には、希望する人は70歳まで働ける社会を目指して、さらなる改正法案が論議される予定です。

それが実現すれば、企業には努力義務として、

◾️70歳までの定年延長

◾️定年後の他企業への再就職サポート

◾️起業支援

などが課され、シニア層の活躍の場も多様化が期待されます。

2-3 障害者の雇用促進

元来の「インクルーシブ教育」の理念と同様、ビジネスにおいても障害者のインクルージョンは重視されるべき課題です。

これについても「障害者雇用促進法」という法律があり、事業主には以下のことが定められています。

◾️障害者雇用率に相当する人数の障害者の雇用を義務づけ

民間企業

2.2%(平成33年4月より前に、2.3%)

国、地方公共団体、特殊法人など

2.5%(平成33年4月より前に、2.6%)

都道府県などの教育委員会

2.4%(平成33年4月より前に、2.5%)

◾️障害者の雇用に伴う経済的負担の調整

・障害者雇用率が未達成の場合、「障害者雇用納付金」を徴収

 常用労働者100人超の場合:不足ひとりにつき5万円/月

  常用労働者100人超200人以下の場合:不足ひとりにつき4万円/月

・障害者雇用率を達成した場合、「障害者雇用調整金」を支給

 常用労働者100人超の場合:超過ひとりにつき27,000円/月

  常用労働者100人以下の場合:報奨金制度あり

◾️障害者を雇い入れるための施設の設置、介助者の配置等に助成金を支給

これに従って、実際に多くの企業では障害者を一定数雇用しています。

また、

自社の障害者雇用率を随時公表する

障害者が能力を発揮できる職種を用意したり、活躍できるグループ企業を立ち上げたりする

障害者がスキルアップできるよう、研修制度を設けたり資格取得を促進したりする

障害のある社員向けに、社内に相談員や相談窓口を設ける

仕事をしやすいよう、就労支援機器などを提供する

といった取り組みを行なっている企業もあります。

2-4 外国人の活用

ビジネスのグローバル化に対応するためには、外国人の積極的な雇用も重要になってきます。

これについては法定義務などはありませんが、企業が外国人労働者に対して取るべき必要な措置を厚生労働省が定めた「外国人指針」がありますので、参照してください。

企業の取り組み例としては、

海外で開催される就活イベントに参加し、優秀な人材を集める

外国人社員の必要性を社内にアピールし、受け入れやすい雰囲気や土壌を作る

コミュニケーションをはかるため、日本語のできる外国人を管理職に登用する

キャリアアップ志向が強い外国人向けに、人事の評価基準を明確化したり昇進制度を改善したりする

英語など外国語ができるメンターや相談員をおく

などさまざまな施策が行われています。

2-5 LGBTへの理解

性的マイノリティであるLGBTの人に対しても、ダイバーシティ&インクルージョンは進んでいます。

2017年には経団連が「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」という提言書を出し、その中で『LGBTへの企業の取り組みに関するアンケート』の調査結果を発表しました。

それによると、

・LGBTに関して、企業による取り組みは必要だと思うか:

 「思う」91.4%/「思わない」0.4%/「わからない」8.2

・LGBTに関して、何らかの取り組みを実施しているか:

 「すでに実施」42.1%/「検討中」34.3%/「予定なし」23.2

と、各企業が高い意識を持っていることがわかったのです。

実際の取り組みとしては、

◎LGBTのイベントなどに企業として参加するなど、支援を表明する

◎LGBTへの差別の禁止を社内規定やポリシーなどに明記し、理解のための研修を実施する

◎LGBTについての相談窓口を設ける

社内にLGBTの当事者や支援者、理解者のネットワークを作り、理解や交流を深める

社内のトイレの一部をジェンダーフリー化し、誰でも使えるようにする

同性のパートナーも配偶者と同等の福利厚生や待遇が受けられるようにする

などがあり、現在は実施していない企業の中にも今後に向けて検討している例が増えているようです。

2-6 多様な働き方の推進

ダイバーシティ&インクルージョンは、旧来の男性中心の日本企業では活躍の場が少なかった人材の活用を目指すものです。

その中には、妊娠・出産や介護などさまざまな事情でフルタイムの勤務が難しくなり、退職を余儀なくされてきた人たちも含まれます。

そこで、従来のフルタイム・通勤型の勤務形態を見直し、さまざまな働き方ができるような制度づくりが求められるようになりました。

具体的には、

正社員のまま時短勤務ができる制度を作る

テレワークや在宅勤務を導入する

妊娠・出産・子育て期間に十分な休暇が取れる制度を整え、休暇取得を促進する

介護のために十分な休暇が取れる制度を整え、休暇取得を促進する

子育てや介護などの事情により、残業を免除する

といった施策が考えられるでしょう。

これらの取り組みを推進することで、多様な人材が長期間にわたって企業で能力を発揮できるようになるのです。

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