人的資本経営を実現するエンゲージメント向上施策|7つのポイントと実践事例

人的資本経営への注目が高まる中、その実現に欠かせない要素として「エンゲージメント」が注目されています。しかし、日本のエンゲージメントは世界最低水準にとどまっており、多くの企業にとって喫緊の経営課題です。

この記事では、人的資本経営とエンゲージメントの関係を整理したうえで、日本のエンゲージメントが低い原因を分析し、向上のための7つの施策を具体的に解説します。

人的資本経営を実現させるためには?

人的資本経営とは

人的資本経営とは、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

この考え方が広まるきっかけとなったのが、経済産業省が2020年に公表した「人材版伊藤レポート」です。同レポートでは、持続的な企業価値向上のために、経営戦略と人材戦略の連動が不可欠であると提言されました。

2022年にはさらに実践的な内容をまとめた「人材版伊藤レポート2.0」が公表され、人的資本経営を実行するための「3つの視点(Perspectives)」と「5つの共通要素(Common Factors)」が示されています。

  • 3つの視点:経営戦略と人材戦略の連動、As is-To beギャップの定量把握、企業文化への定着
  • 5つの共通要素:動的な人材ポートフォリオ、知・経験のダイバーシティ&インクルージョン、リスキル・学び直し、社員エンゲージメント、時間や場所にとらわれない働き方

注目すべきは、5つの共通要素の中に「社員エンゲージメント」が明記されている点です。人的資本経営を実現するためには、エンゲージメントの向上が欠かせない構成要素として位置づけられています。

参考:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」

エンゲージメントとは何か

エンゲージメントとは、従業員が仕事に対して積極的に関わり、自発的に貢献しようとする姿勢のことです。単に「会社に満足しているかどうか」ではなく、「主体的に業績向上に関わろうとしているか」がポイントになります。

従業員満足度・モチベーションとの違い

エンゲージメントと混同されやすい概念に「従業員満足度」と「モチベーション」があります。

概念 定義 特徴
従業員満足度 会社の待遇や環境に対する満足の度合い 受動的。満足していても行動に結びつかないケースがある
モチベーション 仕事に取り組む意欲や動機づけ 個人の内面的な状態。外的要因(報酬等)で一時的に上がるが持続しにくい
エンゲージメント 仕事・組織に対する自発的な貢献意欲 能動的。組織との相互関係の中で形成され、業績に直結しやすい

満足度が高くてもエンゲージメントが低いケースは珍しくありません。たとえば、福利厚生や給与には満足しているが、仕事そのものにやりがいを感じていない場合です。企業の成長に直結するのは、主体的な行動を伴うエンゲージメントの方です。

エンゲージメントが業績に与える影響

エンゲージメントの効果は多くの調査で実証されています。ギャラップの2024年メタ分析では、エンゲージメントスコアが上位25%の事業部門は、下位25%と比較して離職率が51%低いという結果が出ています。

また、エンゲージメントが高い組織では、生産性の向上、欠勤率の低下、顧客満足度の向上、収益性の改善といった複合的な効果が確認されています。

日本のエンゲージメントの現状と課題

日本のエンゲージメントスコアが世界平均を大きく下回ることを示すグラフ

世界最低水準のエンゲージメントスコア

ギャラップが2024年に発表した世界各国の従業員エンゲージメント調査によると、日本の「仕事に対して意欲的かつ積極的に取り組む(Engaged)」従業員の割合はわずか6%にとどまり、世界最低水準であることが明らかになりました。

一方、「仕事に対して意欲を持とうとしない(Actively Disengaged)」従業員は24%で、エンゲージされている従業員の実に4倍にのぼります。ギャラップの分析では、エンゲージメントの低さによる機会損失コストは、2023年だけで86兆円以上に達するとされています。

データが示す日本企業の深刻な状況

ギャラップの2023年調査では、日本の従業員意識はほぼすべての項目で世界平均を大きく下回りました。

項目 世界平均 日本
仕事に誇りを持っている 63% 33%
仕事にやりがいを感じている 69% 37%
会社に貢献したいと思っている 68% 37%
仕事に積極的に関わっている 71% 39%

従業員の95%が職場で生き生きと活躍できておらず、25%近くが会社の評判を損なうような行動をとっている——これが日本の職場の現実です。

参考:2023年版 ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状

なぜ日本のエンゲージメントは低いのか

日本のエンゲージメントが世界最低水準にとどまる背景には、構造的な要因が複合的に絡み合っています。

終身雇用の変質と帰属意識の低下
終身雇用制度の実質的な崩壊が進む一方で、新しい雇用のあり方はまだ定着しきっていません。会社との心理的な結びつきが弱まり、「この会社のために頑張りたい」という帰属意識が薄れています。

年功序列型の評価制度
成果よりも年次や在籍年数が評価に影響する制度が残る企業では、「頑張っても報われない」という感覚が生まれやすく、自発的な貢献意欲を抑制します。特に、業績に直結しない日常の貢献や行動が評価されにくいことが、エンゲージメント低下の要因になっています。

マネージャーのコーチング力の不足
ギャラップの調査でも、良いマネージャーの存在とエンゲージメントの相関が明確に示されています。しかし、日本では管理職がプレイングマネージャーとして自身の業務に追われ、部下との対話やフィードバックに十分な時間を割けないケースが多くあります。

組織内コミュニケーションの希薄化
リモートワークの普及やフリーアドレスの導入により、偶発的なコミュニケーションの機会が減少しました。部署間・拠点間の壁も加わり、「自分の仕事が会社全体にどう貢献しているか」が見えにくくなっています。

日本企業の人的資本情報開示率が低いことを示すデータ

エンゲージメント向上のための7つの施策

エンゲージメント向上のポイントを示す図

エンゲージメントは一つの施策で劇的に変わるものではなく、複数のアプローチを組み合わせて継続的に取り組むことが重要です。ここでは、実践しやすさと効果の両面から7つの施策を紹介します。

施策1:経営ビジョンを現場レベルまで浸透させる

従業員が自分の仕事の意味を感じられなければ、エンゲージメントは上がりません。経営理念やビジョンを掲げるだけでなく、それが日々の業務とどうつながるかを具体的に示す必要があります。

全社会議やタウンホールミーティングで経営陣が直接語りかける機会をつくる、部門ごとの目標にビジョンとの接続を明記する、といった取り組みが有効です。ただし、一方通行の発信では浸透しません。社員が自分の言葉でビジョンと自身の仕事を結びつけて語れる状態が理想です。

施策2:称賛・承認の文化をつくる

「自分の貢献が認められている」という実感は、エンゲージメントの土台になります。上司からの評価だけでなく、同僚同士が日常的に感謝や賞賛を伝え合える環境が効果的です。

この領域で注目されているのが、ピアボーナスという仕組みです。従業員同士が感謝のメッセージとともに少額のポイントを贈り合う制度で、業績に直結しない日常の貢献——たとえば後輩のフォローや、他部署への自発的な協力——が可視化されます。

Uniposは、このピアボーナスを実現するツールとして多くの企業に導入されています。タイムライン上で全社員に感謝が共有される仕組みにより、部署の壁を超えたコミュニケーションの活性化とバリュー浸透を同時に実現できるのが特徴です。

施策3:1on1ミーティングで対話の質を高める

マネージャーと部下の信頼関係は、エンゲージメントに直結します。進捗確認や評価のための面談ではなく、部下が主役になる1on1ミーティングを定期的に実施しましょう。

部下のキャリア志向、仕事で感じている課題、チームへの要望などを丁寧に聞き出すことで、「自分のことを理解してくれている」という信頼が生まれます。週1回〜月1回の頻度で継続し、短い時間でも良いので途切れさせないことがポイントです。

施策4:評価制度を見直す

年功序列に偏った評価や、上司の主観だけで決まる評価は、エンゲージメントを下げる大きな要因です。成果とプロセスの両面を公正に評価する仕組みが必要です。

360度評価やピアフィードバックを取り入れることで、上司の視点だけでは見えにくい貢献を拾い上げることができます。Uniposのようなツールに蓄積される感謝・称賛のデータを、人事評価の補助指標として活用している企業もあります。

施策5:心理的安全性を確保する

自分の意見を言っても否定されない、失敗しても責められない——そうした心理的安全性が確保された環境では、社員は積極的に発言し、挑戦し、学びます。

心理的安全性を高めるために有効なのは、リーダーが自ら弱さやミスを開示すること、会議で全員が発言する機会を設けること、挑戦の過程を称える文化をつくることです。称賛・承認の文化(施策2)とも密接に関連しており、両方を組み合わせることで効果が高まります。

施策6:キャリア開発を支援する

「この会社にいれば成長できる」という実感は、エンゲージメントの強力なドライバーです。研修制度の充実だけでなく、社内公募やジョブローテーション、副業許可などを通じて、社員が自律的にキャリアを築ける環境を整えましょう。

人材版伊藤レポート2.0でも、「リスキル・学び直し」は人的資本経営の5つの共通要素の一つに位置づけられています。個人の成長と企業の成長を重ねることが、エンゲージメント向上と人的資本経営の両立につながります。

施策7:柔軟な働き方を実現する

仕事とプライベートのバランスが取れている社員は、仕事に集中し、高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。フレックスタイム制、リモートワーク、時短勤務といった制度を整備し、社員が自分のライフスタイルに合わせて働ける環境をつくりましょう。

ただし、制度を整えるだけでは不十分です。「リモートワークを使うと評価が下がるのではないか」という不安がある職場では、制度があっても使われません。制度の利用を推奨する経営メッセージと、実際に利用している社員のロールモデルが必要です。

エンゲージメント向上の取り組みを進めるうえでの注意点

施策を検討する際に、押さえておくべき注意点があります。

現状把握から始める

施策に飛びつく前に、まず自社のエンゲージメントの現状を定量的に把握しましょう。エンゲージメントサーベイを実施し、どの部署・どの層で課題があるかを可視化することで、施策の優先順位が明確になります。

Unipos社が提供する「組織インサイトサーベイ」は、完全匿名・記述型の設問設計と生成AIを組み合わせ、通常のサーベイでは表面化しにくい組織の深層課題を可視化するサービスです。「スコアは出るが何を改善すべきかわからない」という課題を抱えている企業に活用されています。

経営層のコミットメントが不可欠

エンゲージメント向上は、人事部門だけの取り組みでは成果が出ません。経営層が「人的資本経営」を自社の経営課題として明確に位置づけ、その中核としてエンゲージメント向上にコミットする姿勢を示すことが起点になります。

短期的な成果を求めすぎない

エンゲージメントは組織文化と深く結びついているため、施策を始めてすぐに数値が改善するわけではありません。半年〜1年単位で定点観測し、小さな改善を積み重ねていく姿勢が大切です。

Uniposが実現するエンゲージメント向上

Uniposは、ピアボーナスを通じたエンゲージメント向上を支援するツールとして、多くの企業に導入されています。従業員同士がメッセージとポイントを贈り合い、その投稿がタイムライン上で全社に共有される仕組みです。

Uniposによるエンゲージメント向上のメカニズムは、次のように機能します。

  • 貢献の可視化:上司の評価だけでは拾えない日常の貢献が、同僚からの感謝として可視化される
  • バリュー浸透:ハッシュタグに企業の行動指針を設定することで、どんな行動がバリューを体現しているかが日常的に共有される
  • 部署横断のコミュニケーション:タイムラインを通じて他部署の仕事や貢献が見え、組織全体の一体感が生まれる
  • データに基づく組織理解:蓄積された感謝データを分析し、チームやメンバーの関係性を数値で把握。課題の早期発見に活用できる

また、Uniposは「組織インサイトサーベイ」や経営層向けコンサルティングなど、ピアボーナス以外のサービスも提供しています。プロダクト・コンサルティング・サービスの三本柱で、人的資本経営の実現に向けた組織変革を包括的に支援しています。

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まとめ:エンゲージメント向上が人的資本経営のカギになる

人的資本経営の実現には、従業員エンゲージメントの向上が不可欠です。しかし、日本のエンゲージメントは世界最低水準にあり、構造的な課題が根深く存在しています。

だからこそ、単一の施策ではなく、ビジョン浸透、称賛文化の構築、対話の質の向上、評価制度の見直し、心理的安全性の確保、キャリア開発支援、柔軟な働き方——これらを複合的に組み合わせて取り組む必要があります。

まずは自社の現状を正確に把握し、課題に優先順位をつけること。そして、経営層のコミットメントのもと、長期的な視点で改善を積み重ねていくこと。その一歩として、日常の感謝と貢献を可視化する仕組みづくりから始めてみてはいかがでしょうか。

よくある質問(FAQ)

Q. 人的資本経営とは何ですか?

人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。経済産業省の「人材版伊藤レポート」で提唱され、経営戦略と人材戦略の連動が核心です。

Q. エンゲージメントと従業員満足度の違いは何ですか?

従業員満足度は「会社への満足の度合い」を測る受動的な指標です。一方、エンゲージメントは「自発的に貢献しようとする姿勢」を指す能動的な概念で、業績により直結します。満足度が高くても、エンゲージメントが低いケースは珍しくありません。

Q. 日本のエンゲージメントはなぜ低いのですか?

ギャラップの2024年調査で日本の意欲的な社員の割合はわずか6%(世界最低水準)です。終身雇用の変質による帰属意識の低下、年功序列型評価による貢献実感の薄さ、マネージャーのコーチング力不足、コミュニケーションの希薄化が複合的な原因として挙げられます。

Q. エンゲージメントを向上させるには何から始めればよいですか?

まずはエンゲージメントサーベイで現状を可視化し、どの層・どの部署に課題があるかを特定します。そのうえで、ビジョン浸透、称賛文化、1on1、評価制度見直し、心理的安全性確保、キャリア開発、柔軟な働き方など、課題に応じた施策を段階的に実行しましょう。

Q. ピアボーナスはエンゲージメント向上にどう効きますか?

従業員同士が感謝のメッセージとポイントを贈り合うことで、上司評価では見過ごされがちな日常の貢献が可視化されます。「自分の行動が見てもらえている」という実感がエンゲージメント向上につながり、部署を超えたコミュニケーションの活性化やバリュー浸透にも効果があります。