
組織運用において、重要とされる概念の一つに「インテグリティ」というものがあります。
ビジネスシーンで用いられることも多いインテグリティという言葉ですが、詳しい意味をご存じでしょうか。
組織を円滑に機能させるためにも、インテグリティの基本をきちんと押さえておくことが大切です。そこで、この記事ではインテグリティの意味や重要性、企業事例について紹介します。
インテグリティとは
そもそも、インテグリティとはどのようなものなのでしょうか。まずは、インテグリティの概要をしっかりと理解することが重要です。
あわせて、インテグリティが注目されるようになった理由やコンプライアンスとの違いについても確認していきましょう。
インテグリティの意味
インテグリティとは、ラテン語の「Integrity」に由来する言葉です。
そもそもの意味としては、「健全性」「全体の」「完全な」などが含まれます。日本語では、「誠実」「真摯」「高潔」などの概念を指して使われることが一般的です。
インテグリティは、欧米の企業社会で多く用いられています。例えば、欧米企業の代表者は、経営方針や従業員の行動規範について示す際にインテグリティという言葉をよく使う傾向があります。
インテグリティの定義
オーストリア出身の経営思想家として知られるピーター・ドラッカーは、インテグリティについて「組織のリーダーやマネジメントに重要な資質だ」と説いています。
ピーター・ドラッカーは、「現代経営学」「マネジメント」 の発明者としても有名で、その活躍から「経営学の父」「マネジメントの権威」とも呼ばれています。
ピーター・ドラッカーは、「インテグリティに欠ける組織は腐敗する」と述べており、経営におけるインテグリティの重要性を示しました。
とはいえ、インテグリティは個人の姿勢や態度を表すものであり、「誠実さ」といわれても、具体像がつかみにくいのが現状です。
ピーター・ドラッカーでさえも、「インテグリティの定義は難しい」と語っており、具体的に理解がしにくい側面を持っています。
インテグリティが注目される背景
インテグリティが注目されるようになった理由は、度を超した成果主義や経営理念の腐敗が関係しているといわれています。
行き過ぎた成果主義の結果、多くの企業が不祥事を起こすようになりました。大企業の不祥事ほど社会への影響や反響が大きく、コンプライアンスや企業の社会的責任が重視されるようになったのです。
ビジネスの場では、企業成長のため競争が欠かせませんが、成果主義にばかり目を向けていると倫理基準を軽視してしまう要因となりかねません。
顧客から信頼される企業を目指すためには、インテグリティの考え方を念頭に置いた経営が求められるのです。
このような背景から、インテグリティは経営者や組織のリーダーなど企業のキーパーソンにとって欠かせない、重要な資質として注目されるようになりました。
インテグリティとコンプライアンスの違い
インテグリティと混同しがちな言葉の一つが「コンプライアンス」です。
どちらも意味が異なるため、きちんと違いを理解しておきましょう。
コンプライアンスは、「法令遵守」という意味があります。ただし、これは企業の法令・規則だけに限らず社内規範や社会的理論といった要素を広く含めることが重要です。
つまり、コンプライアンスは組織・社会のニーズに沿った「他律的な規範」といえます。一方で、インテグリティは個人の姿勢による「自律的な規範」です。
例えば、物事に対してコンプライアンスでは「悪いことをしない」という消極的な姿勢に対し、インテグリティでは「良いことをしよう」という前向きな姿勢となります。
このように、規範の方向性が異なる点が大きな違いといえるでしょう。
データインテグリティとは
データインテグリティとは、「データの完全性」を意味する言葉です。
データの内容が信頼できる状態、かつ外部からの攻撃やエラーなどによる異常が発生していないことを保証する意味合いがあります。
もともとデータインテグリティは、情報処理などのデジタルデータを取り扱う業種で多く使われていました。しかし、現在では製薬業界などで広く活用されています。
例えば、企業がある試験を行った際に、結果の良いデータだけを残して悪い結果のデータを削除したとしましょう。これは、データの不正削除に該当します。このようなデータの改ざんや偽装などを防止することが、データインテグリティの本質です。
理想的な企業経営とされるインテグリティマネジメントとは
インテグリティに関連するものとして、「インテグリティマメジメント」という概念があります。これはどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
インテグリティマネジメントの意味
インテグリティマメジメントは、「組織における人やルールに対する誠実さ、真摯さを軸とした組織運用」という意味を持っています。
つまり、法律や規範を守るだけではなく、積極的に社会的責任を果たそうと努力することを指すのです。企業や経営者は、「コミュニケーションの正直さ」「公平な処遇」「企業の社会的責任の遵守」といった倫理基準を認識する必要があります。
このような要点を押さえ、社内の規範を決定していくことがインテグリティマネジメントにおいて重要になるでしょう。
インテグリティマネジメントの目的
インテグリティマネジメントの主な目的は、誠実さの欠如によって組織にもたらされる不利益を防ぐことです。
IT技術の進化により、社会では誰もが気軽に情報発信ができる時代になりました。その関係から、インターネット上には企業・個人が発信した大量の情報があふれています。このような状況下で、インテグリティが欠如した不適切な情報発信をして問題に発展するケースも少なくありません。
不適切な情報発信をしてしまう原因は、第三者や社会への影響を考えることができない発信者の不誠実さにあるでしょう。こうした問題は、まさにインテグリティの欠如によって引き起こされるものです。
それが企業と関連する場合は、イメージだけでなく信頼の低下にもつながります。不誠実さに伴う不利益から組織を守るためにも、インテグリティマネジメントを行うことは重要です。
インテグリティマネジメントのメリット
インテグリティマネジメントを実施した場合、企業にとってメリットがあります。
具体的には、組織全体の「信頼関係の構築」「生産性の向上」などにつなげることが期待できるでしょう。
組織を導く存在がインテグリティを重視している姿勢を見せることで、インテグリティの概念や重要性を企業全体に浸透させることができます。他のメンバーがその姿勢を見ることで、自発的に「規律や秩序を守ろう」という意識が生まれるようになるのです。
組織内で良い相互作用が起これば、メンバー間の良好な人間関係構築にも役立つでしょう。その結果、チーム内の連携が強化され業務効率や生産性の向上にもつながります。
インテグリティマネジメントの具体的な取り組み方
インテグリティマネジメントの具体的な取り組み方としては、以下のようなものが挙げられます。
まずは、「倫理的かつ公平な行動をすること」です。
企業のインテグリティは、正直なコミュニケーションや公平な処遇・競争、また法の遵守などが重要となります。そのため、インテグリティマネジメントでは、人として倫理的かつ公平な行動を心がけることが求められる傾向にあります。
利益ばかりに目を向けるのではなく、倫理的で正しいビジネススタイルを意識することがポイントとなります。
また、「法的義務を重要視する」ことも肝要です。
ピーター・ドラッカーは、「強者より弱者に寄り添う姿勢を基本とし、公平さが重要だ」と説いています。
そのため、企業におけるインテグリティマネジメントでは、部下と同じ目線に立ち公平に接することが重要です。社会の規範に沿ったコンプライアンスを守ることで、インテグリティの向上を目指すことができます。
インテグリティは、健全な企業経営を行い顧客との信頼関係を築くうえで重要なものです。ただ、人の価値観はそう簡単に変わるものではありません。
インテグリティマネジメントを意識して、すぐに結果を求めると大きな変化が見られず継続するモチベーションが低下してしまう可能性があるでしょう。
このような事態を避けるためにも、インテグリティマネジメントは経営層や人事などの特定した人物だけではなく、組織が一丸となって中長期的に取り組むことが必要です。じっくりと時間をかけて、着実に「誠実さの育成」に励みましょう。
インテグリティが企業にもたらす3つのメリット
インテグリティは、企業の運用に欠かせない要素であり、さまざまなメリットをもたらします。具体的にどのようなメリットがあるのか、見ていきましょう。
①コンプライアンスを遵守する人材を育成できる
従業員は、経営者が掲げる企業理念に沿って活動します。つまり、組織のトップとなる経営者がインテグリティを遵守して行動することで、企業や従業員が正しい方向性に進むための道しるべとなるのです。
一人ひとりが誠実さを意識した行動を心がけることで、法令遵守が基本となる企業文化が生まれます。既存社員の育成はもちろん、新入社員にもこの文化は伝わっていくため、インテグリティが高くコンプライアンスを遵守する人材を効果的に育成できるのです。
②企業の成長を見込める
多様な人材と価値観が集まるグローバル企業にとって、インテグリティは全従業員に共通する重要な要素です。
企業がビジネス活動として地域貢献することで、企業価値を高めていくことができます。また、インテグリティを基板とした価値観を持つ組織・企業は、社会的に認められやすくなるでしょう。
インテグリティで企業の存在価値を示すことができ、さらなる成長・発展を目指すことができるのです。
③企業ブランディングにつなげられる
経営者だけではなく、全従業員が高いインテグリティを持つことで企業のイメージアップを図れます。
コンプライアンスの遵守が当たり前となっている世の中において、企業は一歩先の対応を求められます。このような場合にも、インテグリティと企業理念を結びつけることで、ブランディングにつなげることができるでしょう。
企業理念は、他社との差別化を図る大きな武器となります。インテグリティの価値観を重視した企業理念によって、人を大切にする姿勢が社会に伝わり、顧客との信頼関係の構築に役立てることが期待できるでしょう。
インテグリティを持つ経営者の特徴
経営者がインテグリティを持つことによって、企業の発展も見込めます。インテグリティを持つ経営者には、一体どのような特徴があるのかについて見ていきましょう。
公平意識や正義感が強い
インテグリティを持つ経営者は、公平さや「正しさを重視した判断を下す」という特徴があります。
常に「何が正しいのか」に基づいて行動し、誰に対しても公平さを保つようにしているのです。企業を率いる経営者がインテグリティを持っていれば、従業員の個性や能力を正しく判断し、最も効果的に活用することができます。
また、生産性を高めるためのチーム編成や人材配置を行うなど、決して自身の好みや地位で判断しない傾向があります。「何を選択することが最も効果的なのか」といった、物事の本質を真摯に捉えることができるのが特徴といえるでしょう。
経営者として重要なのは、自身の利益ではなく企業の利益を追求することです。従業員だけでなく、取引先や株主といった企業に関係する人すべてに配慮して行動できる経営者こそが、高いインテグリティの持ち主といえます。
倫理的な行動をとれる
法令遵守の意識の高さとともに、「倫理的な行動をする」という特徴もあります。
何事にも誠実に向き合う姿勢は、顧客や取引先にも伝わり円滑に信頼関係を築くことができるのです。また、利益を追求するだけではなく相手を尊重する気持ちを持つことも特徴の一つ。
どんなに経営者としての能力が高くても、モラルに欠けた言動が多いとトラブルが発生しやすくなります。インテグリティが高い経営者は、能力だけではなく道徳的観念の重要性を理解し周囲に配慮して行動する傾向です。
コンプライアンスへの意識が高い
インテグリティを持つ経営者は、何に対しても誠実に向き合おうと努力します。
そのため、法令遵守の意識が高いことが特徴です。企業活動では、「法的義務に反する仕事には関わらない」という強い意志のもと行動するため、企業は社会的責任を果たし健全な運用を行えます。
現代は、従業員のなにげない行動一つが企業の存続に関わってくるからこそ、トップとなる経営者がインテグリティを持ち、その姿勢を示すことが重要です。
高いインテグリティのもと活動する姿勢は、従業員にも伝わり法令遵守の文化が根付いていくでしょう。経営者が徹底したインテグリティを持つことで、誠実な組織をつくることが期待できます。
インテグリティ対策を行っている4社事例
日本では、さまざまな企業がインテグリティに取り組んでいます。具体的に、どのような取り組みを行っているのか、企業事例を4社見ていきましょう。
花王
花王では、法と倫理に沿った誠実な事業活動を行うことを表明しており、「正道を歩む」という経営理念を掲げています。
「よきモノづくりを通じて社会貢献を行う」という考え方です。コンプライアンス教育や、相談窓口の設置、監査とモニタリングといった取り組みの中で、法令・倫理を守る姿勢が示されています。
伊藤忠グループ
伊藤忠グループは、企業理念として「ITOCHU Mission(使命)」「ITOCHU Values(価値観)」を掲げています。
「なぜ企業が存在するのか」「どのような役割を担っているのか」という使命を重視して企業を運用しているのです。
また、先見性・誠実・多様性・情熱・挑戦の5つのワードを企業行動基準として掲げ、従業員の活動を確認するための行動規範を示しています。個人に限らず、チームのあり方を見つめ直す機会を積極的につくっている企業です。
滋賀銀行
滋賀銀行では、近江商人のビジネスモデルとなる売り手よし・買い手よし・世間よし、通称「三方よし」の精神を大切にしています。
これは、売り手だけではなく買い手のことを考えて商売を行い、その商いを通じて社会貢献を果たすというものです。
経営理念として「自分にきびしく・人には親切・社会につくす」ことを掲げ、社会における共存共栄を実現させています。地域社会の発展や、働きがいのある環境づくりに力を注いでいます。
東レ
東レは、「企業倫理」「法令遵守」「安全・防災・環境保全」を優先する経営を行っており、工場における生産活動の安全性に配慮している企業です。
また、地球の環境問題への取り組みや新素材の開発など、幅広いビジネスへの貢献が認められています。
インテグリティを高めて健全な組織運用を目指そう
インテグリティは、企業の運用において欠かせない重要なものです。インテグリティを高めることで、企業にとっても多くのメリットがあります。
社内にインテグリティを浸透させるためには、まず組織を率いる経営層やリーダーが手本となる姿勢を示しつつ、公平意識や正義感を持って日ごろから倫理的な行動を心がけることが大切です。
ポイントを把握してインテグリティを高め、誠実で信頼される企業を目指しましょう。