
「従業員のモチベーションが低い」
「離職率が高まり続けている」
「部門間の連携が上手くいっていない」
こうした組織課題に頭を悩ませている経営層は決して少なくないでしょう。企業が抱えるこうした課題の背景には「組織風土」が関係している可能性があります。
企業ごとに時間をかけて根付いた考え方や行動指針である組織風土の改革には、企業全体を挙げての取り組みが欠かせません。
そこで本記事は、以下の内容について掘り下げて説明していきます。
- 組織風土のパターン4つ
- 組織風土の改革によって得られる5つの効果
- 組織風土別の改革例
- 組織風土改革を実行する際の5ステップ
組織風土を改革するパターン別の例と、実行に移す際の流れについて解説します。
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1. 組織風土とは?
組織風土とは、組織内での共通認識となっている独自のルールや価値観などを指します。
多くの社員が直接的、または間接的に組織風土の存在を感じており、普段の業務や行動、精神面に無意識のうちに影響を受けています。
組織風土の例としては、例えば以下のようなものがあります。
- 経営層によるトップダウンが強い
- 風通しの良い雰囲気で、社員が活気に溢れている
- 個人の成果重視なので、社員同士の関係がドライ
企業ごとに様々な組織風土が存在し、組織に影響を与えています。
1−1. 組織風土が企業に与える影響
組織風土は企業のあり方を大きく左右します。
スピード感を重視するベンチャー企業と、会議を重ねて意思決定をする大企業とでは、企業風土が大きく異なるのが顕著な例です。
・ベンチャー企業
失敗を恐れず、トライアンドエラーを繰り返しながら成長していく、という組織風土が根付いているケースが多くある。
・大企業
成長だけでなく組織の安定も重視しなければならないため、判断基準が厳しく何事にも慎重になりがち。
企業ごとに特色のある組織風土は、経営層や企業が歩んできた歴史、社員の個々の判断基準や行動によって形作られているケースが多くあります。
そのため、社員個人の考え方や行動は企業やチーム内に浸透した考え方、組織風土に基づいた基準に従いがちです。
長い年月をかけて形作られた組織風土は、企業全体の意思決定にも少なからず影響を及ぼしているといえます。
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2. 組織風土のパターン4つ
企業ごとの組織風土はさまざまです。
中小企業の場合は、大きく分けて以下の4つのパターンに分類されるケースが多くあります。
出典:『日経トップリーダー 2019年6月号』 日経BP社、2019年6月、21ページ
- ブリリアンス型
- 仲良しグラブ型
- ギスギス型
- 腐敗型
同じ規模の企業同士でも、組織風土には大きな違いがあることがわかると思います。
2−1. ブリリアンス型
ブリリアンス型の組織風土を持つ企業は、チームワークが発揮されており、成果への意識も高い傾向にあります。
具体的には、以下のような特徴を持っています。
- 職場の雰囲気は明るく活気がある
- 社員同士の協力関係が強い
- 人間関係に煩わされず、のびのび自由に仕事
- 社員には充実感があり、人も育つ
社員同士が対立したりお互いの足を引っ張り合うことなく、協力して成果を追い求められる理想的な組織風土といえそうです。
仕事面でも裁量に合わせた自由な働き方ができ、人間関係でストレスを感じることも少ない傾向にあります。離職率が低いため、人材育成にも前向きに取り組めます。
楽しんで仕事に打ち込めるため、社員同士で成長する相乗効果が期待できるのです。
2−2. 仲良しクラブ型
仲良しクラブ型の組織風土を持つ企業は、チームワーク力は高い反面、成果への意欲は低い傾向にあります。
- 雰囲気はよく見え、嫌われないように互いに気を使う
- 重要な情報が伝わらない
- 前向きさに欠ける
- 社員に不安感がある
社員同士の仲がよいため社内の雰囲気は悪くありませんが、表面上だけの場合も多くあります。
お互いに嫌われないようにと指摘を避けるため、社員同士の成長につながる要素が阻害されてしまうデメリットがあります。
経営層をはじめ、仲良くしすぎる社風を貫いてきたことが、成果への意識を低くする原因につながっているのです。
2−3. ギスギス型
ギスギス型の組織風土を持つ企業は、成果への意識は高い反面、チームワーク力は低い傾向にあります。
- 仕事として割り切って努力
- ミスは他人のせい
- 職場はギスギスした雰囲気
- 社員にはストレスと疎外感
成果を追い求めるあまり社員同士の協力やサポートが行われず、職場の雰囲気はよくない状態にあります。
仕事の進め方などでつまづいても誰にも相談できず、トラブルが発生しても責任転嫁するような流れが出来上がっているかもしれません。
個人目標の達成を淡々とめざす組織風土の中では、社員は不安を抱き離職率を高める結果につながる恐れがあります。
2−4. 腐敗型
腐敗型の組織風土を持つ企業は、成果への意識、チームワーク力ともに低い傾向にあります。
以下のような特徴を持っています。
- 職場がどんよりと暗い
- 社員同士の会話がほぼない
- 社員同士が互いに無関心
- 社員には諦めと絶望感
企業内の雰囲気がよくなく、社員はお互いに無関心で必要最低限の会話しかありません。
このような状態では業務を効率的に進めることは難しく、成果につなげることも非常に厳しい環境であるといえるでしょう。
社員が独断で不正を行ったり、離職率を高めてしまうなどの弊害があります。
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3. 組織風土の改革が必要とされる状況一覧
組織風土は企業ごとに分類できることがわかりました。
自社がどのパターンに属しているか判明したでしょうか?
組織風土の改革が必要とされる状況はいくつか存在します。
ここでは、改革すべき企業内の状況をまとめました。
- 社員の成長意識が低く、企業の状態に関わらず現状維持を求める
- 伝統的にやってきた業務内容を、不要と判断されても頑なに実施し続ける
- 競合他社の動向に興味がない社員が多い
- 社内の雰囲気が暗く、社員間の挨拶が行われない
- 社員が相談せず独断で行動するようになっている
- 社員ごとに業務内容が属人化している
- 若手社員の離職率が高い
- 社員同士が業務上のミスの責任転嫁をする
- 他の社員に対して無関心
- 社員間の悪口が横行している
- 来客に積極的な挨拶ができていない
上記のような傾向が見られる場合は、企業に根付いた組織風土が影響している可能性があります。
企業の未来、長期的な成長を考えた場合、組織風土の改革を実施する必要があるでしょう。
4. 組織風土の改革によって得られる5つの効果
「大変そうだがぜひとも組織風土改革を実現したい!でも、成功させた場合にはどのような変化があるのだろう?」と疑問を持った方もいるのではないでしょうか?
ここでは、組織風土改革によって得られる5つの効果を紹介します。
- 生産性の向上
- 社員間の良好な人間関係の構築
- 社員が働きやすい環境の醸成
- 人材育成の促進
- 新規事業の開拓
4−1. 生産性の向上
社員同士が切磋琢磨しながら、協力し成長を目指す組織風土が根付けば、生産性の向上が期待できます。
チームワークが強化されることにより、全員の力で業績を伸ばそうとする意識が高まるのです。
さらに、そうした風土改革と合わせて、企業理念や自社の社会的な存在意義を再確認してもらえるような取り組みを行うことで、
企業としての成長を全社員が願うようになることが期待できます。
4−2. 社員間の良好な人間関係の構築
明るく開かれた組織風土の場合、社員はのびのびと仕事に打ち込めるため、必要以上にストレスを感じにくくなります。結果、社内の人間関係も良好になります。
そして人間関係が良好であればコミュニケーションが活性化し、業務においても自然と協力体制が生まれるようになります。仕事中も気軽に相談や報告ができ、休憩時間には楽しく雑談ができる、居心地のよい組織がつくられていくでしょう。
一点注意したいのは、単なる仲良しクラブにはならないようにすることです。良好な人間関係をベースに、チームで目指す目標を達成するため何ができるのか?普段から高め合う存在であることが重要です。
4−3. 社員が働きやすい環境の醸成
国を挙げての働き方改革が進んでいますが、組織風土の改革によっても社員の働きやすさは向上します。
精神論が優先され、長時間労働が評価される組織風土ですと、社員の生産性やモチベーションは上がりません。離職率の増加にもつながる可能性があります。
業務にはメリハリを持ってのぞみ、不要な時間外労働は避ける組織風土を浸透させることで、自然とワークライフバランスの実現につながります。
4−4. 人材育成の促進
ワークライフバランスが保たれ、良好な人間関係がベースの組織風土が醸成されると、自然と人材育成が促進されます。
先輩社員が後輩社員を積極的に指導するようになり、総合的なチーム力の向上が望めるのです。
ベテランの社員が持つ技術やノウハウを若手社員に伝承することで、企業としての伝統を紡いでいくこともできます。
若手社員はさまざまな経験を積めるので、与えられた業務以上のことをやり遂げたいという向上心も芽生えやすくなるでしょう。
互いに助け合い、先輩社員が後輩社員のサポートをしっかり行える、社員全体で成長できる組織風土なら、企業の長期的な成長が期待できます。
4−5. 新規事業の開拓
何事も明るく前向きに取り組める組織風土を持つ企業では、新しい分野への挑戦意欲が高まります。
経営層は現状維持に甘んじず、新規事業の開拓など、将来へ向けた新たな一手を探し出すことを迫られるでしょう。
メインとなる事業が安定していればずっと安泰、という時代ではなくなっている今、次の一手を考える視点が常に必要です。
トップが率先しチャレンジをすることで、社員も新しい挑戦へ向けて前向きな考えを持ちやすくなります。
また、トップダウン式の経営方針だけに依存するのではなく、社員から提案してもらうなど、ボトムアップ的な考え方も重要でしょう。
良好な人間関係から一歩進み、積極的に意見交換のできる組織風土を作り上げることで、企業の新しい道が開けるのです。
5. 組織風土別の改革例
組織風土は企業によってさまざまです。
スピード感を重視する企業があれば、伝統を重んじる企業もあります。
企業規模や内情によるものの、例えば企業風土による課題として以下のものがあります。
スピード感重視の企業:評価制度がなく、人事考課が曖昧
伝統を重んじる企業:社員が保守的で挑戦力が低い
一度出来上がってしまった組織風土を改革するのは並大抵のことではありません。
経営層が口頭で「組織風土改革を行う」と宣言しても、社員の心にはすぐには響かず、具体策もないまま時間だけが経過してしまうでしょう。
そこで、ここでは組織風土別の改革例を紹介します。
- 社員の活力がない場合:社員の自主性を高める
- 挑戦する意識が低い場合:挑戦を褒める文化の醸成
- 社員が保守的な場合:チームワークの向上をめざす
- 現状への不満が多い場合:人事評価制度を整備する
次の6章で紹介する、組織風土改革を実行する際の5ステップと合わせて確認していきましょう。
5−1. 社員の活力がない場合:社員の自主性を高める
社員に活力がなく、与えられた業務だけを淡々とこなす組織風土の場合、社員の自主性を高めるのが改革への近道です。
改革の必要性を感じている経営層から行動を起こし、社員の意識改革を促すのです。
その一つの手段として、経営層から経営に関する情報を社員に対して細かく提示する方法があります。
経営に関するビジョンを明確にし、社員に伝えることで、当事者意識を持ってもらうのが狙いとなります。
「最近、企業の業績がよくないようだ」
「このまま行くと、赤字に転落するかも……」
このように、社員間に危機感が芽生えることで、「自分たちの企業を存続させる」ための新しい事業の提案など、迅速な対応と積極的な挑戦を実現できる可能性が高まります。
社員の成長を支援する方針の一つは、積極的に行動した結果失敗に終わったとしても、決して責めないことです。
これにより、「何もしないほうが評価が下がらなくて安心」という保守的な考え方の蔓延を防ぎ、挑戦を讃える前向きな企業風土の醸成につながっていくのです。
このようにして、「集団の中の1人」から「集団を背負う1人」へと社員の認識を変えていくのです。
社員の成長を促すことで、社員の集合体である組織風土改革への第一歩が切り開かれていきます。
注意すべき点としては、社員のやる気を鼓舞しようとするあまり、経営層から意識変革への圧力をかけ過ぎないようにすべき点です。
これでは反対に社員のモチベーションを下げる危険性があり、離職率の上昇を招きかねません。
5−2. 挑戦する意識が低い場合:挑戦を褒める文化の醸成
売上が安定している企業の場合、社員は現状に甘んじてしまい、挑戦意欲が低い傾向にあります。
社員は日々の業務さえ真剣にこなしていれば問題はないかもしれませんが、企業や業界の将来性を考えた場合、常に新しい一手を模索することが求められています。
経営が悪化してから組織風土の改革に乗り出しても、手遅れになる可能性が高いといえます。
健全な経営が続けられている時点で、新規事業の開拓や更なるシェアの拡大など、意欲的な目標を立てることが大切です。
そのためには、挑戦を認め暖かく受け入れる組織風土にする必要があります。
社員が挑戦する姿勢を評価する仕組みづくりが必要です。
結果だけで評価するのではなく、プロセスを重視した評価制度を整えるなど、社員の自主的な挑戦を後押しする組織風土を作り上げることが大切なのです。
5−3. 社員が保守的な場合:チームワークの向上をめざす
ベテランの社員が多くを占める企業の場合、考え方が保守的になりがちです。
社員がそれぞれの経験や知識をベースに業務を進めるため、属人化します。
情報の共有が行われないため、若手社員は仕事の進め方がわからないという問題が発生するのです。
ベテラン社員が離職した場合には、技術が継承されないまま失われてしまうリスクもあります。
また、人間関係が良好な企業の場合でも、現状に甘んじて保守的になる社員が存在します。
この場合の組織風土は人間関係が良好な場合も多いのですが、単なる仲良しの集団で終わらせるのではなく、常に新しい視点を持てる集団にすることが大切です。
両方のケースの改善に有効なのは、積極的なチームワークを発揮できる集団にすること。
属人化した集団ではノウハウの共有を行い、全社員が業務への理解度を高められることが狙いです。
個人の成果など内側に向かいがちな意識を、同僚や後輩、チーム全体に広げられるような風潮をつくりましょう。
- 自分だけでなく、周囲とともに成長できる環境づくり
- 周囲の社員への細かな配慮など、チーム全体を見渡した行動の実現
- 成功や失敗した事例の情報共有を全員で行う
上記の内容の実践により、チームワークが発揮される集団への変化が期待できます。
また、チームワークの醸成には、社員だけでなく経営層の介入も重要な意味を持ちます。
社内ポータルサイトなどを活用し、経営層が理念やビジョンを発信し続けることで、組織風土改革への本気度を示し、全社的に取り組んでいくことができるようになります。
5−4. 現状への不満が多い場合:人事評価制度を整備する
企業への不満を述べる社員は、現状に対して多くの不満を抱えている場合があります。
「努力を認めてもらえない」
「給与水準が低い」
「Aさんは私よりも仕事ができないのに先に昇進した」
上記のような不満は、企業の中で明確な評価制度が整備されていないために起こりやすくなっています。
結果だけをみてプロセスを評価しない、企業への貢献度が給与に反映されない、人事評価の基準が不明瞭といった課題を抱えているかもしれません。
社員の努力や成果を適切に判断するためには、人事評価制度の整備が効果的です。
結果だけでなく、挑戦心や周囲のメンバーへのサポートなど、数値では測れない部分を評価対象にするなど、社員のモチベーションを高めるようにしましょう。
企業が理想とする人材を行動指針として人事評価制度に取り入れることで、社員が意識すべき方向性を明確にできます。
社員が不満を持たずに活躍できる、前向きな組織風土の実現につながるのです。
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6. 組織風土改革を実行する際の5ステップ
ここからは、組織風土改革を実行するための流れを5ステップで確認しましょう。
- 経営層から組織風土改革すべき理由を説明する
- 改革のためのプロジェクトチームの設立
- 企業に対する社員からの不満を吸い上げる
- 改革のための行動基準を設定する
- 改革の流れを進めていく
改革しようと口頭で進言しても、実現へ向けての壁は大きいものです。
難色を示す社員も出てくることが考えられますが、一つひとつ丁寧に進めながら、理解を得られるように努力していきましょう。
6−1. 経営層から組織風土改革すべき理由を説明する
組織風土の改革に当たっては、まず経営層からの提言が必要です。
企業が抱えている現状の問題点と、それが今の組織風土によるものであることを社員に理解してもらうことから始めましょう。
改革には多くの負担を要しますが、それを除いてもやり遂げる価値があることを社員に伝えるのです。
- 企業の経営が赤字に陥っている:黒字転換をめざす
- 社員が保守的でやる気がない:自分で考えて積極的に動ける組織にする
- 部門間の関係が悪い:社員が互いに理解し合える組織にする
上記のように、現状の課題点と組織風土改革後のビジョンを明確にすることが必要です。
6−2. 改革のためのプロジェクトチームの設立
組織風土の改革においては、経営層によるトップダウンで行うことが必ずしも効果的とは限りません。
社員からは押し付けられたようなイメージを持たれ、反発される恐れがあります。
また、うまく改革が進んだとしても、トップダウン式の組織になってしまい、社員の自主性が育たない可能性が考えられます。
そのため、組織風土の改革にいては、専門のプロジェクトチームの設立が効果的です。
プロジェクトチームのメンバー選定には、40歳くらいまでの、管理職についていない若手社員を抜擢するのがよいでしょう。
若手社員は企業の色に染まりきっていない部分が多く、時代の変化にも敏感であるため、組織風土の改革すべき部分を的確に理解できるという強みがあります。
企業の将来をよくするためのプロジェクトなので、組織風土改革による恩恵を十分に得られる世代を選ぶことが鍵です。立候補制にすることで、意欲の高いメンバーを集められます。
以下は、プロジェクトチームを立ち上げるメリットと、運用の際の注意点です。
プロジェクトチームを立ち上げるメリット |
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プロジェクトチーム運用の注意点 |
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出典:『日経トップリーダー 2019年6月号』 日経BP社、2019年6月、26ページ
6−3. 企業に対する社員からの不満を吸い上げる
プロジェクトチームを編成したら、社内調査と並行して社員の企業に対する不満点を吸い上げることからスタートしましょう。
社内調査で企業のよい面と悪い面を抽出できますが、より深い問題点を洗い出すためには、社員の生の声が重要です。
- アンケートを行う
- 不満の内容を分析する
- 社員の不満を解消するための具体策を練る
上記の調査を全社員に対して実施しましょう。
最初は愚痴のような意見でも、出し続けることに意味があります。
初めは多くの社員が不満や愚痴を口にしていても、次第に罪悪感から改革につながる前向きで健全な意見が多く見られるようになってくるのです。
少しずつ企業への不満や現状の問題点を抽出していき、改革に必要な情報をまとめていきましょう。
出典:『日経トップリーダー 2019年6月号』 日経BP社、2019年6月、27ページ
6−4. 改革のための行動基準を設定する
改革すべき組織の姿が明確になったら、その基準を元にした人事評価制度の設定へと移行します。
企業が社員に求める人物像や思考、行動基準と人事評価制度が連動することにより、評価に対する正当性が確立するのです。
人事評価制度を基準にした行動が評価に直結するため、社員の納得感が高まります。
行動基準は同じ社員であるプロジェクトチーム主体で作ることに意味があります。
行動基準が経営層から提案される場合、正しいことを述べていたとしても、社員側からすれば、「現場を理解していない人物の言葉には耳を貸さない」という風にもなりかねないからです。
同じ社員からの改革案だからこそ、実行の際に他の社員の協力を得やすくなるのです。
出典:『日経トップリーダー 2019年6月号』 日経BP社、2019年6月、28ページ
6−5. 改革の流れを進めていく
完成した行動基準と人事評価制度は、全社員の前で発表し理解を深めてもらうのが効果的です。
他にも、社内の掲示板を活用したポスターなどによる告知や、社内ポータルサイトを通じて周知徹底を進めるのが効果的です。
人事評価制度をうまく活用し、社員の意識・行動の変革を促していきましょう。
また、経営層は改革をプロジェクトチームに丸投げするのではなく、必要な情報の開示やプロジェクトチームとそれ以外の社員間のトラブル回避など、影ならがサポートを続ける必要があります。
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7. 組織風土改革に成功した企業例
組織風土改革を進めるにあたり、どのような結果が得られるかは非常に重要です。
ここでは、組織風土改革に成功した3つの企業を紹介します。
- オリンパス株式会社
- 日本航空株式会社(JAL)
- テルモ株式会社
7−1. オリンパス株式会社
内視鏡などの医療製品や、カメラなどの映像製品の分野で高い信頼性を持つオリンパス株式会社。
2011年には内部告発によって粉飾決算が明るみになりました。
株価が急落し経営層は辞任するなど、企業として大きな痛手を受けます。
経営層が粉飾決算を指示していたことで、組織風土が問題視されました。
事件後のオリンパス株式会社は、再スタートのために経営理念として以下の2つを掲げています。
・Our Purpose 私たちの存在意義
Making people’s lives healthier, safer and more fulfilling
世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現
・Our Core Values 私たちのコアバリュー
Integrity, Empathy, Long-Term View, Agility, and Unity
誠実、共感、長期的視点、俊敏、結束
人々の生命に関わる医療製品を取り扱う企業としての責任感を存在意義とし、社員間で価値観を共有できる組織風土の実現を強く意識した内容となっています。
また、経営層のコミュニケーション不足やマネジメント力の低下などの課題を受け、
- 経営層のコミュニケーション強化
- マネジメントの支援と強化
など、上記に代表される施策を実施。
社員とその家族が参加できる社内イベントを行うなど、全社員に一体感とチームワーク力を高める必要性を強く意識させたのです。
「自分の所属しているのはよい企業」と社員の認識を統一したことで、組織風土の改革をスムーズに進められました。
7−2. 日本航空株式会社(JAL)
2008年のリーマンショックの影響を受け、2010年に会社更生法の申請を行なった日本航空株式会社(JAL)。企業の再生にあたっては、京セラ創業者である稲盛和夫氏を会長に迎え、組織風土の改革を実施しました。
最初に行なったのは、リーダー層の意識改革です。
役員だけでなくグループ会社の経営幹部などを含む52名を集め、リーダーとしての心構えや、稲盛氏の経営哲学である「経営十二カ条」を学びながら、インプットとアウトプットを繰り返しました。
リーダー層が社内の共通言語を理解したことで、社員に対して企業の考え方が浸透するようになったのです。
その後、日本航空株式会社は2012年には東京証券取引第一部への再上場を果たし、2019年の時点で、グループ全体で1兆4,872億円の売上高と、10%を超える営業利益率を誇る航空会社になっています。
出典:PHPマネジメント衆知 ・経営破たん後、JALをV字回復に導いた 「リーダー教育」のリアル
7−3. テルモ株式会社
医療に携わる製品やサービスの提供を行なっているテルモ株式会社では、創立75周年を迎えた1990年代半ばに、企業風土を一新するための風土改革を実施しました。
同社では、1990年から3期連続で連結赤字を出しており、現状の組織風土のままでは、どんな改革案を立てたとしても、社員一人ひとりに浸透しないと考えられていたのです。
社員全員が当事者意識を持ちながら主役となり、仕事に喜びを感じられる企業にすることを目的に、組織風土の改革が実施されました。
一般社員を表彰する制度を作るなど、社員のモチベーションを高めるたる施策を実施しています。
また、当時の社長は国内の4,200人を超える社員と直接会って話を聞き、問題点の改善を実施。
組織を取り巻く環境や考え方が変革しつつあることを社員全員が肌で理解し、期待して行動するようになったため、組織風土の改革を迅速に進められたのです。
社員を働く仲間として捉える「associate(アソシエイト)」は風土改革のシンボルとして位置付けられ、現代でも社内の共通言語になっています。
同時に企業理念と5つのステートメントを制定し、倫理観を大切にしながら医療を通じて社会貢献するための規範としています。
8. 組織風土改革が進まない原因を把握する
組織風土改革の実現には、多大な労力と少なくない時間を要します。全社員で改革の重要性と、実現した後の組織の姿を共有し、一歩一歩前に進んでいくのです。
しかしながら、組織風土改革がうまく進まないケースがあります。
- 経営層が改革を社員に任せきりになる
- 管理職やベテラン社員による抵抗
- 社員に組織風土を改革すべき理由がきちんと伝わっていない
上記の3つの点について説明します。
8−1. 経営層が改革を社員に任せきりになる
経営層が自発的には動かず、社員に任せきりにする場合、組織風土改革の実施は難しいといえます。
経営層が思考や行動を変えずに社員にだけ変わるようにと要求することは、改革の失敗につながりかねません。
経営層こそが当事者意識を持って改革に臨まなくては、全社員にも意識が伝わらないためです。
口頭だけで改革を宣言し、担当社員にすベて任せるのではなく、経営層として陰ながらサポートするように心がける必要があるのです。
8−2. 管理職やベテラン社員による抵抗
組織風土改革の仕組みが整ったら、後は実践するのみです。
しかし、改革のための行動は管理職やベテラン社員によって阻まれる恐れがあります。
長く働いてきた社員からは、若手社員中心の改革を快く思われないためです。
従来の組織風土に染まっている人材でもあるため、改革への抵抗が予想されます。
対応策としては、管理職やベテラン社員に、プロジェクトチームのアドバイスをしてもらうことです。
経営幹部やベテラン社員の豊富な経験を提供してもらいつつ、プロジェクトの進行に協力してもらうことで、一緒に作り上げていく感覚を得てもらうことが狙いとなります。
経験豊富な社員を味方につけて、改革の流れをスムーズにするのがポイントです。
出典:『日経トップリーダー 2019年6月号』 日経BP社、2019年6月、28ページ
8−3. 社員に組織風土を改革すべき理由がきちんと伝わっていない
組織風土改革の成功は、社員1人ひとりの協力がなくては進行が困難です。
改革案を行動基準や人事評価制度に落とし込んでも、それを厳守する意義を全社員に理解してもらわなくては、組織風土改革の進行を妨げる原因になります。
経営層から一方的に組織風土の改革を指示されても「現場を何も理解していない」と一蹴されてしまう恐れがあります。
そのため、6章で説明したようにプロジェクトチームの活動が改革成功の鍵を握っています。
組織風土の改革は社員の自主性を重んじる方法が効果的です。
経営層は独断で作成した改革案を社員に押し付けるのではなく、改革のきっかけを与えるようにするのがポイントといえます。
9. まとめ
組織風土の改革は、経営層からのトップダウン式の掛け声だけでは、うまくいくとは限りません。
管理職や一般社員の理解と協力を得られて初めて、成功が見えてくるのです。
組織改革をめざす場合は、自社がどのような組織風土のパターンに属しているかを把握し、課題の抽出を行います。
改革を行うプロジェクトチームの設立により、一般社員を中心にした改革案をまとめてもらいましょう。
その際に、経営層として任せきりにしたり、口を出しすぎたりするのではなく、適宜サポートを行うのが効果的です。
社員の立場だからこそ見える企業としての問題点を受け入れることで、改革の道しるべを明確にしていきましょう。
組織風土改革においては社員間のトラブルや、経営層として受け入れにくい事柄も出てくることがありますが、企業の将来を考える上で、必要なことだと認識して実行に移していくのが大切です。