
組織内での独自のルールや価値観のことを表す「組織風土」。
自社の組織風土に危機感を覚え、まさに今、改革のイメージや計画を膨らませているという方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、組織風土改革を真剣に実現したいと考える方へ向けて、改革に成功した企業の事例を詳しくご紹介します。
併せて組織風土改革を成功させるポイントや、おすすめの施策についても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
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]1.組織風土改革に成功した5社の事例
組織風土改革に成功した、5つの企業の事例をご紹介します。自社の組織風土改革のイメージと照らし合わせながらご覧ください。
1−1.キリンビール株式会社
ビール類市場の縮小が続く中、2019年夏には、フラッグシップブランド「一番搾り」の売り上げが、過去10年で最高となったキリンビール。
続く2020年の販売実績においても、ビール類やノンアルコール飲料など、各カテゴリーで市場を上回る成果となっています。
このような成果を実現できた背景には、同社の組織風土改革の成功があると言って良いでしょう。
その昔、キリンはビール市場で長くトップシェアを誇っており、「ビールと言えばキリン」と言われるほどでした。しかし、消費者のニーズの多様化や他社のヒット商品の影響を受け、2001年にビール類のナンバーワンから転落してしまいます。
この出来事をきっかけに、同年に「新キリン宣言」を発表し、「お客様本位」・「品質本位」をもとにした組織風土改革に取り組み始めました。
しかし、改革を進めてはいたものの、2015年に布施孝之社長が就任した時点では、成果がでないことを人のせいにする雰囲気や、ヒット商品が出ると安心し、元に戻ってしまう慢心が感じられる組織風土のままでした。
危機感を抱いた布施社長は、若手社員や労働組合をも巻き込んだ対話集会をスタートさせ、「お客様のことを一番に考える組織風土に」というメッセージを繰り返し説き続けました。
対話集会は40か所、議論した相手は延べ900人に及んだと言います。
さらに、20代・30代の若手選抜社員を集めた「布施塾」という社内経営塾を開講し、他業種の経営者を招いて講演してもらうといった取り組みも始めました。
これらの取り組みにおいて、社長自らが「自分たちの組織はどうあるべきか」と強い発信を続けた結果、社員の意識を徐々に変えることができました。
社員全員でブランドを育てていく組織風土が醸成され、組織風土の変化が業績にも直結していると考えられます。
(https://pdf.irpocket.com/C2503/pJa6/Fvsl/cI5p.pdf)
参考:創立100年、キリンホールディングス発足へ|キリングループの歴史|企業情報|キリン(https://www.kirin.co.jp/company/history/group/g11.html)
参考:キリン「一番搾り」過去10年で売り上げNo.1 ビール変革期にヒットする商品の特徴とは? | キリン(https://toyokeizai.net/articles/-/307089?page=2)
1−2.トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車には、伝統的な組織風土である「教え/教えられる風土」が存在します。
その組織風土が今でも守られているのは、改革の成果だと言えそうです。
2000年代に入り、年間販売台数を急激に伸ばしていたトヨタ自動車ですが、一方で、人材育成の伸びは追いついていませんでした。
また、業績向上を目指し意思決定のスピード化を進めてきたことによって、伝統的な「教え/教えられる風土」にもほころびが生じていたと言います。
さらに、2008年のリーマンショックにより業績は赤字へと転落し、2009年から2010年にかけては北米で大規模リコールにつながる品質問題が生じました。その後も、東日本大震災、タイでの大洪水による工場被害などが続き、業績は低迷してしまいます。
この状況を懸念したトヨタ自動車では、2014年に豊田章男社長が大規模な教育改革を打ち出し、「教え/教えられる風土」の再構築を目指すことになりました。
具体的には、社員をいくつかの小さなグループに分け、先輩が後輩を指導しやすい体制に変えていきました。また、入社4・5年目から10年目程度の社員が「職場先輩」となって、職場ごとにマンツーマンで相談役となる仕組みを構築したのです。
改革を進める上では、業務のグローバルな広がりや技術革新によって、先輩も答えを持たない事例が増えていったことや、上司の部下に対する「今どきの若者は」という意識などが課題となりました。
しかし、そうした問題意識を踏まえて地道に取り組んだ結果、教えられる側が育ちやすくなっただけでなく、教える側の自覚や責任感も高まり、トヨタ自動車の組織全体のパフォーマンス向上につながりました。
参考:当たり前を実現する!トヨタの人材育成の歴史と風土づくり
(https://globis.jp/article/4116)
参考:1980年に戻れ! トヨタの「人の育て方」大改革始動【前編】
(https://president.jp/articles/-/17708)
1−3.株式会社村田製作所
世界トップクラスの電子部品メーカーである村田製作所では、かつて自由な風土が失われかけた時期があったと言います。
携帯電話機器の普及やデジタル家電の登場といった、1990年代後半のITバブルは、これらの製品に欠かせない電子部品を手掛ける村田製作所にとって、業績拡大の絶好のチャンスでした。
実際に、ITバブル崩壊直前の業績は、前の期と比べて売上高は1,000億円以上拡大し、営業利益率は29.8%と圧倒的な収益力でした。
しかし、その後のITバブル崩壊とともに業績は伸び悩み、社員の意識調査からも閉塞感がうかがえるなどしたため、経営陣は危機感を強めます。
社内に「組織風土改革委員会」を立ち上げ、自由な風土を取り戻す改革に乗り出しましたが、経営陣が改革を掲げるだけでは組織に変化は生まれませんでした。
それでも経営陣は諦めず、各事業部を訪問する際には、組織風土改革について対話を繰り返しました。また、「社員が幸せな会社」の代表格とされる伊那食品工業に全役員で訪れ、組織風土改革について徹底的に話し合う合宿をするなどの取り組みもしたそうです。
すると、改革に対する経営陣の本気度に社員が気づき始め、徐々に経営陣の話に耳を傾けるようになったのです。
改革の声は少しずつ浸透し、10年ほどかけて村田製作所らしい自由な風土を取り戻すことに成功しました。現在では、平均勤続年数は14.1年、離職率は1.74%と、人材の定着にも効果を発揮しています。
(https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00121/)
(https://recruit.murata.com/ja-jp/career/data/)
1−4.オリンパス株式会社
医療・科学・映像の分野で、確固たる地位を築いているオリンパス。
2011年に、同社トップ自らが、損失計上先送りによる粉飾決算を主導するという不祥事が明るみになりました。
株価の急落、経営陣の辞任、刑事事件への発展……。企業が混乱する中で、オリンパスは2012年に新体制で再スタートをきることになりました。
経営陣が粉飾決算を指示していたことや、社員の経営への不信感、活力の低下などを受けて、組織風土改革の実行に踏み切ります。
「Our Purpose 私たちの存在意義」「Our Core Values 私たちのコアバリュー」という2つの経営理念を掲げ、経営陣・人事部門が中心となってさまざまな取り組みを始めました。
例えば、経営トップによる対話集会を開催し、3年間で200回開かれた集会には、2,000人が参加しました。
また、部門を超えた全社イベントを開催し、社内の一体感の醸成を図ったり、コンプライアンスの徹底に向けた内部通報制度の整備をしたりと、積極的に取り組みを進めたと言えるでしょう。
新しい経営陣が次々と変化を生み出し、社員も一体となって組織風土改革に取り組んだ結果、改革をスムーズに進めることに成功したのです。
100周年を迎えた2019年には、新たな組織風土改革への取り組みとして、社内報のリニューアルも手掛けています
世界を相手に持続的に成長していくため、組織として目指す姿を社員それぞれが自分事として捉え、最終的には自社の「ファン」になってもらえるよう、社内報で示していくと言います。
(https://special.nikkeibp.co.jp/atcl/NBO/18/bizreach_olympus_0301/?P=1)
参考:社内報で経営陣と従業員の距離を縮める(オリンパス株式会社) | 社内報づくりに悩んだら「社内報ナビ」(https://shanaiho-navi.jp/archives/7479/)
1−5.株式会社湖池屋
スナック菓子の老舗メーカーである湖池屋は、これまで数多くのヒット商品を開発し、業界をリードしてきました。
しかし、「ブランドを強くしていくためには協力を惜しまない」という風土は以前からあったものの、上からの指示を待つ社員の姿勢が目立っていました。
チャレンジして目立つよりも、波風を立てないことを優先する雰囲気があり、「主体性があって自律的に動ける人材開発」が課題となっていたそうです。
そこで、2016年に佐藤章社長が新たに就任し、新生湖池屋として生まれ変わるために、「指示待ち脱却」「思考力と主体性を身につける」をテーマとして組織風土改革をスタートさせました。
例えば、佐藤社長が就任した際には、ブランドブックを新たに作成し、主体性と自律性を持ってどんどんチャレンジしていこうという社員へのメッセージを盛り込みました。
また、部門間の連携が取れていなかったため、部門間連携の会議体を立ち上げ、コミュニケーションを深める仕組みも整えたと言います。
これらの取り組みによって、自律的に働く社員を生み出す組織風土がつくられ、次々と新しい商品が生まれました。新しいブランドのヒットは、社員の停滞していた自信を回復させ、社員の主体性をさらに後押ししたようです。
また、お互いの仕事を理解し、部門の垣根を越えて協力し合う風土が強化されたり、スピード感のある経営が可能になったりという良い影響がありました。
湖池屋は、「働いてみたい注目成長企業2019」で第一位に選ばれており、その理由の一つに改革の成果があると考えられるでしょう。
参考:“働いてみたい注目成長企業”湖池屋が実践! チャレンジする人材と組織をつくる「人事制度改革」 – 『日本の人事部』(https://jinjibu.jp/article/detl/tonari/2402/)
2.組織風土改革成功の4つのポイント
ご紹介した事例のように組織風土改革を成功させるためには、いくつかのポイントがあります。その4つのポイントを、以下で解説します。
2ー1.ボトムアップとトップダウン、それぞれの進め方
組織風土改革は、ボトムアップで行う場合と、トップダウンで行う場合があります。
ボトムアップで行う場合
組織風土改革をボトムアップで行う場合、重要なのは根回しです。
特に会社の規模が大きいほど、「前例がない」「今はそんなことをしている場合ではない」などと、上層部の反発が生まれる可能性があります。
まずは、改革を必要だと考える社員が多いことを示すために、現場レベルで同じ考えを持つ仲間を集めていきましょう。特定の部門やチームの中だけではなく、垣根を超えた仲間や、改革に好意的な管理職を味方につける必要があります。
また、「組織風土改革」という大きな括りでの提案は、どうしても反発を生みやすいものです。「こういった取り組みを始めたい」と小さい提案から一つずつ理解してもらうと良いでしょう。
トップダウンで行う場合
一方、トップダウンで改革を進める方法もあります。
その場合、トップのひとりよがりにならないことが大切です。
なぜ今この改革が必要なのか、組織はどのような姿を目指すべきなのかを明確にし、現場より先にリーダー層の意識を変えましょう。トップとリーダー層が思いを共有し、意識を統一します。
その後、現場へ展開する際には、発信を継続的に繰り返す必要があります。時間はかかりますが、現場に「会社は本気で改革を進めようとしている」と理解してもらうことが重要です。
2ー2.目指す姿を明確にし、組織全体で納得する
組織風土改革を成功させるためには、組織の目指す姿を明確にする必要があります。
トップや経営陣、管理職、現場、それぞれの立場で組織に対する考えは異なるため、一部の意見だけで見切り発車にならないよう、広く意見を吸い上げるようにしてください。
組織の目指す姿と、なぜその姿を目指すのかというビジョンを明らかにし、全社的な納得感のもと協力し合える体制を整えましょう。
2ー3.プロジェクトチームを組成し、優秀な仲間を集める
組織風土改革のような全社単位のプロジェクトにおいては、実践に重きを置いたチームの組成が必要です。
また、プロジェクト成功のためには、そのチームに次世代のリーダー候補となる優秀なメンバーのアサインが必須と言えるでしょう。
しかし、特にボトムアップから改革を始める場合、プロジェクトの重要性を管理職や経営層に理解してもらえなければ、優秀なメンバーのアサインは難しくなってしまいます。
プロジェクトの重要性とともに、「『チーム』とは、そもそも問題解決のために必要な人材が集うものであり、優秀なメンバーのアサインは無くてはならない」ということを、継続して発信することが大切です。
2ー4.各部門に組織改革を推進するリーダーを設置する
プロジェクトチームを組成したら、各部門やチームごとに、改革を推進するリーダーを置きましょう。リーダーには、その部門やチームに影響力を持つ人を見極め、アサインします。
各部門の橋渡しの役割を担うと同時に、改革による変化も波及させやすくなります。
参考:ポイント2:変えるべき組織・ヒトを見極め「変わった」という実感を持たせる|組織風土改革を成功させるポイント
組織風土改革を成功させるためのポイントを押さえつつ、具体的な施策も検討する必要があります。
ここでは、「マネジメント研修」「社内表彰制度」「社内報」の3つの施策をご紹介します。
3−1.マネジメント研修の実施
マネジメント研修とは、その名の通り、マネジメント層のスキルを高める研修です。さまざまな種類がありますが、ディスカッションなどを含む参加型の研修がおすすめです。以下で、マネジメント層の広い視点を磨くことができる、2つの研修をご紹介します。
管理職研修/株式会社インソース
「組織として高い成果を生み出すマネジメント力」を身につけるための研修です。
グループディスカッションや実践的なケーススタディを通じて、管理職に求められる心構えを身に付け、自部署のパフォーマンスを高めるためにすべきことを考えます。
参考:2304管理職研修~マネジメントの本質を理解し、現場の実践を振り返る編(2日間)(https://www.insource.co.jp/kanrisyoku/ka_kininkacho.html)
構想力向上研修/リクルートマネジメントスクール
経営的な視点を磨く、ワークショップ型の研修です。
現場のマネージャーとしての視点だけでなく、自社の将来のビジョンを構想できる経営者の視点を身に付け、将来の経営幹部や次世代のリーダーとしての意識を高めます。
参考:構想力向上研修セミナー | 社員研修・社員教育のリクルートマネジメントスクール
(https://www.recruit-ms.co.jp/open-course/dtl/K1190/)
3−2.社内表彰制度の導入
社内表彰制度とは、社内アワードとも呼ばれ、社員の功績をたたえる制度です。
自社が目指す理念・行動指針に沿う行動をした社員を評価することで、自社の理念や行動指針を具体的に示すことができます。
また、評価される側の社員もモチベーションが向上し、積極的に行動する社員が増えるなど組織風土に良い影響を与えるでしょう。
3−3.社内報の活用
社内報は、全社への画一的な情報発信が可能な手段です。
組織風土改革に関するプロジェクトの様子を伝える記事を掲載したり、上層部から社員へ向けてメッセージを掲載したりと、さまざまな方法で有効に活用できます。
また、テキストだけでなく動画での発信も盛り込むと、さらに意図が正確に伝わるでしょう。
既に社内報は発行しているという場合でも、組織風土改革の面から改めて内容や発信方法を見直してみてはいかがでしょうか。
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4.組織風土改革の失敗パターン
組織風土改革に成功した企業の事例や、おすすめの施策などについて解説しましたが、「風土改革は意外と成功しやすいものなのだろうか?」と疑問に思われたかもしれません。
ポイントを押さえて進めていかなければ、残念ながら、失敗に終わってしまうパターンも存在します。
改革が失敗に終わらないためにも、以下の2つのパターンを確認しておきましょう。
4−1.目的が曖昧な組織風土改革
失敗パターンの一つは、目的が曖昧なまま改革を進めようとするケースです。
仮に、組織の目指す姿を定めてはいても、「なぜその姿を目指す必要があるのか」「その姿を目指すことで、企業にはどのようなメリットがあるのか」などという点が曖昧になっている可能性があります。
これでは、結局何から始めればよいのかわからず、目指すべき理想像のみが一人歩きしている状態になってしまいます。
組織風土改革そのものが目的とならないよう、目的を具体的に示し、組織全体の理解・納得のもと進めることが失敗を回避するコツです。
4−2.現場の意識が変わらない組織風土改革
トップダウンで改革を進めたものの、現場の社員の意識を変えられず、失敗してしまうパターンもあります。
この原因は主に2つ考えられ、1つは、上層部から現場への一方的な押し付けになってしまっていることです。
もう1つは、一方的な押し付けのように感じられてしまう施策によって、改革に対するトップの本気度が、社員に伝わらないということです。
現場の社員の意識改革なしでは、組織風土改革は成功しません。改革に対する思いを粘り強く伝え、社員自らが変わろうとする意識の醸成を大切にする必要があるでしょう。
5.まとめ
今回の記事では、組織風土改革を成功させた5つの企業の事例や、組織改革を成功させるためのポイントなどを解説しました。
改めて、記事の内容について振り返ってみましょう。
組織風土改革に成功した企業の事例
- キリンビール株式会社
- トヨタ自動車株式会社
- 株式会社村田製作所
- オリンパス株式会社
- 株式会社湖池屋
組織風土改革を成功させるためには、以下の4つのポイントを押さえる
- ボトムアップの場合とトップダウンの場合によって、進め方に注意
- 企業の目指す姿は明確にし、組織全体の合意のもと進める
- 革のプロジェクトチームを組成し、優秀なメンバーをアサインする
- ・各部門に協力者を置き、橋渡しを担ってもらう
組織風土改革を成功させるための施策は、以下の3つがおすすめ
- マネジメント研修
- 社内表彰制度
- 社内報
組織風土改革は、「目的が曖昧」「現場の意識が変わらない」ことによって失敗してしまう
この記事が、組織風土改革の実現・成功への一助となりましたら幸いです。
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