理念浸透に成功した4社事例に学ぶ、理念浸透を実現する4つのポイント

経営理念を組織に浸透させることには多くのメリットがあります。

たとえば組織としての一体感が醸成されたり、エンゲージメントが高まって離職率が下がったり、従業員が自律的に行動できるようになったりと様々な効果が期待できるのです。

多くの企業が理念浸透の重要性に気づき始めています。HR総合調査研究所の調べによると、「社員に企業理念を浸透させることの必要性」について肯定的な回答をした企業は全体の98%に上りました。

参考:HR総合調査研究所・「企業理念浸透に関するアンケート調査」結果報告

https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=77

1.なかなかうまく進まない理念浸透

では実際のところ、多くの企業で理念浸透は進んでいるのかというと、そうではありません。

HR総合調査研究所の調べによると、「理念が浸透している」と感じている企業は全体の42%にとどまっており、半分以上の企業が理念浸透についてうまくいっていないと感じていることがわかります。

 参考:HR総合調査研究所・「企業理念浸透に関するアンケート調査」結果報告

 https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=77

 「理念浸透の重要性はわかっているにも関わらず、理念浸透がうまく進んでいない」のが現状といえそうです。

2.理念浸透が困難な理由

では、理念浸透がうまくいかない理由はどこにあるのでしょうか。その原因は主に4つ考えられます。

1-1.「経営理念を定めるだけで満足している」

理念は定めるだけで自然に浸透するものではなく、従業員への浸透施策が必要です。定めただけで満足していては、理念が浸透するのは難しいでしょう。

1-2.「経営理念の内容が抽象的でわかりづらい」

覚えやすいようにある程度短くまとめる必要はありますが、あまりにも曖昧な文言が並んでいると従業員にとってよくわからないキャッチフレーズで終わってしまう恐れがあります。

1-3.経営理念自体が時代に合ったものになっていない

せっかく定めたとしても、時代感覚からずれた理念になってしまっていては、共感する従業員も多くはないでしょう。共感を得られない理念を浸透させるのは難しいと言わざるを得ません。

1-4.「経営理念の背景となる思いが伝わっていない」

経営理念には、必ずその背景となる思いや信念があるはずです。従業員にそうした背景までしっかり伝えなければ、単に聞こえのいい文言を並べただけに思われるかもしれません。

ここで挙げた「理念浸透がうまくいかない理由」以外にも、企業ごとに様々な事情があることでしょう。

理念浸透を体現した行動を見える化できる「Unipos(ユニポス)」の詳細はこちら

 3.理念浸透の成功事例4選

では、逆に理念浸透に成功した企業はどのようにして浸透施策を進めていったのでしょうか。

国内外の企業から、理念浸透に成功した4社の取り組みについて紹介します。

リッツ・カールトン

画像:リッツ・カールトン公式採用ページより

理念浸透のお手本事例ともいえるのが、リッツ・カールトンです。リッツ・カールトンといえば、世界トップクラスのラグジュアリーホテルとして知られており、その名声に恥じないサービスで多くの顧客を魅了しています。

リッツ・カールトンのサービスを生み出しているのが、スタッフ一人ひとりの自律的な行動です。リッツ・カールトンのスタッフは全員が企業理念と行動指針をしっかり把握した上で自らの仕事に誇りをもって働いており、それが世界最高のサービスにつながっているのです。

では、リッツ・カールトンはどのような理念浸透施策を行っているのでしょうか。

日常的に理念に触れる機会をつくる

リッツ・カールトンの企業理念は「ゴールド・スタンダード」と呼ばれています。ゴールド・スタンダードには「クレド」「モットー」「サービス」の3つがあり、さらにゴールド・スタンダードを体現するための行動指針として「サービスバリューズ」が定められています。

「サービスバリューズ」の項目は全部で12です。たとえば次のようなフレーズが挙げられています。

・私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします。

・私は、お客様のザ・リッツ・カールトンでの経験にイノベーション(革新)をもたらし、よりよいものにする機会を常に求めます。

・私は、お客様や従業員同士のニーズを満たすよう、チームワークとラテラル・サービスを実践する職場環境を築きます。

・私は、自分に関係する仕事のプランニングに参画します。

リッツ・カールトンでは、こうしたサービスバリューズやゴールド・スタンダードをスタッフに浸透させる仕掛けも様々行っています。

たとえば、入社後のオリエンテーションでゴールド・スタンダードについて深く説明する機会を設けたり、スタッフ全員がゴールド・スタンダードを記したカードを常に持ち歩いていたり、出勤時はゴールド・スタンダードの読み合わせを行ったりと、日常的に理念に触れる機会を作っているのです。

リッツ・カールトンの理念浸透の工夫

さらに、ゴールド・スタンダードを体現した行動をとりたくなるような取り組みも行っています。

たとえば、若手スタッフには、部署を超えたコラボレーションや商品企画コンペへの参加といったやりがいのあるクリエイティブな仕事の機会を与えたり、ゴールド・スタンダードを体現した行動はマネージャーがヒアリングした上で称賛し、特別な報酬が与えられる制度もあります。また、一般のスタッフだけでなく、マネージャー自身も、上級マネージャーからゴールド・スタンダードについて聞かれる機会が多く、立場を問わず理念に触れる機会が多いのだそうです。

リッツ・カールトンのスタッフが自律的に行動できるのは、ゴールド・スタンダードがしっかりと浸透しているからです。スタッフは常にゴールド・スタンダードを意識してサービスに努めており、何か迷うことがあればゴールド・スタンダードに立ち返って考えます。何かトラブルがあったとしても、いちいち時間をかけて上司に確認するのではなく、理念をもとに最良だと思う行動を瞬時にとれるからこそ、リッツ・カールトンは世界最高のホテルであり続けられるのです。

参考:https://www.ritzcarlton.com/jp/about/gold-standards

スタッフが自社の理念に触れる機会を最大化できる「Unipos(ユニポス)」の詳細はこちら

スターバックス 

画像:スターバックス公式採用ページより

スターバックスも理念浸透に成功している企業の1つです。そして、かなり早い段階から理念浸透の重要性に気づき、実践してきた企業でもあります。

スターバックスが最初に企業理念を定めたのは1990年のことでした。会社の目標をミッション・ステートメントとして言語化し、意思決定の判断基準としていました。

ミッション・ステートメントは、企業として目指す「使命」と、6つの信条からなっていました。スターバックスの当時の「使命」とは次のようなものでした。

「最高級コーヒーの世界一の供給者になると同時に、われわれの主義・信条において決して妥協することなく成長することである。」


急拡大後の低迷を救った理念の見直し
また、
会社の決定がミッション・ステートメントに沿っていないと感じたら、従業員が会社に対して指摘できるミッション・レビューという仕組みも用意されていました。当時としては非常に先進的な企業であったことがうかがえます。

スターバックスはその後、世界中に店舗を広げ成長していきます。しかし、あまりにも急な拡大だったためか、2007年頃に一時期低迷したことがありました。この窮地を救った手立ての1つがミッション・ステートメントだったのです。

当時、スターバックスのCEOだったハワード・シュルツ氏は経営改善を進める一方で、ミッション・ステートメントを次のように変更します。

「人々の心を豊かで活力あるものにするために―ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから。」

また、ミッション・ステートメントを達成するためのValues(行動指針)が次の通りです。現在も採用されているミッション・ステートメントです。

「私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。」

「お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。」

「勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。スターバックスと私たちの成長のために。」

「誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします。」

「一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。」

さらに、ミッション・ステートメントを体現するためのコミュニケーションスキルを「スタースキル」と名付けて、次の3項目を設定しています。

「自信を保ちさらに高める」

「相手の話を真剣に聞き、理解する努力を怠らない」

「困ったときには助けを求める」

大胆な経営改革に加えてミッション・ステートメントを刷新し、理念経営の見直しを行った結果、スターバックスは組織としての一体感を取り戻します。その後は再び業績が上向き、現在に至るのです。

スタバの理念浸透の工夫

さて、そんなスターバックスでは、どのようにミッション・ステートメントや行動指針の浸透を行っているのでしょうか。

まず、ポイントとなるのは研修です。スターバックスでは、社員やアルバイトなどの立場に関係なく、新人には80時間もの研修を行っているといいます。その内容は、接客のやり方やコーヒーの作り方だけでなく、ミッション・ステートメントの浸透にも多くの時間を割いているのです。

さらに、スターバックスでは各店舗に「グリーンエプロンカード」を置いています。グリーンエプロンカードには5つの行動指針が書かれており、スタッフが行動指針に触れる機会を増やすことに貢献しています。

また、スターバックスでは4ヶ月に1回、アルバイトも含め人事考課を行っているといいます。その中でヒアリングするのは、「将来、自分がどうなっていたいのか」ということです。なりたい姿についてヒアリングした上で、「そうなるためには今どうすればいいのか」を考え、日常的な行動に落とし込むことでミッション・ステートメントや行動指針と紐付けていくのだそうです。

自分の夢をかなえるためにとるべき行動が、スターバックスの行動指針と結びつくことで、スタッフはミッション・ステートメントや行動指針を“自分ごと化”できます。

このような施策を通してスタッフは、スターバックスで働くことに誇りを持つようになります。

スターバックスのスタッフは、与えられている裁量が大きいことで有名です。裁量が大きくても日々の接客に問題が起こらないのは、ミッション・ステートメントがしっかりと浸透しているからだといえるでしょう。

参考:https://www.starbucks.co.jp/recruit/working/

参考:https://visions-prdx.jp/starbucks

参考:https://the-owner.jp/archives/1506

リクルート

画像:リクルート公式採用ページより

日本を代表する企業の1つ、リクルートは1988年、「リクルート事件」と呼ばれる贈収賄事件を起こしました。日本を揺るがしたこの事件をきっかけに、リクルートは企業としてのあり方や社会との関係性などを抜本的に見直し、リクルートの社会的な存在意義や目的を「経営理念」として定義するに至ったのだといいます。

リクルートの経営理念は「ビジョン(目指す世界観)」「ミッション(果たす役割)」「バリューズ(大切にする価値観)」で構成されており、次のように定められています。

  • ビジョン

「Follow Your Heart」

  • ミッション

「まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに。」

  • バリューズ

「新しい価値の創造」「個の尊重」「社会への貢献」

こうした経営理念は現在、リクルートグループ全体に広く浸透しています。たとえばリクルートでは、何かあるたびに周囲から「あなたはどうしたい?」と意思を問われますが、この問いにはバリューズの「個の尊重」が体言されています。

また、同社取締役 兼 専務執行役員 兼 CHROの池内 省五氏はリクルートグループの目指す姿として「バリューズを真に体現できる「Values-Driven(バリューズ・ドリブン:価値観に突き動かされる)」な組織・会社」を挙げており、同社がどれだけ経営理念を重視しているかがわかります。

リクルートの理念浸透の工夫

では、リクルートではどのように経営理念の浸透を図ってきたのでしょうか。

リクルートマネジメントソリューションズによると、まずは全員が理念を共有するために“言語化”し、その上で“共感”の仕掛けを用意し、社員の“内在化”により浸透するというステップが有効とのことです。

さらに、高い問題意識を持ち、現場への影響力のある社員を選出し、理念浸透のためのキーパーソンを任せるのもポイントです。キーパーソンが理念に対する社内の温度差を解消する役割を担い、少しずつ理念の浸透を図っていくのだといいます。

また、理念浸透を成功させるポイントとして挙げられているのは、「経営トップ層のコミットメント」です。経営理念は組織が目指す方向を示すものであり、組織の舵取りを握るトップがしっかりと理念についてのメッセージを発信する必要があります。

さらに、経営理念を定めてそれで終わりとするのではなく、体現化することも重要だといいます。たとえば理念を体現している社員を表彰することで、理念と行動が結びつき、理念がより身近に感じられるものになるでしょう。

リクルートのような大きな組織の場合、こうした取り組みについて周知するためのプロモーション活動も不可欠です。また、理念浸透に関するアンケート調査を行ったり、人事制度に反映したりすることで、社員の内在化を進められるのです。

参考:https://recruit-holdings.co.jp/who/governance/background/

参考:https://recruit-holdings.co.jp/who/management/

参考:https://recruit-holdings.co.jp/who/value/post_130.html

参考:https://recruit-holdings.co.jp/who/reports/2019/ar19-ikeuchi.html

参考:https://www.recruit-ms.co.jp/issue/feature/soshiki/200703/02.html

JAL

画像:JAL公式採用ページより

2010年に経営破綻したJALグループは、京セラ創業者である稲盛和夫氏のもとで見事に再建を果たしました。

再建で大きな役割を果たしたとされるのが、JALの企業理念と、企業理念を体現する「JALフィロソフィー」の存在です。

JALフィロソフィーには、JALグループの一員としての心構えや持つべき意識・価値観が記されています。たとえば、「一人ひとりがJAL」や「最高のバトンタッチ」、「採算意識を高める」など40項目が挙げられています。

JAL社員は、このフィロソフィーに従って行動しています。フィロソフィーを通して全社員がつながっていることで一体感が生まれ、「JALで働いている」ことへの誇りが生まれているのです。経営破綻という厳しい状況から立ち直り、社員が再びJALという会社に誇りを持つことができた背景に、JALフィロソフィーの存在があったことは間違いありません。

JALの理念浸透の工夫

フィロソフィーを社内に浸透させるために、JALは様々な取り組みを行いました。まず、フィロソフィーが記された手帳を全社員に配布し、朝礼や終礼などの時間を活用してみんなで読み合わせする時間を作ったといいます。

さらに「JALフィロソフィー教育」を実施。年に4回、2時間ずつの研修を受け、JALの一員としての意識を醸成していきました。研修プログラムの作成も社員が手がけています。外部企業に丸投げするのではなく、できるだけ自分たちで取り組むことにより、社員に“当事者意識”が生まれていったのです。

こうしたJALフィロソフィーの浸透により、破綻前と比べて現場は大きく変わりました。採算意識が高まり、部署を超えたコミュニケーションが活性化し、能動的かつ自律的に社員が動くようになっていったのです。

このフィロソフィー教育は、現在でも実施されているといいます。

参考:https://next.rikunabi.com/journal/20180412_c11/

参考:https://www.worksight.jp/issues/83.html

参考:https://www.jal.com/ja/outline/conduct.html

次ページ「理念浸透を成功させる4つのポイント」

組織に関する悩みを解消しませんか?改善するためのヒントや実践方法をご紹介!

テスト