
実施ウェビナー概要
・2020年12月17日開催
・タイトル:「コロナ禍により「働き方改革」は第2幕へ ~2020年の振り返りから次の一手を考える~」
・登壇:リクルートワークス研究所 主任研究員 中村 天江(なかむら あきえ)氏、Fringe81株式会社 執行役員 兼 Uniposカンパニー社長 斉藤知明
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2020年はコロナ禍でいくつもの大きな変化が訪れた年となりました。多くの企業が推し進める働き方改革についても例外ではありません。テレワークをはじめとする様々な環境の整備や、制度の策定に追われた企業も少なくないでしょう。
大きな混乱の中で過ぎ去っていった2020年は、働き方改革を取り巻く環境にとってどんな一年だったのでしょうか。そして、2021年以降、何を重要視して働き方改革をリスタートさせれば良いのでしょうか。
12月17日にUniposウェビナー「コロナ禍により「働き方改革」は第2幕へ ~2020年の振り返りから次の一手を考える~」を開催。働き方研究の第一線で活躍されている専門家、リクルートワークス研究所 主任研究員・中村天江 氏をゲストにお招きし、2017年頃から本格化した働き方改革を振り返ると共に、働き方改革の第2幕への準備を行うための「企業と個人の関係性づくり」についてお話いただきました。
2020年の働き方改革は一進一退だった。今後どこまで根付くのかが問われている
2020年における働き方改革の状況はどのようなものだったのでしょうか。
中村氏はまず、働き方改革の主要なテーマとして次の9つを挙げました。
1 非正規雇用の処遇改善(同一労働同一賃金)
2 賃金引上げと労働生産性向上
3 長時間労働の是正
4 柔軟な働き方がしやすい環境(テレワーク、副業)
5 病気の治療、子育て・介護等との仕事の両立、 障害者就労
6 外国人材の受け入れ
7 女性・若者が活躍しやすい環境整備
8 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定させない教育の充実
9 高齢者の就業促進
コロナ禍という未曾有の事態に見舞われた2020年。「働き方改革は進んだところもあれば止まったところもある」と中村氏は言います。
たとえば、コロナ禍で加速したのが「長時間労働の是正(エッセンシャルワーカーは除く)」と「柔軟な働き方がしやすい環境(テレワーク、副業)」です。これらは、かつて東日本大震災や鳥インフルエンザウイルスの拡大時にも一時的に取り組みが加速したことがあったのですが、結局その後根付くことはありませんでした。
中村氏は「今回のコロナ禍でも同様に定着せずもとに戻りかけている」と懸念を示し、「今後、コロナ禍収束後にどこまで根付くのかが問われている」と指摘します。
日本企業にとって「ジョブ型雇用」への転換は挑戦
さらに昨今では、こうした働き方改革に加えて「ジョブ型雇用」が注目を集めています。ジョブ型雇用とは特定の職務(ジョブ)を遂行できるスキルを重視して人を雇用する制度であり、新卒を一括採用して転勤や異動を繰り返しながら育成するメンバーシップ型雇用の対極となる人事制度です。
ただ、日本においてはジョブ型雇用がうまくいっていないケースも多いと中村氏は指摘します。
現在、日本企業の雇用制度には、諸外国に比べて「職務の説明が明確でなく、賃金に満足していない人が多い」という特徴があり、これは入社時の条件交渉についての調査結果にも表れているのだといいます。
「制度は充実しているのに、従業員一人ひとりのニーズに応えきれていないということです。だからこそ不安の声があがるのです。今、マネジメントに関しては管理職の個人的な努力のレベルを超える変化が起きています。会社としてどうバックアップしていくかがポイントです」(中村氏)
「会社への不満は多い」のに「会社を辞めない」のが日本の特徴
また、2020年を象徴する働き方の変化である「テレワーク」についても、中村氏は「様々な問題が表面化してきた」と指摘します。
具体的には次のような点が問題として挙げられます。
1 通信回線、セキュリティ、業務ソフト、決済手続きのIT化
2 健康( 運動不足、仕事とプライベートの境界が曖昧、四六時中つながり続けるストレス)
3 コミュニケーション(孤独感、雑談、情報共有、チームビルディング)
4 メンバーのマネジメント(仕事の抱え込み、問題の発見、評価)
5 新入社員、異動者、転職者などの組織適応・立ち上がり
6 仕事成果のマネジメント(スムーズな業務指示や報・連・相 ⇒ 組織成果)
7 評価の難しさ
8 交通費、テレワーク手当、オフィスの必要性
9 まだらテレワーク
10 管理職の負担増
このうち、コミュニケーション課題や評価の難しさ、管理職の負担増などはいずれも「マネジメント」の課題です。
ジョブ型人事やテレワークにおける課題は、つまるところ「マネジメント」の問題に帰結するものであり、これらを解決するためには「マネジメントを進化する必要がある」と中村氏は説明します。
「現在の個人と企業の関係を調査したところ衝撃の結果になりました。日本において個人と企業は“Lose-Lose”な関係に陥っているのです」(中村氏)
リクルートワークス研究所が2020年に行った調査によると、日本はアメリカやフランス、デンマーク、中国と比較して、「給与の満足度」や「経営理念への共感」「人間関係の満足度」「仕事にのめりこんでいるか」といった項目の数値がすべて低いという結果が出たといいます。
また、エンゲージメント人材(会社の経営理念に共感し、かつ仕事にのめりこんでいる人)の割合も、諸外国が50%前後なのに対して日本はわずか10%という結果になっていたのです。
さらに中村氏を驚かせたのは、「これだけ不満があるのに、『会社を辞めたい』というスコアも低い」ことです。不満だらけなのに会社を辞められないのは「もっと良い仕事が見つかるかわからないため、我慢せざるを得ない」からだと中村氏は推察。「個人も企業との関係性を見直すべきタイミングにきている」と強調しました。
企業と個人の関係改善の鍵を握る「トータルリワード」
では、企業と個人の関係性はどのように改善していけばいいのでしょうか。
中村氏が注目するのが「トータルリワード」です。
トータルリワードとは、金銭報酬に限らず個人が会社から受け取る報酬全般を指す言葉です。中村氏はこのトータルリワードをさらに「幸福」と「キャリアの時間軸」という2軸で再定義します。この考え方を「FESTimeリレーション」と呼びます。
幸福軸では報酬を「金銭的報酬」「環境的報酬」「関係的報酬」の3つに分類し、キャリアの時間軸では報酬を「安心(日々の生活や『働く』の基盤)」「喜び(モチベーションや満足につながるもの)」「成長(今の仕事やこれまでの職業キャリアを軸とした短・中期的な伸び)」「展望(他社でのキャリアを含む長期的な職業・ライフキャリアの見通し)」という4つに分類して考えます。
たとえば「基本給」や「住宅補助」などは「金銭的」かつ「安心」に属する報酬であり、「安定した雇用」は「環境的」かつ「安心」に属する報酬です。「ハラスメントがないこと」は「関係的」かつ「安心」に属する報酬で、「やりがいのある仕事」や「役割・居場所が得られること」は「環境的」かつ「喜び」に属する報酬となります。
このようにトータルリワードを幸福軸とキャリアの時間軸の2軸に細分化して考えると、日本の現状が見えてくると中村氏は言います。
それは「日本の個人と企業の関係が、縮小再生産のループに入っている」ということです。
現在、日本企業の雇用制度に
たとえば、日本の従業員からの相談で最多となっているのはパワーハラスメントに関する内容だといいます。これは「関係的報酬」かつ「安心」のリワードが満たされていないということです。
また、2015年労働経済の分析によると、日本企業の従業員は長時間労働であるにも関わらず生産性が欧米企業よりも低いことがわかっています(関係的報酬かつ喜びが不足)。さらに人間関係の不満による退職率も調査対象の13ヶ国中、日本だけが10%を超えており(関係的報酬かつ成長が不足)、マネージャー調査によると「現在のポジションを得るのに役立ったもの」に「人脈」を挙げる割合が日本だけ極端に低いといいます(関係的報酬かつ展望が不足)。
つまり、日本企業の多くは従業員との間に「関係的報酬」に関する課題を抱えているといえるのです。
「日本企業では金銭的報酬や環境的報酬はまだ良い方ですが、関係的報酬が不足しています。メンバーシップ型ではあるものの、人間関係は健全とはいえないのです。職場での関わり合いの質を高めることが必要です」(中村氏)
一方で、「環境的報酬」と「金銭的報酬」が比較的良好なのも日本の特徴といえます。とくに「環境的報酬」が高いのは日本の特徴で、これは日本企業は人事が制度や仕組みを整備してきてからです。「日本には優れた人材マネジメントを行っている企業もたくさんある」と中村氏は述べ、今後の改善に期待を寄せました。
こうしたトータルリワードの改善に取り組む際、重要なのは報酬のすべてを一気に上げようとしないことだと中村氏は言います。
「大事なのはFESTimeリレーションの中から、自社の強みをはっきりさせることです。その強みについて企業と個人の認識にずれがなければ良いのです。逆に会社が強みだと認識している点について従業員が強みだと思っていなければお互いにとってアンハッピーです」(中村氏)
中村氏はそのように述べて、2020年における働き方改革をまとめました。
社員を成長させるには直接支援型ではなく自立支援型のマネジメントが重要
中村氏のお話に斉藤は深く納得した上で、「今後、労働市場の流動性が増していくと人がどんどん辞めてしまうことになる」と指摘。中村氏も同意し、「優秀な人をどれだけ惹きつけられるかという企業の魅力が問われている」とコメントしました。
さらに斉藤は中村氏が提示したFESTimeリレーションに言及。「日本では特に“関係的報酬と喜び”、“関係的報酬と成長”、“関係的報酬と展望”という組み合わせのリワードが足りていない」と分析し、特に若手社員については「“喜び”があるだけでは不十分で、成長につなげあることで良いサイクルが生み出されるのでは」とコメントしました。
では、FESTimeリレーションをどう向上させればいいのでしょうか。
この問いに対して、中村氏は「『これをやって』という直接支援型のマネジメントよりも、自立支援型のマネジメントの方がテレワークではうまくいく」と回答。「性善説で社員の成長を信じてほしい」とエールを送りました。
また、「管理職が内向きになりがち」という点にも言及し、「上司がまず外に向かって人間関係を広げ、部下に背中を見せなければ、若手の視野が広がらない」とアドバイスします。
さらにトータルリワードのうち、「関係的報酬が低い」という日本の特徴については、「実際に話を聞いてみると、関係的報酬には“ある意味満足している”という人も少なくはない」と補足しました。
この点について斉藤は、「“ある意味”満足というところが日本の現状を考えるうえでのポイントかもしれない」と述べ、「関係的報酬はある程度あるが、それが“成長”にまで至っていない」とコメント。「仕事に誇りを持ち、熱中して取り組める状態を目指すべき」と提言してウェビナーを締めくくりました。
* * *
2020年はコロナ禍でテレワークが急拡大するなど働き方改革が一気に加速した印象がありますが、実際には新しい働き方がまだ完全に根付いたとはいえない状況です。また、日本企業は関係性の質やマネジメントに関する課題を多々抱えており、単純な制度の整備やツールの導入だけではうまくいっていないのも事実です。
トータルリワードを「幸福」と「キャリアの時間軸」の2軸で再定義する「FESTimeリレーション」に基づいて企業と個人の関係性を見直し、改善に向けて取り組むこと。それが真の働き方改革の実現につながると中村氏は示してくれました。多くの企業にとって、2021年が働き方改革の転換点になるといえそうです。
<登壇者プロフィール>
リクルートワークス研究所 主任研究員 中村 天江(なかむら あきえ)氏
『労働市場の高度化』をテーマに調査研究や政策提言を行う。「2025年 働くを再発明する時代がやってくる」「Work Model 2030」「マルチリレーション社会」など働き方の長期展望のプロジェクト責任者を歴任。同一労働同一賃金や東京一極集中に関する政府委員もつとめる。専門は人的資源管理論。商学博士。
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変化に対応できる強くしなやかな組織をつくるための「Uniposウェビナー」とは
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働く仲間同士、異なる部門同士、企業と個人が相互理解を深めたら、組織はもっと強くなる。「あなたの組織を一歩前へ進めるUniposウェビナー」は、変化に対応できる強くしなやかな組織をつくるためのウェビナー。コロナ危機をきっかけに2020年5月開始し、毎回数百名の方にご参加いただいています。
組織課題解決やSDGsのプロ、識者、実践者を毎回ゲストにお呼びし、予測不可能な時代を生き抜く組織のあり方を共に考え、実践のヒントをお伝えします。みなさまお誘い合わせの上、お気軽にご参加下さいませ。
▼過去ウェビナー参加者様の実際の声
「経営陣や上層部に対してのアプローチに悩みを持っておりましたが、今回の講演で素敵なヒントをいただくことができました。どうもありがとうございました。」
「今まで何度か同テーマのセミナーに参加しましたが、一番腑に落ちる内容が多いセミナーでした。 又、参加させて頂きたく思います。」
「いまプロジェクトを担当していますので本当に助かりました。」
「いくつものヒントをいただけて、同じように悩んでいる方が大勢いることもわかりました。今は、さぁどこから手をつけようか、と前向きに考えています。」
「目から鱗で感動しました。」
▼次回ウェビナー情報はこちらよりご確認いただけます
https://unipos.peatix.com/view
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