
かつては「終身雇用制度」という言葉が当たり前のように使われていました。
しかし、時代の流れとともに働き方が変化し、必ずしも就職した企業にこだわる必要がなくなっています。そのため、いわゆる「終身雇用制度の崩壊」が起こっていると言えるでしょう。
そこで、本記事では離職率が低い企業の特徴に注目し、企業が離職率を下げるためにどのようなことをするべきなのかなどを解説します。
1.離職率の定義
厚生労働省による離職率とはと「常用労働者に対する離職者の割合」を指しています。
一般的には、期初から期末までなどの約1年間で働いていた従業員のうち、一定期間後に退職した人の割合です。
対象とする社員については企業によって異なりますが、離職率をどのようなことに活用するのかによって新卒者や入社3年以内の従業員など区切ったうえで調査が行われます。
雇用面において、企業側が選ぶ時代から選ばれる時代へと変わったといわれています。
2.離職率を計算する方法
離職率の計算方法は法律では決められておらず、企業や公的機関によってまちまちです。
たとえば、厚生労働省が「雇用動向調査」に記載している計算方法を例に挙げると「離職者数÷1月1日現在の常用労働者数×100(%)」になります。
ただし、年齢階級別の離職率を出す場合は6月末日現在の常用労働者数で計算しなければなりません。
一方、一般的な企業の離職率の計算方法は「一定期間内に退職した人数÷起算日の在籍者数」で行っている傾向があります。
「一定期間」については決まりがないため、自社で知りたい期間を当てはめることが可能です。
例として、3年間の離職率であれば「3年間での離職者数÷3年前の起算日に在籍していた人数」で計算します。
3.「離職率が低い」の基準はどのくらいか
厚生労働省では毎年、日本における企業全体の離職率の平均を「入職と離職の推移」で発表しています。
つまり、一般的には、こちらで発表された数値より低ければ離職率が低いと判断することができるでしょう。ちなみに厚生労働省のこちらの調査は、期初から期末までに退職した割合です。
日本企業全体の離職率の平均は約15%
前述した「入職と離職の推移」によると2015年~2020年までの離職率は14.2%~15.6%となっており、平均14.9%です。
6年間で最も離職率が高かったのは2019年の15.6%、最も低かったのが2020年の14.2%であることがわかります。
また、新卒(大学卒)で採用された従業員の入社後3年以内に離職する割合については同じく2015年~2020年の間で10.6%~32.8%で、平均26.7%でした。
最も離職率が高かったのが2017年、最も低かったのが2020年です。さらに、2019年も離職率は21.5%と非常に低い結果が出ています。これは、コロナ禍による日本企業の経営状況の悪化が新卒採用率に影響していることが大きいでしょう。
自社が属する業界の離職率から判断を
厚生労働省が行った「令和2年雇用動向調査(2021年8月31日現在)」には「産業別の入職者と離職者状況」について結果が記されています。
自社の離職率が平均より低いのか高いのかを知るためには、こちらの結果が参考になるでしょう。
まずは業界の離職率を出し、自社と比較します。たとえば、自社が属する業界の離職率が15%だとすれば、この数字より少なければ離職率が低いと言えますし、逆に多ければ離職率が高いということです。
優秀な人材は同業他社に対しても就職先候補として見ている可能性があるため、できれば同じ業界内でも離職率が低い企業であるというアピールができる状態が望ましいと言えます。
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4.離職率が低い「会社/業界」ランキング
ここでは、離職率が低い企業(従業員数1000人以上)や業界について、東洋経済ONLINEの「離職する人が少ない大企業100社ランキング2020」、厚生労働省の「令和2年雇用動向調査」を参考にまとめました。
離職率が低い会社ランキングTOP10
1位:北川鉄工所
2位:三井不動産
3位:愛知時計電機
4位(同位):日本曹達、信越ポリマー、やまびこ、アルバック
8位:アース製薬
9位(同位):エフ・シー・シー、新電元工業
1位は北川鉄工所です。こちらの企業は2018年度に引き続き、1位を獲得しています。各種制度が充実していることが好評となっており、たとえば、半日や時間単位で有給休暇を取得できたり、企画・専門業務といった裁量労働制度があったりと働きやすい工夫が行われているのが特徴です。
2位は総合不動産会社大手の三井不動産で、働き方改革の専門部署である働き方企画推進室が設置されています。在宅勤務、事業所内保育所の設置など家庭と仕事の両立を無理なくできる環境を整えている企業です。
3位は愛知時計電機で、こちらの企業はガスや水道の大手企業となっています。育児・介護で長時間勤務するのが難しい従業員向けに短時間勤務制度や半日単位の有給休暇のような各種制度が整っていることもあり、離職率はわずか1.0%です
4位は日本曹達、信越ポリマー、やまびこ、アルバックの4社、8位はアース製薬、9位はエフ・シー・シーと新電元工業で、離職者数15人で同位でした。
離職率が低い業界ランキングTOP10
1位:鉱業・採石業・砂利採取業
2位:金融業・保険業
3位:複合サービス事業
4位:情報通信業
5位:製造業
6位:建設業
7位:電気・ガス・熱供給・水道業
8位:学術研究・専門・技術サービス業
9位:卸売業・小売業
10位:運輸業・郵便業
1位の鉱業・採石業・砂利採取業は鉄や石油のような時代を問わず、日本人の生活に必要な資源を取り扱っている業界です。
2位の金融業・保険業は一般的に従業員の年収が高いとされており、厳しい業界ならでは従業員への手厚いサポート体制が整っています。
3位の複合サービス業は労働時間が全業種のなかでも比較的短く、それに対して高収入である点が離職率の低さに関わっていると言えるでしょう。
5.離職率が低い会社の特徴
離職率が低い企業は共通した特徴がさまざまあるので、厳選して5つ紹介します。
残業の少なさ
残業が少なければ、従業員が仕事とプライベートのバランスをとりやすくなります。
早く家に帰ることができるため、自分の時間を持ったり、家族や友人と触れ合う時間が作れたりするなど、充実した生活を送ることが可能です。また、生活にメリハリをつけることができるため、仕事に集中しやすくなる点や精神的なストレスを抱えにくい点などがメリットに挙げられます。
繁忙期になると残業が増える可能性はありますが、それはあくまでも一時的な期間です。1年のほとんどにおいて予定通りの時間に勤務を終えることができるため、時間に追われる生活を送る必要もありません。
高収入を得ている
働きやすい労働環境のほかにも、収入面に余裕を持つことができると心にも余裕ができるようになります。
逆に、生活するうえで必要なお金が不足していると気持ちが追い詰められ、常にイライラしている状況が続いてしまうことも珍しくありません。それは私生活だけではなく、仕事にも影響し、上司や仲間との関係に影響して離職してしまうこともあります。
安定した高収入があれば生活費以外に使用できるお金もできる場合もあり、満足度が高い暮らしを送ることにつなげることができるでしょう。
充実した福利厚生
離職率が低い企業では家族手当、育休・産休制度などの福利厚生が整っていることも特徴のひとつです。
これらの福利厚生が整っている企業は数多いですが、実際に利用しようとすると良い顔をされない、申請しにくいという声は少なくありません。
せっかく便利な制度があってもそれを利用できなければ意味がないと考え、離職してしまう人もいます。離職率が低い企業では整った福利厚生を実際に必要なときに申請しやすい環境が用意されていることが多いです。
業界そのものが安定している
競合社が少なかったり、業界そのものが安定していたりすると収入が極端に変化することもなく、従業員の満足度も高い傾向にあります。
特に、人々の生活に関わるインフラ系、鉱業系などは時代を問わず活用されているので業績が安定しているため、雇用においても悪影響を受ける可能性は低いでしょう。社会的な企業評価が高いことから、信頼性も高いと見てもらいやすいです。
指導が丁寧でわかりやすい
離職率が低い企業では、従業員に対して信頼関係を重要視し、丁寧かつわかりやすい指導を行っているところが多いです。
そのため、仕事における成長が早くなることが期待でき、仕事への意欲も高まりやすくなります。また、信頼関係が生まれると自然とコミュニケーションも増えることから、業務を円滑に進めやすくなるのも良いところです。
6.離職率が低い理由
ここでは、離職率が低くなる理由に注目してみましょう。理由を参考に自社の状況改善を行うことで離職率の減少が期待できます。
人事評価制度がしっかりしている
離職する理由はさまざまですが、そのひとつとして仕事を頑張っても正当な評価を得ることができないといったものが挙げられます。
たとえば、評価基準が明確にされておらず、同じ業務において評価される内容に個人差がありすぎると贔屓があったのではないかなど従業員の不満を生み出す原因になりやすいです。
離職率が低くなる理由は、人事評価を公平な目で行っている点もあります。評価基準だけではなく、評価によって褒賞があるというように目に見える形で評価を実感できれば、従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
従業員エンゲージメントの向上
従業員にとって自社が長く働きたい、ともに何かを成し遂げたいと思うことができるような企業でなければ、やりがいがあるほかの企業に転職をという考えになるケースも少なくありません。
自社の経営方針やビジョンがしっかりと従業員全体に伝わっていれば、従業員自身が働く意義を見つけ、自社で働く意欲が刺激されやすくなるでしょう。
自社のビジョンを社内全体にひろめるために研修会を開催したり、自社ホームページなどに明記したりと従業員エンゲージメントの向上を目指すことで、離職率の減少にも相乗効果が期待できます。
社内のコミュニケーションが活発
職場の人間関係が悪かったために転職をしたという声は非常に見かけることが多いです。
これは社内でのコミュニケーションが少ない企業という典型的な例と言えるでしょう。業務を遂行する際にチームを組んだり、他社とやりとりをしたりとさまざまな場面で人と人との関わり合いがあります。
多くの従業員がいるほど相性が悪い人との出会いも増える可能性は高まるため、人間関係において悩みが発生しやすいです。
そこで重要になるのが社内でのコミュニケーションになります。悩みがあったとき、プライベートの友人に相談することもできますが、仕事の事情を知っている上司や同僚に話を聞いてもらうことができればより有効なアドバイスや慰めをもらうことが可能です。
また、笑うことでストレスも発散されるので、その後の業務に集中できるメリットもあります。
健康経営を重要視している
健康経営とは、経営課題のひとつとして従業員の健康管理を考え、計画と戦略をもって臨む経営手法のことです。離職する理由として、人間関係や過労、精神的な病などが挙げられますが、特に入社したばかりの従業員は慣れない業務を少しでも早く覚えようと無意識に無理をしてしまいがちです。
また、真面目な性格や責任感が強い人であれば、周囲の期待に応えようと自分の限界以上の仕事に取り組むといったこともあるかもしれません。健康経営では企業全体で従業員の心身の健康が保持できるようにサポートしていくため、いつの間にか肉体的・精神的な病になっていたという状態を未然に防ぐ確率が高まります。
健康経営において、PDCAサイクルをうまく循環することが注目されています。PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を合わせた造語で、これらを繰り返し行うことで状況を改善していくというものです。
健康経営は離職率の低下だけではなく、業務の効率化や従業員の健康状態の改善などの効果も得ることができます。
社員間で良い行動を称賛し合い、離職率を低下させる ピアボーナスⓇ「Unipos(ユニポス)」とは?
7.離職率が低いことによるデメリットとは?
離職率の低下は企業にとってメリットが多いといわれていますが、デメリットがないわけではありません。どのような点がマイナス要素になってしまうのかについて解説します。
ぬるま湯系組織の増加
離職率が低い企業は働きやすい労働環境に恵まれていることも多いことから、2種類の従業員が生まれやすくなります。
1つは働きやすい環境だからこそ業務に勤しむタイプ、もう1つは働きやすい環境に甘えて業務も適当になってしまうタイプです。
働きやすいという環境が働きがいを失わせ、優秀な人材はそれを求めて転職をしてしまいます。つまり、自社に残るのは心身ともに健康であっても、業務を怠ったり、やる気がなかったりする社員ばかりになるため、企業として成長しにくい状況になるというわけです。
本来であれば働きがい、働きやすさ、心身のコンディションという3つはバランスがとれていなければなりません。しかし、働きがいが極端に減って優秀な人材が離職することで働きやすさも減少すると、心身コンディションのみが整ったやる気のないぶら下がり社員だけの組織になってしまう可能性があります。
これを防ぐためには、日ごろからコミュニケーションをしっかりとり、働きやすく、働きがいもある企業だと感じてもらうことができる環境づくりが重要です。
昇進しにくい
離職率が低い場合、従業員(ライバル)の数もそれだけ多いため、昇進しにくいというデメリットがあります。
また、仮に優秀な人材がいたとしても、既存ポストに空きができなければ昇進の話が出づらく、やりがいが低下する人もいるようです。企業側としても、重要ポストには優秀な人材を置いています。
そのため、新たな人材のためにわざわざ席を譲ってあげるようにといった流れになることは、その人物が大きなミスをしない限りないと言えるでしょう。
企業内で少子高齢化が起こる可能性
離職率が低いということは、その企業に長年勤務している人が多いことになります。
つまり、組織拡大による従業員の増加をしない限りは新たな人材が入ってくることもなく、従業員の高齢化が進む一方です。勤務年数が長いほど経験や知識が豊富ですが、柔軟かつ斬新な発想になりにくい傾向があります。
自社を成長させるためには、既存従業員のスキルと新入社員の固定観念にとらわれない新しいアイディアをうまく組み合わせなければなりません。
デメリットも踏まえたうえで離職率低下の対策を
離職率は、就職先を探す際に参考にされることが少なくありません。
また、離職率の低下に伴うメリットは多く、企業イメージ・従業員エンゲージメントの向上や企業としての成長などが挙げられます。しかし、デメリットとしてぶら下がり社員が増加したり、社内で少子高齢化現象が起こりやすかったりという点もあるため、それらを考慮した対策をすることが重要です。