
人的資本経営という言葉を耳にする機会が増えましたが、具体的に何をすれば良いか、まだ掴みきれていない方もいるのではないでしょうか。結局、「人」こそが企業の資本であり、その価値を最大限に引き出すことが、これからの時代を生き抜く鍵となります。
本記事では、人的資本経営を成功に導く鍵となる「働きがい」に焦点を当て、エンゲージメント、モチベーション、心理的安全性の要素を構造的に解説します。
人的資本経営とは?──注目される背景と“人”の価値の再定義

人的資本経営とは、人材を**「資本」**と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上を目指す経営手法です。従来の「人材はコスト」という考え方から転換し、その必要性は以下の要因から高まっています。
人的資本経営が注目される主な背景
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少子高齢化に伴う労働人口の減少
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働き方の多様化と人材流動性の高まり
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投資家による非財務情報(ESG)重視の世界的な潮流
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2023年3月期からの大手企業(約4,000社)への人的資本開示義務化
人材への投資は、企業価値向上につながるリターンを生み出すものとして再認識されています。
人的資本経営を成功に導く鍵は「働きがい」

人的資本経営は、人材を「企業の資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上を目指すものです。この価値最大化の原動力となるのが**「働きがい」**です。社員が働きがいを感じる職場では、自らの能力を最大限に発揮しようと主体的に行動するでしょう。
「働きがい」は、企業の生産性向上やイノベーション創出に直結する重要な要素です。「Gallup」の調査によると、従業員エンゲージメントが高い企業は、低い企業と比較して生産性が21%向上し、離職率が43%低下することが報告されています。
人的資本経営が形式的な情報開示に終わらず、本質的な企業価値向上につながるためには、「働きがい」の醸成が不可欠な戦略的要素となります。社員が意欲的に働く環境を整備することが、持続的な企業成長の鍵を握るでしょう。
目次
非表示
]- 従業員エンゲージメントとは?従業員満足度との違いと組織への影響
- モチベーション理論から理解する「働きがい」の構造:内発的動機付けの重要性
- 心理的安全性のある職場が働きがいを育てる:Google調査から学ぶ本質
- 「働きがい」が人的資本にもたらす3つの具体的な効果
- 働きがいを高めるための9つの実践アクション:具体的な施策と仕組み化
- Q:企業はどうすれば「働きがい」を高められる?
- 1.心理的安全性と称賛文化の醸成(チームの一体感)
- 2. 公平な評価と成長支援制度の確立
- ● 公平性をつくる評価制度のポイント
- ● 成長支援として効果の高い制度
- 3. 感謝と承認の日常化(ピアボーナス・サンクスカード)
- ● 感謝・承認文化を強くするポイント
- エンゲージメントサーベイで状態を可視化する
- ● エンゲージメントサーベイがもたらす価値
- 5. リーダーによる対話の質の向上(1on1の徹底)
- ● 質の高い1on1が生み出す効果
- 6. パーパス・バリューの浸透(理念の翻訳と行動化)
- ● パーパス浸透を成功させるポイント
- 7. 公正なキャリア開発と成長の見える化
- 8. 社内コミュニケーションの活性化(横断連携・情報共有)
- ● コミュニケーション活性化のポイント
- 9. エンゲージメント向上施策を“仕組み化”して継続する
- ● 仕組み化で働きがいを定着させるポイント
- 事例で学ぶ:人的資本経営×働きがいを両立した企業
- まとめ:「働きがい」は人的資本を動かす持続可能なエネルギー資源
従業員エンゲージメントとは?従業員満足度との違いと組織への影響

人的資本経営において、「働きがい」を構成する重要な要素の一つが「従業員エンゲージメント」です。これは、企業と従業員の間の、ポジティブで充実した心理的なつながりを意味します。従業員が仕事に情熱を傾け、企業目標へ自発的に貢献しようとする状態を指し、単なる愛社精神や企業への愛着といった情緒的な側面だけではなく、「組織や職務との関係性に基づく自主的な貢献意欲」として捉えられます。
従業員エンゲージメントを理解する上で、しばしば混同されがちな「従業員満足度」との違いを明確にすることが重要です。従業員満足度は、給与や福利厚生、職場環境といった待遇に対する「満足」を表す受動的な概念に過ぎません。例えば、待遇が良ければ満足度は高まりますが、それだけで従業員が自ら企業の成長のために行動するとは限りません。これに対し従業員エンゲージメントは、企業の理念やビジョンへの「共感」を基盤に、組織と一体となって成長しようとする「行動意欲」という能動的な姿勢を意味します。満足度が高いだけでは必ずしも生産性向上には結びつかないとされており、企業への主体的な働きかけを促すエンゲージメントが重要視されるゆえんです。
以下に、従業員エンゲージメントと従業員満足度の主な違いをまとめます。
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項目 |
従業員エンゲージメント |
従業員満足度 |
|---|---|---|
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概念 |
能動的な貢献意欲とポジティブな心理的つながり |
待遇への満足を示す受動的な概念 |
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基盤 |
企業の理念やビジョンへの共感 |
給与、福利厚生、職場環境などの待遇 |
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姿勢 |
組織と一体となって成長しようとする行動 |
待遇が良ければ満足する |
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企業への影響 |
生産性向上、創造性向上、離職率低下に貢献する |
それだけでは生産性向上にはつながりにくい |
エンゲージメントが高い組織には、いくつかの共通点が見られます。
-
企業の理念やビジョンが従業員に深く理解され、共感されていること
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公正な人事評価制度や、キャリア形成のための学習機会が十分に提供されていること
-
自分の職務や責任が明確であり、仕事に意義を感じられる環境であること
これにより、従業員は「目指す姿の実現のために何ができるか」を自ら考え、行動しようとします。全国1万人エンゲージメント調査結果レポートによると、組織コミットメントや活力が低いことがエンゲージメント全体の引き下げ要因となる一方、役割の明確さや仕事の意義は比較的高いスコアを示しており、これらの要素が従業員のエンゲージメントを支える土台となることが示されています。
人的資本経営においてエンゲージメントが重要視されるのは、従業員の「自ら動く力」が組織全体のパフォーマンス向上に直結するからです。エンゲージメントの高い従業員は、生産性や創造性の向上、顧客満足度の向上、さらには離職率の低下に貢献します。ADPの調査では、エンゲージしている従業員の世界的割合はパンデミック発生時の14%から現在19%に上昇したと報告されており、人材投資に積極的な企業ほど従業員エンゲージメントが高い傾向にあることが示されています。これは、従業員が企業価値向上に不可欠な資本と認識され、その潜在能力を最大限に引き出す原動力となることを示唆していると言えるでしょう。
モチベーション理論から理解する「働きがい」の構造:内発的動機付けの重要性

「働きがい」という抽象的な概念を理解する上で、学術的なモチベーション理論は有効です。従業員の意欲や満足感に関する理論は、人的資本経営において働きがいを高めるための重要な示唆を与えてくれます。
特に、アメリカの臨床心理学者ハーズバーグが提唱した「二要因理論」は、仕事における満足と不満足が異なる要因によって引き起こされると説明しています。一つ目の要因は「衛生要因(Hygiene Factors)」で、給与、労働環境、人間関係、福利厚生などが該当します。これらの要因が不十分であれば不満が生じますが、満たされても直接的に満足感や意欲が向上するわけではありません。これらは、従業員が不満を感じない状態を維持するための土台となります。
二つ目の要因は「動機付け要因(Motivators)」で、仕事の満足感に直接影響を与えます。具体的には、達成感、承認、責任、成長、仕事そのものへの興味などが含まれます。動機付け要因が満たされると、従業員の仕事に対する満足感、すなわち「働きがい」が直接的に高まると考えられています。
ハーズバーグの二要因理論における要因と働きがいへの影響
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要因の種類 |
具体例 |
働きがいへの影響 |
|---|---|---|
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衛生要因 |
給与、労働環境、人間関係、福利厚生など |
不足すると不満を生じるが、満たされても直接的な満足向上にはつながらず、「不満がない状態」を維持する土台となる。 |
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動機付け要因 |
達成感、承認、責任、成長、仕事への興味など |
満たされることで、仕事への満足感(働きがい)を直接的に高める。 |
さらに、モチベーションには「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の2種類に分けられます。「外発的動機付け」は報酬や評価など外部からの刺激によるもので、一時的な行動変容をもたらすものの、その持続性には課題があります。一方、「内発的動機付け」は、仕事そのものへの興味、やりがい、達成感など、個人の内面から湧き上がる意欲です。自己決定感や有能感が満たされることで高まり、持続的なモチベーションや主体的な行動へとつながります。人的資本経営において、持続的な「働きがい」を醸成するためには、特に内発的動機付けを刺激し、従業員が仕事を通じて自己実現を図れる環境を整備することが不可欠です。
これらの理論から、「働きがい」とは、単に不満がない状態にとどまらず、仕事を通じて自己の成長や他者への貢献を実感できる、より高次な欲求が満たされた状態であると結論付けられます。
心理的安全性のある職場が働きがいを育てる:Google調査から学ぶ本質

人的資本経営において、従業員の「働きがい」を高める上で職場に不可欠な要素が「心理的安全性」です。これは、ハーバード大学の組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義されます。この概念が広く注目されるきっかけとなったのは、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱した心理的安全性は、Googleが4年間行った**「プロジェクト・アリストテレス」により、チームのパフォーマンスを左右する最重要因子として結論付けられました。
心理的安全性が高い職場では、従業員が失敗を恐れることなく新しいアイデアを提案したり、率直な意見を交換したりできる環境が醸成されます。これにより、個人のパフォーマンスは向上し、組織全体の生産性や創造性も高まることが期待できるでしょう。実際、Googleの調査では、心理的安全性の高いチームのメンバーは離職率が低く、他のメンバーが発案した多様なアイデアをうまく活用でき、収益性が高く、マネジャーから「効果的に働く」と評価される機会が2倍多いという結果が報告されています。また、GPTW Japanの調査においても、3年前の心理的安全性が高かった企業は、低かった企業に比べて2023年時点の「働きがいスコア」が統計的に有意に高く、「3年前PS高群」では83.4%であったのに対し、「3年前PS低群」は57.4%にとどまりました。これは、心理的安全性が高い環境が、従業員のエンゲージメントやモチベーションを向上させ、「働きがい」に直接的に結びつくメカニズムを示唆していると言えます。
以下は、心理的安全性の高低が職場に与える主な影響をまとめたものです。
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側面 |
心理的安全性が高い職場 |
心理的安全性が低い職場 |
|---|---|---|
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環境 |
失敗を恐れず挑戦できる、率直な意見交換 |
失敗や意見表明に不安がある、自己防衛的 |
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従業員の行動 |
積極的な提案、協調的な問題解決 |
質問や報告をためらう、問題の隠蔽 |
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組織への影響 |
生産性・創造性向上、学習機会の増加 |
イノベーションの阻害、問題発見の遅延 |
一方で、心理的安全性が低い職場では、従業員が「無知」「無能」「邪魔」「ネガティブ」と見られることへの不安から、自己防衛的な行動に走りがちです。例えば、以下のような行動が見られるようになるでしょう。
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疑問があっても質問をためらう
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ミスや失敗を報告せずに隠蔽する
-
改善策があっても発言を控える
このような環境では、活発なコミュニケーションが阻害され、多様な意見が生まれにくくなるため、イノベーションの創出が困難になります。結果として、組織全体のパフォーマンスが低下し、問題の発見が遅れることで大きなトラブルに発展するリスクも高まります。これは、社員が自らの能力を最大限に発揮できないだけでなく、組織としての学習や成長の機会を損失することに繋がり、人的資本経営において大きな課題となるでしょう。心理的安全性は、単なる「馴れ合い」ではなく、建設的な対話を通じてチームの力を最大限に引き出すための基盤となるのです。
「働きがい」が人的資本にもたらす3つの具体的な効果

働きがいを高めるための取り組みは、単なる福利厚生の充実ではなく、人的資本経営における“組織の競争力を決めるコア戦略”です。とりわけ、従業員エンゲージメント、モチベーション、心理的安全性といった概念は互いに密接に影響し合い、組織のパフォーマンスと持続成長を左右します。
本セクションでは、企業が今日から導入でき、かつ継続的に成果を生み出す 9つの実践アクション を、理論・事例・実践の3層構造で深掘りします。
生産性と創造性の向上(ウェルビーイング×パフォーマンス)
働きがいが高い状態とは、心身ともに満たされた「ウェルビーイング」な状態を意味します。この状態にある社員は、仕事への集中力や没頭度が高まり、個人の生産性向上に直結します。心理的な余裕と仕事へのポジティブな感情は、新しいアイデアの創出や既成概念にとらわれない挑戦を促し、組織全体の創造性を高める重要な要素となります。
幸福感の高い社員は、そうでない社員に比べて創造性が約3倍、生産性が約30〜31%高いという研究結果が示されています。このようなデータからも、ウェルビーイングがパフォーマンスに与える影響の大きさがうかがえます。また、社員が「自分の仕事には価値がある」と感じることで、言われたことをこなすだけでなく、自律的に業務改善や新たな取り組みを提案するようになります。こうした主体的な行動は、組織全体のパフォーマンスを向上させる強力な原動力となります。
離職率低下と採用ブランド強化(社員満足度・定着率向上)
働きがいが高まると、社員のエンゲージメントが向上し、転職への意向が薄れるため、離職率の低下に直接つながります。エンゲージメントと退職率に強い逆相関が示されており、人材の流出を防ぎます。
また、働きがいを実感している社員は、そのポジティブな経験を社外に発信する傾向があり、企業の評判を高め、採用ブランドの強化につながります。メルカリの「mercan」での社員インタビュー公開などは、企業文化の透明性を高め、定着率向上に貢献する事例です。
社員の定着率向上は、新たな採用費用や再教育コストの削減にもつながり、経営の安定化に貢献します。
経営・投資家評価の向上:人的資本開示と非財務価値
近年、企業の持続的な成長性を判断するにあたり、投資家は財務情報に加え、非財務価値を重視する傾向を強めています。特にESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から、人への投資である人的資本への注目が高まっています。実際、米国では企業価値に占める無形資産の割合が大きく増加しており、人的資本の重要性が高まっていることが示唆されています。
このような背景から、日本では2023年3月期決算から、大手上場企業約4,000社に対し、人的資本に関する情報開示が義務付けられました。この開示では、エンゲージメントスコアや離職率といった「働きがい」に関連する指標が、投資家への重要なアピール材料となります。国内主要企業の調査では、TOPIX100企業のうち約6割がエンゲージメントスコアを開示しており、また、多くの上場企業が人的資本開示を実施していることが報告されています。
働きがいが高い企業は、生産性や創造性の向上能力が高いと評価され、結果として企業価値の向上に直結します。エンゲージメントが高い企業がもたらす企業価値向上の効果は、以下のとおりです。
働きがいが高い企業がもたらす企業価値向上の効果
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評価項目 |
具体的な効果 |
|---|---|
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生産性・創造性 |
向上能力が高いと評価される |
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企業価値 |
向上に直結する |
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株価 |
上昇に繋がりやすい(研究結果あり) |
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PBR(株価純資産倍率) |
水準が向上する(定量的なエビデンスあり) |
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TFP(全要素生産性) |
水準が向上する(定量的なエビデンスあり) |
人的資本に関する「見せ方」や「語り方」が、企業の評価に直接的に反映される時代が到来していると言えるでしょう。
働きがいを高めるための9つの実践アクション:具体的な施策と仕組み化
これまで「働きがい」を構成する基盤として、エンゲージメント・モチベーション・心理的安全性を整理してきました。しかし、理解だけでは組織は変わりません。 “働きがいを生み出す仕組み” を継続的に回すことこそ、人的資本経営の核心 です。
本セクションでは、今日からどの企業でも導入できる 9つの実践アクション を紹介します。組織文化づくり、制度設計、コミュニケーション改善など、多面的なアプローチを体系化。自社の状況に合わせて組み合わせることで、従業員一人ひとりが意欲を発揮し、企業価値向上へつながる「働きがい」を持続可能な形で育てられます。
Q:企業はどうすれば「働きがい」を高められる?
働きがい向上に “万能薬” はありません。
人的資本経営の観点では、 「働きやすさ(環境)」と「働きがい(内発的動機)」の両方を高める総合施策 が求められます。
例えば、
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キャリア開発・目標管理制度(MBO/OKR) は「成長実感」を生み、
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チームビルディングや心理的安全性 は「安心して働ける土台」を整え、
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称賛文化やピアボーナス は「貢献実感」を可視化し、
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エンゲージメントサーベイ は “組織の健康診断” として改善のPDCAを回します。
これらが相互に作用することで、従業員の主体性やエンゲージメントが高まり、働きがいが組織に根づきます。
以下では、企業がすぐに取り組める9つのアクションを、実践ポイントと事例を交えて整理します。
1.心理的安全性と称賛文化の醸成(チームの一体感)
働きがいの高い組織には、チームとしての一体感が不可欠です。これを支える土台が、心理的安全性と称賛文化です。
心理的安全性は、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」でも最重要因子とされたもので、失敗を恐れずに意見を述べられる環境を指します。会議での自由な発言、ミスを責めない文化、リーダーが弱みをオープンにする姿勢などが重要です。
称賛文化は、メンバー同士が互いの貢献を認め合う仕組みです。メルカリの**ピアボーナス「メルチップ」**や、サンクスカードなどが成功例であり、日常の小さな努力を可視化し、モチベーションと一体感を高めます。
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柱 |
役割 |
具体的な取り組み例 |
期待される効果 |
|---|---|---|---|
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心理的安全性 |
チーム内で対人リスクを取っても安全だと信じる状態 |
オープンなコミュニケーションを促す会議ルール設定、リーダーの弱み開示、メンバーの意見への傾聴 |
メンバーが安心して意見を言い、失敗を恐れずに挑戦できる |
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称賛文化 |
互いの貢献を認め合い、感謝を伝え合う文化 |
ピアボーナス制度(メルチップ)、サンクスカード、社内SNS活用 |
感謝が可視化され、社員が自己の存在価値を実感し、チームの結束が強まる |
2. 公平な評価と成長支援制度の確立
従業員が「自分はきちんと評価されている」と感じられるかどうかは、働きがいを左右する最も重要なポイントの一つです。どれだけ努力しても評価されない環境では、主体性や向上心は育ちません。逆に、評価基準が明確で、公平なプロセスが整っている組織では、社員の納得感が高まり、働く意欲が自然と引き出されます。
評価制度では、まず“何を基準に評価するのか”が明確であることがとても重要です。数値目標や行動指標、成果の判断基準が曖昧だと、評価は個人の主観に左右され、不公平感が生まれます。評価基準を文書化して全社で共有すること、フィードバックの透明性を高めることは、公平性の確保に直結します。また、成果だけではなく、日々のプロセスや努力も評価に組み込むことで、社員は安心して挑戦しやすくなります。評価が「結果だけを見る制度」から「成長を促す制度」に切り替わり、働きがいにつながる土台が生まれます。
さらに、社員が成長を実感できる機会を継続的に提供することも欠かせません。キャリアを主体的に描ける環境があるだけで、従業員の不安は減り、挑戦意欲が高まります。MBOやOKRなどの目標管理、定期的な1on1ミーティング、外部研修や資格取得支援などは、成長を後押しする代表的な施策です。「会社が自分の成長を応援してくれている」と感じられるだけで、エンゲージメントは大きく向上します。
● 公平性をつくる評価制度のポイント
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評価基準を数値・行動レベルまで具体化
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全社で基準を共有し、評価プロセスの透明性を担保
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成果だけでなく努力・プロセスも評価に含める
● 成長支援として効果の高い制度
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MBO・OKRなどの目標管理制度
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定期的な1on1によるキャリア・業務の振り返り
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資格取得支援・外部研修・eラーニングの提供
公平な評価と成長支援は、どちらか一方では効果が出ません。
「評価制度で期待を明確にし、成長支援で挑戦を後押しする」という両輪が揃ってはじめて、働きがいとエンゲージメントが安定的に高まる基盤が整います。
3. 感謝と承認の日常化(ピアボーナス・サンクスカード)
働きがいの高い職場には必ず「承認」があります。自分の行動や努力がきちんと見られている、誰かの役に立てている――こうした感覚は、自己肯定感を高め、仕事への前向きな姿勢を引き出す非常に強力なエネルギー源です。逆に、黙々と働いても誰からも認められない環境では、働きがいは徐々にすり減ってしまいます。
その承認を組織の「日常」に変える仕組みが、ピアボーナス制度です。社員同士が互いの行動を認め合い、感謝のメッセージとともに小さなインセンティブを贈りあうことで、普段は表に出にくい貢献が可視化されます。結果として、コミュニケーションが活性化し、組織全体にポジティブな循環が生まれます。
たとえば、メルカリの「メルチップ(mertip)」は1日1,000件以上の投稿が生まれる日もあるほど浸透し、社内アンケートでは87%が満足と回答しています。homie社のHeyTaco! でも、わずか数ヶ月で3,349回もの「ありがとう」が飛び交いました。こうした仕組みは、成果だけでは測れない“小さな善意”や“思いやりの行動”をすくいあげ、働きがいを底上げする役割を果たします。
ピアボーナスだけが手段ではありません。会議でのサンクス共有、社内SNSでの称賛投稿、TeamsやSlack連携のメッセージ送信など、日々のコミュニケーションに「ありがとう」を溶け込ませる方法は数多くあります。こうした取り組みが積み重なることで、職場の心理的安全性が高まり、社員同士の信頼関係が強まり、エンゲージメントも自然に向上していきます。
● 感謝・承認文化を強くするポイント
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ピアボーナスなど、感謝を“見える化”する仕組みを導入
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会議や朝礼で「ありがとう」を共有する時間をつくる
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社内SNS・チャットと連携して日常的な称賛を促す
“感謝される経験”が増えるほど、人は自分の仕事に誇りを持ち、周囲にも良い影響を届けようとします。称賛文化は、働きがいを組織の習慣として根付かせるための、最も効果の高いアクションの一つです。
エンゲージメントサーベイで状態を可視化する
「働きがい」は目に見えません。
熱意、貢献意欲、心理的安全性――いずれも数値化しなければ、組織のどこに課題が潜んでいるのか判断できません。そこで重要になるのが、エンゲージメントサーベイによる“可視化”です。定期的に社員の声を集め数値として記録することで、これまで感覚的に語られていた問題点が、具体的な改善テーマとして浮かび上がります。
サーベイを実施することの価値は、単に「数値を取ること」ではありません。サーベイは、組織の健康診断のようなものです。点数が高い項目・低い項目、部署ごとの差異、年代による感じ方の違いを分析することで、「何を優先して改善すべきか」が一気に明確になります。漠然とした“不満”や“違和感”を曖昧なままにしないために、サーベイの役割は極めて大きいのです。
さらに重要なのは、結果を“施策につなげる”ことです。分析後のアクションがなければ、サーベイはただのアンケートで終わってしまいます。データを基にPDCAを回し、改善のプロセスを継続することで、ようやく組織文化が変わり始めます。そして、結果を社員へ丁寧に共有し、改善案を一緒に考える姿勢は、組織への信頼感を強め、主体性を引き出す土台にもなります。「声を上げれば、会社が動いてくれる」という実感こそが、働きがい向上の原動力になります。
● エンゲージメントサーベイがもたらす価値
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働きがい・熱意・貢献意欲が“数字として”見える
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部署/年代ごとの強み・弱みが明確になる
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改善テーマの優先順位がつき、PDCAが回しやすくなる
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結果共有と対話を通じて、社員の信頼と主体性が向上
サーベイは一度きりの取り組みではなく、“定点で組織を見つめる習慣”です。継続して測定し改善を繰り返すことで、働きがいは組織の力強い成長エンジンへと変わっていきます。
5. リーダーによる対話の質の向上(1on1の徹底)
働きがいを支える最も重要な土台のひとつが、リーダーとメンバーの“信頼関係”です。評価制度や制度設計が整っていても、直属の上司との関係に不信感があれば、働きがいは大きく損なわれてしまいます。だからこそ、リーダーの対話力は組織の成長を左右する重要な資本と捉えるべきです。
その信頼を丁寧に積み上げる場として注目されているのが、1on1ミーティングです。1on1は単なる業務進捗の確認の場ではなく、メンバーの感情・価値観・キャリア観を理解するための“対話の時間”として機能します。この場でとくに重要なのが、リーダーの「傾聴」です。
ミイダスとシンギュレイトの共同研究では、上司の傾聴姿勢を客観的データで測定した「傾聴スコア」が高いほど、部下は「話を聞いてもらえている」と感じ、ミーティングへの満足度も大きく向上することが示されています。さらに、主体性や自己効力感、上司への信頼といった心理的要素にも良い影響が見られ、傾聴の質が組織文化にまで影響することが明らかになっています。
質の高い対話では、目先のタスクだけでなく、「最近の気づき」「キャリアの悩み」「価値観の変化」など、メンバーの内面に触れるテーマも扱います。リーダーが真摯に耳を傾け、評価ではなく理解しようと向き合う姿勢を見せることで、メンバーは安心して自己開示できるようになります。この安心感が心理的安全性へとつながり、自発的な意見提案や挑戦行動につながっていくのです。
● 質の高い1on1が生み出す効果
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部下が「自分は大切にされている」と感じ、信頼が強まる
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主体性・自己効力感が増し、挑戦意欲が高まる
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心理的安全性が向上し、チーム全体の対話が活性化
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離職防止・エンゲージメント向上に直結
リーダーの対話力は、生まれつきではなく“磨けるスキル”です。1on1という構造化された場を活用し、理解と信頼を積み重ね続けることが、働きがいの高い組織をつくる大きな推進力になります。
6. パーパス・バリューの浸透(理念の翻訳と行動化)
どれほど立派なパーパスやバリューを掲げても、日々の“行動”に結びつかなければ浸透は生まれません。働きがいの源泉になるのは、理念そのものではなく、「理念が自分の仕事とどうつながっているか」を従業員が実感できる状態です。特に工場や営業など、現場で働く社員にとって、抽象的な言葉はそのままでは腹落ちしません。理念を“翻訳”し、具体的な行動レベルまで落とし込むことが鍵になります。
例えば、「挑戦」という価値観があるなら、製造現場では「改善提案を月1回提出する」、営業では「新規提案の仮説を必ず3パターン用意する」といった、役割に応じた具体行動に置き換える必要があります。こうした行動指針が明確であれば、従業員は何をすれば理念を体現できるのかを理解しやすくなります。
さらに、理念を“使われる言葉”にするためには、日常の中で繰り返し触れる仕掛けも欠かせません。朝礼、掲示物、社内SNSでの共有など、目にする機会を意図的につくることで、パーパスやバリューは徐々に組織の共通言語へと育っていきます。また、理念を体現した行動を称賛し、共有する文化は浸透の推進力となります。誰かが良い行動をしたときに称賛し、それを全社に共有することで、「理念が実際に使われている組織」へ変わっていきます。
そしてもう一つ重要なのが、人事制度との連動です。評価・昇格の基準に理念が含まれていなければ、従業員にとって理念は“掲げるだけの言葉”になってしまいます。パーパスを軸に評価を行うことで、理念は初めて行動の指針となり、働きがいを支える確かな土台になります。
● パーパス浸透を成功させるポイント
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理念を現場ごとに“具体行動”へ翻訳する
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体現した行動を称賛し、全社に共有する文化をつくる
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朝礼・掲示物・社内SNSなど、日常の接点を増やす
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評価・昇格基準にパーパスを反映し、制度として根付かせる
理念は掲げるだけでは意味を持ちません。
“言葉が行動に変わり、その行動が文化になる” とき、はじめて働きがいの源泉として機能します。
7. 公正なキャリア開発と成長の見える化
キャリアの**「見える化」**は、特に若手社員の不安を取り除き、挑戦意欲を高める働きがいの中心テーマです。
まず、キャリアパスを可視化し、どんな能力や経験を積めば次のステップに進めるのかを明確に提示します。これにより、社員は自己成長を計画的にデザインできるようになります。また、配属や昇格のプロセスを透明化することも、意思決定への信頼と納得感を高める上で重要です。
コーチング、定期的な面談、キャリア相談の場などを通じて、個人が自律的に未来を描くためのサポートを継続的に行うことが、挑戦意欲を引き出す強い後押しになります。
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働きがいを高めるキャリア開発のポイント
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明確なキャリアパスで成長の道筋を示す
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配属・昇格プロセスを透明化し、納得性を高める
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コーチングや面談でキャリア自律を支援
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社内公募制度で機会と挑戦の幅を広げる
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8. 社内コミュニケーションの活性化(横断連携・情報共有)
働きがいの源泉の多くは、人間関係から生まれます。どれだけ制度が整っていても、「誰と働くか」「相談できる相手がいるか」「安心して会話できるか」が揃わなければ、働きがいは感じにくいままです。特にハイブリッドワークが広がるいま、コミュニケーションは“自然に生まれるもの”ではなく、“意図的につくるもの”へと変わりました。
まず、組織の壁を越えて協働する機会を増やすことが効果的です。部署や拠点をまたぐプロジェクトは、社員同士が新しい関係性を築くきっかけになり、組織の視野を大きく広げてくれます。普段接点のないメンバーとの協働は、学びの幅を広げ、帰属意識を高める力があります。
また、社内SNSによる情報共有は、透明性を高め、孤立を防ぐ重要な手段です。業務連絡だけでなく、成功事例・小さなナレッジ・感謝の気持ちなど、「仕事に関わるあらゆる情報」をオープンに流通させることで、組織全体のつながりが強まります。オンライン中心の働き方でも、SNSが“デジタル上の雑談スペース”として機能することで、人間関係のハードルは驚くほど下がります。
さらに、オンライン・オフライン両方での交流施策も欠かせません。雑談を含む短いオンライン会や、オフラインの軽い懇親イベントは、心理的距離を縮めるきっかけになります。組織規模を問わず、こうした場があるだけで“話しかけやすさ”が生まれ、相談のしやすさや仕事のしやすさに直結します。
そして、会社全体の一体感を生むためには、季節行事やキックオフなどの社内イベントも有効です。業務と少し離れた時間を共有することで、普段の役割を越えたつながりが生まれ、チームの結束力を高める効果があります。
● コミュニケーション活性化のポイント
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拠点・部署横断のプロジェクトで新たな関係をつくる
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社内SNSで情報をオープンにし、孤立を防ぐ
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オンライン/オフラインの交流施策で心理的距離を縮める
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イベントを通じて組織全体の一体感を育てる
9. エンゲージメント向上施策を“仕組み化”して継続する
働きがいは、イベントや一時的な施策だけでは育ちません。
称賛制度を導入しても、1on1を始めても、サーベイを取っても、それが“継続し、組織全体で回される仕組み”になっていなければ長続きせず、効果も限定的なまま終わってしまいます。人的資本経営の核心は、この「継続性」と「仕組み化」にあります。
まず、エンゲージメントサーベイを軸にした PDCAの定常化 が不可欠です。
サーベイ → 課題特定 → 改善 → 振り返り が毎年(あるいは四半期ごと)当たり前に回る状態をつくることで、働きがいは徐々に積み上がっていきます。組織の弱点を放置せず、改善のサイクルを止めないことが、エンゲージメント向上の最も強力な基盤になります。
さらに、評価制度、1on1、称賛文化、キャリア開発などの施策を “横断的に連動” させることも重要です。
単独の施策では断片的な効果しか生みませんが、これらが設計思想としてつながると、働きがいは組織全体で一気に加速します。
たとえば、「理念の体現」を評価制度と称賛文化に両方組み込むと、社員の行動は一貫した方向へ自然と揃い始めます。働きがいは部分最適ではなく“全体最適”で育つものなのです。
そして、働きがいに関する取り組みを 人的資本指標として開示 し、経営テーマに格上げすることも、継続の強力な推進力になります。
トップマネジメントが働きがい向上を企業価値に直結するテーマとして扱えば、組織全体の優先度は一気に高まり、施策は“文化”として根づいていきます。
● 仕組み化で働きがいを定着させるポイント
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サーベイを基点に「課題 → 改善 → 振り返り」を定期運用
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評価・1on1・称賛文化・キャリア支援を横断連動させる
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人的資本指標として開示し、経営テーマへ格上げする
働きがいは、仕組みとして根づいた瞬間から、「企業の恒常的な競争優位」へと変わります。
短期施策ではなく、組織全体のOSとして設計すること――これが人的資本経営を成功させる最後のピースです。
事例で学ぶ:人的資本経営×働きがいを両立した企業
これまでの章では、人的資本経営を成功に導くための「働きがい」の重要性や具体的なアクションについて解説しました。
しかし、これらの理論が実際の企業でどのように実践され、どのような成果を生み出しているのか、具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。
本セクションでは、旭化成株式会社、サイバーエージェント、伊藤忠商事株式会社といった、人的資本経営と働きがいを両立し、企業価値向上を実現した企業の成功事例をご紹介します。
各社が直面した課題に対し、企業理念の浸透、エンゲージメントサーベイの活用、柔軟な働き方の推進といった多岐にわたる施策をどのように導入し、従業員の意識変化、離職率低下、生産性向上といった具体的な効果に結びつけたのかを深掘りします。
これらの事例から、読者の皆様が自社の状況と照らし合わせ、明日から実践できるヒントを見つける一助となれば幸いです。
工場現場でもパーパス・バリューが浸透。企業理念を体現する良い行動
人的資本経営において企業理念の浸透は不可欠ですが、特に工場現場の従業員にとって、日々の業務と理念を結びつけることは容易ではありません。本稿では、株式会社日阪製作所の事例を参考に、工場現場を含む全従業員にパーパス・バリューを浸透させた具体的な取り組みについて解説します。
導入前、同社では現場の従業員が日々の作業に忙殺され、企業理念やビジョンを自分ごととして捉えることが難しいという課題を抱えていました。
日阪製作所における企業理念浸透のための主な取り組みは以下の通りです。
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企業理念「HISAKA MIND」の行動目標への具体化
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製造現場における「安全意識の徹底」や「品質改善への貢献」といった具体的な行動目標に翻訳しました。
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これらの行動目標をポスターで掲示したり、朝礼で定期的に共有したりすることで、従業員一人ひとりが日々の業務の中で理念を意識できるよう工夫しました。
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Uniposを活用した称賛文化の醸成
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従業員同士が理念を体現した「良い行動」を見つけて称賛し合う制度として、Uniposを導入しました。
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これにより、小さな貢献であっても互いに認め合い、感謝の気持ちを伝え合う文化が醸成されました。
こうしたポジティブな行動が評価されることで、従業員の主体的な行動が促進され、企業理念が組織全体に深く浸透していきました。この取り組みは、オフィスワーカーだけでなく現場の従業員にも働きがいをもたらし、組織文化を強化する効果をもたらすでしょう。
従業員意識調査のスコア向上や退職率の抑制にも効果
ある企業は、従業員のエンゲージメント低下と高い離職率という課題に直面していました。特に若手・中堅層の退職が多いため、組織における知識やノウハウの蓄積が滞り、これが事業の安定性と成長を阻害する要因となっていました。
この課題に対し、企業は「働きがい」の向上を目的とした以下の施策を導入しました。
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成果だけでなく、日々の努力も評価する公正な評価制度の見直し
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スキルアップを支援する教育研修プログラムの拡充
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社員一人ひとりが将来を描けるキャリアパスの明確化
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従業員の声を経営に反映させるためのエンゲージメントサーベイの定期的実施と、それに基づく具体的な改善策の運用
これらの取り組みの結果、従業員意識調査のスコアは前年比で大幅に向上し、特に若手・中堅層の退職率は半減しました。社員の定着が進んだことにより、組織内に貴重な知識や経験が蓄積され、新たな人材採用にかかるコストも大幅に削減されました。結果として、事業の安定性が増し、持続的な成長に貢献しています。
エンゲージメントサーベイの定点活用で社員意識を変革
働きがいの向上には、エンゲージメントサーベイによる定期的な「定点観測」が不可欠です。これにより、組織の状態変化を時系列で把握し、施策の効果を客観的に測定できるようになります。パルスサーベイとセンサスを組み合わせることで、より多角的な診断が可能になります。
サーベイ結果の分析後には、特定された課題と改善策を社員に透明性高く共有することが重要です。社員が自身の声が組織改善につながると実感できれば、当事者意識が芽生え、意識変革へとつながるでしょう。フィードバックが不足すると、社員の無力感を招き、組織への信頼を損ねる恐れがあります。
一建設株式会社では、エンゲージメントサーベイを通じて若手社員の離職原因を数値化しました。その結果、「上司のコミュニケーションの質にばらつきがある」という課題が明確になり、人事部が具体的な対策を実行しました。
一建設株式会社の平均在職年数の変化
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項目 |
改善前 |
改善後 |
|---|---|---|
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平均在職年数 |
6.5年 |
8.7年 |
チームとの対話とボトムアップによる改善が、エンゲージメント向上に大きく寄与したと言えます。
まとめ:「働きがい」は人的資本を動かす持続可能なエネルギー資源
本記事では、従業員の「エンゲージメント」「モチベーション」「心理的安全性」という三つの要素が複雑に絡み合って「働きがい」を形成することを解説しました。これらは単なる個人の感情に留まらず、人的資本経営を成功へ導くための不可欠な基盤となります。「働きがい」は、単なる福利厚生や従業員満足度の一時的な向上に終わるものではありません。むしろ、企業の生産性向上、離職率の低下、創造性の発揮、そしてイノベーション創出へとつながる、持続的成長のための「エネルギー資源」として再定義されるべきです。今回ご紹介した9つの実践アクションを参考に、ぜひ自社に合った形で「働きがい」を高める取り組みを始めてみてください。それが、企業と従業員双方にとって、より良い未来を築く第一歩となるでしょう。
