
働きがい改革とは、従業員がやりがいをもって働ける環境をつくることです。働きがいのある職場になることで従業員のモチベーションが上がり、生産性の向上につながります。
本記事では働きがい改革の意義や重要性、実施方法、成功事例などを紹介します。
働きがい改革 とは
働きがい改革とは、従業員がやりがいをもって仕事に取り組める状態にする行動です。働きがい改革により従業員のモチベーションが高まり、生産性の向上に役立ちます。
ここでは、働きがい改革の重要性や目的、働き方改革との違いを解説します。
働きがい改革の意義と重要性
働きがい改革の「働きがい」とは、従業員が仕事へのモチベーションを高めることです。モチベーションには外発的なものと内発的なものとがあり、仕事における外発的モチベーションには報酬や福利厚生の充実があげられます。
これに対し、内発的モチベーションとは働く喜びや達成感など内面の欲求に働きかけるもので、働きがいは内発的モチベーションにあたります。
働きがい改革は、このような内発的モチべーションを高める取り組みを行うことです。働きがいを得ることで従業員は主体的に仕事に取り組み、会社全体の生産性を高めます。働きがい改革は、企業が成長するために欠かせないものといえるでしょう。
働きがい改革の目的
働きがい改革の目的は、働きやすい環境づくりや従業員の定着、会社の業績アップなどです。労働環境を整備し、従業員が安心して働ける環境を目指します。働きやすい環境になることで従業員の働く意欲が高まり、働く意欲を高めます。その結果、従業員の離職防止・定着率のアップにつながるでしょう。
さらに従業員が働く意欲を高めることは生産性向上をもたらし、業績アップを実現します。
働き方改革と働きがい改革の違い
働きがい改革と似た言葉に、働き方改革があります。両者は目的が異なり、働き方改革は、多様な働き方など働きやすい環境をつくることが目的です。厚生労働省によれば、働き方改革は「働く方々が個々の事情に応じ、多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにするための改革」と定義されています。
これに対し、働きがい改革は、働きがいの向上が目的です。会社で働くことに意義を見出し、積極的に仕事に取り組めるようにすることを目指します。
働きがいのある会社とは?
米国サンフランシスコに本部を持つGPTW(Great Place to Work)は、「働きがい」に関する調査・分析を行い、一定の水準に達していると認められた会社や組織を紹介するする活動を世界約100ヶ国で実施している専門機関です。GPTWでは「働きがいのある会社」について、「働きやすさ」と「やりがい」の両方がかね備わった組織であると定義しています。
さらに、「働きがいのある会社」は従業員とマネジメントとの間にある高いレベルの「信頼」があり、一人一人の能力が最大限に活かされている会社であるとしています。
ここでは、GPTWが定義する「働きがいがある会社」についてみていきましょう。
高い信頼関係がある
GPTWでは「働きがいのある会社」について、従業員とマネジメントとの間に高い信頼関係がある会社と定義しています。
信頼関係はさらに「信用」「尊敬」「公正」に分けられ、リーダーへの信用と従業員の尊重・公正な扱いが行われることを働きがい改革だと定義しています。
信頼関係は、仕事への誇りと仲間との連帯感も大きな要素です。
優れたリーダーシップや価値観がある
働きがいのある会社には、優れたリーダーシップや価値観があります。リーダーシップは会社に根付いたカルチャーをリードして、従業員の共感を呼ぶものです。
価値観は会社が掲げているものだけでなく、従業員が日々の仕事で感じ取る社風や文化なども含みます。従業員が感じている価値観と会社の価値観が一致していることで、従業員は働きがいを感じます。
従業員一人ひとりの能力が活かされる
働きがいのある会社では、属性や立場に関わらず、従業員一人ひとりの能力が活かされます。一部の限られた従業員ではなく、すべてのメンバーの能力を引き出せることが大切です。
さらに、働きがいのある会社には変化に対応でき、持続的に成長するための「イノベーション」を起こせる文化があります。文化は従業員の知性を刺激し、能力や思いを集めてつくられ、財務的な成長が生み出されます。
働きがい改革を行うメリット
働きがい改革を行うことで、次のようなメリットが得られます。
- 心理的安全性が向上する
- 従業員満足度を高める
- 業績がアップする
- 離職率が低下する
それぞれ、詳しくみていきましょう。
心理的安全性が向上する
働きがいのある職場になると、心理的安全性が向上します。心理的安全性とは、組織の中で自分の意見や考えを誰に対しても安心して発言できる状態のことです。心理的安全性が高い職場は安心して仕事に集中でき、個人のパフォーマンスが向上します。積極的に会話や議論が交わされ、業務がスムーズに進むでしょう。
心理的安全性が低い場合、否定や拒絶される不安から発言しにくい状態になり、業務が滞ります。仕事へのモチベーションも下がるでしょう。心理的安全性が高い環境になることは、働きがい改革の目標ともいえます。
従業員満足度を高める
働きがい改革で従業員に寄り添った職場環境をつくることで、会社に対する信頼や愛着が高まり、従業員満足度が向上します。従業員満足度とは、従業員が仕事や職場に対してどれくらい満足しているかを表す指標のことです。
従業員満足度を構成するのは、企業理念への共感やマネジメントへの納得、良好な人間関係、快適な職場環境などがあげられます。さらに働きがい改革の実施により、従業員満足度がより高まるでしょう。
従業員満足度が向上することで従業員はモチベーションを高めて仕事に取り組み、生産性を高めます。従業員満足度の高い職場では商品・サービスの品質も高まり、顧客満足度向上にもつながります。
業績がアップする
働きがい改革は、業績アップにもつながります。働きがいを感じながら働く従業員はモチベーションを高め、仕事に対し主体的に取り組みます。生産性の向上につながり、結果的に会社の業績を高めるでしょう。業績が上がって成果が数字により可視化されることで、従業員はさらに働きがいを感じるという好循環も生まれます。
厚生労働省省が行った「職場の働きやすさ・働きがいに関するアンケート調査(従業員調査)」によると、働きがい改革を行って従業員の「働きやすさ」や「働きがい」の意識が高い職場の方が、仕事に対する意欲が高いという結果が出ています。
さらに業績に関する項目でも、「働きやすさ」や「働きがい」の意識が高い職場の方が、業績が高い傾向にあるという結果になりました。
離職率が低下する
働きがい改革は離職率の低下にも貢献します。前に紹介した厚生労働省の調査では「働きやすさ」や「働きがい」の意識が高い方が、従業員の勤務継続の意向は高いという結果が出ています。働きがい改革を行っていない職場と比較すると、約40%もの差があるという結果になりました。
仕事への働きがいを感じることで従業員は長く会社で働きたいと思い、定着率の向上につながります。少子高齢化で人手不足に悩む企業は多く、働きがい改革の取り組みは人材確保のために必要な取り組みといえるでしょう。
参考:厚生労働省「目指しませんか? 「働きやすい・働きがいのある職場づくり」
働きがい改革を行う方法
働きがい改革の取り組みには、さまざまな方法があります。いくつかの方法を紹介しますので、自社に合う方法から導入していくとよいでしょう。
ここでは、働きがい改革の具体的な実施方法を解説します。
柔軟な働き方を取り入れる
働きがいと働きやすさは密接に関係しています。従業員が働きやすい職場をつくることが、働きがいを推進する前提ともいえるでしょう。
従業員が働きやすい職場にするためには、柔軟な働き方を取り入れることが必要です。柔軟な働き方とは、労働時間や勤務場所を自由に選択できる働き方を指します。 労働時間の自由度が高い働き方として、以下の制度があげられます。
- 裁量労働制
- フレックスタイム制度
- 変形労働時間制
- 時差出勤制
- 育児時短勤務
裁量労働制とは、実際の労働時間ではなく、あらかじめ労使間で定めた時間を働いたものとみなし、その分の賃金を支払う制度です。従業員は勤務時間に固定されず、裁量で勤務時間を管理できます。
フレックス制度は、あらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、従業員自身が毎日の始業と終業時刻を調整できる制度です。
変形労働時間制は、繁忙期や閑散期によって労働時間をコントロールできる制度です。法定の労働時間である1日8時間・週40時間の範囲内であれば、特定の日や週に時間を超えても残業代は発生しません。
時差出勤制は会社が1日あたりの実労働時間を設定し、その時間内で従業員が出退勤時間を選ぶ制度です。
育児時短勤務は3歳未満の子どもを養育している従業員が希望した場合、原則として1日の所定労働時間を6時間に短縮できる制度です。
勤務場所の自由度が高い働き方にはリモートワークがあり、オフィスワークとリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークという働き方もあります。
リモートワークは働き方改革で導入する企業が増え、コロナ禍によりさらに導入が加速しました。
ハイブリットワークは、従業員のライフスタイルに合わせてオフィスワークとリモートワークを組み合わせられます。
リモートワークには通勤時間の削減や、業務への集中力が高まるといったメリットがありますが、社内コミュニケーションが不足し、適切な労務管理・人事評価ができないという弊害があります。そのため、リモートワークとオフィスワークのメリットを得られるハイブリッドワークを取り入れる企業も増えている状況です。
柔軟な働き方の導入でワークライフバランスが実現できれば、仕事へのモチベーションが高まり、働きがいも向上するでしょう。
評価制度を見直す
働きがいを実現するためには、適正な評価制度が欠かせません。公平に評価されることで、従業員のやりがいやモチベーションが高まります。
評価制度の見直しでは、まず自社の経営理念やビジョン、価値観を明確にしましょう。評価項目や基準の設計は、これらに沿って行います。
次に、評価項目では従業員に何を期待しているかを明らかにします。組織としてどのような人材を必要とするか、人物像を設計しましょう。模範となる人物像を設定することで、従業員は目指すべき目標を把握できます。
評価制度は、評価する者によって評価内容が変わることもあります。できるだけ公平な評価を行うためには、適正な評価ができるよう、評価者の研修を行う必要もあるでしょう。
従来の上司1人が判断する評価をする方法ではなく、同僚や部下、他部署の従業員など複数の評価者が評価する「360°評価」を導入する方法もあります。複数のメンバーによる多角的な評価を行うことでより公正な評価ができ、従業員も納得して評価を受け入れられるでしょう。
評価制度を見直したら、従業員に周知することが大切です。評価の内容を共有していることで、制度の信頼も高まります。
適正な人材配置を行う
評価制度の見直しにより、従業員のスキル・適性などを正確に把握できるようになります。その結果、従業員の適性に合わせた適材適所の人材配置が可能です。
不得意な分野に配置されることは、モチベーションや業務効率を招きます。自分の能力や得意分野に配置されることで従業員は本来の能力を発揮でき、やりがいをもって働けるでしょう。
自分に合ったポジションに配置された従業員は責任感を持つようになり、企業の目標達成に向けて主体的に行動するようになります。
また、適材適所の配置で能力を発揮できれば成果を上げることができ、高い評価につながります。さらにモチベーションが高まるという循環が生まれるでしょう。
自分に合う環境で活躍できる従業員が増えれば、組織としての生産性や競争力も高まります。
得意分野で能力を最大限発揮することは、業務を効率化して人件費などのコスト削減にもつながるでしょう。
適材適所の人材配置を行うには、スキルや得意分野だけでなく、従業員の価値観や将来のキャリアプランなどを把握することも大切です。従業員がこれから獲得したいと考えている能力やスキルを把握し、配置に反映させることも、働きがい高めるポイントです。
人材配置を実施したあとは、定期的なフォローも欠かせません。新しい配置では戸惑うことも多く、精神的な負担を感じる従業員もいます。適切なフォローアップやキャリアパスの確認なども行っていきましょう。
社内コミュニケーションを活性化する
働きがいのある環境にするには、社内コミュニケーションの活性化も欠かせません。コミュニケーションの不足した職場では、モチベーションが上がらず、働きがいを感じるのは難しいでしょう。
コミュニケーションが活性化すれば気軽に相談しあえる環境になり、業務の連携もスムーズになります。業務量や悩みの相談もできるようになり、ミスやトラブルが発生したときも早期解決を図れるでしょう。組織のなかに隠れている課題も可視化されやすくなります。
現在の職場にコミュニケーションが不足していると感じたら、活性化のための施策が必要です。
企業で主に取り組まれている施策は、以下のものがあげられます。
- 社内イベントの開催
- 社内報の発行
- 社内SNSの導入
- リラックススペースの設置
社内イベントは、飲み会やスポーツ大会など、業務時間外でコミュニケーションを深める場を設けることです。仕事から離れてリラックスした状態で交流することで、お互いの理解を深められるでしょう。特にコミュニケーションの不足しがちなリモートワークでは、オンラインイベントの開催など積極的な施策が必要です。
社内報は社内の出来事や連絡事項を広報する媒体であり、情報を発信することで従業員同士のコミュニケーションが円滑になり、組織に対する所属意識も高まります。
社内で運用するSNSであれば、メールよりも気軽に連絡を取り合えます。いつでも誰でも簡単に情報発信ができ、コミュニケーションを促すでしょう。
社内コミュニケーションの活性化に役立つツールとしておすすめなのが、ピアボーナスです。ピアボーナスとは従業員の行動を称賛し、報酬をおくり合う仕組みです。感謝や称賛の気持ちを気軽に伝えられることで、所属する部署だけでなく、交流の少なかった他部署とのコミュニケーションも図れます。ピアボーナスを通してお互いの理解が深まり、社内コミュニケーションが活性化していくでしょう。
ピアボーナスを手軽に導入できるサービスが、Uniposです。最小限の時間で感謝や称賛・激励などのやり取りができる設計で、メッセージにポイントを添えて投稿できます。ポイントは少額の金銭や寄付など、組織の社風や文化に沿った形式で交換できる仕組みです。
Uniposの運用により、隠れた貢献も可視化されます。称賛されることで従業員の働きがいも高まるでしょう。従業員同士がお互いを褒め合い、尊重する文化・組織風土も醸成されます。
働きがい改革を成功させた事例
働きがい改革は多くの企業が取り組みを行っており、成功させています。ここでは、実際に成功させた企業の事例をいくつか紹介します。
GPTW「働きがい改革認定企業」に選出|浅間商事
中小企業に向けてITのサポートを行う総合IT商社・浅間商事では、新入社員の定着率が低い・仕事が「個人商店化」して部署間の連携がとれていないという課題を抱えていました。そのため、働きがいのある環境と組織文化の醸成、社内コミュニケーション活性化を目的にUniposを導入しています。
Uniposの導入時は全員で一斉に初投稿を行ってスタートするという試みにより、当初から90%以上という高い利用率となりました。
運用の結果、社内コミュニケーションが活性化し、新入社員の定着率が改善するという成果を上げました。
さらに、同社はGPTWが主催する「働きがい認定企業」にも選ばれています。「働きやすさ」と「やりがい」の両方を兼ね備えた組織であることが認められた結果です。
また、同社では1人あたりの生産性も、2020年までの3年間で111%向上しました。これまで18時が定時だったところを17:30に変更するなど、心身のゆとりをつくってもらうための施策も行い、働きがい改革を推進しています。
会社と従業員が対等に高め合う|キリンホールディングス
ビールメーカーのキリンビールや清涼飲料水メーカーのキリンビバレッジなどを傘下を持つキリンホールディングスは、働きがい改革として「『働きがい』改革 KIRIN Work Style 3.0」に取り組んでいます。従業員の一人ひとりが「働きがい」を実感し、会社とともに持続的な成長を果たせる環境づくりを行う施策です。
KIRINの「働きがい」は働きやすさの向上だけでなく、仕事を通じて自分の存在意義を確かめ、成長の手応えをつかみ、「働きやすさ」と「やりがい」の融合を目指すものです。また、「働きがい」は、会社が一方的に与えるものではなく、会社と従業員が対等な立場で協力し、高め合うものという共通認識のもと、全員が主体的に「働きがい」の向上に取り組んでいます。
具体的な取り組みとして、「やりがい」向上のために研修やチャレンジ支援、キャリア支援の制度を充実させており、仕事にアウトプットできる機会を与えられています。
さらに、「働きやすさ」の向上のため、シェアオフィス導入・展開拡大やTeams全社導入・活用推進など、働く環境変化をサポートするためのさまざまな施策を実施しているのが特徴です。
同社では、働きがい改革で最も重要なのは、従業員一人ひとりが仕事の意義や目的を理解し、やりがいを感じながら主体的・意欲的に取り組むこととしています。
働きがい改革の取り組みにより、社内ではリーダーとメンバーがコミュニケーションを重ね、仕事の本質を見つめようとするアクションがより一層増えたということです。
2023年「働きがいのある会社」ランキングトップ|シスコシステムズ
コンピュータネットワーク機器の開発・販売を行うシスコシステムズ合同会社は、2023年の「働きがいのある会社」ランキングのトップに選出されています。
同社では約50名の有志チームが日々の業務の垣根を越え、働きがいの向上施策に取り組んでいます。2022年は、主に以下の取り組みを行いました。
- 視野を広げ、キャリア自律を促すプログラムを実施
- 生産性向上のため、会議やチャットを行わず自身の業務のための時間を一斉にとる
- 対話の質を高めるための「聴く」教育を行う
- お互いに認め合うための全社推薦・投票による表彰の実施
トップに選ばれた理由として、同社のパーパスにある「すべての人にインクルーシブな未来を実現する」のとおり、多様な構成員の全員の働きがいが非常に高いレベルにあると評価されています。
サーベイから収集された従業員の声に耳を傾け、働きがい改革の取り組みを継続した成果が評価される結果となりました。
まとめ
働きがい改革とは、従業員がやりがいをもって仕事に取り組める状態にするために施策を行うことです。働き方改革とは目的が異なり、仕事へのやりがいを高めることを目指します。
働きがい改革の取り組みにより従業員の心理的安全性や従業員満足度が高まり、業績がアップにつながります。その結果、離職率の低下が期待できるでしょう。
働きがい改革の取り組みには柔軟な働き方の導入や評価制度の見直し、社内コミュニケーションの活性化などがあげられます。まず自社の課題を明確にし、適した施策を取り入れましょう。