
職場に活気がなく、社員の「やる気」が感じられない。そんな状況に頭を悩ませている人事担当者やマネージャーの方もいるのではないでしょうか。
社員のモチベーションは、企業の成長に不可欠な要素です。しかし、その維持・向上は簡単なことではありません。
本記事では、社員の「意欲」を削いでしまう職場にありがちな7つの盲点を紹介します。
さらに、社員のモチベーションを再び高め、組織全体の活性化につなげるための具体的な方法と、その成功事例を解説していきます。
やる気が出ない職場──その兆候と組織への影響とは

一見、大きな問題がないように見える職場であっても、社員のやる気が静かに失われているケースは少なくありません。こうしたモチベーションの低下は、個人の資質の問題と片付けられがちですが、実際には、見過ごされがちな職場環境や組織の仕組みに潜む「盲点」が原因となっている可能性があります。
社員の意欲が低下すれば、組織全体の生産性や士気に悪影響を及ぼし、企業成長を阻害する要因ともなりかねません。本セクションでは、まず社員のやる気低下を示す具体的な兆候(サイン)を詳しく解説します。次に、それが組織全体にどのような悪影響を引き起こすのかを深掘りしていきます。
社員に見られる“やる気低下”のサイン
社員のやる気低下は、日常業務におけるさまざまな行動や態度に現れます。マネージャーや同僚が気づきやすいサインとして、会議での発言が減る、新しい仕事への反応が鈍くなる、あるいは自発的な質問や相談がなくなることなどが挙げられます。与えられた業務のみをこなし、「言われたことだけをやる」といった姿勢が目立つようになるのも、見過ごせない兆候です。
さらに、業務への取り組み姿勢だけでなく、表情や態度といった非言語的な変化も重要なサインです。例えば、以前よりも笑顔が減る、ため息が増える、同僚との雑談を避けるようになるなど、些細な変化が内面の意欲低下を示している可能性は十分にあります。これらのサインは、後に続く「指示待ち姿勢」や「成果に波が出る」といった、より深刻な状態の前兆となることが少なくありません。早期にこうした変化に気づき、適切に対応することが、社員のモチベーション回復への第一歩となります。
指示待ち姿勢や受け身な行動の増加
社員のやる気低下を示す顕著なサインの一つに、指示待ち姿勢や受け身な行動の増加があります。具体的には、以下のような行動パターンが頻繁に見られるでしょう。
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会議で活発な意見が出ない
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新しい仕事に誰も手を挙げない
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上司からの具体的な指示がなければ動かない
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「言われたことだけをやる」
自ら考え行動しない姿勢は、組織の活力を奪う大きな要因となります。
こうした指示待ち行動の背景には、社員の心理が大きく影響しています。「失敗を恐れる」心理や、余計なことで怒られたくないという思いから、指示を待つ姿勢につながるのです。また、「やっても評価されない」「働きがいがない」といった意識も、主体性を奪う原因となります。責任を負いたくない、自分で考えても答えが出ないといった状況も、受け身な行動を助長します。
このような受け身な姿勢は、個人の成長機会の損失だけでなく、組織全体の生産性低下やイノベーションの停滞に直結します。主体的な行動の不足は新たなアイデアの創出を妨げ、企業の競争力低下を招く危険性があるでしょう。
感情の起伏がなく、成果に波が出る
業務の成果に対する感情的な反応が乏しくなることも、やる気低下の兆候の一つです。例えば、成功した際の喜びや達成感が薄れる、あるいは失敗しても悔しさや焦りが見られないといった状態が挙げられます。これは、仕事への内発的な動機付けが失われつつあるサインと言えるでしょう。
また、業務パフォーマンスが本人のコンディションや外部要因によって大きく左右されるようになるのも特徴です。モチベーションが高い時は安定した成果を出せる社員であっても、困難な課題や予期せぬ障壁に直面すると、途端に業務効率が低下したり、結果を出せなくなったりするケースが見られます。
これらの兆候は、一見すると冷静沈着で感情に左右されないプロフェッショナルな態度に見えるかもしれません。しかし、実際には仕事への当事者意識や内なる情熱が薄れ、「Quiet Quitting(静かな退職)」にも通じる状態に陥っている危険なサインと捉えるべきでしょう。このような状態が続けば、仕事への使命感や責任感も失われかねません。
「辞めたいわけじゃない」が口癖に
社員が「辞めたいわけじゃない」と口にするのは、現状に対する不満を抱えつつも、具体的な行動を起こすほどではない心理状態の表れです。この発言は、会社を積極的に辞める意思はないものの、仕事への情熱や向上心が失われている危険な兆候と捉えるべきでしょう。近年広まっている「静かなる離職」の兆候に非常に近い状態と言えます。
静かなる離職とは、出世や昇進を目指さず、与えられた職務の範囲内で最低限の責務のみを果たす働き方を指します。これは、仕事に対して積極的な関与を避け、自身の価値観やプライベートの充実を優先する行動として知られています。その具体的な兆候には、次のようなものがあります。
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業務時間外の連絡に応じない
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キャリアに関する話題に無関心になる
マネージャーは、この言葉を単なる慰留のサインと安易に捉えるべきではありません。これは社員のエンゲージメントが著しく低下し、生産性だけでなく、チーム全体の士気にも悪影響を及ぼす危険な兆候です。社員が「辞めたいわけじゃない」と感じている背景には、承認の欠如や評価制度への不満、目的意識の喪失など、様々な構造的な問題が潜んでいる可能性があります。この発言を真摯に受け止め、組織的な課題として向き合うことが求められます。
モチベーション低下が引き起こす悪循環
社員一人ひとりのモチベーション低下は、単なる個人の問題に留まらず、周囲の社員やチーム全体へと波及し、組織全体のパフォーマンスを蝕む「負のスパイラル」に陥る危険性をはらんでいます。この悪循環は、企業の成長を阻害する深刻な経営課題へと直結しかねません。
具体的には、以下のような悪循環が進行します。
① 個人の生産性低下
意欲を失った社員は、業務への集中力や自発性が低下します。結果として、業務効率の悪化やミスが増加し、個人の生産性が著しく低下します。最低限の業務しかこなさなくなり、新たなアイデアや改善提案も生まれにくくなるでしょう。
② 周囲の士気低下・負担増
生産性の低い社員が増えることで、周囲の意欲的な社員に業務の負担が集中します。これにより、負担が増した社員の士気も低下し、チーム全体の活力が失われます。職場の雰囲気悪化や円滑なコミュニケーションの停滞にもつながるでしょう。
③ チーム・組織の業績悪化
個人の生産性低下と周囲の士気低下は、チーム全体の業務効率を損ない、最終的に組織全体の業績に悪影響を及ぼします。残業時間の増加、顧客満足度の低下、ひいては給与やボーナスの削減といった事態に発展する可能性もあります。
④ さらなる個人のモチベーション低下
チームや組織の業績悪化、およびそれに伴う待遇面への影響は、社員の「この会社で働き続ける意味」を見失わせ、さらなるモチベーション低下を引き起こします。この負のスパイラルは、元々意欲的だった社員さえも巻き込みかねません。
このような悪循環が続けば、結果的に離職率の増加や社員エンゲージメントの低下といった、より根深い問題に直面します。人手不足は残された社員の業務量をさらに増加させ、負のスパイラルを加速させます。社員のモチベーション低下は、会社の存続に関わる構造的な課題として、早期の対策が不可欠です。
【特定】社員のモチベーションが下がる5つの“構造的”原因

社員のモチベーション低下は、個人の資質や一時的な感情の問題として片付けられがちです。しかし、その根底には、組織の仕組みや文化といった構造的な原因が潜んでいるケースも少なくありません。人事やマネージャーが気づきにくい「盲点」となりがちなこれらの原因は、社員の「頑張りたい」という意欲を静かに削ぎ、組織全体の生産性を著しく低下させてしまう恐れがあります。
このセクションでは、社員のモチベーションを低下させる5つの構造的原因を特定し、自社の現状と照らし合わせるための視点を提供します。具体的には、以下の点について深掘りしていきます。
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承認の欠如
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不透明な評価制度
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心理的安全性の不足
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孤立感とつながりの喪失
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目的意識の喪失
承認の欠如:努力や成果が評価されない
人間には「他人から一目置かれたい」「自分を認めてほしい」といった根源的な承認欲求があります。この欲求が満たされないと、自己肯定感が損なわれ、仕事への意欲は直接的に削がれてしまいます。特に、日々の地道な努力や業務プロセス、他者へのサポートといった「見えにくい貢献」が上司や同僚から見過ごされ、感謝や称賛の言葉がない職場では、この傾向が顕著になるでしょう。
社員が「頑張っても評価されない」「努力が無駄になる」と感じるようになると、無力感を覚えるようになり、積極的に挑戦することを避け、指示された最低限の業務しかこなさなくなる負の行動スパイラルに陥ります。自身の貢献が会社の成功に結びついているという実感(貢献実感)を得られにくくなり、組織に対するエンゲージメントや所属意識が低下していくでしょう。結果として、従業員のアイデンティティ形成にも影響を及ぼし、離職にもつながりかねません。職場における承認の重要性は、単なる慰めではなく、従業員の職務継続意思や定着率にも直結する、組織の根幹を支える要素と言えます。
不透明な評価制度:頑張りと報酬の乖離
社員のモチベーションを低下させる構造的な原因の一つとして、不透明な評価制度が挙げられます。特に評価基準が曖昧であると、社員は「何をすれば正当に評価されるのか」を具体的に理解できず、不満や不信感を抱きやすくなります。実際、ある調査では人事評価への不満要因として「評価の基準が不明確」が48.3%と最も多く、また別の調査では「何を頑張ったら評価されるのかがあいまいだから」という理由が54.4%に上ることが示されています。上司の主観や感覚に依存した評価が横行するケースでは、この傾向はさらに顕著になるでしょう。
社員が成果を出しても昇給や昇進に直結しないと感じる無力感が広がっています。調査では、44.5%の社員が努力が給与や待遇にどう反映されるか「知らない」と回答しており、頑張りと報酬の乖離が意欲を削いでいます。また、評価結果に対するフィードバックが不十分で、具体的な理由や改善点が伝わらないため、社員は成長の機会を失い、モチベーションが低下する悪循環に陥る危険性があります。
心理的安全性の不足:発言や挑戦がリスクに感じる
社員のモチベーションを低下させる構造的な原因の一つに、「心理的安全性」の不足が挙げられます。これは、ハーバード・ビジネススクール教授であるエイミー・C・エドモンドソン氏が提唱する概念です。組織やチームにおいて、メンバーが「無知」「無能」「ネガティブ」「邪魔」だと思われるといった対人関係のリスクを恐れることなく、誰もが安心して発言や行動ができる状態を指します。
失敗を過度に非難する文化や、上司・同僚からの否定的な反応を恐れる環境下では、社員は自己防衛に走りがちになります。その結果、社員は以下のように考えるようになるでしょう。
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発言するよりも黙っている方が安全
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新しい挑戦をするよりも現状維持が無難
このような状態が続くと、社員は自身の能力やアイデアを発揮する機会を失い、組織への貢献実感が得られにくくなります。その結果、仕事へのやりがいや熱意が薄れ、構造的なモチベーション低下へとつながってしまうのです。
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項目 |
割合 |
詳細 |
|---|---|---|
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コミュニケーション不足による業務支障 |
84.1% |
企業が回答 |
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リモートワーク環境下での孤独感 |
約7割(67.9%) |
社員の回答(「人と話す機会が少ない」ことが背景) |
孤立感とつながりの喪失:雑談すらしづらい関係性
近年、リモートワークの普及や業務効率化の偏重により、職場におけるコミュニケーションの質は大きく変化しています。特に、業務連絡に限定されたやり取りが増え、気軽な雑談や非公式な意見交換の機会が著しく減少しているのが現状です。
以下の表は、コミュニケーション不足と社員の孤独感に関する調査結果を示しています。
このような状況は、社員に精神的な孤立感を与え、チームの一員であるという帰属意識を希薄にさせます。気軽に相談できる相手がいないと感じることで、社員は悩みを一人で抱え込みがちです。また、同僚との偶発的な対話から得られる新たな視点や刺激が失われ、仕事への視野が狭まる可能性も考えられます。結果として、自身の貢献がチームや組織にどのように影響しているかの実感が薄れ、仕事への意欲が徐々に削がれていく悪循環に陥ってしまいます。
目的意識の喪失:働く意味が見えなくなる
社員のモチベーション低下を引き起こす構造的な原因の一つに、「目的意識の喪失」があります。これは、会社のビジョンやミッションが社員に十分に浸透しておらず、自身の仕事が組織全体の目標達成や社会貢献にどうつながるのか、実感できない状態を指します。企業理念やビジョンが明確に示されていても、それらが日々の業務と結びついていなければ、社員は自分の仕事の「意味」を見失いがちです。
このような状況では、目の前の業務が単なる「作業」と化し、その仕事の意義や目的が見えなくなってしまいます。結果として、仕事に対するやりがいや探求心が失われ、モチベーションが大きく低下する原因となります。働く意味が見いだせない状態が続けば、社員の意欲は削がれてしまうでしょう。
また、自身のキャリアプランと会社の方向性が合致していない場合や、会社が明確なキャリアパスを示せていない場合も、長期的な視点で働く意味を見失うことにつながります。自分の成長や将来が会社の中でどう描けるのか不透明であると、社員は自身の貢献意欲を維持することが困難になる可能性があります。これは、パフォーマンスの低下や離職率の増加にもつながりかねない、組織にとって見過ごせない課題です。
【解決策】モチベーションを回復・維持するための7つの職場施策

社員のモチベーション低下の背景には、承認の欠如や不透明な評価制度などの構造的な原因があります。これらは個人の努力だけでは解決できません。本セクションでは、根本的な原因に対処し、モチベーションを回復・維持するための7つの職場施策を紹介します。具体的には、心理的安全性を高める環境整備、公正で透明性の高い評価制度、感謝や称賛を可視化する文化の醸成、データを用いた社員エンゲージメントの「見える化」など、多角的なアプローチを通じて、やりがいのある職場環境を目指します。
感謝と称賛が当たり前になるフィードバック文化
人間の根源的な欲求の一つに「承認されたい」という思いがあります。この欲求が満たされると、自己肯定感が高まり、仕事へのモチベーション向上に直結します。実際、社会心理学や組織行動学の観点から、職場における感謝や称賛は、人と組織をつなぐ重要な要素であることが示されています。心で思うだけでなく、言葉として相手に伝えることで、組織に強い影響を与えると言えるでしょう。
感謝や称賛の文化を組織に根付かせるには、日々の業務に組み込む仕組みづくりが不可欠です。具体的な方法としては、以下の点が挙げられます。
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会議の冒頭で感謝を伝え合う時間を設ける。
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社内チャットツールに「感謝専用チャンネル」を設置する。
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社員同士が互いの貢献にポイントを贈り合える「ピアボーナス制度」を導入する。
フィードバックは、業務の結果だけでなく、プロセスや他のメンバーをサポートする行動など、目に見えにくい貢献にも焦点を当てることが重要です。これにより、社員は失敗を恐れず挑戦しやすくなり、健全な挑戦文化が組織に醸成されます。マネジメント層は感謝や称賛のロールモデルとなり、上司からのポジティブなフィードバックは部下のエンゲージメントを高め、組織全体にポジティブなコミュニケーションを広げ、社員の意欲を引き出す好循環を生むでしょう。
心理的安全性を高める1on1や雑談の導線設計
社員が本音で話し、安心して挑戦できる職場環境を築くには、「心理的安全性」を意識したコミュニケーション設計が不可欠です。その代表的な施策が「1on1ミーティング」と「雑談の機会」の創出です。
まず、1on1ミーティングは、単なる業務報告の場としてではなく、上司が部下のキャリア観、コンディション、日頃感じている課題などを「聴く」ことに徹する対話の場として再定義することが重要です。部下が安心して本音を話せるよう、以下のような具体的なルールを設けることが効果的です。
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アジェンダを部下自身が事前に設定する
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話した内容は評価に直結させない
きらぼし銀行の事例では、91.4%の社員が「1on1が役立っている」と回答しており、心理的安全性の向上に大きく寄与しています。
次に、偶発的なコミュニケーションである「雑談」を意図的に生み出す仕組みも必要です。例えば、社内チャットツールに雑談専用チャンネルを設置したり、会議の冒頭に数分間の雑談タイムを設けたりするといった方法が挙げられます。Googleの事例では、定例の「チェックイン」で雑談も許容する文化があり、心理的安全性を高めています。また、ねぎしフードサービスや三井住友海上火災保険のように、定期的なミーティングで発言しやすい雰囲気作りを徹底することも、社員同士の心理的なつながりを強化し、自律的な行動を促す土台となります。
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企業名 |
導入ツール/方法 |
効果/目的 |
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ピアボーナス制度 |
社員の貢献を可視化 |
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イグナイトアイ |
Slackアプリ「HeyTaco!」 |
日々の貢献の全社的な可視化、コミュニケーションの活性化 |
小さな成果を拾い上げる可視化の仕組み
社員のモチベーションを維持するためには、最終的な大きな成果だけでなく、日々の業務における小さな成功体験や、他者への貢献を適切に評価し、可視化する仕組みが不可欠です。目に見えにくい努力やサポートが認識されることで、社員は自身の仕事が誰かの役に立っていると実感でき、貢献意識の向上が期待できます。
こうした可視化には、ピアボーナスツールや社内SNSの活用が有効です。ピアボーナス制度は、社員同士がリアルタイムで感謝や称賛のメッセージとともに少額のポイントを贈り合う仕組みです。これにより、上司からは見えにくい日々の貢献も全社的に可視化され、社員間のコミュニケーションも活性化します。また、社内SNSは、部署を超えた情報共有や新たな社員同士のつながりを生み出し、孤独感の解消にもつながります。
ピアボーナス制度や社内SNSの活用事例を以下に示します。
さらに、定例ミーティングなどで「今週のグッジョブ」や「スモールウィン(小さな成功)」を共有する時間を設けることも有効です。個人の努力や工夫をチーム全体で認識し、称賛する文化を醸成するでしょう。これらの仕組みは、社員が成果に至るまでの「プロセス」も評価されていると感じる機会を増やし、さらなる意欲を引き出す効果が期待できます。
エンゲージメントをデータで“見える化”しPDCAを回す
社員のモチベーションは、個人の感情や目に見えにくい要素に左右されやすいため、個人の勘や経験に頼る組織運営には限界があります。そこで重要となるのが、客観的なデータに基づき、現状を正確に把握するアプローチです。従業員エンゲージメントサーベイやパルスサーベイといったツールを活用することで、従業員の満足度や仕事への熱意、人間関係といった状態を多角的に定点観測が可能です。特にパルスサーベイは、高頻度かつ少ない質問数で、社員の幸福度や現場の問題をリアルタイムに把握できるのが特徴です。
こうした調査データから課題を特定し(Plan)、改善施策を実行(Do)、その効果を再調査で検証し(Check)、次のアクションにつなげる(Action)という、データに基づいたPDCAサイクルを回します。LIXILの事例でも、感覚や予測だけではエンゲージメントを正しくつかめないため、定期測定が推奨されています。実際、米ギャラップ社の調査によると、日本のエンゲージメントスコアが高い社員の割合はわずか6%であり、調査対象139ヶ国中132位と、低い水準にあります。このデータに基づいたアプローチによって、施策の効果を客観的に測定できるようになり、より的確で継続的なモチベーション向上へとつながるでしょう。
働く意味を伝えるビジョン・理念の浸透
社員のモチベーションは、自身の仕事に意味を見出すと大きく向上します。会社のビジョンや理念が社員に深く浸透すると、個々の業務が、組織全体の目標達成や社会貢献とどのように結びついているのかが明確になります。共通の価値観や判断基準が共有されることで、社員は働く意義を実感しやすくなります。その結果、現場の意思決定が迅速化し、業務効率や生産性が向上するだけでなく、社員のエンゲージメントやモチベーションが高まり、離職率の抑制にもつながるでしょう。
理念を浸透させるには、経営層からの一方的な発信だけでなく、全社的なコミュニケーションが不可欠です。以下のような方法が有効です。
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管理職が自身の言葉で理念を部下に語りかける
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社員同士が理念について対話するワークショップを開催する
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社内イントラネットで理念の背景やエピソードを連載する
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朝礼で定期的に理念に触れる機会を設ける
これらは、社員が理念を「自分ごと」として捉えるきっかけとなるでしょう。
さらに、理念を形骸化させず、日々の業務における行動指針として機能させるためには、個人の目標設定や人事評価制度に組み込むことが有効です。理念に沿った行動を評価項目に落とし込むことで、そうした行動が称賛され、適切に評価に反映される仕組みを構築できます。また、定期的な評価面談で理念に基づいた行動を振り返る機会を設けることは、社員の行動変容を促し、モチベーションを維持する上でも重要です。
社員同士のつながりを生む横断型コミュニティ
社員の孤立感を解消し、組織への帰属意識を高めるには、部署や役職の垣根を越えた「横断型コミュニティ」の形成を会社が主体的に支援する施策が有効です。社内サークル活動や勉強会、フットサル、バーベキューといった業務以外の共通の関心事でつながる場を提供することが重要です。これにより、社員は安心して多様な人間関係を築くことができるでしょう。
このようなコミュニティは、社員の孤立感を解消するだけでなく、会社へのエンゲージメントやロイヤリティの向上にも寄与します。普段業務で関わりの少ない社員同士が交流することで、部署間の連携が円滑になり、思いがけない新しいアイデアやイノベーションが生まれる土壌を育むことにもつながります。
会社は、例えば以下の点に徹し、あくまで社員の自発性を尊重する姿勢がコミュニティ活性化の鍵となります。社員が自ら企画し、運営に参加することで、より当事者意識が高まり、継続的な活動へと発展するでしょう。これにより、社員間の絆が深まり、会社全体の活力が向上すると期待できます。
会社がコミュニティを支援する際の具体的な内容
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活動費の補助
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場所の提供
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イベント企画のサポート
公正で透明性の高い評価と報酬設計
社員のモチベーションを根底から支えるのは、「頑張りが正当に報われる」という納得感です。評価基準やプロセスが不透明な場合、社員は不公平感を抱き、努力する意欲を失うおそれがあります。これを解消するには、まず評価基準を明確にし、全社員に公開することが不可欠です。どのような行動や成果が評価の対象となるのかを具体的に示すことで、社員は日々の業務で目指すべき方向性を定め、主体的な行動を促すことができます。
さらに、評価プロセスに客観性を持たせる工夫も重要です。上司の主観だけでなく、同僚や部下からのフィードバックを取り入れる多面評価(360度評価など)の導入は、多角的な視点から公正な評価を実現する上で有効な手段となるでしょう。評価結果が報酬や昇進・昇格にどのように結びつくのか、その論理を明確にすることも不可欠です。報酬制度の運用においては、評価結果と報酬金額の関係性を明確に示すことで、制度の公平性と透明性を確保することが求められます。「役割に応じた給与設計」への納得感と透明性を高める事例も多く見られます。また、制度を形骸化させないためには、社員からのフィードバックを定期的に収集し、継続的に改善し続ける運用が不可欠です。これらの取り組みによって、社員は安心して業務に打ち込み、高いモチベーションを維持しながら貢献できるようになるでしょう。
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企業名 |
主な取り組み内容 |
達成された成果の方向性 |
|---|---|---|
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ケップル株式会社 |
リモート環境下での「称賛の連鎖」を生む独自の仕組みを構築 |
社員のやる気向上 |
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アサヒグループジャパン |
部署間の強固な連携を通じた「挑戦文化」の醸成 |
社員の意欲引き出し |
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中外製薬 |
約8,000名規模の組織で「自律的な人材」の育成 |
社員のやる気を劇的に変えることへの貢献(自律的な人材の育成を通じて) |
【成功事例】社員のやる気が劇的に変わった3つの企業改革

これまで、社員のモチベーションの回復・維持に向けた具体的な施策を解説してきました。本セクションでは、それらの施策が実際の企業でどのように実践され、社員のやる気向上にどのようにつながったのかを、3つの成功事例を通じてご紹介します。
今回取り上げるのは、ケップル株式会社、アサヒグループジャパン、そして中外製薬の3社です。これらの企業は、それぞれが抱える課題に対しユニークなアプローチで社員の意欲を引き出すことに成功しました。
以下に、今回ご紹介する3社の主な取り組み概要をまとめました。
各社がどのような背景から取り組みを開始し、いかにして社員のやる気を劇的に変えたのか。具体的な実践方法と、そこから得られた確かな成果に焦点を当てて見ていきましょう。
ケップル株式会社|リモート下でも「称賛の連鎖」を生んだ仕組み
スタートアップ支援プラットフォームを運営するケップル株式会社は、リモートワークへの移行に伴い、社員間のコミュニケーションが希薄になり、互いの貢献が見えにくくなるといった課題に直面していました。オフィスでの偶発的な会話が減り、日々の細やかな協力が見過ごされがちになる中で、社員のモチベーション維持が懸念されたのです。
この課題を解決するため、同社はピアボーナスツール「Unipos」の導入を決定しました。特に、役員自らが積極的に社員への感謝や称賛を投稿する「KEPPLE Appreciation Project(KAP)」を推進した点が特徴的です。経営層が率先してポジティブな文化を醸成する姿勢は、社員全体に大きな影響を与えました。
Uniposの活用により、これまで可視化されにくかった部署を横断した協力や細やかなサポート、そして日々の地道な努力に対しても、感謝や称賛が送られるようになりました。これにより、一人の投稿がきっかけとなり、次々と称賛が生まれる「称賛の連鎖」が日常的に発生するようになりました。社員は自身の貢献が認められていると実感し、組織の一体感が劇的に向上した結果、社員エンゲージメントの向上にもつながっています。
(参考情報)
アサヒグループジャパン|部署間連携で挑戦文化を醸成
アサヒグループジャパンでは、大企業特有の「縦割り組織」が長年の課題でした。各事業部門や部署は高い専門性を持つ一方で、連携が不足しがちで、この組織風土が新しい挑戦やイノベーションの創出を妨げていたのです。社員一人ひとりの能力は高いものの、部署間の壁がアイデアの共有や協力体制の構築を阻害する要因となっていました。
この課題を解決するため、同社は部門横断型の新規事業創出プログラム「ASAHI MIRAI-A(みらいえ)」を導入しました。これは、社員が自発的にチームを組み、部署や事業領域の垣根を越えて連携しながら、新しいアイデアを事業化することを目的とした取り組みです。社員は自身のアイデアを自由に提案し、社内外の専門家からフィードバックを受けながら、事業計画を具体化するプロセスを経験します。
この施策により、社員は「自分のアイデアで会社を動かせる」という強い当事者意識を持つようになりました。部署間の連携が活性化されたことで、多様な視点や専門知識が融合し、これまで生まれにくかった革新的な事業アイデアが次々と創出されています。結果として、挑戦を称賛する文化が醸成され、社員のモチベーション向上に大きく貢献しました。部門横断的な取り組みは、組織全体の生産性向上と前向きなムードを生み出す原動力となっています。
(参考情報)
中外製薬|約8,000人の組織でも“自律人財”を育てた要因
約8,000人規模の社員を抱える中外製薬では、かつて会社主導の異動が中心で、社員のキャリア自律やイノベーション創出に課題を抱えていました。大規模組織であるため、社員一人ひとりが自身のキャリアを主体的に考え、挑戦する機会が不足していたのです。このような状況から、社員のモチベーション向上と組織の活性化に向けた改革が求められていました。
そこで同社は、社員のキャリアオーナーシップを育むための施策を導入しました。
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全社員を対象とした「キャリアデザインプログラム(CDP)」や「キャリアデザイン研修」を定期的に実施し、社員が自身のキャリアを深く考える機会を提供しています。
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2020年から導入されていたジョブ型人事制度を2025年1月より一般社員にも全社展開します。
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これまで幹部社員が対象だった「Job Posting(社内公募)制度」を本格的に活性化させています。
これらの施策により、社員が自ら挑戦したい部署や職務に手を挙げ、能動的にキャリアを築ける環境が整備されたのです。
Uniposが支援する「モチベーションが続く組織」のつくり方

これまでのセクションでは、社員のモチベーションを回復・維持するための具体的な7つの施策を解説しました。しかし、これらの施策を単発で終わらせず、組織に定着させ、持続的なモチベーション向上を実現するためには、体系的な仕組みとツールが不可欠です。そこで注目されるのが、エンゲージメント向上プラットフォーム「Unipos」です。
Uniposは、単なるツールの導入に留まらず、感謝や称賛といったポジティブな行動を組織の文化として根付かせ、社員一人ひとりの行動力を引き出すことを目指します。これにより、心理的安全性を高め、従業員エンゲージメントを継続的に向上させる効果が期待できます。
感謝・称賛の“見える化”が心理安全性をつくる理由
社員のモチベーションを維持するには、感謝や称賛を「見える化」する仕組みが不可欠です。口頭での感謝は一過性に終わることもありますが、テキストや専用ツールで記録として残すことで、社員は承認されている実感を継続的に得られます。これにより、「誰が、何を、なぜ」称賛されているのかがオープンになり、組織が歓迎する行動や貢献の価値基準が明確になります。社員は「これを言っても大丈夫」「こう行動して良い」という安心感を得られ、発言や挑戦への心理的ハードルが下がるでしょう。この安心感こそ、Googleの研究でも重要性が示された「心理的安全性」の基盤です。ポジティブなやり取りが公開されると、他の社員も感謝や称賛を表現しやすくなるという相乗効果が生まれます。その結果、対人関係のリスクへの恐れが薄れ、真の心理的安全性が醸成されます。
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機能名 |
機能概要 |
主な効果 |
|---|---|---|
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ピアボーナス |
感謝の言葉とともにポイントを送る |
称賛・承認の心理的ハードルを下げ、ポジティブなコミュニケーションを促進 |
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オープンなタイムライン |
感謝の投稿が全社員に公開される |
個々の貢献を可視化し、部署や役職を超えたつながりを促進 |
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ハッシュタグ |
投稿に企業バリューや行動指針を紐づける |
企業理念の浸透と望ましい行動変容を促す |
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拍手 |
他者の投稿に共感を示す |
ポジティブなコミュニケーションを組織全体に波及させる |
承認とつながりを日常化するプラットフォーム設計
Uniposは、感謝と称賛を日常的な行動として定着させるためのプラットフォームです。そのコア機能である「ピアボーナス」では、感謝の言葉とともに少額のインセンティブ(ポイント)を送り合えます。この手軽な仕組みが、称賛や承認の心理的ハードルを下げ、日々の業務におけるポジティブなコミュニケーションを促進します。また、誰がどのような貢献に対して感謝を送ったかが全社員に見える「オープンなタイムライン」によって、個々の努力や成果が可視化されます。これにより、部署や役職の垣根を超えた「つながり」が自然に生まれ、普段は目につきにくい隠れた貢献にも光が当たるでしょう。
Uniposの主要機能とその効果は以下の通りです。
さらに、企業のバリューや行動指針を「ハッシュタグ」として投稿に紐づける機能も備わっています。日々の感謝のやり取りが、どのような企業理念に基づいた行動なのかを具体的に示し、理念の浸透と望ましい行動変容を促す効果が期待できます。他者の投稿には「拍手」で気軽に共感を示すリアクションも可能です。これにより、感謝を送る側と受け取る側だけでなく、その投稿を見た第三者も承認の輪に参加でき、ポジティブなコミュニケーションが組織全体に波及していくプラットフォーム設計となっています。
データで把握するエンゲージメントと行動変容の相関
Uniposでは、日々の感謝や称賛の投稿数、部署間のやりとり頻度といった社員の行動データが詳細に蓄積されます。これらの行動データと、定期的なエンゲージメントサーベイの結果、さらに業績データを掛け合わせることで、組織の状態を客観的に分析できるようになります。例えば、Unipos導入後、三菱電機では称賛文化が広がり、ハイフライヤーズでは離職率が27%改善した事例があります。これにより、「称賛が増えた部署は離職率が低下した」といった具体的な相関関係を把握可能です。
データに基づき、「どの部署で」「どのようなコミュニケーションが」不足しているかを特定できれば、勘や経験に頼らない的確な改善策(例えば1on1の強化など)の立案につながるでしょう。施策実行後も行動データを継続的に観測すれば、効果測定も容易になり、組織改善のPDCAサイクルを高速で回しながら、持続的なエンゲージメント向上へと導けるはずです。
まとめ|やる気は「感情」でなく「仕組み」で守る

本記事では、社員のモチベーション低下が、個人の資質によるものではなく、「承認の欠如」や「心理的安全性の不足」といった組織の構造的な問題に起因することを解説しました。社員の「やる気」は、単なる感情論で終わらせるべきものではなく、組織として継続的に守り育てる「仕組み」が不可欠です。人事やマネージャーの皆さんが取り組むべきは、個人の意識改革を求めることではなく、社員が安心して意欲的に働ける環境を整備することです。
まずは、本日ご紹介した多くの施策の中から、実践しやすい一歩を踏み出してみましょう。例えば、以下のことから始めてみてはいかがでしょうか。
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日々の業務の中で「感謝」や「称賛」を積極的に言葉にして伝える
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部下との「1on1ミーティング」で本音を話せる対話の時間を定期的に設ける
社員のモチベーションを仕組みで支えることは、生産性の向上や離職率の低下だけでなく、組織全体の持続的な成長を実現するために不可欠な取り組みと言えます。
