大企業病とは?自社が当てはまるか確認すべき5症状と4つの対策

「最近、社員のモチベーションの低下が目立つようになってきた。これは俗に言う『大企業病』なのでは?」

あなたは人事の責任者として、自社が「大企業病にかかっているのでは……」との疑念から、このサイトにたどり着いたのではありませんか?

大企業病とは、大企業のみならず、中小企業でも生じうる現象です。業務の非効率化やモチベーションの低下が本格化する前に手を打たねば、重症化を招きかねません。

この記事では、大企業病の症状、大企業病の原因、そして大企業病を克服するためにどのように対処すればいいのかについてお伝えします。

早めの対処で、自社を健全な状態に立て直すお役に立てば幸いです。

こんな症状が表れたら要注意!大企業病の主な症状5点

大企業病とは、非効率的な企業体制に陥っている状態で、主に大企業に見られます。

組織が大規模化するにつれ、経営者と社員の意思疎通が不十分になることにより起こりやすくなると言われています。

とはいえ、先にも書いた通り大企業病は大企業だけでなく、中小企業でも起こりうる状態です。

大企業病と言われる症状には、主に以下のものがあります。

  • 視野が狭くなり自分の仕事にしか関心をもたなくなる
  • 現状維持優先でチャレンジしなくなる
  • 形式主義に陥り意思決定が遅くなる
  • 顧客ニーズよりも社内ニーズを優先する
  • 責任の所在があいまいになる

この5点について詳しく解説していきます。あなたの会社が大企業病にかかっていないかどうか、ぜひ確認してみてください。

1-1. 視野が狭くなり自分の仕事にしか関心をもたなくなる

業務の分業化が進み、部署間の垣根が高い組織では、各社員が自分の担当する業務のことだけを考える傾向にあり、視野が狭くなりがちです。

視野が狭いとは、「会社を俯瞰的に見て行動する」のが難しいということです。「会社を俯瞰的に見て行動する」とは、具体的には他部署と連携して無駄な作業を省き業務の効率化を図る、クライアントからのフィードバックを関連部署と共有することで商品開発に活かすといった取り組みのことです。

他部署との協力や作業の最適化などに無関心になり、長期的な視点ももたないため、事なかれ主義に陥って業務が非効率化します。

1-2. 現状維持優先でチャレンジしなくなる

売上が安定している大企業の場合、少々業績が悪化したところですぐに危機的な状態に陥るわけではありません。

また業績の悪化が社員すみずみにまで実感されにくいということもあり、社員から危機感が失われ、現状維持を最優先することになります。

現状維持が最優先になってしまうと、従来の仕事の仕方に固執するようになります。

そのため、新しいことにチャレンジしようという気風が失われ、上司は部下の失敗の責任を取ろうとしなくなります。

結果的に、社員が能力を発揮するチャンスが失われ、優秀な人材の流出が起こったり、受け身で積極性に乏しい社員ばかりが残るという危機的な状況に陥る可能性があります。

1-3. 形式主義に陥り意思決定が遅くなる

組織の規模が大きいほど、社員の統率をとるためにルールが必要になります。

ルールは規律を守るために役立ちますが、ルールに縛られるようになると自由さが失われていきます。

そうなると「ルールがあるから」「これがルールだから」と、社員が自分で考えることを放棄し、思考停止に陥ってしまうことがあります。

この「形式主義」に陥ると、意思決定に時間がかかるようになり、ビジネスチャンスを逃す危険性が高くなります。

1-4. 顧客ニーズよりも社内ニーズを優先する

顧客ニーズよりも社内ニーズを優先するようになった状態は大企業病と言えます。

本来、企業は顧客ニーズを最優先にして企業価値を高めていくものです。

しかし、顧客よりも上司の顔色をうかがうなど社内ニーズを優先するようになると、社員は社内での自分の立場や評価を維持するために行動するようになります。

これにより顧客離れが進み、業績が悪化します。

1-5. 責任の所在があいまいになる

事業に関わる人間が増えると、責任の所在があいまいになりがちです。

これは「自分が責任を取らなくても、誰かが取ってくれる」という思考に陥ることから起こります。

例えば、業績悪化が起きたときに、営業部門は「企画部門が立案する商品に魅力がないからだ」と言い、企画部門は「製品の品質に問題があるからだ」と言い、生産部門は「営業部門が売る努力を怠っているからだ」というように、お互いに責任のなすり付け合いをするような状態です。

これでは本来の共通ゴールである「事業の成長」を達成することは難しくなります。

2.大企業に限らない!大企業病を発症する原因4点

ここまでは大企業病の症状を確認してきました。本章では、その原因を見ていきます。

2-1. 業績が安定している

業績が安定していると大きな改革や新しい事業への挑戦をしようという気概が失われ、現状維持でよいと考えるようになります。「せっかく順調なのに、わざわざ冒険的なことをして失敗のリスクを負う必要はない」という考えから、安全志向になり、リスクをとってまでチャレンジをしなくなるのです。

また、業績が安定している企業は「出る杭は打たれる」という考え方が強くなり、チャレンジをしようとする人より、波風を起こさない無難な人のほうが評価されがちです。そうすると、組織から活力が失われ、現状維持どころか業績の悪化へとつながりかねません。

2-2. チャレンジを促すシステムがない

2-1. 業績が安定している」とも関連しますが、結果が失敗か成功かに関わらず、挑戦した社員を評価するシステムがなければ、社員はわざわざリスクを取ってまでチャレンジしようという気持ちにはなれないのが現実です。企業が飛躍するためにはイノベーションは不可欠です。閉塞感が漂っている企業は、チャレンジを応援する企業風土の醸成やシステムの構築が急務と言えます。

2-3. オープンに意見を言えない雰囲気

現場の不満をうまく汲み取れない組織に発展はありません。

表立って批判めいたことは言わない社員でも、心の中では会社に対する不満やストレスを溜め込んでいる可能性があります。それを放置すれば、ベテランを含めた社員の流出につながり、企業にとっては大きな痛手となります。

職場が閉鎖的な雰囲気だったり、上司とのコミュニケーションがとりにくい環境である場合、役職や部署に関わらず、オープンに意見を言い合えるシステムや雰囲気の創出に早めに取り掛かる必要があります。

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2-4. 社員が急増して組織が大きくなっているとき

前にも書いた通り、大企業病にかかるのは大企業だけではありません。

数名程度で始めたベンチャー企業であっても、人数が少ない時は全社員の間で共有されていた経営トップの理念が、社員が増加するにつれ共有しづらくなります。

また、経営者自身が各社員の仕事ぶりを把握することも難しくなります。

組織が大きく育つ中で、会社が進む方向性を全体で共有できていないと、組織としての統制が失われ、業務効率が低下してしまいます。

3.大企業病を克服するための対策4点

大企業病対策には、大きく分けて4つの方法があります。

  • チャレンジを応援する人事制度を整える
  • 多様性を重視する企業文化の創出
  • 社内コミュニケーションの活性化
  • 管理職の意識改革

企業が取り組むべき対策を成功事例とともに見ていきましょう。

3-1. チャレンジを応援する人事制度を整える

大企業病を克服するには人事制度の見直しが不可欠です。新しいことにチャレンジしたり、新しい価値を創造したりすることを評価する人事制度を整えることで、チャレンジしやすい環境を作りだすことができ、「失敗を避けることを重視する」「社会の流れについていけない」という大企業病を改善することができます。

【対策事例】テルモ

 テルモは20年以上前から風土改革の一環として人事制度を見直すことにより、大企業病対策を成功させました。その施策の一部を紹介します。

社員をアソシエイトと呼ぶ

テルモの風土改革は、従業員を「アソシエイト」を呼ぶことから始まりました。

アソシエイトとは「一人ひとりが主役」であることを意味し、主体性を持って行動することが求められます。この試みは同社の風土改革を根底から支える象徴となっています。

有言実行キャンペーンでチャレンジ精神を醸成

1996年には、仕事、プライベートにかかわらず社員自ら目標を設定して挑戦することを宣言する「有言実行キャンペーン」を開始。

優秀者にはクルーズ客船に招待するなどして社員のチャレンジ精神を引き出す試みを行い、チャレンジ精神が一定程度根付いた5年後に目標を仕事に限定するようにしました。

脱年功序列・実力重視の等級制度を導入

2000年には「信賞必罰」をテーマに、降級・降格があり得る脱年功序列・実力重視の等級制度を導入。

また、優れた仕事を称える「現場の誇り賞」を始めました。これは、縁の下の力持ちとして真摯に業務に取り組み、そのスキル、匠の技、知恵、志でテルモに貢献している現場のアソシエイトを表彰する制度です。

(参考:https://www.recruit-ms.co.jp/issue/case/0000000385/

3-2. 多様性を重視する企業文化の創出

多様性を重視する企業文化を創り出すことも大企業病対策には有効です。

先に書いたように、大企業病にかかると視野が狭くなり世の中の動きをキャッチする能力が衰えてくるため、多様な価値観に触れられる施策が必要になってきます。

具体的な取り組みとしては、

  • ダイバーシティ推奨
  • 部署を超えた交流
  • チームビルディング

といったことが挙げられます。これらの試みを通して多様な価値観に触れることで視野が広がり、結果的に顧客ニーズの把握につながるため、「顧客ニーズより社内ニーズを優先する」「世の中の流れについていけない」という大企業病の改善につながります。

【対策事例】パナソニック

大企業のパナソニックですが、大企業病にならないように多様性を重視する文化づくりに力を入れてきました。

組織や部門を横断してメンバー同士の交流を図る社内若手有志グループによる交流団体「One Panasonic」は、その試みの一つです。

この団体は、トップダウンではなくボトムアップで大企業病の会社を変えようと立ち上げられました。

大企業の場合、社内の人脈がつながりにくく、そのため豊富にある有形無形の資産をうまく生かせないことが多いものです。そこで社内の人脈を築くことを目的に、One Panasonicでは「全体交流会」と「テーマ別交流会」の2つを開催しています。

全体交流会

全体交流会は東京、大阪、名古屋、福岡でそれぞれ年4回イベントを開催。毎回、100200人の社員が集まり、社長ら経営幹部のほか、社外から著名人をゲストに招き講演会を行っています。話す人と聞く人の互いの顔が見える形で質疑応答が活発に行われ、多様な視点を育んでいます。

また、若手中心の輪に入りにくい部課長などのミドル層を巻き込むために、部課長が若手社員に自身の経験を語る「ようこそ先輩」という集いを開催。自分の経験を若手と共有したいと考えるミドルと、ロールモデルがほしいと考える若手社員にとって、両者がつながる貴重な機会となっています。

テーマ別交流会

テーマ別交流会では、女子会や他社交流会などを実施することで、社内外の同世代や面白い試みをしている人たちと交流することで、お互いが学び合い、刺激し合うことを目的としています。社内だけでなく社外の人脈構築にも役立っています。

上記交流会以外にも、多様な視点を取り入れる試みを行っています。

元社員の話を聞く「アルムナイネットワーク」

「アルムナイネットワーク」は、日本マイクロソフトの会長やNTTドコモ執行役員、サイボウズ社長など、パナソニックを卒業後、社外で活躍する人たちのネットワークです。パナソニックからも社長ら役員クラス十数人が参加。日本では定年退職者が集まるOB会はあっても、会社を辞めた人の集まりは少ないため、同社を辞めて新たなビジネスに飛び込み成功を収めた元社員の話を聞く貴重な機会になっています。

(参考:https://magazine.nimaime.or.jp/wakate-pasona/

3-3. 社内コミュニケーションを活性化させる

社内のコミュニケーションが活性化すると、風通しの良い職場環境が生まれます。

つまり「気兼ねせずに言いたいことが言い合える職場」になります。そういった環境下では安心して業務に取り組むことができるため、自然とミスが減り、業務の効率化や生産性向上につながります。

その他にも、部署間での新たなイノベーションが生まれたり、個々人のモチベーションが向上したりするなどのメリットがあります。

【ウェビナーでわかる】ビジネス変革に欠かせない心理的安全性のつくり方とは?

【対策事例】Google

Googleでは、多くの情報を共有するオープンな職場を作りだしたり、イノベーションを可能にすることで大企業病対策をしています。

以下、具体的な施策を紹介します。

透明性を大切にするための電話会議

Googleは透明性を大切にしており、毎週金曜日には「TGIFThank God, it’s Friday)」(やっと金曜日だ!)と呼ばれる本社と全世界をつなぐ電話会議を行っており、経営陣が社員の質問に答えています。

これにより様々な情報を共有することで、各社員が会社に対して自分が経営者であるかのように責任を感じるようになります。

休憩スペースやカフェで社員同士のコミュニケーションを促進

Googleはまた、社員同士のコミュニケーションを重要視しており、オフィスのあちらこちらに休憩スペースや小さなキッチンを設け、カフェテリアでは1日中無料で食事をとることもできます。

こういった設備を整えた目的は、普段は関わりのない社員同士で話してもらうためです。営業や財務、エンジニアといったさまざまな職種の人同士で話し、アイデアを出し合うことで、コラボレーションにつなげてほしいという狙いがあります。

(参考:https://toyokeizai.net/articles/-/140601

3-4. 管理職の意識改革

大企業病は、まず何よりも経営者や管理職が現状を正しく認識し、企業として目指す方向性を見直したり、不要なルールは撤廃したりと、トップダウンで改革していくことも時には必要です。

例えば、ルーティン化された無意味な会議は業務の邪魔になるだけなので撤廃するべきです。

このように、無用なルール・習慣を撤廃することで「意思決定が遅い」という大企業病ならではの症状を改善することができます。

【対策事例】テルモ

テルモは「上から変わる」ことも重視しています。

①360度アンケートをイントラネットで公開

会長や社長をはじめとした経営幹部全員の360度アンケート()をイントラネットで毎年社内で公開しています。フリーコメントも掲載されるため、厳しい言葉が並ぶ経営幹部もおり、刺激を受ける幹部も多いようです。

※多面評価とも呼ばれ、異なる立場の人間が対象者を多面的に評価する人事評価の手法で、複数人が評価することで、評価自体の公平性・信頼性・妥当性を増すことができると言われている。

管理職のレビューシステム

管理職を対象としたレビューシステムを導入。管理職を任期制にして、定期的に任期中の貢献度を確認し、処遇の見極めをより厳しく行うようにしました。

その結果、やむを得ず降格するケースはあるものの、その場合は突然降格になるのではなく、本人に事前に通知を行い、気づきと改善の機会が提供された上で見極められることになります。

(参考:https://www.recruit-ms.co.jp/issue/case/0000000385/

4.まとめ

最後に、大企業病についてその症状と対処法を簡単に確認しておきましょう。

大企業病の症状は以下のようなものでした。

  • 視野が狭くなり自分の仕事にしか関心をもたなくなる
  • 現状維持優先でチャレンジしなくなる
  • 形式主義に陥り意思決定が遅くなる
  • 顧客ニーズよりも社内ニーズを優先する
  • 責任の所在があいまいになる

これらの症状が現れたら、たとえ中小企業であっても大企業病にかかっていると認識し、早急に対処する必要があります。

主な対処法は4点ありました。

  • チャレンジを応援する人事制度を整える
  • 多様性を重視する企業文化の創出
  • 社内コミュニケーションを活性化させる
  • 管理職の意識改革

企業の健全成長を阻む「大企業病」、でき得る限りなる前に予防したいものです。

もしもなってしまったら、本記事の対策も参考に、全社で改善に取り組んでいきましょう。

この記事が、あなたの会社が大企業病にかかっているかどうかを判断し、必要な対策を講じるためのお役に立てば幸いです。