
「エンゲージメント」は、用いられる場面に応じて、さまざまな意味を持つ言葉です。
「よく耳にするものの、詳しくは理解できていない」という方もいるのではないでしょうか。
この記事では、業界ごとのエンゲージメントの意味や、企画経営・人事領域における「従業員エンゲージメント」について解説します。エンゲージメントについての理解を深め、自社の施策にお役立てください。
目次
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]1.エンゲージメントとは?
「エンゲージメント(engagement)」とは、英語で「婚約、誓約、約束、契約」などの意味を持ちます。
用いられるシチュエーションによって意味の異なる言葉ですが、企業活動においては、おもにマーケティング領域と企画経営・人事領域において、使用されています。
まずは、マーケティング領域と企画経営・人事領域、それぞれの「エンゲージメント」の意味について、詳しく理解していきましょう。
2.マーケティング領域における「エンゲージメント」の意味
マーケティング領域における「エンゲージメント」は、「消費者が企業やブランドに対して抱く愛着度」を意味します。消費者が企業やブランドに好感を抱いており、積極的な行動につながっている状態が、エンゲージメントの高い状態です。
特にWebマーケティングの領域では、TwitterやInstagramなどのSNSにおける「投稿への好意的な反応」として、エンゲージメントという言葉が頻繁に用いられています。
例えば、TwitterやInstagramでは、以下がエンゲージメントを測る指標です。
<Twitterのエンゲージメントを測る指標>
・いいね!数
・リツイート・引用リツイート数
・返信数
・貼り付けしたリンクのクリック数
・貼り付けした画像の表示数
・ハッシュタグのクリック数
<Instagramのエンゲージメントを測る指標>
・いいね!数
・コメント数
・保存数
・シェア数
・プロフィールへのアクセス数
・プロフィールのリンククリック数
マーケティング領域では、インターネットの普及やSNSの発達とともに、エンゲージメントに着目する企業が増えています。
3.企業経営・人事領域における「エンゲージメント」の意味
企画経営・人事領域における「エンゲージメント」は、「企業と従業員が同じ目標に向かって、お互いに貢献し合える関係」を意味します。
特に重視されているのが、「従業員エンゲージメント」と呼ばれる概念です。
これは、従業員が企業の理念やビジョンに共感し、企業に貢献したいと思う意欲を表します。従業員エンゲージメントの高い状態は、従業員の企業への信頼度や愛着度が高く、企業と自分の成長のために、自発的に行動しようとする状態と言えるでしょう。
3−1.従業員満足度、ロイヤルティとの違い
従業員エンゲージメントと似た意味を持つ言葉として、「従業員満足度」と「ロイヤルティ」が存在します。
まず、「従業員満足度(Employee Satisfaction=ES)」とは、企業の福利厚生や労働環境などに対して、従業員がどれだけ満足しているかを表す言葉です。
従業員エンゲージメントが、自発的に企業へ貢献したいと思う意欲を指す一方で、従業員満足度は、企業が用意する「働き方」そのものへの満足度を指します。
一般的に、従業員エンゲージメントは、従業員満足度の延長線上にあると考えられるため、従業員エンゲージメントを高めるうえでは、従業員満足度の向上も欠かせない要素となるでしょう。
また、「ロイヤルティ(Loyalty)」とは、英語で「忠誠(心)、忠実、誠実」という意味を持ちます。
すなわち、従業員の企業に対する忠誠心、忠実度がどれくらいかを指す言葉です。ロイヤルティの場合、企業と従業員は主従の関係で表されるという点が、従業員エンゲージメントと異なります。
あくまでも企業をメインとし、従業員が企業のために忠実に行動するという、上下関係をイメージするとよいでしょう。従業員エンゲージメントが愛社精神、ロイヤルティを奉仕精神と捉えることも可能です。
3−2.従業員エンゲージメントが注目されている背景
従業員エンゲージメントが注目されている背景には、大きく2つの理由があります。
1つ目は、複数の海外企業の調査において、日本の従業員エンゲージメントの低さが浮き彫りになったことが挙げられます。
そのうちの一つ、米ギャラップ社の調査では、日本の「熱意あふれる社員」の割合は6%にしか届かず、世界139か国中132位であることが判明しました。
このような調査結果が問題視され、どうすれば改善できるのかが、危機感を持って注目されているのです。
2つ目は、人材の流動化が挙げられます。
近年、よりよい労働環境や待遇を求める労働者の動きが活発になり、人材の流動化が急速に進んでいます。これには、終身雇用や年功序列など、企業側がこれまでの制度を維持できなくなっていることや、労働者側のキャリア志向の高まりなどの理由が考えられるでしょう。
また、働き方改革や新型コロナウイルス感染症の影響によって、テレワークや副業解禁など、働き方も多様化しているため、労働者が理想の働き方を求めて転職するようになっています。
今後もそのような傾向は続くと考えられており、労働人口の減少による採用環境の悪化が見込まれる中で、優秀な人材の確保と流出を防止するため、従業員エンゲージメントの向上が喫緊の課題となっているのです。
おもに2つの理由から注目されている従業員エンゲージメントですが、その注目度は、株式会社アイ・ティ・アールによる「国内の従業員エンゲージメント市場規模の推移・予測」からも明らかになっています。
2017年度は約8億円だった市場規模が、2023年度には約120億円に迫ると予想されているのです。
それぞれの企業が、いかに従業員エンゲージメントを高めるか、取り組みに力を入れ始めている証拠と言えるでしょう。
参考:「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査(https://www.nikkei.com/article/DGXLZO16873820W7A520C1TJ1000/)
参考:ITRが国内従業員エンゲージメント市場規模推移および予測を発表(https://www.itr.co.jp/company/press/200609PR.html)
3−3.従業員エンゲージメントの測定方法
従業員エンゲージメントを高めるためには、そもそも自社の従業員エンゲージメントの高さがどれくらいなのか、現状を把握しなければなりません。
従業員エンゲージメントの測定方法として、最も多く用いられているのが、「従業員エンゲージメントサーベイ」とも呼ばれるアンケート調査です。アンケートによって、従業員の企業に対する信頼度や愛着度を数値化するとともに、一人ひとりの置かれた状況や価値観の把握が可能となります。
アンケート調査は、月に1回から半年に1回程度のペースで行い、質問項目は2〜15問程度が一般的です。質問例として、以下のものが挙げられます。
「職場で自分が何を期待されているか知っていますか?」
「この1週間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりしましたか?」
「上司や同僚は、あなたを気にかけてくれていますか?」
「友人や知人に、この職場をどの程度勧めたいですか?」
このような質問に、従業員がそれぞれ0から10段階の数値(もしくはフリーコメント)で回答します。
回答内容を把握するとともに、従業員に寄り添う方法を考え、実践することが、従業員エンゲージメントを高めるうえで大切になるでしょう。また、このようなアンケート調査と分析を定期的に繰り返すことによって、必要なタイミングで、従業員のフォローアップがしやすくなります。
参考:働く人の幸福度をはかるたった12の質問 日本企業は世界でも最下位レベル(https://president.jp/articles/-/23978)
エンゲージメント向上施策に潜む7つの落とし⽳とは|ポイントを徹底解説
従業員エンゲージメントの向上で得られる4つの効果」
4.従業員エンゲージメントの向上で得られる4つの効果
従業員エンゲージメントの向上は、企業にさまざまな効果をもたらします。ここでは、おもな4つの効果について解説します。
4−1.従業員のモチベーション向上
従業員エンゲージメントは、従業員が、企業から何を期待されているかを理解し、企業へ貢献しているという実感によって高まります。
つまり、従業員エンゲージメントが向上するということは、「良い仕事をしていると企業に認められている」「企業の成長に自分も寄与している」ということを実感できている状態なのです。これらの実感は、従業員のモチベーション向上につながるでしょう。
4−2.チームワークの強化
従業員エンゲージメントが高いということは、従業員それぞれが、企業の理念やビジョンに共感しているということです。
そのため、同じ目標を目指す、従業員同士の信頼度も高まると考えられます。お互いを認め尊重し、チームで自発的に課題解決に取り組む姿勢が見られるでしょう。このように、従業員エンゲージメントの向上は、チームワークの強化をもたらします。
4−3.業績の向上
従業員のモチベーション向上や、チームワークの強化によって、業績の向上も期待できるでしょう。
エンゲージメントが高い従業員やチームは、企業の成長を自分のこととして考えられるため、自発的に課題解決へ向けて取り組むようになります。結果として、生産性が向上し、業績の向上も期待できるのです。
実際に、株式会社リンクアンドモチベーションが公開した「『エンゲージメントと企業業績』に関する研究結果」において、従業員エンゲージメントの向上は「営業利益率」と「労働生産性」に影響を与えることがわかっています。
相関を表すグラフを見ると、エンゲージメントスコアが1ポイント上昇すると、当期の営業利益率が0.35%上昇しています。また、エンゲージメントスコアが1ポイント上昇すると、労働生産性(指数)は0.0035と、プラスの影響をもたらすことがうかがえます。
企業の成長にとって、従業員エンゲージメントを高めることは、無視できない要素と言えそうです。
4−4.離職率の改善
従業員エンゲージメントの向上は、離職率の改善にも有効です。
厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」によると、働きがい(ワークエンゲージメントスコア)が上昇すると、従業員の離職率が低下すると報告されています。
従業員の企業に対する満足度が向上すると、業績のみならず、離職率にも良い影響をもたらすと言えるでしょう。
参考:「令和元年版 労働経済の分析」を公表します(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06963.html)
5.従業員エンゲージメントを高めるための施策
従業員エンゲージメントを高める施策を効果的に取り入れることができれば、徐々に従業員エンゲージメントの高まりを実感できます。
ここでは、従業員エンゲージメントを高める4つの施策を紹介しますので、自社に必要な施策を見つけ、参考にしてください。
5−1.企業理念やビジョンへの共感を促す
最も重要な施策として、従業員に、企業理念やビジョンへの共感を促すことが挙げられます。
企業理念とは、「企業が重視する基本的な考え」を意味するものです。具体的にはその企業が存在する意味や、経営の目的など、根本的な考え方と言えるでしょう。また。ビジョンとは、将来企業がどうあるべきかという理想像や、進むべき方向性を描くものです。
ビジョンへの共感が薄い状態では、従業員にとって、その企業で働く意味や目的が不明瞭になってしまいます。
企業理念やビジョンへの共感を促す施策として、社内報や社内ポータルサイトなど、全従業員が目にする手段を用いて、定期的に発信を繰り返すことが大切です。
企業理念やビジョンへの理解が徐々に深まってくると、共感の度合いも高まり、従業員エンゲージメントの向上につながります。
5−2.職場環境を改善する
従業員エンゲージメントの向上には、働きやすい職場環境が欠かせません。
これは、従業員エンゲージメントの前段にある、従業員満足度にも大きく影響します。企業理念やビジョンに共感し貢献意欲が高まっても、職場環境が悪ければ、その意欲は継続できないでしょう。
ワークライフバランスや健康経営の視点から、現在の職場環境を改めて見直すことはもちろん、従業員一人ひとりの価値観を尊重した働き方を提案することも大切です。
従業員が心身ともに健康な状態で仕事に取り組める環境を整え、従業員エンゲージメントを高めていきましょう。
5−3.やりがいを生み出す仕組みをつくる
仕事のやりがい・働きがいを生み出す仕組みづくりも重要です。
具体的には、人事評価制度の見直しや、適材適所の人事異動の実施などが挙げられます。それぞれの従業員の得意な領域や希望を把握し、それらを生かす人事制度を取り入れましょう。
併せて、社内イベントや表彰式を開催するなど、やりがいを感じてもらえる行事を定期的に実施するのもよいでしょう。
6.まとめ
今回の記事では、業界ごとのエンゲージメントの意味や、従業員エンゲージメントを高めるための施策などについて解説しました。
改めて、記事の内容について振り返ってみましょう。
- エンゲージメントとは、英語で「婚約、誓約、約束、契約」といった意味をもつ
- マーケティング領域におけるエンゲージメントは、「消費者が企業やブランドに対して抱く愛着度」を意味する
- 企画経営・人事領域におけるエンゲージメントは、「企業と従業員が同じ目標に向かって、お互いに貢献し合える関係」を意味する
- 従業員エンゲージメントとは、従業員が企業の理念やビジョンに共感し、企業に貢献したいと思う意欲のこと
- 従業員エンゲージメントが注目されている背景には、日本の従業員エンゲージメントの低さと、人材の流動化がある
- 従業員エンゲージメントの測定方法として、アンケート調査が有効
- 従業員エンゲージメントの向上で得られる効果は、以下の4つ
- 従業員のモチベーション向上
- チームワークの強化
- 業績の向上
- 離職率の改善
従業員エンゲージメントを高めるための施策は、以下の3つ
- 企業理念やビジョンへの共感を促す
- 職場環境を改善する
- やりがいを生み出す仕組みをつくる
この記事を参考に、自社の従業員エンゲージメントの向上に取り組んでみてはいかがでしょうか。