
「福利厚生の一環として自社独自の特別休暇をつくりたいと考えているけど、そもそも特別休暇ってどんな休暇なの?」
人事部の責任者として、社員のモチベーションアップや社員を大切にする企業であることを内外にアピールするためにも、特別休暇はぜひとも取り入れたい制度ですね。
労働基準法で定められている年次有給休暇などの法定休暇と異なり、特別休暇は各企業が独自に定めることができる休暇です。
この記事では、特別休暇制度についての概要、メリット・デメリット、導入の際に気をつけるべき点などをお伝えしていきます。
あなたの会社のニーズに合った特別休暇導入の指南となれば幸いです。
1.ぜひ導入したい!各企業で定められる特別休暇
企業などが導入する休暇には、大きく分けて「法定休暇」と「特別休暇」(法定外休暇)の2種類があります。
1-1. 法定休暇と異なり各企業が定められる特別休暇
法定休暇とは、労働基準法で定められている休暇のことで、法律上一定の要件を満たす場合は、必ず労働者に与えなくてはならない休暇です。
具体的な法定休暇には、
・年次有給休暇
・産前産後の休暇
・育児や介護のための休暇
・生理日の休暇
などがあります。
それに対し特別休暇は、法律上の定めのない休暇で、企業が独自に定める休暇のことを指します。法律で定められている休暇ではないため、特別休暇の制度がなくても違法ではありません。
厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査の概況」によれば、夏季休暇、病気休暇等の特別休暇制度がある企業の割合は60.3%でした。
特別休暇制度の制度がある企業割合は以下の通りです。
特別休暇制度の有無、種類別企業割合
夏季休暇 |
44.5% |
病気休暇 |
25.5% |
リフレッシュ休暇 |
12.4% |
ボランティア休暇 |
4.3% |
教育訓練休暇 |
4.2% |
1週間以上の長期の休暇 |
14.8% |
(出典:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/dl/gaikyou.pdf)
1-2. 特別休暇は有給・無給どちらも可
特別休暇は無給でも有給でも可能な休暇です。どちらにするかについては、休暇内容や企業によって異なります。
有給になることが多いのが、冠婚葬祭などのための休暇である慶弔休暇や病気休暇です。これら身内の訃報や病気の場合は、社員の気持ちを思いやる姿勢を示すためにも有給にしたほうがよいでしょう。
特別休暇と有給休暇の違い
|
特別休暇 |
有給休暇 |
法律上の規定 |
なし |
あり |
休暇中の賃金の有無 |
会社による |
発生する |
取得時の目的が自由かどうか |
会社による (目的が定められていることが多い) |
自由 |
いつでも取得できるかどうか |
会社による (日程が定められていることが多い) |
自由(時期を変更しなければならないこともある) |
会社の承認の有無 |
基本的に承認が必要 |
承認は不要(事前に届出は必要) |
取得できなかった場合の繰り越し |
会社による (繰り越せないことが多い) |
前年度分まで繰り越しできる |
2.特別休暇のメリット・デメリット
特別休暇は福利厚生の質を向上させるためにぜひ取り入れたい制度の一つです。具体的にそのようなメリットとデメリットがあるのかを確認しておきましょう。
2-1. 特別休暇のメリット
特別休暇にはさまざまなメリットを見込むことができます。
2-1-1. モチベーションの向上
休暇が増えるため、社員に喜ばれ、仕事に対するモチベーションも上がります。リフレッシュ休暇などで日頃の疲れを癒したり気分転換をはかることができれば、生産性の向上を見込むこともできます。
2-1-2. 定着率の改善
特別休暇の導入により社員の気分転換やストレス解消の機会を増やせるため、定着率の改善を期待することができます。ワークライフバランスの向上を目指して優秀な社員を囲い込みたい企業にとって導入する価値は高いと言えるでしょう。
2-1-3. 企業イメージの向上
特別休暇がしっかりと確保されていると、健全な労働環境を整えていることの社会に対するアピールになります。それにより企業イメージがアップし、優秀な人材を集めることが可能になります。
2-2. 特別休暇のデメリット
少ないながら特別休暇にはデメリットもあります。
2-2-1. 人手不足・業務負荷の増大に陥る場合がある
小規模な企業の場合、社員が休暇をとると、その間その社員の業務が他の社員に割り振られることになるため、一人当たりの業務が多くなり負担となってしまうケースがあります。
3.特別休暇の主な種類6点+α
3章では、多くの企業で取り入れられている特別休暇について説明していきます。
3-1. 慶弔休暇
冠婚葬祭に関連した特別休暇で、身内の訃報や結婚などに適用されるものです。企業によっては「忌引休暇」や「結婚休暇」などと内容によって名称が異なる場合があります。
少し意外ですが、慶弔休暇は法定休暇ではありません。よって、会社が必ず慶弔休暇を与えなければならないわけではありません。しかし、実際には多くの会社が慶弔休暇の取得を認めています。
3-1-1. 慶弔休暇の実施率
厚生労働省が行った調査(※1)によると、正社員に対して慶弔休暇を実施している会社は82.7%以上、パートタイム就業者に対しても42.2%以上の会社が慶弔休暇を実施していると回答しており、その普及率はかなり高いと言えます。
また、企業の規模が大きくなるほど実施の割合は増える傾向にあり、社員1000人以上の大企業の場合、正社員に対しては99.7%、パートタイム就業者に対しても71.9%の企業が慶弔休暇を実施していると回答しています。
3-1-2. 一般的な慶弔休暇の休暇日数
慶弔休暇の休暇日数は企業ごとに異なりますが、一般的には下記のような日数が多いようです(※2)。
①結婚休暇
社員本人が結婚する場合:5日
子供の結婚休暇、社員の子供が結婚する場合:2日
②配偶者出産休暇
社員の配偶者が出産する場合:2日
社員本人が出産する場合は「法定休暇」である産前産後休暇が適用されます。
③忌引休暇
0親等(配偶者)が死亡した場合:10日
1親等(父母、子供、配偶者の父母)が死亡した場合:5日
2親等(祖父母、兄弟姉妹)が死亡した場合:2日
※1 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000020thx-att/2r98520000020tmf.pdf
※2 エン転職 https://employment.en-japan.com/tenshoku-daijiten/9072/
以上、特別休暇の諸条件については、法定休暇ではないため、就業規則や雇用契約書等にしっかりと明記するようにしましょう。
3-2. 病気休暇
病気により長期間療養する必要が生じた社員に対して、会社に在籍したまま治療に専念してもらうための制度です。期間の長さは各企業によって異なりますが、半年〜1年間と長期に及ぶ場合も多いため、無給扱いが一般的です。
3-3. 夏季休暇
8月のお盆のシーズンに全社一斉の休みとしている企業が多いです。ただしその扱いは各企業により異なり、全社員が有給休暇を一斉に消化する場合と、有給休暇とは別に一定日数の休暇を全社員に与える場合があります。
8月15日前後に平均6.5日(※)付与されることが多いようです。
参考:市場調査メディアホノテ https://honote.macromill.com/report/20190704/
3-4. リフレッシュ休暇
勤続年数が一定以上の長さに達した社員に対して付与する、長年にわたり会社に貢献していることへのねぎらい的な意味合いの特別休暇です。
社員の気分転換やストレス解消を目的とした制度で、勤続年数に応じて、日数は3〜7日程度、有給扱いが一般的です。
3-5. ボランティア休暇
社員が無報酬で社会貢献活動に参加する場合、それを支援・奨励する目的で、必要な期間付与される休暇です。
日数に関してはその活動内容によって異なり、無給の場合が一般的ですが、企業が推進するボランティア活動に参加する場合には、有給扱いになるケースもあります。
社員のボランティア活動への参加を応援することで企業の社会的責任の一端を担い、企業イメージのアップにつながったり、社員にとっても社外でのネットワークを構築したり、社会貢献を通じて経験を積んで成長できるため、企業と社員双方にとってのメリットは大きいと言えるでしょう。
【導入事例】育自分休暇制度(サイボウズ)
サイボウズ株式会社が導入した「育自分休暇制度」は、35歳以下で、転職や留学などにより環境を変えて自分を成長させるために退職する人が対象の制度で、最長6年間は復帰が可能というものです。
この「育自分休暇制度」を利用して、長期の海外ボランティアにチャンレンジすることになった社員がいます。
その社員は「もともと国際協力に興味がある」「自分のスキルアップのために今の状況を変えたい」という理由で青年海外協力隊に応募、見事合格し、アフリカのボツワナ共和国に2年間派遣される予定です。
「育自分休暇制度」は、このような長期ボランティア活動で経験値やスキルを高めたいと考える意欲的な社員に喜ばれ、また復職後はその成果を企業に還元してくれるという意味で、社員にとっても企業にとっても、メリットの大きな制度と言えるでしょう。
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3-6. バースデイ休暇
社員本人の誕生月に特別休暇を与える制度です。日数は1日の場合が多く、同月なら任意の日を休みに設定できる企業もあります。
有給にするか無給にするかですが、無給にすると休んだ分収入が減ることになるので、進んで取得しようとは思わない方もいるでしょう。バースデイ休暇については、お祝いという性質上、有給のほうが望ましいと言えます。
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4.その他の特別休暇〜導入例3点〜
以上見てきた特別休暇は一般的なものでした。企業独自のカラーを前面に出したユニークな特別休暇を取り入れている企業もあります。以下にその導入例を3点ご紹介します。
4-1. スモ休((株)ピアラ)
株式会社ピアラが取り入れたのは、禁煙で最大6日間有給を付与するという「スモ休」です。
「スモ休」ができた背景として、喫煙者は通常の休憩時間以外にも喫煙するために1日数回業務を離れることがあり、非喫煙者との業務時間の差が問題視されていました。
そこで、
・従業員一人ひとりの体調管理に関する意識を高め、従業員の健康増進を図ること
・一部の喫煙者と非喫煙者の日中の労働時間の不平等感の解消を図ること
以上2点を目的とし、
対象者を「正社員であり、入社後6ヶ月以上の勤務実績を持ち、非喫煙者である者」などの要件を満たした社員を対象に、非喫煙者(勤務時間内外を含む)に対し、1年間当たり6日分(1月当たり0.5日分)の特別有給を付与するという制度内容となっています。
この制度により、喫煙者がタバコをやめる後押しになることが期待されます。
(参考:
4-2. ペットの忌引き休暇(ユニ・チャーム(株))
ユニ・チャーム株式会社は、職場環境整備の取り組みの一環として2017年1月から、自宅で飼育していたペット(犬や猫)が死亡した場合、特別休暇(1日)を取得できる制度を導入しました。ペットを「家族」とみなす飼い主にとって、長年共に暮らしたペットとの死別は辛いもの。その辛さに配慮した取り組みです。
(参考:http://www.unicharm.co.jp/company/news/2017/1205156_3926.html)
4-3. 二日酔い休暇制度(トラストリング(株))
大阪のシステム会社トラストリング株式会社は、アルコールを飲みすぎた次の日は、年2回まで午前休暇を取得してもよいという「二日酔い休暇制度」を導入しています(本社勤務のみ)。
朝起きるのが苦手な人にとって、特に前の晩にアルコールを飲み過ぎた翌朝は、起きるのがしんどいものです。この制度ができてから、お客様や社内イベントで飲む機会があっても、次の日の仕事や飲む量を気にせず楽しむことができると社員には好評です。
(参考:http://www.trustring.jp/recruit/04.html)
5.特別休暇の導入の仕方と気をつけるべきポイント
5-1. 目的を明確にする
特別休暇制度を設けるに際して大切なことは目的を明確にすることです。休暇中は労働義務を免除するわけですから、制度を導入することで企業と社員の双方にとって良い効果を生み出すものでなければなりません。
例えば以下のような目的が考えられます。
・社員のモチベーションを上げるため
・社員の定着率を上げるため
・社員の働きやすさを改善するため
・社員間の交流を活性化させるため
・社員を大切にする企業というイメージを打ち出したい
・優秀な人材を採用したい
最近ではワークライフバランスを推進する制度が導入されることが増えています。ワークライフバランスの視点に基づいて制度を作ると、上記のような目的を達成しやすくなります。
ワークライフバランス(仕事と生活の調和)とは
働くすべての人々が「仕事」と、育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった「仕事以外の生活」との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方のこと。 |
5-2. 制度内容を決定する
目的をある程度絞り込んだら、目的に合った休暇をどのような形で付与するのか、具体的な制度内容を決めます。
5-2-1. 取得要件
どのような要件を満たしていればどの種類の休暇をどのくらい取得できるのかを明確にしましょう。ここを曖昧にすると労使間のトラブルを引き起こしかねません。
例えば、「3-1-2. 一般的な慶弔休暇の休暇日数」でも触れましたが、忌引休暇の場合は、不幸が起きた親族・家族と社員との関係(続柄)により、休暇日数の長さを変えることが一般的なので、細かく具体的に定める必要があります。
5-2-2. 対象者の範囲
特別休暇の対象となる社員の範囲を定める必要があります。特別休暇は正社員と、アルバイト・パートなどそれ以外の雇用形態では異なる条件で運用されることが一般的ですが、それぞれの適用範囲を具体的に決めておかないとトラブルが生じる可能性があります。
5-2-3. 有給か無給か
先にも書いたとおり、特別休暇を有給にするか無給にするかは各企業の裁量に任されています。現実的には、すべての種類の特別休暇が有給か無給で統一する必要はありませんので、特別休暇の種類ごとに有給か無給かを決めることができます。
5-2-4. 取得手続き
特別休暇を取得するための手続きについてもはっきりと決めておく必要があります。申請の方法としては、書面で上司を通じて人事部に申請するというやり方が一般的です。
取得方法が部署ごとにバラバラだと、賃金計算の際に問題が生じたり、記録が残されないといった事態を招きかねませんから、手続き方法は統一し、全社に周知するようにしましょう。
5-3. 就業規則で規定化する
企業には休暇に関する取り決めを就業規則で規定化する義務がありますが、特別休暇もその対象となります。
就業規則に規定化した内容は、社員代表者の意見を聞いたうえで、所轄の労働基準監督局に届け出を行います。さらには全社員への周知を行うことで制度としての効力が生じることになります。
5-4. 社内に周知する
せっかく制度を設けても社員に知られていないのでは活用されることもありません。制度ができたら早めに全社に周知するようにしましょう。
周知の方法としては以下のような方法があります。
・メールでの一斉配信
・社内メルマガや社内SNSなどへの投稿
・社内掲示板への掲出
・社内報
この周知を怠ると、取得要件を満たした社員が特別休暇を取得する機会を逃してしまい、労使間トラブルに発展するケースもありえますので、制度の周知はとても重要です。
5-5. 休暇を取りやすい環境を整える
いくら良い休暇制度を導入しても、活用しづらかったら宝の持ち腐れです。
制度をつくっておしまいではなく、特別休暇制度を取得しやすいような環境を整えるようにしましょう。
・休暇が生産性の向上に役立つという同僚や上長の理解を深める
・休暇を取りやすい職場の雰囲気の醸成
・休暇中にフォローしてくれる人員の確保
・経営者や上長が積極的に制度を利用することで社員へアピール
以上のような施策を通じて休暇を取りやすくすることで、企業と社員が良い関係を築けることは間違いありません。
6.まとめ
以上見てきたように、法定休暇と異なり特別休暇は各企業の裁量にまかされています。そのため、社員のニーズをうまく汲み取り、制度に反映することができれば、
・社員のモチベーションの向上
・定着率の改善
・企業イメージの向上
などが期待できます。
特別休暇はワークライフバランスが課題となっている多くの企業にとって、またそこで働く社員にとって、大きな利点のある制度です。
この記事が、特別休暇制度を導入するための一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。