
ビジネス書で話題に上っている「ティール組織」という言葉は知っているけども、わかっているのは、これまでのマネジメント方法とは違うアプローチで組織を機能させるという概要のみ。成功例は海外が多いようだし、ファシリテーターは著者本人だけで日本語の関連書籍も少なめです。それに、そもそも日本の組織では通用しないんじゃないか、などティール組織採用のハードルの高さを感じている人事担当者は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、ティール組織についてよく知らない人・全く本を読んでない人でもよくわかる
1.ティール組織とは?
2.ティール組織が成功するのための3大要素
3.ティール組織のデメリット
4.組織がティールになるまでの5段階意識フェーズ
5.ティール組織に関した3大勘違い
6.ティール組織を取り入れている企業事例
をまとめました。
最後までお読みいただければ、
- なぜティール組織が世界で注目されるのか
- 自分の組織には取り入れ可能なのか
が把握でき、今後の組織運営の一案として検討・提案をすることができるようになります。また、参考ではありますが、最後にオススメ書籍として関連書を提示しましたのでご活用ください。
1ティール組織とは?
1-1.ティール組織の発案者
ティール組織の提唱者は、「ティール組織」の著者でもあるフレデリック・ラルー氏です。2014年にラルー氏が発売した本の中で、氏が「ティール組織」と名付けた、全く新しい組織モデルを構築した12組織が紹介され、その驚くべき成果を紹介したことがきっかけで、瞬く間に革新的なビジネス書として世界的ベストセラーになりました。日本での翻訳本は「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」として2015年に出版されています。
ラルー氏は世界最強のコンサルティング会社としても有名なマッキンゼー出身。そこでの経験を通じ、今世界に必要とされるのは論理でもなく、頭脳でもなく、競争でもない。長きに渡って共生できる未来的思考を持った組織なのではないかという考えに到達し、世界の様々な組織の発達段階を調査した結果、全く新しい組織階層として「ティール組織」という概念を生み出しました。
ティールとは色のことで、青と緑が混ざったような色をしています。これらはラルー氏による概念上の色分けです。各階層の詳細は第4章にて説明をしています。【参照:フレデリック・ラルー 公式ページ】
1-2.ティール組織の簡単な説明と特徴
ラルー氏が提唱するティール組織とは、私たちが今まで見聞きし、体験してきた組織・慣例・文化が根本的に違う、新しい組織のモデル(ひな型)です。特徴としては従来型の組織にあった下記のような
- ピラミッド式の上下関係
- 上下関係に関わる細かな規則や決まり事
- 定期的なミーティングや会議
- 売上目標や予算の設定
など、今までほとんどの組織で馴染みのある
- 組織構造
- 慣例・ルール
- 文化・社風・風土
のほとんどが撤廃されています。ビジネスの意思決定の権限・責任のほぼ全てが、経営者を含んだ管理者サイドから個々の従業員サイドへと譲渡され、組織と人材に革新的変化を起こすことができる「次世代型組織モデル」です。
ティール組織では、社内は全てが並列になります。それは、組織の全員が同じ細胞でできた、1つの目的を持った「集団(生命体)」や、同じ目的や志を持ったもの同士が集まる「共同体」に近いイメージです。その結果
- 管理者は不要になる→上司不在のフラットな関係性で仕事をする
- 全員が同じ目的のことをするので全員が同じ給与→それでもOKなら契約する
- 指示命令系統がない→対話メインで仕事が進行する
ようになります。
組織のあり方を根本的に覆す概念ですので、参加者全員に組織と仕事への意識変革が必要になります。ですので、ティール組織になることは、組織が変化するというよりは、組織が違う段階へシフトすること、と受け取る方が良いでしょう。
2.ティール組織が成功するための3大要素(=メリット)
ティール組織の三大要素と書きましたが、この要素はそのままティール組織の三大メリットでもあります。
1.セルフマネジメント
ティール組織でのセルフマネジメントとは、自主経営の意識を持ち、「全体の結果を出すために必要なだけの仕事量をあれこれ全部やる」ことに関した感覚とコミットメントの強さを指します。
ティール組織では、意思決定に関する権限と責任を全メンバーが持っています。その結果、メンバー全員が他人からの指示や承認無しで仕事の目標設定と動機付けをし、それによって組織運営がされます。
セルフマネジメントという言葉自体は従来型の組織でも使われてきており、それは「権限委譲」「組織構造の簡略化」などを意味しましたが、ティール組織にはそもそも部門がありませんので、簡略すべき組織も、委譲すべき権限も最初から存在すらしていません。固定した部門や役職がない代わりに、ティール組織では、状況に合わせて生まれる担当・階層・チーム・ルールがアメーバのように作られ、臨機応変に対応をします。
例えば、問題解決をする場合。
通常の組織では責任者に問題が起きてから報告があり、解決方法を責任者が指示してメンバーがそれに従います。もし問題が悪化してもそれは責任者の責任になります。ティール組織の場合は、メンバーの中で「問題になりそうなことに気づいてしまった人」が解決すべき課題を自らみんなに提案し、その問題や事情に詳しいメンバーからのサポートやアドバイスを参考にしながら、チームを作ってみんなで課題の解決に取り組みます。
問題の状況や進捗をシェアをしながら互いに意見を出し合い、最終的には最も賛同者の多い解決策を使って課題を解消していきます。みんなで決めたことですので、どういう結果でも、それが最善の結果であると受け止めます。このような臨時組織は、問題解決とともに自然解散し、デフォルトの状態に戻っていきます。
このような働き方は「組織に起きたことを自分のこととして考える」という発想がないと成立せず、セルフマネジメントの「セルフ」の中には、個人という自分と、組織体の一部としての広義な自分が含まれています。
2.全体性
「仕事場でも、ありのままの自分でいられる、仮面を被らないでも良い」という考え方です。著書ではホールネス(Wholeness)と表現されています。今までの組織論だと、どうしても会社にとって有用な部分だけを「是」とし、それ以外の部分は切り捨てる傾向があるため、役職に関係なく「会社での顔」「プライベートでの顔」の使い分けが必要でした。
ティール組織では、そのような個人の全体性を部分的にしか表現させないような環境は、組織が決めた役割に対して自分を整合させることに大きなエネルギーを消費することになるため、その人が持つ本来の力を発揮する以前に疲弊させる、甚大なエネルギーロスであるという考え方をし、リソースを十分に使えていないとみなします。
例えば、人間ですから
- 今日は体調悪いから家で寝ていたい
- 妻が出産だが、下の子がまだ幼いから1人にできない
- 夫婦の両親が入院して、お金も時間も、もう手一杯だ
- 下の子供が熱出した、なのに上の子が骨折した、もう無理
- 恋人に別れを切り出された、死にたい
など、仕事の能力とは関係なく、仕事をバリバリとやる気になれない・出来ないタイミングというのは誰にでもあります。従来型の組織では、そんな時でも「組織人としての仮面」をつけて、その人の全体的な状態を無視した組織の役割・組織の顔に自分を無理にでも押し込めることが組織人としての評価すべき態度とされてきました。
ティール組織では、そういう「やる気になれない自分」「いま頑張れない自分」もひっくるめて、そのままの状態で会社に来てもいいんだよ、という組織での在り方が許され、受容されます。その人は組織の一部なのだから、その人の全ても我々は受け入れる、という全体性への姿勢があらゆるシーンで貫かれます。その日は効率が悪くてもいい、そういう日もあるよ、お互い様だよねと互いにカバーし合って、労わりあうことができる状態の組織が全体性です。
イメージとしては、例えば足を捻挫した時、体の他の部分が筋力をカバーしながら歩きやすいように体全体でバランスを取って歩行しますが、そのように、本調子でない部分を互いに補完し合って組織全体のバランスを整えながら通常運営をするという考え方です。存在そのものを否定されないことにより、本人が安心感を持って組織に帰属できる上に、自分の全てを組織に持ち込めるため、結果的にダメージからの回復も早まるという利点があります。
3.組織の存在目的
ティール組織では「組織の存在目的に対し、自分らしく貢献できるかどうか」をシンプルに、しかし強く訴えかけてきます。従来型の組織では、自分の会社が競争で勝ち抜き・生き残ることが最大最高の存在目的であり、組織は常に生産性拡大をしながら生き残りをかけて戦い続けていました。しかし、それは組織の存在目的であり、個人レベルでの存在目的や「らしさ」は必要とされません。
ティール組織では、組織をひとつの生命体のようなものとみなすので「生き残り」の概念がありませんので、自らの存在のために必死に戦うという考え方そのものがありません。生命体と同じように、必要な時に誕生し、役割が終われば消滅するという自然の巨大なサイクルの1つとして組織を俯瞰しています。代わりにティール組織では、より精神的な希求、より大局的な存在目的が組織のテーマになります。例えば
- 自分たち(組織)が心から望んでいることは何だろう
- 自分たち(組織)は世界になにを提供できるか
- 自分たち(組織)独自の才能は何だろう
- 世界では何が障害になっているか、何に困っているのか
- どうすれば、組織の中でより自分らしく生きられるようになるのか
などの、「存在そのもの」に対する、より高次な発想と理想の実現が評価の対象になります。
上記の例を見ていただけるとわかる通り、組織と個人の間にあまり境界がありません。ティール組織では、個人の在り方と組織の在り方とがある程度シンクロしている必要があり、そのシンクロしている部分がその組織で働くモティベーションになります。別の言い方をすれば、この存在目的の合致が少なければ、または少なくなれば、自然とその人はその組織からは離れていきますが、それはお互いにとって最良最善のことなのです。
個人の存在目的と組織の存在目的が合致していれば、組織の中には自然と自分にとって心地の良い居場所が形成されます。組織と本人たちの目的が合致しているため、メンバーが望めば新しい仕事へチャレンジできる可能性もありますし、人によっては多才な技能をあらゆるところで使えます。やればやるほど、自分も組織も、そして社会も幸せになるポジティブな連鎖が起きます。
ティール組織にとっての存在目的は「それをすることで、あなたと組織が共に満たされるかどうか」が大命題であり、仕事という限定された枠組みを超越した、この世での自分の在り方そのものに対する方向性の合致が、かつての組織でいうところの「我々のミッション」となります。
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