
企業経営における組織の在り方、働く者すべての環境について、近年は日本でも時代や環境の変化とともに考えられることが増えています。働き方改革の推進などがその好例といえるでしょう。
その中で、ウェルビーイング(well-being)という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
この記事では仕事にかかわるウェルビーイングについて説明します。読み終わったときにはウェルビーイングとは何か、働くこととどのようにかかわり、この概念をどう活用していけばよいのかが理解できるでしょう。
ウェルビーイング経営に重要な「心理的安全性」を高めるなら|Unipos
1.企業経営や働き方におけるウェルビーイングの定義
ここではウェルビーイングの定義と、日本のビジネス分野におけるウェルビーイング導入の経緯について説明します。
1-1.ウェルビーイングとは
ウェルビーイングとは、言葉本来の意味は「良い状態(であること)」「幸福(な状態)」という意味です。
このウェルビーイングという言葉は、元々は社会福祉・医療・心理などの分野で使われていた用語ですが、昨今ではビジネスにかかわる分野で使われることが増えてきました。
ビジネスの分野、特に企業経営や従業員の働く環境を考えるとき、ウェルビーイング(well-being)とは「従業員一人ひとりの幸福(=心身ともに健康的な状態であること)が、組織にとっても良い方向に働く」ことを示します。
この考え方は、世界保健機構憲章における条文においての「健康」の定義から発展させたものといえます。
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.” 「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。」 ――引用元:世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会仮訳) https://www.japan-who.or.jp/commodity/kensyo.html |
ウェルビーイングの概念、「心身の健康的な状態、従業員一人ひとりの幸福」をビジネスの現場に浸透させ活用させることで、より良い状態で働くことが可能になる、つまり
・働く環境(ハード面のほか、人間関係などソフト面も含む)の改善
・働くことへのモチベーションアップ
・会社や仕事を通じて、個々の積極的な社会参画の推進
などにつながると考えられています。
1-2. 日本におけるウェルビーイングの導入の経緯
現在の日本は超高齢社会に突入しており、今後は医療や福祉の分野において財政不足や人手不足など、さまざまな問題が起きるとされています。
何より若年人口の慢性的な不足から、労働力の不足が深刻な問題となっています。
また社会環境や考え方・価値観の多様化により、戦後高度経済成長の頃などは日本で一般的だった「社員の自己犠牲のうえに成り立つ企業経営(慢性的な超過勤務やサービス残業など)」が、最近では否定されています。社員それぞれが「自分らしく働く」ことのできる環境が求められています。
・労働生産性の向上
・離職率の低下
・社員の就業満足度の向上
これらを実現するため、2019年4月1日から「働き方改革関連法案」が部分的に施行され、順次実施されています。
以上の一環として、「働くことにおける幸福」を実現するべく、ウェルビーイングも注目されている傾向にあると考えられます。
2.従業員がウェルビーイングを得ることの4つのメリット
ウェルビーイングの制度を整えるのは企業ですが、従業員がウェルビーイングの制度を活用し、仕事における幸福感を得られなければ意味がありません。ここではウェルビーイングの考え方が導入されることによって従業員が得られるメリットを説明します。
2-1. 自分にとっての「幸福=心身ともに健康的な状態であること」を定義できる
自分は仕事でどうあればウェルビーイングであるといえるのか。どういう状態が仕事で満足できている状態なのか、いま一度考えるきっかけになります。
2-2. 人間関係が改善される
人間関係の改善も職場におけるウェルビーイングの実現には不可欠です。職場におけるストレスの多くは人間関係からくるものだと関連付けている研究結果もあります。
(参考:「看護師のウェルビーイングとコミットメント・職場の人間関係との関連性」澤田忠幸 愛媛県立医療技術大学『心理学研究』2013年,第84巻第5号,pp.468-476 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/84/5/84_468/_pdf)
ウェルビーイングの概念と制度が取り入れられることで、企業主体で職場での人間関係改善に取り組むことが期待できます。
2-3. 職場環境や勤務制度が改善される
例えば、サービス残業や、慢性的な超過勤務はウェルビーイングと対極にあるものといえます。
ウェルビーイングの制度を実践する企業では、組織全体で「従業員の、心身ともに健康的な状態」を実現するよう働きかけるため、上記のような状態が蔓延する劣悪な職場環境ではなくなると考えられます。
働きやすさを実現するため、有給休暇の自由な取得や、家庭の事情によって時短勤務が許される、自主裁量により出勤時間などに縛られないなど、さまざまな施策があり、実際に導入している企業も現在増えてきています。
2-4. 従業員の生産性や創造性が高まる
ウェルビーイングを高めることで、従業員の生産性や創造性が高まるという調査結果があります。
「「幸せな社員は不幸せな社員よりも、創造性が3倍高い」という研究」「幸せな社員は不幸せな社員よりも、労働生産性が1.3倍高い」という研究」が、アメリカや日本で結果として提示されているそうです。
(引用元:「幸せな社員は創造性3倍、労働生産性1.3倍 働き方改革における幸福度の重要性を説く/ウイングアークフォーラム2017 東京」https://logmi.jp/business/articles/243410)
「社員の幸せ」つまりウェルビーイングが、組織全体の躍進と好循環をつくり出すといえるでしょう。
3.社員のためにウェルビーイング定着させる4つの具体的な方策
ここでは企業にウェルビーイングの制度、考え方を定着させるにはどのような具体策があるのかを見ていきます。
3-1. ウェルビーイングを「見える化」できるツールを導入する
ウェルビーイングは「幸福度」という「概念」のため、実際にどの程度社員一人ひとりが実際に得られているのか、満足できているのかは見えづらいといえます。
これを解決するには、例えばアンケートを実施する、お互いに評価しあうなどの古典的な方法のほかに、社内SNSなどのツールを導入することで社員のコミュニケーションを円滑にし、さらに「感謝」「尊敬」などを互いに見える状態で送りあうなど可視化する方法があります。
実際にこの方法ではモチベーションアップや業務効率化など、一定の効果が見られます。
ほかにも、心拍数や体温、行動情報を端末で計測し「ウェルビーイングな状態かどうか」を可視化するものもありますが、やや大がかりなシステムになるため導入には一定のハードルが想定されます。
その点社内SNSなどコミュニケーションを図る方策の方が手軽といえるでしょう。
<参考:組織におけるウェルビーイングの具体的な状態とあり方> ビジネスにおけるウェルビーイングの概要は1章で説明しましたが、「組織」における、働く人にとってのウェルビーイング(幸福な状態)とは具体的にどういう状態を指すのかを簡単に説明します。 この内容は、3章の「ウェルビーイングを測定するツールの導入」にも関連します。 (1)「良い組織」に共通する要因「ウェルビーイング」 「良い組織」とは何かを考えたとき、「良い組織」に共通する要因としてウェルビーイングが存在する、という見解が示されています。(参考:「「石川善樹氏 : Well being(ウェルビーイング)という視点 ~ 良い組織とは何か?」https://co-growth.jp/sokisenryokuka001-1/) このことからも、企業という組織が働き手にとって「良い組織」になるためには、ウェルビーイングの浸透が不可欠といえるでしょう。 (2)ウェルビーイングを構成する2つの要素「評価」と「体験」を高めるために 元来のウェルビーイングは、「評価」と「体験」2つの要素から成り立つとされています。 企業という組織においても、この2つを「高める」ことが、より幸福度を上げる=ウェルビーイングにつながると考えられます。 この場合の「評価」と「体験」は、いわゆるスキル評価や業務の経験を積むことではなく、 「評価(=多くの尊敬を集めること)」 「体験(=仕事をして笑顔になること)」 とされています。 「1日の終わりに感情を振り返る」ことで「その日1日の自分の評価が自分自身の中で高まる」。 「仕事をして笑顔になる」ことで「よりよい体験を積み重ねポジティブな思考へつながる」。 これらは自分自身で自己評価と体験の価値を高め、幸福度を上げるプロセスですが、他者から同じことを与えられても当然幸福度は上がります。 例えば、 ・自分の仕事ぶりに感謝の言葉を送られた ・同じ仕事をしているメンバーと一緒に、仕事の中で笑顔がたくさん出た これらが、仕事の中で仲間たちから感謝や尊敬を言葉(またはそれに類するもの、SNSのスタンプやメッセージ)で届け合い、仲間同士で共有することで、自分自身で高める以上にウェルビーイングは高まり、仕事への喜びやモチベーションがアップすると考えられます。 共に働く仲間同士が感謝・賞賛の言葉を送り合うことでウェルビーイングを高める「Unipos(ユニポス)」の詳細はこちら (3)「信頼」があることが大切 上記の「良い組織」には「信頼」があることが不可欠ともいわれています。 お互いの信頼を得るためには責任ある仕事とともに、適切なコミュニケーションが必要です。
以上のことから、これらの要素を実現できるコミュニケーションツールなどを試してみることも、ウェルビーイングを高め「良い組織」をつくるためのひとつの方法といえるでしょう。 |
3-2. 福利厚生などの充実を図り十分に使われるよう工夫する
例えば家賃補助、食事補助、健康診断や人間ドックの受診をはじめ、保養施設の利用・その他会員制サービスの活用など、多くの企業で福利厚生制度は整備されています。
一方で、これらの制度が形骸化し、十分に社員に使われていない、制度が周知されていないなどの問題も多く見られます。
制度があっても社員が忙しすぎて使えないのでは、ウェルビーイングからはほど遠いと言えるでしょう。
社員が制度を「使いやすい」ような工夫が必要です。
3-3. コミュニケーションの取りやすい環境へ改善する
社員同士の円滑なコミュニケーションや人間関係が見える風通しのよい社風づくりが必要です。
そのためには、例えばハード面ではオフィスのオープンスペースとパーソナルスペースの配分を見直すなどの方法があります。またオフィスを、仕事に集中しやすいカラーやデザインにリフォームするなども考えられます。
ソフト面では、社員同士の親睦を深めるイベントを行ったり、サークル活動を推奨するなどの方法があります。こちらは社員の負担になっては本末転倒なので、あくまでも業務に支障をきたさず、社員同士が楽しめる範囲にとどめることが肝要です。
ほかには3-1で紹介した、SNSツールの導入による、感謝や尊敬をオープンにする「賞賛しあう文化」を定着させる方法があります。
社員の声がお互いに届きやすい、上げた声が拾いやすい仕組みをつくることで、何か問題があったときにすぐ解決でき、さらなる改善につながり、ひいては社員のウェルビーイングにつながっていきます。
これはGoogle社が実践した「心理的安全性」の改善も同じ考えに基づいており、実際に社員のウェルビーイングの向上と業務効率化アップに効果が見られたことが報告されています。
(参考:Google社「「効果的なチームとは何か」を知る」
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/)
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3-4. ウェルビーイング向上のために取り組みを「継続」する
ウェルビーイング向上のために始めた制度は、続けなければ効果は実感できません。
ウェルビーイングは幸福度という概念のため、すぐに効果が出たかどうかはわかりづらい面があります。しかし、すぐにやめたり、制度の朝令暮改を繰り返していては、社員は振り回され、余計に疲弊するばかりです。
企業において社員のウェルビーイングを高めるための取り組みは、継続し、さらによくするにはどうすべきか調査し、改善し続けることが大切です。
4.まとめ
ウェルビーイングは、社員一人ひとりが健康に、ポジティブに働く環境をつくることで高まります。
ウェルビーイングに着目し、企業内に効果的にウェルビーイングの概念にそった制度を導入、実践することで、社員のモチベーションアップや生産性向上につながることが期待できます。
人材の確保や離職率低下、ひいては企業全体の発展のために、この記事が役立てれば幸いです。