
働き方改革で長時間労働の是正が叫ばれる昨今、改めて「ワークライフバランス」の取り組みを見直す企業が増えています。
しかし現場では、
「会社でワークライフバランスの取り組みをすることになったけど、具体的には何をすれば良いんだろう?」
…と“戸惑いの声”が多く聞かれるのが現実ではないでしょうか。
「ワークライフバランスの取り組み」といっても、どういう方法で進めたら良いのか、わかりづらいものです。実際に、下記のようなつまずきを経験する企業が後を絶ちません。
・取り組み方法を検討しているうちに、長い期間が経過してしまった
・取り組みは行ったものの、現場に定着せず準備時間がムダになった
「ワークライフバランスを充実させるべきだ」という考えは確かにその通りですが、「実行」するとなると、なかなか難しいのです。
そこでこの記事では「ワークライフバランスへの取り組み」に焦点を当て、現場ですぐに役立つ実践法をご紹介します。
①ワークライフバランスの正しい取り組みステップ
②ワークライフバランス度ランキングBEST3企業の取り組み
③取り組みを行う上での注意点
最後までお読みいただくと、ワークライフバランスの取り組みをどう進めていったら良いのか、明確になるでしょう。
ワークライフバランスの取り組みを成功させ、より良い職場環境に導くために、さっそく続きをご覧ください。
1.ワークライフバランス実践の正しい取り組み方法とは?
ワークライフバランスの取り組みを行う際には、いきなり取り組みの実行を行うのではなく、必要なステップを踏んでいくことが大切です。
この章では、ワークライフバランスの取り組みをどんな流れで行ったら良いのか、そのステップをご紹介します。
1-1.調査→計画→実行→定着の4ステップ
ワークライフバランスの実現は、「調査→計画→実行→定着」の4ステップで行います。
①調査
この4ステップでワークライフバランスの取り組みを進めるにあたり、まず重要になるのが「調査」です。良い計画を立てるためには、多くの情報が必要です。
具体的には、次の情報を収集しましょう。
・ワークライフバランスについて:他社事例、法的背景、支援制度など
・現状の把握:社内制度と利用実績、従業員の意識、課題の発見など
②計画
情報がそろったら「計画」を立てます。
このフェーズではまず、調査で得た情報に基づき、目的と目標を設定します。「会社として何のためにワークライフバランスを推進するのか」「具体的にどうなったら成功と判断するのか」という指標を明文化しましょう。
目的・目標が設定できたら、それを実現するために最適な制度や施策を検討し、導入計画を立てていきます。
③実行
計画が完成したら、いよいよ「実行」のステップです。プロジェクトチームの発足、社内への周知、トップメッセージの発信などを通じて、実践に移していきましょう。
④定着
ワークライフバランスの取り組みの成功は「定着」させられるかどうかにあります。定着のために下記を行います。
・最初に設定した目的・目標に照らし合わせた達成状況の評価分析
・評価分析結果に基づいた改善
・ワークライフバランス取り組みに特化した人材の育成
以上の4ステップが、基本的なワークライフバランスの取り組み方となります。
1-2.取り組みの具体的な制度リスト
前項の「計画」のステップでは、できる限り具体的な社内制度や施策を計画しましょう。そうしないと、ワークライフバランスの実践が「社内の意識改革」だけに依存してしまい、形骸化するリスクがあります。
ワークライフバランスの具体的な取り組み制度は、大きく次の5つに分けられます。
①休暇の取得促進
②労働時間の柔軟化
③多様な勤務スタイル
④残業時間の削減
⑤福利厚生サービス
それぞれ、具体的な例は以下の通りです。
取り組み |
具体的な例 |
①休暇の取得促進 |
育児休暇、介護休暇、誕生日休暇、ボランティア休暇、リフレッシュ休暇、アニバーサリー休暇、半日休暇、サバティカル休暇 など |
②労働時間の柔軟化 |
時短勤務、フレックス制、裁量労働制 など |
③多様な勤務スタイル |
在宅勤務、テレワーク、コンプレストワークウィーク、勤務地限定制度 |
④残業時間の削減 |
残業申告制度、ノー残業デー、残業免除制度 など |
⑤福利厚生サービス |
企業内託児所、家事代行サービス・ベビーシッターの利用料負担など |
これらは、自社での取り組みを考える上でのヒントになるでしょう。さらに発展させて、独自の制度を創出するのもおすすめです。
愛社精神・エンゲージメント向上施策に潜む7つの落とし⽳とは|社内施策を進める上でのポイントを徹底解説
2.ワークライフバランス度ランキングBEST3企業の取り組み
ワークライフバランスの取り組みを検討する上では、他社事例が大いに参考になります。
この章では、ワークライフバランス度ランキング・BEST3企業の事例をご紹介しましょう。
第1位:富士フイルム
第2位:ソニー
第3位:パナソニック
参考:働きやすい会社ランキング vol.8 ワークライフバランス度ランキング
2-1.【第1位】制度の充実度が圧巻の「富士フイルム」
富士フイルムは、ワークライフバランスに関する制度が大変充実しています。仕事と育児・介護の両立支援制度、看護休暇制度、介護休暇制度を新設するなど、多岐にわたるサポート体制が魅力的です。
具体的な制度は、下記表の通りです。
<富士フイルムのワークライフバランスに関する制度>
出産・育児 |
・産前産後期における支援制度 ・育児休職制度 ・育児目的によるストック休暇利用 ・育児期に就業する者への支援制度 ・育児休業から復職時の3者面談の実施 ・看護休暇制度(該当する子が1人:年間6日、2人以上:年間11日) ・短時間勤務制度(小学校3年生まで) ・不妊治療目的によるストック休暇利用 ・不妊治療目的による休職制度 ・所定外労働制限・休日労働の免除措置 ・育児休職後の原則元職場復職制度 |
介護 |
・介護休職制度 ・介護休暇制度(要介護者が1人:年間12日、2人以上:年間24日) ・介護目的によるストック休暇利用 ・介護期に就業する者への支援制度 ・介護の相談窓口拡充 |
その他 |
・ボランティア休職制度/ボランティア目的によるストック休暇利用 ・自己啓発目的によるストック休暇利用 ・アクティブライフ休暇制度 ・フレックスタイム制度 ・裁量労働制度 ・定時退社日(週2日)の設定 ・再入社制度 ・在宅勤務制度 ・時間単位有休制度 |
引用:人事・労務に関する情報:富士フイルム| 富士フイルムホールディングス
ライフバランス度ランキング・ナンバーワン企業らしく圧巻の充実度ですが、特徴的なのが「ストック休暇」です。
ストック休暇は、有給休暇の失効分を60日まで積み立てることができる制度です。傷病やリハビリ、育児、介護、ボランティア目的などで使用することができます。
たとえ有給休暇の取得が期限までにできなかったとしても、いざというときに失効分を使用できるストック休暇。「本当に従業員のライフが助けられる制度」という意味で、ワークライフバランスの本質を捉えた制度であるといえるでしょう。
ここに、富士フイルムのワークライフバランスへの取り組み姿勢が表れているのではないでしょうか。
2-2.【第2位】時代に合った支援制度が魅力の「ソニー」
ソニーでは、「高収益のサステナビリティを支えるのは社員一人ひとりのサステナビリティである」という考えを掲げています。
そのために社員の健康維持と、仕事とプライベート双方の充実が欠かせないと捉え、ワークライフバランスの充実が図られています。
具体的な取り組み制度は、下記表の通りです。
働き方 |
・フレックスタイム制 ・裁量労働制 ・フレキシブルキャリア休職 ・フレキシブルワーク制度 |
育児・介護 |
・育児休職 ・育児短時間勤務 ・育児支援金 ・育児休暇 ・年次有給休暇の時間単位使用 ・育児期フレックスタイム制度 ・ベビーシッター費用補助 ・休職キャリアプラス |
ソニーでは、育児や介護で休職する社員に対し、単に休暇を提供するだけでなく、キャリアを構築できる職場風土の醸成を推進しているのが特徴的です。
例えば「育休前セミナー」という、産前休暇に入る方を対象に、育児休職中の期間に必要な知識・情報を提供し、これまでのキャリアの振り返りを行いながら、復帰後のキャリア形成を支援する制度があります。
さらに、2018年には保育所に入園できないことにより、復帰が難しかった社員の仕事との両立を支援するために、保育事業者と提携を行っています。
常に時流を見ながら、その時代に合った支援制度をスピーディに導入していくソニーの姿勢は、ワークライフバランスに取り組む上でお手本となります。
2-3.【第3位】定着させる工夫を怠らない「パナソニック」
パナソニックは、多様な働き方を支援する姿勢を強く打ち出している企業です。
「e-Work」と呼ぶ時間や場所に制約されない効率的な働き方を推進しており、約4万人の社員を対象に「在宅勤務制度」を導入しています。
ほか、具体的な制度の例は、下記表の通りです。
<ワーク・ライフ・マネジメントを支える制度の例> 育児休業 子どもが小学校就学直後の4月末に達するまでのうち通算2年間取得可能
ワーク&ライフサポート勤務 短時間勤務、半日勤務、短日勤務など、育児や介護との両立を図るための柔軟な勤務制度
ファミリーサポート休暇 家族の看護や介護、子どもの学校行事などのために幅広く利用できる休暇制度
育児応援カフェポイント 残業や子どもが病気の時に託児サービスを利用した場合、会社が費用の一部を補助
チャイルドプラン休業 不妊治療のための休業制度
介護と仕事との両立支援のための総合プラグラム ・介護セミナーの開催、介護に関する情報を掲載したポータルサイト開設 ・介護に直面した際の相談対応・手続き支援 ・介護応援カフェポイントとして日常発生する介護費用の半額を会社が補助 ・介護休業は要介護者1人につき通算365日まで取得可能、また通算183日以内の休業については賃金の70%および社会保険料の個人負担分相当額を支給 ・その他、介護融資制度の設置など |
引用:多様な働き方支援 – CSR・環境 – 企業情報(パナソニック)
パナソニックでは「両立応援ガイドブック」が【仕事と妊娠・出産・育児編】と【仕事と介護編】の2種類あり、会社制度の理解促進を図るとともに、上司のマネジメントガイドとして機能しているのが特徴的です。
ワークライフバランスの制度を作るだけでなく「定着」させるための工夫が随所に見られ、それがパナソニックのワークライフバランス度を押し上げているといえるでしょう。
3.政府がまとめた成功事例のリンク集(38社)
前章では、特にワークライフバランス度の高い3社の取り組み事例を取り上げました。
さらに、他の企業の取り組み事例も確認したい場合には、政府が取りまとめた事例集が便利です。
以下にリンク集を掲載しますので、必要に応じてご参照ください。
▼14社の企業事例掲載
社内におけるワーク・ライフ・バランス 浸透・定着に向けたポイント・好事例集(内閣府)
▼ 9社の企業事例掲載
企業事例 – 「仕事と生活の調和」推進サイト – 内閣府男女共同参画局
▼15社の企業事例掲載
男性の働き方改革・意識改革に向けた職場のワーク・ライフ・バランス推進のための取組事例集
4.ワークライフバランスの取り組みを行う上での注意点
ここまでお読みいただいた方は、早くワークライフバランスの取り組みを始めようと、実際の構想が頭を巡り始めているかもしれません。
そこで本章では、取り組みながらつまずきやすい2つの注意点をお伝えします。この2点に留意しつつ、取り組みを推進していってください。
4-1.法定を上回る制度を整備する
ワークライフバランスは、企業を良くするためだけのものではありません。企業は、各種法令によって法的な義務を負っている側面があります。
ワークライフバランスの取り組みを行う上では、法定を上回る制度を整備する必要があります。ワークライフバランスに関連する法令には、次のものがあります。
<ワークライフバランスに関連する法令>
・女性活躍推進法
・育児介護休業法
・育児・介護休業法
・男女雇用機会均等法
・次世代育成支援対策推進法
・高年齢者雇用安定法
・労働契約法
・労働基準法
詳しくは、内閣府が運営する仕事と生活の調和」推進サイトの「法律・制度など」のページが参考になります。
ワークライフバランスの取り組みを行う企業担当者は正しい知識を身に付け、法令にのっとって制度の整備を進めましょう。
4-2.経営陣やマネジャーが率先して制度の活用を促す
素晴らしい社内制度を準備しても、現場に定着しなければ意味がありません。経営陣やマネジャーが、率先して制度の活用を促す必要があります。
例えば、2.の「ワークライフバランス度ランキングBEST3企業の取り組み」でご紹介したパナソニックの事例では「両立応援ガイドブック」が、制度の理解促進と上司のマネジメントガイドに活用されていました。
また「制度を活用しやすくする社内雰囲気づくり」も重要になります。
例えば、女性経営者のクリスティン・エドマン氏は、CEOを務めるジバンシィ・ジャパンで「早く帰りなさい」「バケーションはいつ取るの?」と言って回る“社内パトロール”をしているそうです。
「早く帰ること、休むことは『なまける』ことではない」と彼女は言います。「休暇は効率性をアップさせ、部下の成長を促す」という考え方が根底にあります。
実際に、8年間社長を務めたH&Mジャパンでは残業を減らし、遠慮なく長期休暇が取れる環境をつくって、業績も向上させています。
経営陣・マネジャー陣がどのような姿勢を見せるべきなのか、大いに参考になるのではないでしょうか。
参考:上司が休んで成果が上がる組織のつくり方 | PRESIDENT WOMAN | “女性リーダーをつくる”
5.まとめ
ワークライフバランスを実践する際には「①調査→②計画→③実行→④定着」の4ステップを行い、順を追って進めることが大切です。
具体的な取り組み制度は、大きく次の5つに分けられます。
①休暇の取得促進
②労働時間の柔軟化
③多様な勤務スタイル
④残業時間の削減
⑤福利厚生サービス
ワークライフバランス度ランキングBEST3企業の取り組みには、ワークライフバランス実践のためのヒントが詰まっています。
【第1位】制度の充実度が圧巻の「富士フイルム」
【第2位】時代に合った支援制度が魅力の「ソニー」
【第3位】定着させる工夫を怠らない「パナソニック」
さらに多くの企業事例を確認したい場合には、政府がまとめた成功事例集が便利です。
実際に取り組みを行う上では、次の2点に留意してください。
①法定を上回る制度を整備する
②経営陣やマネジャーが率先して制度の活用を促す
本記事でお伝えしたことを参考に、あなたの会社のワークライフバランスが大きく改善し、従業員の働きやすさに直結することを願っています。さっそく取り組みをスタートしてみてください。