
スマートフォンやその他デバイスが急速に普及したことにより、使い慣れた個人使用の端末を仕事にも使う方がコストもかからず、業務効率が良いということで話題になるのがBYODという考え方です。海外ではすでに多くの企業が採用していますが、日本ではセキュリティ問題への懸念から、二の足を踏む企業が多い傾向があります。
しかし、働き方改革によるリモートワークやテレワークといった「どこでもオフィス」「いつでもオフィス」するワークスタイルが増えるに従い、社外で業務に必要な情報を閲覧でき、メールやスケジュール管理ができるBYODは、働きやすさの観点から採用する企業が増えていく可能性があります。
そこで今回は、BYODに関して
1.BYODとはーBYOD導入は「将来的に避けて通れない可能性が高い」
2.BYOD導入のメリット
3.BYOD導入のデメリット
4.BYOD導入とセキュリティの課題
5.BYOD導入3事例
をまとめました。最後までお読みいただければ、BYODを総合的に把握でき、自社にとって必要なワークスタイルであるかなどの判断に役立ちます。また、自社の社員にとってBYODがあることで働きやすさややりがいを感じる職場にするための一助にもなります。
1.BYODとは
1-1.BYODとは
BYODは”Bring Your Own Device”の頭文字をとったもので、直訳すれば「自分の端末を持ってくる」になります。
転じて、社員個人が所有している
- スマートフォン
- タブレット
- ノートPC
といった私用デバイスを「会社の業務」で利用することを指します。
今までは、私的デバイスの社内持込み・利用は、企業の情報漏えい等に発展する可能性があることから、業務での使用はもちろんのこと、オフィス内に私物デバイスを持ち込むこと自体を禁じているのが主流でしたが、近年のスマートフォンとタブレットの普及により、社内業務のうち
- 電話
- メール
- SNS
- スケジュール管理
- 報告業務全般
- 画像確認
などは携帯できるデバイスを使用して行うのが一般的になり、個人所有のデバイスを業務利用まで広げた方が効率よく仕事ができるビジネスシーンが増えました。その結果、情報漏洩などのリスクを整備した上で、私的デバイスを業務用にも正式に利用しようというのが、BYODという仕事の考え方です。
【参照:BYOD】
1-2.BYODの「デバイス(端末)」とは何を指すのか
BYODで定義するデバイスとは、インターネットなどを介して企業情報にアクセスできるデバイス全てが当てはまります。具体的には以下のような機器になります。
- パソコン(ノート、2in1など)
- タブレット端末
- スマートフォン
- (USB)フラッシュメモリ
- SDカード
- HDD
1-3.BYODの導入率の現状
BYODの導入率について、米国企業Cisco社が世界8カ国・従業員1,000人以上の大企業・500人以上の中小企業に対して行った2012年度のアンケート調査によれば、この時点ですでに世界の企業のうち89%が何らかの形でBYODをしていることがわかっています。
BYODを取り入れている企業では、従業員にデバイスとアプリケーションの選択肢があり、プライベートと仕事を融合できるため、従業員自身がBYODを望んでいます。さらに、従業員がいつ・どのように・どのツールを使って仕事を成し遂げるかの判断を、従業員が主体的に行えるため、現場の管理責任者らを含めた上司たちもBYODを肯定的に捉えている傾向があります。
しかしながら、日本国内ではセキュリティへの懸念から、BYODに対する懐疑的な姿勢が色濃く残っており、導入に対して積極的ではありません。2015年に野村総研が東証一部・二部上場企業3,000社に対して行った調査した結果によると、国内企業では6割の社員が私用デバイスを業務には使っておらず(禁止されていなくても)、BYOD利用の認識差が国内外とで広がりつつあります。
【参照:Cisco株式会社 「BYOD:グローバルな観点」】
【参照:株式会社野村総合研究所ICT分野の革新が我が国経済社会システムに及ぼすインパクトに係る調査研究 】
1-4.BYODは導入するべきか?
結論から言えば、BYODは将来的には避けては通れないでしょう。
スマホ・タブレットなどのデバイス普及に合わせて次々と改良される次世代通信(現・5Gなど)によってさらなる高速通信が可能になると、企業で支給するデバイスと個人所有デバイスとの間にスペック格差がなくなります。場合によっては一台にかけられるコストは個人所有の方が高いケースもあり、働き方改革のリモートワーク推進なども手伝って、従業員はより快適で効率的に快適に仕事ができるBYODを求めるようになるでしょう。
このような社会背景を企業が放置してしまうと、結果的に「シャドーIT」というセキュリティの脆弱性を企業が抱えこむことになります。シャドーITとは、企業が許可をしていないデバイスです。例えば、従業員が「良かれと思って」業務上のメールや資料などを、個人端末で確認するなど、企業が許可をしていないデバイスを使って業務をしてしまう行為も含まれます。
この行為により、情報漏洩率・ウイルス感染率は上がってしまうのですが、従業員はより使いやすい自分の端末で業務時間外などに自宅などからアクセスをして効率を図ろうとします。このようなシャドーIT状態を防ぐには、従業員が使用する個人のデバイス管理を企業側がするしか方法がなく、それは結果的にBYOD促進に繋がっていきます。
平成30年度総務省の調査では、すでに個人のスマートフォン保有率はPC保有率を上回っていることから、スマートフォンとタブレット普及は今後も加速度的に拡張し続ける傾向にあり、個人が高性能なデバイスを所有する割合は増えていきます。それに伴い、IT部門の参入によるセキュリティ対策またはMDMなどの管理ツールで対策を講じた上でのBYODを企業は検討せざるを得ないでしょう。
【参照:総務省 情報通信白書】
【参照:総務省 通信利用動向調査】
【参照:シャドーIT】
2.BYOD導入のメリット
BYODのメリットを、企業と個人の両方の視点からまとめました。
2-1.BYOD導入:企業のメリット3つ
①業務効率化
業務の効率化が期待できます。社員が自分のデバイスからあらゆる業務にアクセスできるため
- オフィスに戻る手間と時間が不要
- ビジネスの相手を待たせない
- 常に最速・最新の情報を所有できる
など、従来のような「オフイスに戻らないと仕事ができない」「一旦、社に戻って検討」などの時間と場所の制約・制限が無くなります。
②コスト削減
多くの場合、BYODでは社員が購入するデバイスを自分で選んで、支払いには企業からの補助金を充当します。社員は一台のデバイス(ハード)で自分用と業務用の両方をまかないますので企業は
- デバイスの初期導入費
- ソフトウェアのライセンス料(デバイス保有者が個人のラインセンスを所有しているケースが多いため)
- 保守コスト一般
の削減が期待できます。また、新入社員へのデバイスの使い方指導セミナー(デバイス企業主催・有料)などの省略も可能です。
③シャドーITのリスクを回避
1章でも触れた、従業員が「良かれと思って」業務効率のために仕事のメールや資料などを、企業が使用を認めていない個人のデバイスでアクセスする「シャドーIT」行為による情報漏洩とウイルス感染リスクを回避できます。
【参照:シャドーIT】
2-2.BYOD導入:従業員(個人のデバイス所有者)のメリット3つ
①デバイス管理が楽
社員は社用と私用2台のスマートフォンを充電して持ち歩く必要がなくなり、デバイス管理がシンプルになります。また、紛失リスクも一台分だけになります。
②使い慣れたもの・好きなものを使える
自分の気に入ったデバイスで、すでに操作方法なども熟知しているものを使用しますので仕事が楽になり、業務効率が上がります。端末操作のために新人(社員・契約・派遣・アルバイト)がヘルプデスクへの問い合わせなどをする必要がなくなり、必要な仕事に即入れます。
③テレワーク・リモートワーク推進
自分が普段から使用しているデバイスを企業のツールとして使えるようになると、働き方改革にもあるリモートワーク・テレワークという、離れたところから仕事をするという働き方の選択肢が増えます。
これにより、社員はワークライフバランスを大事にしながら、企業の一員として生産性向上と業務効率化を両立することが可能です。
【参照:厚生労働省ガイドブック テレワークではじめる働き方改革】
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