あなたの会社の離職率は高い?業界別の平均と、経営者が今すぐ取るべき3つの改善アクション

「最近、社員の退職が続いているけれど、うちの会社って大丈夫なのかな?」

そんな不安を感じている経営者・人事の方も少なくありません。
離職率は、組織の「健康状態」を示す重要なバロメーターです。人が辞めるという現象は単なる人員の入れ替えではなく、採用コスト・生産性・信頼関係など、企業全体に大きな影響を与えます。

この記事では、まず最新の業界別離職率の平均データをもとに、自社がどの位置にあるのかを客観的に確認します。
そのうえで、離職率が高い会社に共通するリスクの見極め方と、経営者が今日から実践できる改善アクション3選を紹介します。
数字だけにとらわれず、「なぜ辞めるのか」「どうすれば定着するのか」という本質に迫りましょう。

マネジメント強化による従業員のエンゲージメント向上!

目次

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  1. まず押さえたい ― 離職率とは何か?平均から見える“危険ライン”
    1. 離職率の正しい計算式 ― あなたの会社の現状を数字で把握する
    2. 離職率算出時に必ず確認すべき2つのポイント
    3. “高い”と判断される離職率はどこからか?
  2. 2024〜2025年最新データ|業界別離職率ランキングと背景要因
  3. 自社の離職率が高いときに現れる「3つの危険サイン」
    1. ① 若手・新入社員の早期離職 ― 育成よりも“孤立”が原因
    2. ② 特定部署で退職が続く ― 上司・評価・心理安全性の欠如
    3. ③ 退職理由が分析できていない ― “見えない問題”が最大のリスク
  4. 離職率を下げる3ステップ|経営者・人事が今日から実践できる改善策
    1. ステップ1|現状の可視化 ― データと“社員の声”を同時に見る
    2. ステップ2|承認と称賛の文化をつくる ― 離職を防ぐ“内発的動機”の仕組み
    3. ステップ3|1on1と対話のルールを再設計する ― “心理的安全性”を軸に
  5. 離職率を下げるには「制度」よりも「信頼構築」
    1. 実践事例 ― 関西みらい銀行が実現した“称賛文化による離職率改善”
    2. 「強制ではなく自然に」――日常の中に感謝を根付かせる工夫
    3. 可視化された成果 ― モラール指標がグループ内で最高水準に
    4. 「称賛文化」は人と組織をつなぐ“社会的インフラ”
    5. 実践事例2|保育業界で離職率を27%改善したハイフライヤーズの称賛文化改革
    6. 「日常の称賛」を仕組み化 ― 感謝を可視化する文化改革へ
    7. 離職率27%改善 ― “感謝が循環する組織”がもたらした効果
    8. 称賛文化は“離職対策”ではなく“信頼構築”の基盤
  6. 離職率は“数字”ではなく“組織の体温計” ― 経営の健康を映す指標
    1. 離職率を改善することの本質的な意味
    2. 離職率改善の3ステップ
  7. よくある質問(FAQ)― 経営者・人事担当者が抱く離職率の疑問
    1. Q1:業界平均より離職率が高い場合、どれくらい危険?
    2. Q2:新卒と中途採用の離職率は分けて分析すべき?
    3. Q3:離職率が低い企業にはどんな共通点がある?
  8. まとめ ― 離職率は“経営力の鏡”

まず押さえたい ― 離職率とは何か?平均から見える“危険ライン”

 

離職率とは、一定期間に退職した従業員の割合を示す指標です。
経営においては、組織の安定性やエンゲージメントを可視化する“経営の健康指数”として活用されます。離職率が高止まりしている場合、業務の属人化・採用コストの増大・心理的安全性の低下など、組織のさまざまな問題が水面下で進行している可能性があります。

厚生労働省の「令和5年雇用動向調査」によると、2023年の日本全体の平均離職率は15.4%
この数値は、企業が自社の離職状況を客観的に判断する際の“基準ライン”といえます。
ただし、離職率の高さが即「悪」とは限りません。
例えば、スタートアップや営業職のように流動性が高い業種では20%を超えるケースも珍しくありません。
しかし、自社の離職率が業界平均より20%以上高い場合、それは「危険ライン」に到達している可能性が高く、早期の原因分析と改善策の検討が必要です。

離職率を正しく読み解くことは、経営戦略の起点です。
「人が辞める」のではなく、「なぜ辞めるのか」を数値から読み取り、改善の糸口をつかむことが、これからの人材マネジメントに求められています。

項目

具体例

集計期間

会計年度、暦年など

対象従業員の範囲

正社員のみ、契約社員も含む、パート・アルバイトも含むなど

離職率の正しい計算式 ― あなたの会社の現状を数字で把握する

離職率を正確に把握することは、組織の“今”を定量的に可視化する第一歩です。
感覚ではなく数値で現状を把握することで、経営判断の精度が大きく変わります。
まずは、最も一般的に用いられる離職率の算出式を確認しましょう。

離職率 =(特定期間の離職者数 ÷ 期間開始時の在籍者数)× 100

例えば、ある企業で4月1日時点の在籍者数が100人、そこから1年間で10人が退職した場合、
離職率は「(10 ÷ 100)×100=10%」となります。
このように、離職率は期間と対象範囲の設定によって数値が大きく変動します。
したがって、**「どの期間を対象にするのか」「誰を含めるのか」**を社内で統一しておくことが重要です。

離職率算出時に必ず確認すべき2つのポイント

設定項目内容の例

集計期間

会計年度、暦年など。年単位で統一するのが一般的

対象従業員の範囲

正社員のみ/契約社員・パート含むなど、組織方針に合わせて設定

こうして算出した離職率は、単なる数字ではなく経営判断に活用できる指標になります。
以下のような目的で定期的にモニタリングすることで、組織の課題を早期に発見できます。

  • 業界平均・過去データとの比較によるトレンド把握

  • 離職増加の兆候をいち早くキャッチ

  • 改善施策の効果検証と経営会議での共有

離職率の変化は“組織の体温計”です。定期的に測定し、異変を早期に察知することが、安定した人材基盤づくりにつながります。

“高い”と判断される離職率はどこからか?

離職率には明確な合格ラインが存在するわけではありません。
とはいえ、年間10%前後を一つの目安として考える企業が多い傾向にあります。
この数値を大きく上回る場合は、職場環境やマネジメントに何らかの構造的課題が潜んでいる可能性があります。

ただし、離職率の高さは業種や年齢層によって大きく異なります。
たとえば、厚生労働省の調査(令和6年時点)によると、**新卒入社3年以内の離職率は34.9%(大卒)・38.4%(高卒)**とされています。
つまり、新入社員3人に1人以上が早期離職しているのが現実です。

また、企業規模別に見ると、従業員数100〜299人の中堅企業では15〜21%前後と高止まりする傾向があります。
一方、従業員規模が大きいほど離職率は安定する傾向が見られます。

さらに、スタートアップや成長期の企業では事業拡大に伴う負荷やミッション変更が離職の一因となる場合もあります。
そのため、離職率を評価する際は、業界・企業規模・成長フェーズの3軸で相対的に判断することが重要です。

離職率の高い業界TOP5(2023年)

離職率

離職率の低い業界TOP5(2023年)

離職率

宿泊業,飲食サービス業

30.4%

電気・ガス・熱供給・水道業

9.2%

生活関連サービス業,娯楽業

26.3%

製造業

9.7%

サービス業(他に分類されないもの)

21.3%

建設業

10.7%

卸売業,小売業

18.6%

金融業,保険業

11.2%

教育,学習支援業

16.2%

情報通信業

11.8%

2024〜2025年最新データ|業界別離職率ランキングと背景要因

自社の離職率が高いのか低いのかを判断するためには、まず業界全体の傾向を把握することが欠かせません。
ここでは、厚生労働省の最新「雇用動向調査(令和5年版)」をもとに、業界別の離職率をランキング形式で整理しました。
自社の位置を客観的に確認することで、採用・定着戦略の見直しや課題発見のヒントが得られるはずです。

以下の表は、2023年の主な産業別離職率をまとめたものです。
離職率が高い業界・低い業界のトップ5を比較してみましょう。

ランキング産業名離職率(2023年)

1位

宿泊・飲食サービス業

30.4%

2位

生活関連サービス・娯楽業

22.9%

3位

医療・福祉

14.6%

4位

卸売・小売業

13.2%

5位

建設業

11.7%

製造業

9.7%

電気・ガス・水道業

9.2%

全産業平均

15.0%

  • 厚生労働省:雇用動向調査(令和5年)

  • Bizリジョブ:「業界別離職率ランキング」

  • Edenred:「離職率が高い業界の共通点」

自社の離職率が高いときに現れる「3つの危険サイン」

自社の離職率が業界平均よりも高い場合、それは単なる「人が辞めた数」ではなく、
組織の奥深くに潜む構造的な異常値のサインかもしれません。
離職率という“結果の数字”だけを追っていると、根本原因を見逃し、対策が後手に回る危険性があります。

特に、採用コストの増加・現場の疲弊・リーダー人材の流出といった副作用は、
中長期的な経営リスクとして企業全体にダメージを与えかねません。

ここでは、離職率上昇の前に現れる3つの危険サインを整理します。
「まだ間に合う」段階でこれらに気づけるかどうかが、定着率改善の分岐点になります。

① 若手・新入社員の早期離職 ― 育成よりも“孤立”が原因

若手層の離職は、企業にとって最もコストの高い離職です。
厚生労働省の「令和6年調査(2021年卒)」によると、大卒3年以内の離職率は34.9%
特に、入社後のオンボーディングが不十分な企業ほど離職率が高まる傾向があります。

離職理由の多くは制度や給与ではなく、「心理的な孤立」
リモートワークやハイブリッド勤務の浸透により、職場でのつながりが希薄化し、
「誰に相談していいかわからない」「感謝される機会がない」と感じる若手が増加しています。

孤立のサインは、数字よりも行動に現れます。

  • チャットや会議での発言が減る

  • 1on1で「特に問題ありません」と言いながらも表情が硬い

  • 社内イベント・Slack称賛スレなどに不参加が続く

これらの兆候を放置すれば、離職の連鎖が起こります。
心理的安全性の再構築とピア承認(Uniposなど)の導入が、最初の一手となるでしょう。

参考:日本経済新聞「若手社員の早期離職が過去最高に」

② 特定部署で退職が続く ― 上司・評価・心理安全性の欠如

会社全体ではなく「一部の部署だけ退職が続く」という場合、
その背後にはマネジメント品質の劣化があります。

特に問題となるのは次の3タイプの上司です。

  • 高圧的でフィードバックが攻撃的

  • 過度に細かいマイクロマネジメント型

  • 放任型でサポートが乏しい

これらの管理職のもとでは、部下の自己効力感が低下し、
「頑張っても報われない」「意見を言うと損をする」という心理が蔓延します。
結果として、部署単位で離職が連鎖します。

加えて、曖昧な評価制度や不透明な査定プロセスも離職の火種です。
ある調査では、退職理由として「上司と合わない」(48%)、「評価に納得できない」(48%)が上位を占めています(リサーチデータ:AMEand社)。

③ 退職理由が分析できていない ― “見えない問題”が最大のリスク

最も深刻なのは、退職の「本当の理由」が社内で把握できていないケースです。
退職時のアンケートや面談で「一身上の都合」と回答される背景には、
評価への不満、人間関係のストレス、キャリア停滞への不安など、**“語られない問題”**が潜んでいます。

リクルートマネジメントソリューションズの調査では、
退職者の56%が本音を会社に伝えずに退職していると回答しています。
この“ブラックボックス化”こそが、経営リスクです。

分析できない離職は、他の社員の不満の増幅装置となり、
「退職の連鎖」や「サイレント離職(Quiet Quitting)」を引き起こします。

🔧 対策の方向性

  • 退職面談を外部機関や匿名調査に委託し、本音データを可視化

  • 離職率と**エンゲージメントスコア(eNPS)**をセットでモニタリング

  • 離職理由を分類し、経営層への定期レポート化

退職理由の分析ができない状態は、
まさに「組織の健康センサーが壊れている」のと同じです。
経営陣こそが、データに基づく早期検知と対策を主導すべきです。

離職率を下げる3ステップ|経営者・人事が今日から実践できる改善策

離職率の上昇を放置すると、採用・育成コストの増加、社員の士気低下、生産性の悪化など、企業全体に深刻な影響を及ぼします。
さらに、ノウハウや顧客関係といった無形資産が失われ、取引先からの信頼低下にも直結します。
このリスクを食い止めるには、「感覚」ではなくデータと仕組みで定着率を上げる戦略的アプローチが必要です。

ここでは、離職率を下げるために経営者・人事がすぐに取り組める3つのステップを紹介します。

ステップ1|現状の可視化 ― データと“社員の声”を同時に見る

離職率改善の出発点は、現状を事実ベースで把握することです。
「誰が、いつ、なぜ辞めているのか」を明確にすることで、改善の方向性が見えてきます。

1. データ分析で“どこで問題が起きているか”を特定する

  • 部署別・年代別・勤続年数別の離職率

  • 残業時間、平均有給取得率

  • エンゲージメントサーベイ(eNPS、Q12など)

これらを定量的データとして可視化することで、「離職が集中している部署」や「年代層」を明確にできます。
特にエンゲージメントサーベイは、社員の“関与度”を測る重要な指標です。

2. 社員の声を定性データで補完する

数字だけでは捉えきれない要因を明らかにするため、

  • 退職者へのエグジットインタビュー

  • 在籍社員への匿名アンケート
    を実施し、「なぜ離職が起きるのか」を深堀ります。

定量(データ)と定性(声)を組み合わせることで、真の課題構造を特定できるのです。

💡 例:若手離職が多い部署では、データ上「勤続1年未満で退職」が目立ち、匿名アンケートで「メンター不在・相談しづらい」が原因と特定できる。
⇒ 対策:育成制度の再設計・ピアメンター制度導入。

🔍 参考:
AMEand HR Pentest「定着率改善の成功事例」
MS&Consulting「エンゲージメント調査の活用法」

ステップ2|承認と称賛の文化をつくる ― 離職を防ぐ“内発的動機”の仕組み

離職率改善で最も効果が高いのは、「承認の仕組み」を組織文化に組み込むことです。
マズローの欲求段階説にあるように、人は金銭報酬よりも**「自分が価値ある存在として認められている」**と感じたとき、最も強いモチベーションを発揮します。

承認文化を育てる3つの具体策

  • ピアボーナス制度
     社員同士が感謝と報酬を送り合うことで、称賛の文化を日常化する(例:Unipos)。

  • サンクスカード・社内SNS投稿
     「ありがとう」を可視化し、心理的安全性を醸成する。

  • 定例会での称賛発表
     行動や成果を具体的に共有し、「評価される文化」を根付かせる。

これらは一過性の施策ではなく、**日常の行動に承認を組み込む“仕組み化”**が鍵です。
経営者・管理職が率先して称賛の行動を見せることで、組織全体にポジティブな連鎖が広がります。

🔍 参考:
Unipos公式ブログ「感謝を可視化するピアボーナスの効果」
DHB Review「承認文化が生産性を高める」

ステップ3|1on1と対話のルールを再設計する ― “心理的安全性”を軸に

多くの企業で導入されている1on1が、単なる「業務報告会」になっていませんか?
離職防止のための1on1は、対話の質と目的を明確にする必要があります。

効果的な1on1再設計の4ポイント

  • 目的の再定義:上司ではなく、部下のための時間と位置づける

  • 上司の役割:コーチ・相談相手として傾聴に徹する

  • 実施頻度と継続性:月1〜2回の定期実施で関係の信頼を構築

  • 心理的安全性の担保:「否定しない」「共感する」をルール化する

これにより、社員が安心して課題やキャリアの悩みを共有できる環境を作ることができます。
1on1の目的は“管理”ではなく“信頼形成”です。
1on1を継続する組織ほど、エンゲージメントスコアと定着率が有意に向上しています(カオナビ調査)。

離職率を下げるには「制度」よりも「信頼構築」

離職率を下げる本質的な施策とは、
制度や給与を単発で変えることではなく、社員が「自分はここに必要とされている」と感じる体験を継続的に設計することです。

そのための3つのステップは次の通りです。

  1. データと声で現状を可視化する

  2. 承認と称賛を日常に仕組み化する

  3. 信頼を軸にした対話を再設計する

このサイクルを回し続けることが、
「離職が止まらない組織」から「人が育ち、残る組織」へと変化する最短ルートです。

実践事例 ― 関西みらい銀行が実現した“称賛文化による離職率改善”

関西みらい銀行は、2019年の関西アーバン銀行と近畿大阪銀行の統合を経て誕生した地方金融グループだ。
しかし合併後は、店舗統廃合や人員再配置による業務負荷の増大に直面。
現場では、従業員間のつながりが希薄化し、特に若手行員の間で孤立感が強まるなど、組織の疲弊が深刻化していた。
加えて、コロナ禍によるリモート業務の増加が、社員同士のコミュニケーションをさらに難しくしたという。

こうした状況を打開するため、同行では「称賛文化の醸成によるエンゲージメント向上」に舵を切った。
その中核となったのが、社内SNSツール「Unipos(ユニポス)」の導入である。
同行ではツールを親しみを込めて「Mecha!(めっちゃ!)」と名付け、
社員同士が感謝や称賛を送り合える仕組みとして運用を開始した。

「強制ではなく自然に」――日常の中に感謝を根付かせる工夫

関西みらい銀行では、称賛文化を単なる制度として導入するのではなく、
“自然に続けられる習慣”として根付かせることを重視したという。
運用設計においては、次のような工夫が施された。

  • 1on1ミーティングの補助ツールとして活用
     称賛投稿をきっかけに対話を深め、部下の努力や貢献を具体的に承認する機会を増やした。

  • 管理職研修への組み込み
     「承認とは何か」「称賛がチームに与える影響」をテーマに、マネジメント研修を体系化。

  • 経営層が率先して参加
     社長をはじめとする経営陣も投稿に参加し、組織全体でポジティブな文化づくりを推進した。

これらの取り組みは、“上から押しつける制度”ではなく、
社員一人ひとりが「日々の小さな貢献を互いに認め合う」環境を整えることを目的としていた。

可視化された成果 ― モラール指標がグループ内で最高水準に

導入後、同社では年1回実施している従業員意識調査の結果に明確な変化が現れた。
特に「チームへの信頼」「組織への愛着」「他者への感謝意識」といったモラール関連項目で、
りそなグループ内でも最も高い上昇率を記録したという。

また、課題となっていた若手行員の離職率も改善傾向が見られ、
人事部門では「空気が明るくなった」「職場で感謝の言葉を聞く機会が増えた」といった声も上がっている。

経営層のコミットメントと、現場の日常行動を変える仕組みの両輪が、
離職率改善の成果を後押ししたと考えられる。

「称賛文化」は人と組織をつなぐ“社会的インフラ”

関西みらい銀行の事例は、称賛を単なるモチベーション施策ではなく、
**組織の心理的安全性を支える“社会的インフラ”**として捉え直した好例といえる。
同社では、称賛文化の浸透によってチーム間の信頼関係が強化され、
結果として生産性や定着率の向上につながった。

経営層が「称賛を戦略的にマネジメントする」姿勢を示すことが、
社員の自己効力感を高め、長期的なエンゲージメント維持につながる――
それを裏づけた実践事例といえるだろう。

実践事例2|保育業界で離職率を27%改善したハイフライヤーズの称賛文化改革

厚生労働省の調査によると、保育士の離職率は全体で9.0〜9.3%と一見低い水準に見えるが、
私立保育所に限ると公立の約1.8倍
と高く、特に経験6年未満の若手職員が6割以上を占めている。
職場の人間関係や感情労働による心理的負担が離職理由の上位に挙がるなど、
“人は足りているのに続かない”という構造的な課題を抱えているのが現状だ。

株式会社ハイフライヤーズも、こうした業界特有の定着課題に直面していた。
職員同士の連携不足や感謝の言葉が届かない風土が、現場のモチベーションを下げ、
結果として離職率の上昇を招いていたという。

「日常の称賛」を仕組み化 ― 感謝を可視化する文化改革へ

同社が取り組んだのは、「称賛文化」の定着を通じて職員の心理的安全性を高めるというアプローチだった。
その第一歩として、職員同士が気軽に感謝や称賛を伝え合えるITツールを導入。
業務の中で発生する“ちょっとした支援や工夫”をリアルタイムに共有できるようにした。

これにより、従来は埋もれがちだった小さな努力や気遣いが可視化され、
「ありがとう」「助かりました」といった肯定的なフィードバックが自然に交わされるようになった。

さらに、定例ミーティングでも**「よかった行動を共有する5分間」**を設け、
称賛を組織文化として習慣化。
同僚を褒めることが当たり前になることで、チーム内の空気が少しずつ明るく変化していったという。

離職率27%改善 ― “感謝が循環する組織”がもたらした効果

取り組みから一定期間が経過した後、ハイフライヤーズでは離職率が27%改善するという顕著な成果が現れた。
数値的な変化にとどまらず、職員からは次のような声が寄せられている。

「職場の雰囲気が前向きになった」
「上司からの言葉が増えて安心できるようになった」
「“見てくれている”という実感が、仕事のやりがいにつながった」

このように、感謝や称賛が日常的に飛び交う環境は、
保育という感情労働の多い現場において、ストレス軽減とモチベーション維持の両面で大きな効果を発揮した。

称賛文化は“離職対策”ではなく“信頼構築”の基盤

ハイフライヤーズの事例は、「称賛」を単なるモチベーション向上策ではなく、
組織の信頼関係を再構築するための戦略的施策として位置づけた点に特徴がある。

社員同士の承認が増えることで、チームの心理的安全性が高まり、
その結果としてエンゲージメントと定着率の両方が改善した。
保育という「人のケアを担う」仕事において、
まず職員自身が“ケアされている実感”を持てる職場を作る――。
その文化的土壌こそが、離職率改善の本質的な鍵であることを示す好例だといえる。

離職率は“数字”ではなく“組織の体温計” ― 経営の健康を映す指標

離職率とは、単に社員が会社を辞めた割合を示す「数字」ではありません。
それは、組織の健康状態を可視化する**“体温計”のような指標**です。
体温が高い=離職率が高い状態が続く企業では、その裏側に「構造的な病巣」が潜んでいる可能性があります。

たとえば、若手社員の早期離職が目立つ場合は、育成環境やコミュニケーションの不足が背景にあるかもしれません。
また、特定部署で退職が集中する場合は、上司のマネジメントや評価制度への不信、
そして「意見を言いづらい雰囲気(心理的安全性の欠如)」が影響している可能性もあります。
さらに、退職理由が“本人都合”で片付けられている場合は、課題が分析されず、見えないリスクが蓄積している危険信号です。

離職率を改善することの本質的な意味

離職率の改善は、「辞める人を減らすこと」だけが目的ではありません。
それは、社員が安心して働ける組織文化を再構築するプロセスでもあります。
企業の離職率が低下すれば、採用・教育コストの削減だけでなく、
生産性やチームの一体感、企業ブランドの向上といった多面的な効果が得られます。

実際、エンゲージメントが高い企業ほど離職率が低下する傾向があり、
ある研究では、健全な組織文化を持つ企業は離職率を最大65%低減できることも報告されています。

離職率改善の3ステップ

離職率を「経営課題」として捉え直すためには、次の3ステップを実践することが重要です。

  1. 現状の可視化 ― データと社員の声を分析し、問題の根本を特定する

  2. 承認と称賛の文化 ― 感謝を可視化し、エンゲージメントを高める

  3. 1on1と対話の再設計 ― 継続的なコミュニケーションで信頼関係を育む

これらのステップを通じて、離職率を“数字”から“気づきの指標”へと転換できます。
社員が安心して働き、挑戦できる職場環境づくりこそ、経営の持続可能性を高める最善の投資です。

よくある質問(FAQ)― 経営者・人事担当者が抱く離職率の疑問

ここでは、経営層や人事部門が直面しやすい「離職率に関する3つの実務的な疑問」に答えます。
自社の現状を見つめ直すための参考にしてください。

Q1:業界平均より離職率が高い場合、どれくらい危険?

業界平均を上回る離職率は、経営上の「危険信号」と捉えるべきです。
単なる人員流出ではなく、コスト・生産性・ブランドの三重損失をもたらす可能性があります。

たとえば、早期離職1名あたりの損失は**年収の30〜60%**に相当します。
採用・教育コストが重なり、人的リソースが枯渇すると、現場の疲弊が連鎖的に拡大します。

コスト項目金額の目安補足

中途採用コスト

約28.9万円

2019年平均値

新卒採用コスト

約93.6万円

2019年平均値

紹介会社経由

離職者の年収の約35%

高額傾向

さらに、離職が続くと「定着しない企業」というレッテルがつき、採用競争力の低下にもつながります。
したがって、早期に原因を可視化し、対話型の改善策を打つことが必須です。

Q2:新卒と中途採用の離職率は分けて分析すべき?

はい。新卒と中途は別々に分析すべきです。
両者では、入社時の期待値・離職理由・定着要因がまったく異なります。

  • 新卒の主な離職要因:組織文化とのミスマッチ、キャリアパスの不透明さ、リアリティショック

  • 中途の主な離職要因:期待とのギャップ、即戦力プレッシャー、スキル活用機会の欠如

それぞれに対して以下のような改善策が有効です。

離職タイプ有効な施策目的

新卒社員の離職

オンボーディング・メンター制度

帰属意識と育成の安心感を醸成

中途社員の離職

ジョブマッチング・評価制度見直し

スキルと報酬の整合性を確保

新卒・中途を区分して分析することで、ピンポイントな改善施策が打てるようになります。

Q3:離職率が低い企業にはどんな共通点がある?

離職率が低い企業には、共通する3つの文化的特徴が存在します。

組織文化の要素具体的な取り組み社員への効果

心理的安全性

ピアボーナス制度・称賛文化

意見発信が活発化し、信頼関係が強化される

成長支援

1on1ミーティング・キャリア設計

モチベーションと定着率の向上

情報の透明性

経営層がビジョンを発信

組織目標との一体感を醸成

特に「心理的安全性」が高い組織では、社員が失敗を恐れず意見を出せるため、
挑戦と改善が文化として循環し、結果的に離職率が低下する傾向があります。

まとめ ― 離職率は“経営力の鏡”

離職率を「体温計」として活用することは、企業の健康診断を行うことと同じです。
社員の声に耳を傾け、称賛・承認・対話の仕組みを整えることで、
組織の温度は確実に変わっていきます。

離職率改善の本質は、人を引き止めることではなく、人が残りたくなる職場をつくること。
その一歩を、今日から始めましょう。