社内研修の実施目的と計画立案から実施までの流れを解説【企業事例】

「若手社員向けの社内研修の実施を命じられたけど、具体的な内容が思いつかない」
「社内の人材育成に注力したいけれど、その方法がわからない」

このようにお考えの人事担当者は、多くいらっしゃるのではないでしょうか?

グローバル化やIT化が進んだ現代社会においては、変化の激しい時代に適応できる人材の育成が不可欠になっています。社内研修は若手社員だけを対象にしたものではなくなっているのです。

今回は、社内研修を行う際に自社にふさわしい計画の立て方と注意点について、企業の導入例を交えながら解説します。

1 社内研修を実施する目的

企業における社員研修には、大きく分けて社内研修社外研修があります。
社外研修は研修に関するリソースを外部のサービスに委託して実施しますが、社内研修の場合は多くの部分を社内における内製で行います。

社内研修を行う目的としては、主に以下の3点が当てはまります。

・自社についての理解を深める
・ビジネススキル向上
・他の企業からの信頼の獲得

事前に実施目的を明確にしておくことが、社内研修の計画を立てる際の参考になるでしょう。

1−1 自社についての理解を深める

社内研修では社員に対し、自社についての理解を深めてもらう狙いがあります。
新卒者や中途採用者など、新入社員に対して行う社員研修は、経営理念や事業内容、自社の強みとする部分などを理解してもらう場として効果的です。

入社間もない新入社員にとって、自社の社会貢献度や業界内での立ち位置を理解することは、自身の担当業務に対するモチベーションのアップにつながります。

社員がキャリアを明確にし、長く勤められる土壌作りのためにも、社内研修による理解度の向上には大きな意味があるのです。

1−2 ビジネススキル向上

ビジネスマンとしての基本スキルを身につけてもらう場として、社内研修は効果的です。
ビジネススキル向上のために、接客や社内での対応力を磨いた先輩社員からの説明を受けることができます。

顧客折衝に関するスキルや、社内の稟議をスムーズに通すためのテクニックなど、社員としての成長を促すことが可能です。

1−3 他の企業からの信頼の獲得

社内教育によって社会人の基礎となるビジネスマナーを身につけた社員が増えると、社内の雰囲気もよいものとなっていきます。日々の挨拶や報連相の徹底など、全員が適切な距離感を持って接することで、社員間の団結を強める効果が期待できます。

規律が守られている企業の社員は、対外的には非常によく映ります。取引先でも社内と同様の適切なビジネスマナーを実践することが、好印象につながるからです。

取引先の企業との安定した関係性を保つ意味でも、社内教育には大きな意義があります。

2 社員に合わせた研修を設定する(階層別研修)

社内研修は新入社員や中堅社員、管理職など経験や役職に合わせた内容で実施するのが効果的です。
それぞれの立場に基づいた知識やスキルの向上が期待できます。

・若手社員:基本となるスキル
・中堅社員:コーチングやロジカルシンキング
・管理職の社員:リーダーシップ

社員のステージごとに社内研修を分けて内容を工夫することで、大きな成長へとつなげることができます。

2−1 若手社員:基本となるスキル

新卒者や第二新卒者などの若手社員へ向けた社内研修では、ビジネスマナーなどを教育します。
社会人としてだけでなく、企業に所属する一員としての自覚を持ってもらうことが重要です。

若手社員は社会人としての基本的な知識やスキルが身についていないため、そのまま業務に投入しても結果を出せないケースがほとんどです。そのため、まずは基本となるビジネスマナーの研修を実施しましょう。

基本的なスキルが身につけば自信となり、業務において興味を持ったり積極的に学ぼうとする意識が芽生えるからです。

業務に使うPCの基本スキルのほか、社内システムの把握、機密情報の取り扱い方など、基本的なことから学んでもらいましょう。社内外での対応力向上のためにも、コミュニケーション能力の向上が欠かせません。

2−2 中堅社員:コーチングやロジカルシンキング

入社から年数が経ち、業務においても安定感の出てきた中堅社員に対しては、コーチングやロジカルシンキングといった、業務効率化や思考力向上のための社内研修を実施するのが効果的です。

コーチングとは、直接答えを教えるのではなく、対話を通して相手の考え方や行動の選択肢を導き出すというものです。

コーチングの研修では、管理職や先輩社員として部下や後輩社員に対する接し方を学びます。部下や後輩社員を持つ機会が多くなる中堅社員に対し、きちんとした教育体制を整えてもらうための研修なのです。

一方的に意見を押し付けるのではなく、対象となる社員の意欲を引き出し、適切な目標設定やフィードバックを行う方法を理解してもらいましょう。

2−3 管理職の社員:リーダーシップ

管理職の社員に対しても、必要な研修は存在します。リーダーシップ研修の実施により、管理職として多くの部下をまとめ上げ、スムーズな組織作りを担ってもらう必要があるのです。

リーダーシップ研修では、部下への適切な目標設定や、課題解決能力の向上をめざします。
管理職が優れたリーダーシップを発揮することで、部下のモチベーションをアップさせられます。
各々の社員がコンディションを高めることで実現が可能な、業績のアップも期待できるでしょう。

3 社内研修の計画の立て方

社内研修を意味のあるものにするためには、目的に合わせた計画を立てる必要があります。
また、社内研修では受講者や企画者だけでなく、教育係を引き受ける社員など、大勢の人員の協力を必要とします。多くの時間とコストを要する為、意味のある研修にしなければなりません。

3−1 1.課題を抽出する

社内研修の計画を立てるに当たって、まずは自社の抱えている課題を抽出しましょう。売上不振や業界内でのシェア低下など、具体的な問題がそれにあたります。

小売業の場合、売上が低下している場合は、「商品の品質を高めるべきか」「サービスの質を向上させるべきか」など、具体的な解決策を浮き彫りにしましょう。

また、課題点は時代や市場の変化に合わせて変化します。常に社内の問題点を分析し、研修に盛り込んでいく姿勢が重要です。

3−2 2.研修の対象者を決める

課題の抽出を終えたら、次は社内研修の対象者を選定します。
自社の課題解決に対して、どの社員が研修の対象者としてふさわしいかを選んでいきましょう。

先ほどの小売店の例を出すと、以下のようになります。

・商品の品質を高めるべき場合
商品開発に関わる部門の社員に対して研修を実施する。

・サービスの質を向上させるべき場合
店舗で接客を行う社員に対して研修を実施する。

課題の意図を読み解き、研修を受けることで企業に貢献できる人材の選定を行いましょう。

3−3 3.目標を設定する

研修の対象者が確定したら、具体的な目標設定に移ります。
目的に対し、研修の実施によって社員の成長を実現させることが目標となります。
社内研修は社歴の長いベテランだけでなく、新入社員も受けるわけですから、立てる目標は具体的なものでなければなりません。

「サービスの質を向上させる」ことを目標に掲げた場合は、「社員の接客スキルを向上させる」だけでは具体性に欠けています。

社員の接客スキル向上のために適切なビジネスマナーを身につけ、顧客に再度来店してもらえるような接客を実現する」というように、内容を明確にするのです。

また、同じ新入社員でも新卒者と中途採用者は分けて考える必要があります。
新卒者はビジネスマナーの基礎から学ぶ必要がありますが、すでに身につけている中途採用者の場合は、即戦力としての活躍を促進するための、業務の早期理解に関連した目標を設定しましょう。

3−4 4.研修内容の選定  

研修内容の選定では、先述の通り新卒者と中途採用者、中堅以上の社員に応じて内容を決めていきます。
3章で解説した社員ごとに合わせた階層別研修が前提となりますが、目標に合わせてやり方を選びましょう。

新卒者へのビジネスマナー研修など、伝えるべき情報量が多い場合は座学が効果的です。
社内の担当者が講師となり、社員への説明を行います。実際に話を聞きながら、自分の中で吸収していくことで知識として身につけていくスタイルです。

中堅社員や管理職に対する実践的な研修の場合は、グループワークが効果的です。
座学と合わせて課題を設定し、参加者を複数のグループに分けてディスカッションしたり、集団で問題解決にあたるというものです。

グループワークでは他の社員と議論を交わす過程でさまざまな意見に触れられるため、社員の見識を広められる効果も期待できます。

3−5 5.講師を選出する

研修内容が確定したら、担当の講師を選出します。
社内研修の場合は社内から講師を選ぶことが多くありますが、専門の知識やスキルを持った人材を必要とする場合は、社外から講師を招くケースがあります。

社内講師と社外講師における双方の特徴は以下の通りです。

・社内で講師を選出する場合
ビジネスマナー研修など、社内の人事担当者や営業担当者などが代表して講師を務めます。
社内の人材なので別途コストがかからず、業務で培われたスキルを伝達する形になります。
講師は自身の業務と並行して講師をしなければならないめ、負担が増してしまう点に気をつけましょう。

・社外から講師を招く場合
社内にないスキルの保持者や、異業種の人材を講師として招きます。
実績のある研修を受けられるため、受講した社員が多くの気づきを得られる可能性が高まります。
外部から招く都合上、別途人件費などのコストがかかります。

3−6 6.アンケートを実施する

研修が終了したら、効果測定を実施します。方法としては受講した社員へアンケートを取ります。
研修を通して得られた知識やスキルなど、新たな気づきがどれくらいあったかを測定します。

研修の内容がターゲットに対してどれだけの効果を発揮したかを把握することで、次回以降の研修を組む際の参考にできます。

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4 社内研修の注意点

「社内研修を実施したから終了」という訳にはいきません。
研修の受講者が身につけた知識やスキルを実務で実践できているかを、きちんと確認する必要があるからです。

せっかく時間とコストをかけて実施した社内研修なのですから、目標が達成できていなければ無駄になってしまいます。

4−1 社員へのフォローをしっかりと行う

研修で身につけたことが日常業務で活かされているかも、重要な確認ポイントです。
研修の内容を管理職や先輩社員にも共有することで、きちんと実演できているかを把握できます。
意味のある研修内容にするためにも、実施後のフォローを充実させましょう。

受講した社員が「更なるステップアップのために新たな研修を受けたい」と思えるようになる、前向きな成長を持続できる仕組み作りが必要です。

5 社内研修を実施する企業例5

力を入れて社内研修を実施している企業例を5社紹介します。

・株式会社サイバーエージェント
・トヨタ自動車東日本株式会社
・マルハニチロ株式会社
・株式会社ニコン
・株式会社高島屋

企業規模の違いはありますが、変化する時代に合わせて活躍できる人材育成の側面が、非常に強いことがわかります。

5−1 株式会社サイバーエージェント

21世紀を代表する会社を創る」をビジョンとし、インターネット広告事業やインターネットテレビ局を展開する、株式会社サイバーエージェント。

同社では採用の強化に伴い、社員数が増加。新人3人に対して先輩社員1人が教える体制になり、従来のOJTを中心にした方法では人材育成が困難な状況に直面しました。

変化の早いインターネット業界において、社員が短期間で成長するための「次世代 インターネットマーケティング プログラム」である「JIP(ジップ)」を導入。

JIPは早期に活躍できる人材育成のための要素を細かく定義しており、その習得に必要な知識やスキル、考え方などをプログラム化しています。

また、「人材覚醒会議」という、社員が成長する方法を幹部が集まって議論する場を設けており、人材育成に活用。決定事項は翌月の組織変更に反映されるなど、スピーディーな体制作りにも応用されています。

マーケットで活躍できる人材育成に注力している同社では、社員に対して常に新しい成長機会を与えられるように注力し続けています。

参考:株式会社サイバーエージェント
https://www.cyberagent.co.jp/service/internetad/fact/detail/id=20302

5−2 トヨタ自動車東日本株式会社

「ものづくりは人づくり」とし、綿密な研修と育成制度を設け、自動車の知識がなくても業務を進められるようにしているトヨタ自動車東日本株式会社。

新入社員研修では「社会人としての意識付け」や「事務・技術職の基礎知識」などの内容を半年間にわたり実施します。社員としての自覚や責任感を強く持ってもらうことが目的です。

階層別研修を導入しており、社内でのキャリアアップにあたり必要となる、能力や知識を学べる教育体系を設定。管理職の場合はマネジメント研修を実施するなど、社員がキャリアプランを立てやすいよう、能力開発の支援を行っています。

参考:トヨタ自動車東日本株式会社
https://www.toyota-ej.co.jp/recruit/worklifebalance/training.html

5−3 マルハニチロ株式会社 

冷凍食品や缶詰などの製品を販売するマルハニチロ株式会社。食品会社の生命線である品質を保ち、高められる人財育成のために、品質教育を推進しています。

「表示研修会」や「品質管理研修会」「フードディフェンス研修会」「ISO研修会」「FSSC勉強会」「お客さま対応研修」「お客さまの声を傾聴するモニタリング研修」「CS研修会」などを実施。

食品衛生や製品管理に関するものだけでなく、顧客満足度の向上に関する研修まで多岐に渡ります。

これらの研修に対し、2018年度は3,300名以上の社員が受講しています。

マルハニチロ株式会社
https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/safe/training/

5−4 株式会社ニコン

カメラなどの精密機械やヘルスケアに携わる分野など、さまざまな事業を展開している株式会社ニコン。
同社では社員一人ひとりの自己実現のため、自主的な能力開発に取り組み、いきいきと働ける職場環境の実現に取り組んでいます。

新入社員に対しては、入社後の新人導入研修が終わり配属先が決まると、技術系と事務系とで異なる研修プログラムを実施しています。新人導入研修は座学のほか、グループワークも織り交ぜて行われます。

技術系の社員に対しては、基礎知識や先端の技術動向が学べる研修を実施し、知識だけでなく自身で感じる体験を通じ、広い視野を持てるよう育成します。

他にも、応募型のキャリアアップ支援のための研修が充実しており、管理職向けのものや語学、ビジネススキル研修などがあります。

参考:株式会社ニコン
https://www.nikon.co.jp/recruitment/environment/training.htm

5−5 株式会社高島屋

大手の百貨店である株式会社高島屋では、人を経営資源と考え、研修メニューを豊富に構築して人材育成を行っています。

社員が将来のキャリアビジョンを見据えながら、学習意欲に応じて受講可能な「高島屋商い塾」などの特徴的な制度があります。

高島屋商い塾は、入社時の基礎を学ぶ基本プログラムやキャリア形成のために必要な知識やノウハウの習得をめざす応用プログラム、ビジネスパーソンに必要な深い知識を身につけるための社外プログラムなどが充実しています。

基本プログラムでは、社内認定ライセンスである「接客販売技能検定」や「販売士」「ギフトラッピングコーディネーター」などの資格を得ることが可能です。

参考:株式会社高島屋
https://www.takashimaya.co.jp/corp/Saiyou/freshman/work/05_02.html

6 まとめ

社内研修を実施する際には、若手社員や中堅社員、管理職など勤続年数や役職に合わせた内容を設定する必要があります。

社内研修の計画の立て方は、以下の流れを参考にしてください。

1.課題を抽出する
2.研修の対象者を決める
3.目標を設定する
4.研修内容の選定
5.講師を選出する
6.アンケートを実施する

有名企業では、変化する時代に対応できる人材育成のために、社内研修に力を入れています。
貴社でも適切な社内研修を実施し、社員の能力開発と自己成長を促せる環境づくりに取り組んでいきましょう。

ただし、他の企業の取り組みをそのまま自社に活かせるとは限りません。企業規模や風土の違いがある上に、社員に対して求められる人物像が変わってくるからです。

まずは社内の課題抽出を行うなど、強みや弱みとなる部分を把握し、自社の成長を牽引できるような社員の育成につながる研修の実施をめざしましょう。

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