
人材開発助成支援金は、少し前までは「キャリア形成促進助成金」と呼ばれていましたが、2017年4月にコースの再編や、助成対象となる訓練の見直しが行われ、より導入しやすく改変されています。
社員の育成のための助成金ならば、ぜひ自社でも導入してみたいと思う企業は多いかと思いますが、対象者や申請手順や条件などを把握しようと厚生労働省のサイトやパンフレットを見ても、なかなか理解が進まないかと思います。
特に、社内に労務などの専門家が不在の場合、この件を誰に聞いて、どうアドバイスを貰えばいいのかお困りなのではないでしょうか。そこで今回は、人材開発支援助成金の中でも多くの企業が対象となるコースと、その対象者・要件などをピックアップし、
1.人材開発支援助成金とは
2.人材開発支援助成金が支給される条件
3.人材開発支援助成金・各コースの特徴
4.人材開発支援助成金をもらう時の4つの注意点
5.人材開発支援助成金の申請方法と流れ
としてまとめました。
最後までお読みいただければ、自社がどの助成金なら申し込めて、いくらまでもらえるのかなどの見当がつき、具体的に候補者選びや申請書作成の段階まで進められます。
1.人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金とは、企業が生産性を上げるために自社の社員に必要な能力取得を、迅速かつ効果的に進めさせるための制度です。
自社の社員(正規雇用者)が、その職務をするときに必要な技術や専門知識えるのに必要な 研修・講習などをした場合、その経費や講習費用の一部が助成金として支給されます。
人材開発支援助成金は2016年度以前までは「キャリア形成促進助成金」という名称でしたが、コース内容が大幅にリニューアルして助成金額なども調整され、より利用がしやすく、人材育成に力を入れやすい制度に変わりました。その後も、2019年4月1日、2019年8月21日と、短い期間に改善が行われ続けています。
本制度は今後も頻繁に刷新改善されることが予想されますので、厚生労働省のサイトで最新情報を確認することをお勧めします。【厚生労働省 人材開発支援助成金】
2.人材開発助成金が支給される3つの条件
本章では、人材開発支援助成金に必要とされる条件をまとめました。
2-1.研修の種類
研修には大きくわけて以下の2種類があります。下記のような研修や講習を、社員の技術や知識向上を目的に企業が計画することが条件です。
● 仕事に関係した専門的知識もしくは技能の習得目的としたもの
● 1の内容が以下のいずれかを含むこと
○ OFF-JT:知識や技術を学ぶすること(研修、座学、グループワークなど)
○ OJT:学んだ知識や技術を活かし、実地でやってみる現場訓練
○ その他の専門的な訓練
2-2.研修を受ける人
支給される助成金で、実際に研修を受ける人は、以下の人たちです。
1. 社員(正規雇用者)が研修を受けられます
2. 雇用保険に未加入者・雇用契約書を交わしていない労働者*が研修を受けられます
(*雇用保険や雇用契約書が未整備な場合には対象になります)
2-3.その他の条件
その他、人材開発支援助成金が支給されるための条件です。
1. 企業に人材開発をする、上記1.2.の対象者がいること
2. 企業が雇用保険・労災保険に加入していること
3. OJT研修に関しては、研修者が社内記録を残すこと
3.人材開発支援助成金・各コースの特徴
本章では、ほとんどの企業が申請対象となる3つのコースに関してまとめました。
1. 特定訓練コース
2. 一般訓練コース
3. 教育訓練休暇付与コース
基本的に以下のフローに沿っていくと、自社で取り入れるべきコースがわかりますので参考にしてください。
【参照元:厚生労働省 人材開発支援助成金のご案内】
①特定訓練コース
特定訓練コースとは以下の5つのいづれかが当てはまります。
1. 特定施設での訓練や技術習得
● 職業能力開発センター(例 都立職業能力開発センター)
● 職業能力開発大学校等で実施する職業訓練
● 厚生労働大臣が専門的・実践的な教育訓練として指定した専門実践教育訓練
2. 35歳未満の若手社員向けの職業訓練とOff-JT・OJT*を組み合わせた訓練
● 入社後5年以内35歳未満が対象
● 会社が実施する研修や専門機関が実施する研修・訓練を受ける
例>1年目:プレス加工基礎研修、2年目:金型図面の見方研修、3年目:溶接技能研修などのように、段階を追った訓練を受けさせたいなど
3. 熟練技能者(技能検定合格者など)向けの訓練
● 熟練技能者を先生として招き、その技能を従業員へ伝えて育成するための研修
● 熟練した技術者が、部下に技術を教える能力向上のために受ける講習
4. 海外での事業や業務に必要な講習や訓練
● 語学力・コミュニケーション能力向上のための講座
● 国際法務、国際契約、海外マーケティングなどの勉強
● 地域事情・赴任先の安全対策に関する講座など
5. 45歳以上を対象としたOJT付き訓練
● 45歳以上の社員に対した訓練の実施
以上、各10時間以上の訓練に対して助成されます。OJTとOFF-JT*の組み合わせ、OFF-JT*単体にかかった経費のそれぞれに助成金が出ます。
*OFF-JT:知識や技術を学ぶすること(研修、座学、グループワークなど)
OJT:学んだ知識や技術を活かし、実地でやってみる現場での訓練
<支給される金額>
*1<生産性要件について>生産性要件とは、「1人当たりの売上高や、利益、そして人件費や設備等が増えていくことによって、生産性が上がっていかなければならない」という経済学の考え方を元に、厚生労働省が規定しているものです。生産性要件を算出する方法は 厚生労働省のサイトに計算シートがあります。
*2<中小企業の判断について>
自社が中小企業かどうかは自社のメイン事業のうち
A 資本金の額または出資総額
B 企業全体で常時雇用する労働者の数
で判断します。A、Bどちらかの基準に該当すれば、中小企業事業主となります。
【参考元:厚生労働省 8/21改訂版31年度パンフレット P15】
次に具体例として、助成金コース2:若年者向け 職業訓練とOff-JTまたはOJT*を組み合わせた訓練に申請した場合を説明します。
❏ 企業規模:中小企業
❏ 業種:サービス業
❏ 従業員数:30名
❏ 生産要件:満たしている
❏ 事業内容:企業向けのシステム提供と開発サポート・社内支援ソフトの開発・販売
❏ 背景:今までは各自で自己学習をしてもらうか、個別に希望がある場合は、資料やツールを購入したり、外部へ研修セミナーなどに参加してもらっていた。また、システム系は対話が苦手な人が多いが、実際の営業やサポート現場でシステム担当が説明やQAをした方が良い場合も多く、対人スキルも磨く必要がある。
今後、システム部を組織化して、より効率の良い開発等をするため、システムのリーダーやマネジメントに関したスキルと知識が必要になった。
①教育訓練内容 外部講師を招いた事業主主催の企業内訓練。(Off-JT)
②訓練名 ITマネジメント・プロジェクトリーダー研修
③訓練目的 チームビルディングとマネジメントに必要な知識と技術などを習得する。同時に、コミュニケーションスキルアップもロールプレイ研修する。
④履修時間 1人あたり30時間(業務時間は含まれない)
⑤講師料 1人あたり:50,000円(所得税控除前の金額。旅費・車代・食費等は含めない)
⑥テキスト代など 参加者1人あたり3,000円
助成金額
(1人あたり) a>⑤+⑥=53,000円の60%経費助成 31,800円
b>訓練時間に対する助成金④×Off-JT賃金助成960円=28,800円
助成総額 a+b=60,600円
②一般訓練コース
一般訓練コースとは、①の特定訓練コース以外で、20時間以上のOFF-JT訓練に対して助成するコースです。同時にセルフ・キャリアドックというカウンセリングを実施していることが条件です。(一般訓練コースでは、OJTは支給対象になりません)
<支給される金額>*1の詳細説明に関しては①の説明を参照してください。
支給対象 大手企業、中小企業*2、事業主団体など
基本的な助成額 ● 経費助成 30%
● 賃金助成 380円
生産性要件を満たしている場合*1 ● 経費助成 45%
● 賃金助成 480円
具体例として、一般訓練コースを申請する場合を説明します。
❏ 企業規模中小企業
❏ 業種:福祉業
❏ 従業員数:150名
❏ 生産要件:満たしている
❏ 事業内容:福祉用具販売と介護施設「やすらぎハウス」の運営
❏ 背景:ケアハウス職員の退職が続き、残された介護職員が過重労働気味になる。新規採用者も含め、今後の離職防止をするため、職員に段階ごとのスキルアップ教育訓練を行い、国家資格である介護福祉士への道を開き、人材不足と早期離職防を同時に解決できるよう、現場での人材育成と人材確保につなげたい。
①教育訓練内容 外部教育機関(学校など)に通ってもらう
②訓練名 「介護福祉士になるための実務研修」
③訓練目的 介護福祉士国家資格の受験とその準備
④履修時間 1人あたり50時間
⑤受講料 1人あたり10万円
⑥キャリアコンサル 必須
助成金額(1人あたり)
a>⑤=10万円の45%経費助成 45,000円
b>訓練時間に対する助成金 ④×Off-JT賃金助成450円=22,500円
助成総額 a+b=67,500円
③教育訓練休暇付与コース
社員に、教育訓練を受けるために必要な有給休暇を与えて、能力向上のための自己投資することを促進する制度です。企業が、以下の項目を満たしていることが条件となります。
● 毎年1人以上がこのコースを取得していること
● このコースを、社員が自発的に受講したがっていること(業務命令ではないこと)
● 休暇中に受ける訓練は、事業主以外が施す訓練であること
などの条件を満たす必要があります。本項では特に重要な条件を記載しましたが、これ以外にも細かい規定があり、企業の提供するサービスや商品によっても該当条件が異なります。事前に各都道府県労働局での相談をお勧めします。
<支給される金額>*1の詳細説明に関しては①の説明を参照してください。
支給対象 大手企業、中小企業*2
基本的な助成額 ● 経費助成 30万円(一回限り)
生産性要件を満たしている場合*1 ● 経費助成 36万円(一回限り)
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4.人材開発支援助成金をもらう時の4つの注意点
ここでは、人材開発支援助成金に関した4つの注意点を説明します。
①助成金は研修が終了してから支払われる
助成金は後払い制です。助成金支給は申請した全ての研修を終え、研修完了後に実績報告を提出し、審査に通ってから支給されます。
②Off-JT中は社内の人が減る
Off-JTとは、業務時間として換算されない社内または社外研修のことです。つまり、実際の業務中に研修参加者が離席することになりますので、一時的にオフィスから人が減って執務と業務進行に支障が出る可能性があります。部署でグループ分けをする、時間をずらして研修をするなど、事前に研修スケジュールを工夫して対応しましょう。
③支給申請が面倒
人材開発支援助成金の申請は
● 対象者の条件
● 申請時に必要な書類項目
● 申請後に必要な報告の項目
● それぞれに必要な添付書類など
が非常に多く、これ以外にも申請前にしておくべき事前準備も多数あるので、非常に手間と時間がかかります。
過去に助成金を受けた経験がある申請業務に慣れた人か、労務のプロが社内にいる場合はお任せできますが、該当者がいない場合は、煩雑な作業にかかりきりになりますので、専門のサポートを外注することも検討しましょう。
これらの外注先は、企業が所属している市区町村の労務窓口にサポート窓口があります。また、労働基準監督署では無料相談窓口を設けています。
④よく制度が変わる
働き方改革を政府が強力に推し進めている関係上、人材開発支援助成金もより多くの企業が導入しやすくするために改善・改案が続けられています。そのため、短い間に、制度内容が変更・統合・分離・追加されていく傾向にあります。
社内に人事・労務の担当部署がある場合は、変更のたびにメールや郵便での案内、労務人事向けの官公庁の機関紙での案内があり、担当者が最新の正確な情報を把握してくれています。そのような状況にない場合は、厚生労働省のサイトで最新のものを確認しましょう。【参照:厚生労働省】
5.人材開発支援助成金の申請方法と流れ
ここでは、人材開発支援助成金の申請方法と流れについて説明をします。
5-1.事前準備(共通)
事前準備として、どのような申請を行う場合でもするべきことが2つあります。
1. 最低1人責任者を選ぶ
責人材開発支援助成金を申請するときには、「職業能力開発推進者」という責任者が必要になります。具体的な仕事内容は
● 事業内職業能力開発計画の作成と実施
● 職業能力開発に関する労働者への相談・指導
です。事業主からの推薦で1人以上、立てる必要があります。(職業能力開発促進法第12条)
2. 事業内職業能力開発計画を作成する
事業内職業能力開発計画は、自社の人材育成の基本方針計画として、基本的には事業主が作成をします。(職業能力開発促進法第11条)
作成内容は下記のようなものを作成します。
【参照:厚生労働省 人材開発支援助成金の手引きP13】
作成が難しい場合は、各都道府県労働局での相談窓口でサポートを受け付けています。また、厚生労働省のホームページ作成の支援ページでのサポートもあります。
5-2.申請から助成金がおりるまでの4フロー
ここでは、申請をして助成金が実際に支給されるまでの流れを4つのフローで説明します。
1. 訓練計画届の作成・提出
● 自社の訓練計画を作成します
● 訓練実施日の1ヶ月前までに訓練実施計画届を各都道府県労働局へ提出します。
● 申請手続きは雇用保険適用事業所単位です。実際に必要な書類は多岐に渡りますので厚生労働省資料P41〜を参照してください)
【参照:申請時に必要な書類 厚生労働省申請様式】
2. 訓練の実施
申請が受理され、日程がきたら訓練を開始します。
3. 訓練終了・支給申請
訓練が終わったら、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に
● 支給申請書(訓練様式第5号)とその他書類を揃えて労働局に提出します。こちらも必要書類一式は厚生労働省資料P47〜を参照してください。
【参照:訓練終了の申請時に必要な書類 厚生労働省申請様式】
4. 助成金の受給
支給審査の上、支給・不支給を決定します。厚生労働省が配布するPDFやパンフレットにも記載がありますが、助成金審査には時間がかかります。どの程の時間を要するのかを明文したものは、厚生労働省の書類・関連局にも一切ありません。
期間を要する理由は、一般的な厚生労働省や労働基準監督署、その他関係省庁などへの書類同様
● 審査書類の量
● 審査をお願いする関連機関の進捗度合い
● 提出された書類の不備などの修正・確認作業の進み具合
などに左右されます。目安として最短で2〜6ヶ月、長いと1年半ほどを見積もっておいた方が良いでしょう。
審査が終了すると労務局から事業主宛に「支給決定通知書」が届き、そこから2週間ほどで指定した支払い口座へ振り込みされます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。人材開発支援助成金に関して
1.人材開発支援助成金とは
2.人材開発支援助成金が支給される条件
3.人材開発支援助成金・各コースの特徴
4.人材開発支援助成金をもらう時の4つの注意点
5.人材開発支援助成金の申請方法と流れ
をわかりやすくまとめました。
人材開発支援助成金を受けたい事業主・担当者は、まずは、これからの自社に必要な訓練が何なのかをよ検討し、そこから必要な人材開発支援助成金のコースを探すと準備すべきことが見えてきます。
今回のまとめは、わかりやすくするためにとてもシンプルにしてありますので、実際に申請を進めるときには、厚生労働省・労働基準監督署の資料をよくみて必要書類を揃えてください。
社員の人材開発が進み、社員も会社も共に明るく発展的な仕事ができるようになることを心からお祈りします。