
ナレッジマネジメントは、組織内でスムーズに情報を共有・活用するための手法です。
導入や活用が上手くいけば、業務効率化や人的コスト削減といった効果が期待できます。ただし、導入すれば必ず効果が出るというわけではありません。
本記事では、ナレッジマネジメントを失敗させないよう、ナレッジマネジメントの理論や活用事例について紹介します。
1.ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントは、1990年代初頭に野中郁次郎によって発表された組織的知識創造理論とSECIモデルをもとにした、日本発の経営理論です。
現在では、世界の多国籍企業の約8割が実施しているといわれています。ナレッジマネジメントとは、企業全体の生産性を向上させるため、熟練工のスキルやベテランの経験知識など、個人のもつ暗黙知を企業内で共有し、新たな技術革新を促すという手法です。
暗黙知は、数字や言葉で表現しにくいものが多くマニュアル化されにくいため、個人の成果にはつながりますが、組織全体のスキルアップにつながりにくいという特徴があります。
そのため、暗黙知を形式知に変換して相互交換し合うことが重要となってくるのです。
そのために、
(1)情報の共有・見える化
(2)情報の知識化
(3)知識の活用・体系化
という3つのステップを踏みます。
形式知は、具体的な言葉や図表、数字で表現されるものなので、マニュアル化しやすく組織での共有も可能です。
ナレッジマネジメントの4つの手法
経営資本・戦略策定型
組織内の知識を多角的に分析し、経営に活用する手法です。
専用のシステムを導入して分析することが多く、競合他社や自社の事例を分析して役立てます。この手法を活用することで、業務プロセスの改善ポイントが見つかりやすくなります。
顧客知識共有型
業務の知識に加え、業務プロセスやその先を見通した知識を提供する手法です。
顧客優先を第一にした考え方で、顧客のクレームや意見に対応した方法などをデータベース化し、その事例に基づいてその後のトラブルへの対応や判断ができるという仕組みです。
部署による顧客への対応差を防ぐことができ、顧客満足度の向上につながります。
ベストプラクティス共有型
規範となるであろう社員の行動や思考を形式知にし、組織全体で共有することでスキルアップする手法です。
専門知識型
ネットワークを活用して組織内外の知識をデータベース化し、情報を効率よく提供するための手法です。
特に、情報システム部門やヘルプデスクなど、組織内外からの問い合わせが多い部署で活用すれば、問い合わせ業務の軽減や対応のスピードアップ、応対の質向上などに役立ちます。
社員の良い行動や思考を可視化する ピアボーナスⓇ「Unipos(ユニポス)」とは?
ナレッジマネジメントが注目されている背景
では、なぜこのナレッジマネジメントが必要とされるようになったのでしょうか。
高度経済成長時代に終身雇用モデルが確立し始めた頃、企業は長期的に人材を育成しようと新規採用者に対しさまざまな研修を行ったり、年功序列型の人事戦略を行ったりしました。
また、将来幹部候補となる総合型人材を育てようと、従業員にいろいろな経験を積ませます。数年おきの転勤や異動による、社内の幅広い知見の獲得などもそのひとつです。
従業員側も長期的な雇用を前提としていたため、ほとんどの場合は転職や失業を意識することなく働いていました。そのため、企業内で知識や技術を吸収することに集中できたのです。
その結果、長期で務める人材が多く、社内で自然にナレッジを共有しやすい環境となっていました。
平成に入ると、就職氷河期やバブル崩壊が起こり、終身雇用を前提とする雇用システムが変わり始め、働き方も大きく変化します。企業の規模に関わらず事業存続の危機が訪れ、人員の大量整理や事業再建などが行われるようになりました。
人員整理の対象となった人は再雇用を目指し、将来性に不安を抱えた人は転職を検討することが増えたのです。その結果、人材の入れ替わりが激しくなったことで、個人で抱えていたスキルや知識が共有されない、蓄積されないといった課題が見えてきました。
つまり、企業の財産として個人のスキルや知識も企業全体で管理・共有し、意思決定や生産拡大に活かしていく重要性がわかってきたのです。
さらに時代が進み、IT・情報化時代になると、行動や意思決定をスピーディーに行う必要が出てきました。
また、顧客ニーズの多様化に伴い、柔軟に適切に対応する力も求められるようになってきました。この時期、ナレッジマネジメントに対して誤解が多く生まれました。
例えば、ナレッジを集めるためにシステムさえ構築しておけばよい、ベテランが自らノウハウを共有したがらないなどです。
このような失敗を通し、個人でナレッジを登録したり活用したりすることを企業全体の目標にすることや、部門を問わず企業全体でナレッジの共有をする必要があることなど、ナレッジマネジメントに対する正しい理解が進み、広まっていったのです。
2.ナレッジマネジメントの目的
ナレッジマネジメントは、何のために知識を共有するのか、その目的をもつことが大切です。ここではナレッジマネジメントの目的の例を2つ紹介します。
組織内連携の強化
組織内にエンジニアと営業の組織があると仮定します。この場合、通常の業務だと連携をとることがあまりない部署同士を、ナレッジマネジメントによって情報を共有することで連携しやすくすることが目的として設定できるでしょう。
エンジニアの開発状況や人員体制を営業が把握しておけるため、どのような納期で開発が可能かなどを顧客に聞かれたときに即答できるようになります。企業の規模が大きいほど部署間でのリアルタイムな情報共有が難しくなる傾向です。
ナレッジマネジメントによって連携しやすくなれば、顧客の声を開発や営業に素早く活かし、新たな商品開発や改良のきっかけが生まれ、企業競争力の強化も期待できると考えられます。
業務改善や効率化
例えば日報を蓄積していけば、個人の業務改善にもなり、社員同士で共有すれば新たな課題や方法が見えてくるかもしれません。
資料作りがなかなか進まず困っていた社員が、先輩社員の作った資料をファイル共有機能で見て参考にすることで、資料の作成方法を学んだり作成時間を短縮したりすることにつながることもあるでしょう。
業務改善や効率化を目指すことで、短期間での高度な人材育成にもつながります。
3.ナレッジマネジメント導入時の注意点
ナレッジマネジメントを闇雲に導入し、目的もなく取り組んでしまうと、逆に損失が生じる可能性があります。
例えばナレッジマネジメントのツールを導入したものの、ナレッジマネージャーなどのリーダーは配置されておらず、現場に丸投げしてしまうケースがあります。この場合、何を蓄積し、どう活用すればよいのかがバラバラになってしまい、結局情報を残しておくだけになってしまうのです。
また、社員にナレッジマネジメント導入の目的が浸透していないと、ナレッジマネジメントのツールを使用してもらうことさえも難しくなってしまいます。
社員にとっては、これまでツールを利用せずとも日々の業務は回っていたため、まずツール導入の目的や意義を理解してもらう必要があるのです。
このような事態を防ぐためにも、ナレッジマネジメントは組織内で目的をはっきり共有したうえで導入するようにしましょう。
次ページ「4.ナレッジマネジメントの基礎理論『SECIモデル』」