
労働生産性とは、従業員や労働時間など、投入したリソースに対してどれだけ生産されたのかを示す指標です。労働生産性を高めることで、人手不足の解消になるなどさまざまなメリットがあります。
本記事では、労働生産性の概要や低い会社・高い会社の特徴、高めるメリットなどを解説します。
労働生産性とは?
労働生産性とは、商品・サービスを生産するうえで、労働者1人あたりまたは労働1時間あたりで得られる成果を表す指標です。労働力や労働時間という経営資源を抑えながら生産量や付加価値などの成果を拡大することで、労働生産性が向上します。
ここでは、労働生産性が低い場合で起こることや、業務効率化との違い、業界ごとの労働生産性の違いについて解説します。
労働生産性が低いことで起こること
労働生産性は、労働者1人または1時間あたりで生み出す成果がどれだけ効率的かを数値化し、経営判断の材料にする指標です。労働生産性の数値は労働者のスキルや業務効率などで変わり、数値が高いほど生産性が高まります。逆に 労働生産性が低い状態が続くと、投資に見合った利益が得られません。労働者の数や働く時間を増やしても、利益が上がらない状態になります。商品・サービスを生み出すために多くの労働時間が必要になり、労働者に支払う給与もそれだけ多くなります。長時間労働が続くことで、従業員にかかる負担も大きくなるでしょう。残業時間が増えて体力的・精神的なストレスがたまり、さらに労働生産性が下がるという悪循環に陥ります。離職につながる可能性も高まるでしょう。
労働生産性向上と業務効率化の違い
労働生産性向上と業務効率化は異なります。業務効率化は、非効率的で無駄のある業務について工程を見直し、改善して効率を高めることです。業務効率化によりコストの削減はできますが、成果の有無は直接関係ありません。あくまで企業が目指すのは、より効率的に成果を上げるために労働生産性を高めることです。業務効率化は、生産性向上のための手段のひとつといえるでしょう。ただし、業務効率化が常に労働生産性を高めるとは限りません。「業務効率化によって投入する資源は少なくなったが、生産物も少なくなった」ということもあり得ます。そのため、労働生産性と業務効率化は分けて考え、状況に応じて適切な施策を考えるようにしましょう。
業界による労働生産性の違い
労働生産性の高さは、業界により異なります。一般的に製造業・不動産業と言った業界は、少ない人数で多くの利益を生み出せる構造にあり、労働生産性が高くなりやすい傾向にあります。一方、飲食サービス業や医療・福祉業など、サービスを中心とした業界は、労働生産性が低くなりがちです。飲食業は来客が少なくても、一定の人件費や材料費がかかります。医療・福祉業はサービス提供時に複数のスタッフが関わります。これらの業界は常に多くの労働力を必要とすることが、労働生産性を下げてしまう理由です。
日本の労働生産性が低いのはなぜ?
日本の労働生産性は、業種によって差はあるものの、世界と比較すると低い水準となっています。
2022年に発表されたOECDの調査「労働生産性の国際比較2022」では、2021年の日本の時間あたり労働生産性は49.9ドル(5,006円)で、OECD加盟38カ国中27位でという結果です。前年から1.5%上昇したものの、1970年以降最も低い順位となっています。労働者一人あたり労働生産性は81,510ドル(818万円)で、29位という結果です。
1人あたり、時間あたりのどちらでも、日本の労働生産性は先進国内で最下位という状況となっています。どの国もコロナ禍により経済が落ち込みましたが、2021年は大幅に回復しているなかで、日本はやや遅れをとっていることが順位を下げている理由のひとつとされています。
参考:公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2022」
労働生産性の種類と計算方法
労働生産性は何を成果とするかによって、以下の2つの種類に分かれます。
- 目に見えるものを成果とする場合
- どれだけ価値を生み出したかを成果とする場合
目に見えるものを成果とするのは物理的労働生産性とも呼ばれ、生産量や生産個数といった物理的なものを成果として計算します。どれだけの価値を生み出したかを成果とする場合とは、労働者数・労働時間あたりの付加価値を算出するものです。
それぞれの計算方法をみていきましょう。
目に見えるものを成果とする場合
物理的に目に見えるものを成果とする場合、以下のように計算します。
「生産量 ÷ 労働量」
労働量を労働人数に変えれば、労働者1名あたりの物理的な成果を算出できます。また、労働量を「労働人数×労働時間」にすることで、労働者1名・1時間あたり物理的な成果がわかります。
例えば、5人の社員が8時間で100個の商品を製造した場合、成果は以下のとおりです。
1人あたりの成果:「100個 ÷5人=20個」
1人1時間あたりの成果:「100個÷ (5人×8時間)=2.5個」
どれだけ価値を生み出したかを成果とする場合
労働者数や労働時間により生み出した付加価値を図る場合の計算式は、以下のとおりです。
「 付加価値額 ÷ 労働量」
付加価値額は、「商品・サービスの販売価格(売上高)-費用」で、費用には原材料や部品、加工、運搬などにかけた費用を指します。
物的的な成果と同様に、計算式の労働量を労働人数にすれば、労働者1名あたりでどれだけの価値を作り出したかがわかります。労働量を労働人数×労働時間に変えれば、労働者1名1時間あたりに作り出した価値の算出が可能です。
例えば、5人の社員が8時間で製造した商品の売上金額が50万円で、原材料などの費用が10万円の場合、以下のように計算します。
1人あたりが作り出した価値:「50万円−10万円」 ÷ 5人=8万円
1人1時間あたりが作り出した価値:「50万円−10万円」 ÷「5人×8時間」=1万円
労働生産性の低い会社・高い会社
労働生産性が低い、あるいは高い会社には特徴があります。まず、残業が常態になっている会社は労働生産性が低い傾向にあるでしょう。
一方、労働生産性の高い会社には、メンバーに発言機会が均等にある、社会的感受性が強い人が多いなどの特徴があるという調査結果があります。
労働生産性が低い会社・高い会社の特徴について、詳しくみていきましょう。
労働生産性の低い会社の特徴
上司が遅くまで仕事をしていて他の従業員も帰れないなど残業が当たり前になっている会社は、労働生産性が低い傾向にあります。従業員は定時間で仕事を終わらせるという意識が薄くなりがちで、時間効率が悪くなり労働生産性も下がります。また、年功序列の人事制度のもとでは、どれだけ効率よく仕事をしても、勤続年数の長い従業員に比べて給与や役職が低くなります。従業員の「業務効率を高めよう」という意欲を阻害する要因となり、労働生産性は下がりやすいでしょう。
労働生産性の高い会社の特徴
労働生産性の高い会社には、メンバーの発言機会が均等にあるのが特徴です。組織の構成メンバー全員に自分の考え・意見を発言できる機会が与えられています。これは、組織の中で心理的安全性が確保されているともいえるでしょう。心理的安全性とは、自分の考えや意見を誰に対しても安心して発言できる状態のことです。生産性の低い会社では、一部のメンバーが発言の機会をほぼ独占している傾向にあります。組織内の心理的安全性が低い状態といえるでしょう。心理的安全性が低いと組織へのエンゲージメントも下がり、「組織に貢献したい」という意欲がなくなります。その結果、生産性も下がってしまいます。
労働生産性の高い会社は、メンバーの社会的感受性が高いのも特徴です。社会的感受性とは、相手の表情や言動から気持ちを察知する能力を指します。社会的感受性の高いメンバーが多い職場は、コミュニケーションが円滑になりやすいでしょう。特にリーダー格の人に高い社会的感受性がある場合は業務が円滑に進み、労働生産性も高まります。
労働生産性を高めるメリット
労働生産性を高めることで、経営資源を抑えながら高い利益を得られます。人材不足など、資源の少ない会社でも利益をあげられるということです。
労働生産性が高まれば、従業員のワークライフバランスも向上します。人件費などのコスト削減ができれば、新たな投資もできるでしょう。
ここでは、労働生産性を高めることで得られるメリットを紹介します。
人材不足に対応できる
労働生産性の向上により、少ない人員でより大きな成果を出すことができます。近年は少子高齢化による人材不足に悩む会社が少なくありません。労働生産性を高めることで、少人数でも利益を出せるのが大きなメリットです。例えば、従業員が20人の会社で1日1,000万円の売上を上げていれば、1人あたりの労働生産性は50万円です。労働生産性をそのままに売上を上げるためには労働時間を伸ばすしかなく、従業員の負担が大きくなります。しかし、労働生産性が2倍の100万円になれば、労働時間を増やさず1日の売上を2,000万円に増やすことが可能です。ITツールの導入など業務を効率化することで労働生産性を高めれば、少ない人員でも労働生産性を高め、利益を上げることができるでしょう。
ワークライフバランスの向上につながる
労働生産性が高まれば、従来よりも短時間で同じ程度、あるいはそれ以上の生産活動ができるようになります。労働時間の短縮により、従業員のワークライフバランス向上につながるのがメリットです。労働生産性が低い職場は1人の従業員に負担がかかり、残業や休日出勤などが多くなります。そのような負担を減らすことができれば、従業員はプライベートの時間を確保でき、仕事への集中力やモチベーションを高められるでしょう。より生産性が高まり、離職防止にもつながります。
新規事業の開拓が可能になる
労働生産性の向上により、人員を増やさず、かつ従業員の労働時間を短縮して利益を上げることが可能です。人件費などのコスト削減が実現し、人材や資金を投入して新規事業を開拓することもできます。労働生産性の向上で削減できるのはコストだけではなく、ひとつの業務で必要な人員の削減にもつながります。削減したリソースは他の業務に割り当てることができ、効率的な人材活用が可能になるでしょう。
企業の競争力が高まる
労働生産性が高まることで、市場での競争力が高まるというメリットもあります。労働生産性が低いと日々の業務に追われ、新規顧客の開拓などマーケティング施策に十分な時間をかけられません。そのような状況が続けば、変化の激しい市場で生き残ることは難しくなるでしょう。
効率的に商品・サービスを生み出せる仕組みを持つ労働生産性の高い会社であれば、市場でより付加価値の高い商品・サービスを提供できます。市場の厳しい競争に打ち勝つ競争力が高まるでしょう。
ウェルビーイング経営が実現できる
労働生産性の向上は、ウェルビーイング(Well-being)経営の実現にもつながります。ウェルビーイングとは、心身ともに健康で、社会的にも満たされた状態のことです。ウェルビーイングの考え方はビジネスにも広がっており、近年はウェルビーイング経営が注目されています。従業員が心身ともに健康で社会的にも満たされるよう組織の環境を整えることで、従業員一人ひとりの仕事への意欲・会社へのエンゲージメントを高める経営手法です。
従業員の意欲が高まれば、生産性の向上や離職防止など、あらゆる課題の解決につながります。労働生産性の向上による長時間労働の是正は、ウェルビーイング経営の実現をもたらすでしょう。従業員が心身ともに健康で働けることで、さらに生産性が向上するというプラスの循環が生まれます。
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労働生産性を高める5つのポイント
労働生産性を高めるためのポイントは、以下の5つです。
- 業務プロセスを見直す
- 労働時間を見直す
- ITシステムを導入する
- 評価方法を見直す
- 従業員の能力強化に取り組む
まずは業務プロセスの見直しで、不要業務を削減することから始めましょう。長時間労働の状態にある場合は、労働時間の見直しも必要です。
それぞれのポイントを詳しくみていきましょう。
1.業務プロセスを見直す
まずは既存の業務をチェックし、業務の見直しが必要です。取り組みでは、既存業務を可視化して、不要業務や重複している業務を確認しましょう。業務の偏りがあれば、分担の見直しによる平準化も必要です。特に業務の見直しが長期間行われていない場合や、マニュアル化されておらず従業員ごとに異なる業務フローで運用している場合、見直しによって大きく労働生産性が高まる可能性はあります。
業務の可視化では、業務内容や作業工数、所要時間をヒアリングします。何にどれだけの時間がかかっているのかを明確にすることで、労働生産性を下げている要因が明らかになり、改善策を講じられるでしょう。複数人で行っている業務は、プロセスをルール化すると効率が高まります。各自に任せるやり方では、業務の品質やスピードにバラつきが生じ、無駄さ作業も生まれやすくなります。プロセスのルール化により、無駄を省いて業務品質も一定に保てるでしょう。
業務プロセスの見直しは、既存の業務に慣れている従業員に負担をかけることもあります。「なぜ見直しをするのか」という理由も明確にすることが大切です。
ルーティン業務などは、アウトソーシングしたほうが効率は良くなる場合もあります。アウトソーシングのサービスに依頼できる業務の種類は多く、さまざまな業者がサービスを提供しています。経理の提携業務などは、プロに依頼することで高い品質を保てることもあるでしょう。
外注によりコストはかかりますが、社内の人材をより重要な業務に配置するための投資と考えることもできます。
2.労働時間を見直す
労働生産性が下がる要因が長時間労働にある場合、労働時間の見直しを図りましょう。残業時間が増えると健康への影響も大きくなり、従業員のパフォーマンスが低下します。その結果、生産性が下がり、さらに残業が増えるというマイナスの循環に陥るでしょう。
長時間労働の是正は労働生産性を高めるとともに、従業員のモチベーションアップやストレス軽減に貢献し、離職防止にもつながります。
近年はテレワークの普及により、見えない時間外労働・休日労働が増えている状況があります。導入している会社は、実態を把握して見直しを行うことが必要です。
見直しの取り組みとして、以下のような一例があります。
- 「ノー残業デー」を設ける
- 労働時間を適正に管理するツールを導入する
- 柔軟な働き方を導入する
会社が労働時間の見直しに取り組んでいることを周知することで、従業員も「時間内で仕事を終わらせるのにはどうしたらよいか」を考えるきっかけになるでしょう。
3.ITシステムを導入する
ITツールやシステムの導入により、大幅な業務の効率化が可能です。手作業で行っている定型業務などをシステム化することで、人の判断が必要になる重要な業務の方に労働力を集中させることができます。ITツールやシステムは労働生産性の向上に役立ちますが、導入の際にはどうしてもコストがかかります。メリットがあるのはわかっていても、予算がとれず導入できない場合もあるでしょう。
業務効率化のためにITツールなどを導入する際は、国や自治体の補助金・助成金が活用できる場合もあります。
一例として、以下のような補助金・助成金があげられます。
(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービスや試作品の開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援する制度です。2023年5月の段階で、15次締切分の申請が開始されています。
(IT導入補助金)
中小企業・小規模事業者を対象とした補助金です。課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助し、業務効率化・売上アップをサポートする目的で行われています。
(業務改善助成金)
自社で最も低い賃金を30円以上引き上げ、生産性向上に役立つ設備投資等を行った場合、費用の一部を助成する制度です。これら補助金・助成金はそれぞれ要件があります。要件が該当して受給したい場合は、申請が必要です。審査に通れば業務効率化・労働生産性の向上を図るための資金を得られるため、チェックしてみるとよいでしょう。
4.評価方法を見直す
労働生産性の向上には、人事評価制度の見直しも欠かせません。労働生産性には、従業員のモチベーションやパフォーマンスも大きく影響します。人事評価の方法が明確でない場合、従業員の納得が得られず、モチベーションが下がってしまうでしょう。
従業員が仕事のモチベーションを高めるには、評価基準が明確で透明性の高い人事評価制度の策定が必要です。
現状の人事評価制度を見直す際は、新しい手法を取り入れるという方法もあります。近年、注目されている手法として、360度評価やコンピテンシー評価があげられます。360度評価とは、上司だけでなく同僚や部下なども評価者となり、多方面から評価する手法です。複数人が評価することで、客観的で公平な評価が期待できます。従業員の納得も得やすいのがメリットです。
コンピテンシー評価とは、会社で高いパフォーマンスを発揮している人材の行動特性を評価基準に定め、従業員を評価する手法です。評価基準が明確であるため評価者の主観が入らず、公平な評価が期待できます。
5.従業員の能力強化に取り組む
労働生産性を高めるには、従業員のスキルアップも重要です。従業員一人ひとりの能力が高まれば、自ずと作業のスピードは高まり生産性は向上します。さらに、自ら業務内容を見極め、業務改善を提案できる能力を身につけることも期待できるでしょう。
従業員の能力強化としては、以下のような方法・制度があげられます。
- 社内研修
- OJT
- eラーニングなどの教育制度
- 資格取得を支援する制度
- メンター制度
さまざまな方法があるため、それぞれのメリット・デメリットも把握しながら自社に合うものを選びましょう。これら人材育成による業務改善で労働生産性を高めることは、すぐに結果が見えるものではありません。長期的な視点で取り組むことが必要です。スキルを身につけるには、研修などの教育とともに日々の業務による経験を積み重ねによって培われます。ある程度の時間が必要になるでしょう。その点を把握し、人材育成の計画を立てるようにしてください。
まとめ
労働生産性を高めることで、少ない人材でも利益をあげられるようになります。新規事業の開拓や、市場での競争力強化も可能です。従業員のワークライフバランスを改善し、ウェルビーイング経営の実現も期待できるでしょう。
労働生産性を高めるには、既存業務のプロセスや労働時間の見直し、ITシステムの導入などが必要です。労働生産性が高い会社にはメンバーの発言機会が均等にあるという特徴があり、職場の心理的安全性が高いことも、労働生産性の向上に必要な要素のひとつといえます。
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