労働生産性とは何を示す指標?定義・種類と効率的な上げ方をご紹介

少子高齢化による人手不足が深刻化する現代日本では、「いかに労働生産性を高めるか」が重要な経営課題となっています。

とはいえ、そもそも労働生産性とは何なのか、どう施策を組むべきなのかわからないという企業担当者も少なくありません。

そこで、今回は労働生産性の概要・種類といった基礎知識をはじめ、生産性を向上させるメリットや効率的な上げ方など押さえておきたいポイントを解説します。

労働生産性とは


公益財団法人「日本生産性本部」によると、「生産性」とは生産諸要素の有効利用の度合いであると定義されています。

商品やサービスを作り出すには、原料や設備、人的コストなどが欠かせません。これらを生産諸要素と呼びます。投入した生産諸要素に対して、売上がどの程度得られたのか、つまり生産諸要素がどれだけ効率的に使用されたのかを割合で示したものが「生産性」です。

例えば、コストをかけて最新のシステムを導入しても、それを操作する担当者のスキルが未熟だと、システムは期待したような成果を出せないこともあります。このようなケースでは、生産諸要素を有効利用できていない結果となるのです。

生産性は、生産諸要素の種類によっていくつかに分類されており、投入した労働力に対してどれだけの成果を得られたかを示したものを「労働生産性」といいます。

労働者一人あたり、または1時間あたりに生み出す成果を示しており、労働生産性が高いほど企業は多くの利益を得ることが可能です。

少子高齢化により、労働力不足が深刻化しつつある日本において、好待遇を用意できない企業や競争力の低い企業などは、必要な人材を確保できなくなる恐れがあります。

ニーズや設備があっても実務を担う従業員が足りず、事業が滞ってしまう事態にもなりかねません。このような状況を避けるためにも、労働生産性を高め、少ない人材で高い成果を得ることが重要になるのです。

日本の労働生産性の現状


公益財団法人「日本生産性本部」では、OECDのデータなどに基づいた各国の労働生産性を計算し、結果を「労働生産性の国際比較」としてランキング形式で発表しています。

これによると、2019年における日本の1時間当たりの労働生産性はOECD加盟37カ国のうち21位という結果でした。なんと50年近く19~21位を推移しており、主要先進7カ国の中でも常に最下位をキープしているという残念な状況です。

一体、なぜ日本の国際社会における労働生産性はここまで低いのでしょうか。

労働生産性が低いということは、「無駄の多い働き方が多いのではないか」と考えがちです。ところが、労働生産性は国ごとの情勢や環境などによっても変化するため、働き方の効率が悪いとは断言できません。

例えば、労働生産性1位を獲得したことがあるアイルランドの場合、法人税を大幅に引き下げることで世界的大企業などを国内に数多く誘致することに成功し、著しい経済成長を遂げました。

働き方を変えたのではなく、生産量そのものを増やすことで労働生産性を高めたのです。つまり、労働生産性には働き方だけではなく、環境的な要素も大きく影響することになります。

このことから、「労働生産性の国際比較」の解説では、日本の労働生産性が低い原因の一つとして「長時間労働」を挙げています。

日本と同じように製造業が多いドイツの場合、1時間あたりの労働生産性は8位で平均年間労働時間は約1,360時間と比較的短い傾向です。

ドイツは、所定の時間内に仕事を終える文化が根付いており、基本的に残業をしません。モノづくり大国という日本と似た産業構造でありながら、ドイツは少ない労働で高い成果を出す「生産性が高い」状態を達成しているのです。

一方、日本の平均年間労働時間は約1,680時間あり、ドイツを大幅に上回っています。1時間あたりの労働生産性は、労働時間が長いほど低下するため、日本のランキングが低いのは当然の結果ともいえるでしょう。

年功序列や終身雇用が一般的だった日本では、たくさん働くほど評価される傾向でした。そのため、現代でも「長時間労働や残業が当たり前」という風潮の企業も珍しくありません。

その結果、年間の労働時間が増え、労働生産性が低下する一因になった可能性があります。少子高齢化による労働力不足が進めば、従業員一人にかかる負担が増し、ますます労働生産性が低下する恐れもあるでしょう。

国際社会で競争する国力を維持するためにも、各企業は現在の労働環境を見直し、少ない人材でも高い労働生産性を達成できるような取り組みを行うことが欠かせないのです。

労働生産性の2つの種類と計算方法

1.物的労働生産性

労働生産性は、労働によって生み出される成果の内容に応じて2種類に分けかれています。まずは「物的労働生産性」の概要と計算方法を見ていきましょう。

物的労働生産性の概要

労働生産性の1つ目は「物的労働生産性」といい、明確な数字として表せる「生産量」や「販売金額」を用いて、従業員がどの程度効率的に商品やサービスを生み出しているかを示すものです。

一般的に、市場の動きで商品の価値が変わる場合は生産量を、市場の動きに関係なく商品価値が一定の場合は販売金額を用います。

具体例として、農家が生産する野菜を考えてみましょう。

野菜は、天候などにより実りが変わるため、需要と供給のバランスが変動しやすく商品価値が市場の動向に左右されます。その時々で売上が大きく変わるため、販売金額よりも「いくつの野菜を収穫できたか」という生産量で計算するほうが、より正確に労働生産性を比較しやすいのです。一方、車など販売価格が基本的に一定の商品の場合は、金額をそのまま使って労働生産性を比較できます。

物的労働生産性の計算方法

従業員一人あたりの物的労働生産性を求める場合は、「生産量・販売金額÷労働者数」で計算できます。

1時間あたりの物的労働生産性の場合は、「生産量・販売金額÷労働者数×労働時間」です。

例えば、500人の従業員が働くA工場でノートが1万冊生産されていたとします。このケースを計算式に当てはめると「1万冊÷500人=20冊」となり、A工場では従業員一人あたりノート20冊分の労働生産性があるというわけです。

なお、1万冊のノートを500人の従業員が5時間で生産したとすると、1時間あたりの物的労働生産性は「1万冊÷(500人×5時間)=4冊」となります。

つまり、A工場では1時間あたりノート4冊分の物的労働生産性があるということです。このように、物的労働生産性は計算の対象が数値であるため比較や改善をしやすく、設備投資の判断や生産能力の推移を把握したいときなどによく利用されています。

2.付加価値労働生産性

労働生産性のもう一つは、「付加価値労働生産性」です。物的労働生産性とは、特徴がまったく異なるため、正しく理解することが大切です。

付加価値労働生産性の概要

付加価値労働生産性は、企業の生産活動によって新たに生み出された金銭的な価値を表す指標であり、従業員がどの程度商品・サービスの価値を高められたかを示しています。

例えば、ブランドものの財布をイメージしてみましょう。

同じ素材、同じ大きさ、同じ機能の財布だったとしても、ブランドものかそうでないかで販売価格は大きく変わります。ブランドという付加価値がプラスされることで、価値が大きく高まっているのです。ほかにも、マッサージなど形のないサービスも、提供する人の技術や経験によって価値が高くなります。

具体的には、売上から材料費や外注加工費、メンテナンス費など外部から購入したコストを差し引き、残った利益が付加価値であると考えてかまいません。

生産量や販売金額のように直接的にわかるものではありませんが、付加価値次第で利益を最大化することも可能なため、重要な指標として役立てられています。

なお、国の経済力を示す際によく用いられる「GDP」は、国内で生産された付加価値の総額を指しており、国際的には労働生産性といえば付加価値労働生産性を意味することが多い傾向です。

付加価値労働生産性の計算方法

従業員一人あたりの付加価値労働生産性は、「付加価値の金額÷労働者数」という計算方法で求められます。

1時間あたりの付加価値労働生産性の場合は、「付加価値の金額÷労働者数×労働時間」です。

例えば、ノートを1冊生産するために50円の原価がかかったとします。これを150円で販売すると、原価を差し引いた100円が付加価値に当たります。ノート1冊で100円の付加価値となるため、1万冊を生産すれば付加価値の金額は100万円です。

これを用いて従業員一人あたりの付加価値労働生産性を計算すると、500人の従業員が働くA工場の場合、「100万円÷500人=2,000円」となります。

なお、1万冊のノートを500人の従業員が5時間で生産したとすると、1時間あたりの付加価値労働生産性は「100万円÷(500人×5時間)=400円」です。A工場では、従業員一人あたり2,000円、1時間あたりでは400円の付加価値労働生産性があることになります。

労働生産性を高める3つのメリット

労働力不足へ対応できる

現代の日本は、少子高齢化が進んでおり生産年齢人口も減少傾向にあります。

働き盛りの年齢の人口が減ってしまえば、必然的に労働力も減ってしまうでしょう。

限られた人材を多くの企業が奪い合うことになれば、中小企業を中心とした競争力の弱い企業は人材を確保できず、事業継続が難しくなりかねません。

この点、従業員一人ひとりの労働生産性が向上すれば、より少ない人数や資源で利益を得られるようになります。

仮に、少子高齢化によってこれまで通りのペースで採用ができなくなっても、個々の従業員が高いパフォーマンスを発揮すれば、これまで通りかそれ以上の利益を出せる可能性もあるでしょう。

少ないインプットで大きなアウトプットを実現することは、労働力不足が懸念される日本において重要な意義を持っているのです。

ワークライフバランスの向上が期待できる

労働生産性の向上は、従業員のワークライフバランスの向上にもつながります。

仕事をより早く、より多くこなせるようになれば、その分残業をせずに早く家に帰れるようになるでしょう。自由に使える時間が増えれば、これまでは忙しくて難しかった以下のようなさまざまなことが可能になります。

・趣味に没頭する

・家族との時間を確保する

・十分な休息をとるなど

このように、プライベートが充実すれば従業員のストレスや疲れも発散しやすくなり、より高いモチベーションやパフォーマンスを発揮して仕事に取り組みやすくなるでしょう。

その結果、企業への満足度が高まることで離職率が低下したり、心身の健康が改善して休職する従業員を減らしたりする効果も期待できます。

うまくいけば、労働生産性がさらに向上し、利益の最大化も実現できるでしょう。

コストを削減できる

労働生産性が向上すると、少ない資源で大きな利益を出せるようになります。

余剰となった従業員をほかのコア業務に回して生産性をさらに高められるだけでなく、残業代などが浮くことでコストの削減も期待できます。

削減できたコストを必要な経費や投資に回せば、新規事業への進出など企業が成長するための新たな挑戦も可能になるでしょう。

効率的に労働生産性を高める3つの施策例

業務支援システムを導入する

労働生産性の向上を図るうえで、まず考えたいのが業務支援システムなどITツールの導入です。

ITツールは、効率良く業務をこなすためのさまざまな機能が搭載されており、これまで従業員が手作業で行っていた業務にかかる時間を大幅に短縮することができます。

労働生産性は、労働時間が長ければ長いほど低下する傾向にあるため、ITツールを導入して業務効率化を図るだけで一定の効果を得られるでしょう。

また、短縮できた時間を人間にしかできないコア業務にあてれば、売上を伸ばして労働生産性を高めることも可能です。

まずは、手作業の業務や時間がかかる業務などを洗い出し、対応できるITツールがないか検討してみましょう。既存のITツールで対応できなければ、システム開発会社などと連携して自社独自の営業支援システムをつくることも可能です。

既存のITツールを利用するにしろ、自社システムを開発するにしろ、一定のコストがかかるため導入は慎重に検討しましょう。なお、導入したものの使いこなせないようでは意味がないため、導入後も継続的なサポートを受けられるシステムを選ぶことをおすすめします。

ノンコア業務を外注する

業務の効率化という点で見れば、直接の利益に結び付かないノンコア業務の整理も効果的です。

ノンコア業務に時間をかけてしまうと、その分コア業務に割く時間や人材が減ってしまいます。利益につながるコア業務に資源を集中させたいものの、コア業務をサポートするためにノンコア業務も無視できないジレンマを抱えている企業も多いのではないでしょうか。

このような場合は、ノンコア業務を外注してしまうのも一つの方法です。近年は、コールセンターや福利厚生、メンテナンスなど幅広いノンコア業務に対応した外注サービスも登場しており、うまく活用すればコア業務を一気に強化できます。

外注する場合は、ノンコア業務とコア業務の切り分けを慎重に行いましょう。

外注に適しているのは、総務・事務などバックオフィス系の業務や、セールスやコールセンターのように代行が可能な業務などが挙げられます。

また、ノンコア業務の中にも顧客情報が含まれていることがあるため、外注先のセキュリティ対策や万が一の事態が起きたときの補償なども事前にチェックしてから契約することも大切です。

納得感のある人事評価制度を導入する

日本では、伝統的に終身雇用制や年功序列制の雇用制度が主流となっており、人事評価制度もそれに関連する内容が多くなっていました。

そのため、長く働いた従業員ほど高く評価され、実力のある若手従業員が低い評価しか受けられないケースも多いのです。

このような状況では、従業員が「どうせがんばっても無駄だ」とあきらめてしまい、仕事に対するモチベーションを維持できなくても無理はありません。やる気のない状態で働いても高いパフォーマンスは期待できないため、そのままでは労働生産性の向上は難しいでしょう。

従業員に高いモチベーションで働いてもらうには、勤続年数や労働時間などに関係なく、個々の能力や成果を公正に評価できる人事評価制度を導入することが大切です。

従業員の実力を正しく評価される環境があれば、従業員は「がんばれば評価される」という希望を胸に積極的に仕事に取り組めるようになります。

評価の基準を明確にしたり評価の根拠を上司から細かくフィードバックしたりすれば、納得感も得やすくなり、モチベーションの低下を防ぎやすくなるでしょう。

労働生産性を高めて市場を生き抜こう!

長らく日本に根付いてきた長時間労働や年功序列制が是とされた時代は、大きく変わりつつあります。

少子高齢化による労働力不足が叫ばれる日本で生き残るためには、従来の労働環境を見直し、労働生産性の向上を図ることが欠かせません。

今回紹介した労働生産性の概要やメリット、生産性向上に役立つ施策などを理解し、自社に合うやり方で状況を改善していきましょう。

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