
「リーダーシップとは?」と問われたとき、自信を持って答えられる人はどれくらいいるでしょうか。
リーダーシップの定義は、時代やシチュエーション、人によっても変化するため、一言では表現しにくい一面があります。働き方が多様化している中、改めてリーダーシップの定義について考えてみましょう。
こちらの記事では、リーダーシップの定義やその目的、リーダーシップを高めるための方法などについて解説します。
リーダーシップとは
リーダーシップとは、仕事上立場が上の人から指示を出して人を動かすことだけではありません。チームで円滑に仕事ができるよう全体を見渡し、良い雰囲気や環境を作り出すこともリーダーシップの要件の一つです。
ここでは、リーダーシップの定義や理論、リーダーシップとマネジメントとの違いなどについて解説します。
リーダーシップの定義
「リーダーシップ(leadership)」とは、「統率力」や「指導力」などの意味で使われる言葉です。
一般的に、組織などにおいては、チームをけん引していくリーダーの能力や資質などを指します。リーダーシップの目的とは、チームメンバーの規範となって良い影響を与えたり、メンバーに自ら率先して行動を起こさせたりすること。
もちろん、目標を達成するためにはリーダーの力だけでなく、メンバー全員の意思決定や行動が必要です。しかし、リーダーシップを発揮できる人物がチームを導くことで、より大きな成果を得ることが期待できるでしょう。
経営学者として有名なピーター・ドラッカーの「リーダーシップ論」では、リーダーシップを「仕事」「責任」「信頼」という3つの軸で定義しています。
リーダーシップとは生まれ持った資質ではなく仕事である
リーダーに必要なのはカリスマ性などの資質ではなく、リーダーシップを純粋に仕事と捉えることができる視点だといいます。
リーダーシップは特権や地位ではなく責任である
チームで仕事に取り組むとき、不本意ながら部下が失敗することもあります。
リーダーはそんなとき、部下の失敗に対して責任をとる潔さが必要です。メンバーを励ますことで奮い立たせ、チームを融和的に目標達成へと導ける人がリーダーとなるでしょう。
そのうえで、「すべての責任は自分にある」という覚悟を持つことが必要です。
また、ドラッカーはリーダーも自身に目標を課し、それを実行・実現していくことが必要と説きます。仕事を成し遂げる人こそがリーダーで、その人の行動がリーダーシップといえるのです。
リーダーシップとはメンバーに対して責任を持って行動し、その結果信頼が得られる
これは、強制力をもって無理やり従わせることとはまったく異なります。信頼できるリーダーだからこそ、メンバーが自分の意思でつき従ってくるという能動的な意味での解釈が必要です。
ドラッカーは、「日々の仕事ぶりからメンバーの信頼を得た者だけがリーダーシップを発揮できる」と提唱しています。
リーダーシップの理解を深めるPM理論
リーダーシップについて理解するため、押さえておきたいのが「PM理論」です。
PM理論とは、社会学者の三隅二不二(みすみじゅうじ)氏によって提唱されたリーダーシップ理論のこと。三隅氏は、以下の2つを組み合わせ、両方に優れたものを理想のリーダーシップとしています。
パフォーマンス(目標達成機能 Performance function)
パフォーマンスとは、チームの目標を達成するために必要な生産性を向上させるための能力を指します。
あくまで目標を達成することに着目した行動を指し、「今必要なもの」「そうでないもの」を客観的に判断する力が必要です。これには、やる気の見られない社員に対して厳しく指導することなども含まれます。
メンテナンス(集団維持機能 Maintenance function)
一方のメンテナンスとは、チーム全体の人間関係を良好に保ち、さらに維持・強化する能力のことです。
目標を達成するためには、チームワークの良さも必要になります。チーム内で落ち込んでいる社員がいたら話を聞いてあげることも大切です。一般的に「面倒見が良い」といわれる人は、メンテナンス力が高いといえます。
PM理論では、これら2つの指標の頭文字を組み合わせ、PM型・Pm型・pM型・pm型の4つに分類しているのが特徴です。
パフォーマンス・メンテナンスともに大きいPM型は、メンバーの士気を高めながら生産性も上げていくことができる理想のリーダー像として定義されています。
マネジメントとの違い
リーダーシップとマネジメントは、しばしば混同される言葉の一つです。
しかし、両者には明確な違いがあります。大まかに、以下のように定義することができるでしょう。
リーダーシップ:「何(What)」に着目してビジョンを描き行動する
リーダーシップとは、チームのメンバーを目標に向かってけん引していく存在だと説明しました。
リーダーにとって大切なのは「ビジョン」を持つことです。描いたビジョンと結果に注目して、目標達成のために何ができるかを考え行動することが求められます。
長期的な視野を持ってものごとを見たり、時には未知の分野に挑戦していったりすることも必要です。
マネジメント:「いつ(When)」「どのように(How)」に着目して業務を遂行する
一方のマネジメントは、「目標を達成するための方法を決定し管理すること」と定義できます。
描いたビジョンを実現するために具体的な施策を考えたり、予想されるリスクを回避するための策を練ったりなどもマネジメントの役割です。
つまり、マネージャー(マネジメントする人)の役割は、リーダーの軌道修正をすることといっても過言ではありません。
また、ビジョンとは対照的に、マネジメントでは現実的・短期的なものの見方が重要となり、今起こっている問題に注目する点も特徴です。
リーダーシップを発揮する4つの目的とは?
リーダーシップを発揮すると一口にいっても、ただやみくもに突き進めばいいわけではありません。
リーダーシップを発揮する際には、その目的を明確にすることが必要です。以下では、リーダーシップを発揮する4つの目的について見ていきましょう。
①目標やタスクを達成する
まず、リーダーシップを発揮する目的として「目標やタスクの達成」が挙げられます。
特に、組織内である目標に向かって進む場合、個人がばらばらに行動していてはゴールに到達することができません。
リーダーが各メンバーに適切な指示を出し導くことで、より円滑に目標やタスクを達成することができます。
各人の能力が高いチームであれば、目標やタスクをメンバーに提示し、メンバー内で必要となるアクションを議論させる方法も有効です。
しかし、各人の力が不足している場合は、リーダーがすべての方向性やアクションを決定し、仕事を割り振ることが必要となります。
メンバーが指示に従って仕事を進められれば、目標達成も見えてくるでしょう。
②チーム内の団結力を維持する
リーダーシップは、チーム内の団結力を高めるためにも必要不可欠です。
高い目標を達成するためには、各メンバーの士気を高め、コミュニケーションを円滑にすることも欠かせません。その際、リーダーは脇役に徹し、チーム全体を見守ることを意識してみましょう。
時には、軌道修正を行い建設的な議論ができるよう促すことで、各人が役割を全うでき目標をクリアできるでしょう。
③個人の能力を開花させる
チーム全体の団結力を高めることに加え、各個人の能力を引き出すためにもリーダーシップは必要です。
リーダーは、メンバー一人ひとりの長所や短所、将来の目標などを把握し、メンバー自身がそれらに気づくよう導いていくことが求められます。
この観点で主役となるのは、あくまでも各メンバーとなるため、自身で考えさせ行動させることが重要です。
④ダイバーシティの推進
社会的課題とされる「ダイバーシティ(多様性)」も、これからのリーダーシップを考えるうえで欠かせないものです。
多様性が実現することでより有能な人材を発掘でき、他では見られない革新的なアイデアが出る可能性があるなど、社会だけでなく企業でも多様性の価値が注目されています。
ただし、多様な人材がチーム内に集まると、「秩序がなくなってしまうのでは?」という声も上がるでしょう。
それぞれのメンバーの常識や仕事の進め方などが違うことで対立が起こり、その結果生産性が低下してしまう可能性もあります。そこで必要となるのがリーダーシップです。
リーダーにも多様性が求められ、さまざまなタイプのリーダーシップを発揮できる人が必要とされるでしょう。
リーダーシップの3つのタイプとは?
リーダーシップには、いくつかのスタイルや種類があります。
ここでは、「社会心理学の父」と呼ばれた、クルト・レヴィンによる3つのリーダーシップの種類について見ていきましょう。
専任型リーダーシップ
「専任型リーダーシップ」とは、行動や意思決定などに対し、すべてリーダーが指示を行うタイプです。
目標の設定からスケジュールの調整などまで細部に渡りリーダーがコントロールできるため、失敗を最小限に抑えることができます。
一方で、部下は能動的になりやすく、リーダーの指示を待って自分では考えようとしなくなる危険性があることはデメリットです。
短期的には成果を上げられますが、長期的に見て、「各メンバーやチーム全体の成長」という観点では、あまりおすすめできません。
民主型リーダーシップ
「民主型リーダーシップ」とは、行動や意思決定などをすべて部下が行うタイプです。
リーダーは、あくまでサポート役として、メンバーの意思決定がスムーズに行われるよう導く役目を遂行します。メンバー同士で議論し決定していくため、各人の積極性が高まることが期待できるでしょう。
さらに、コミュニケーションが密になり、チームとしての団結力アップも期待できます。長期的に見て、とても有効なタイプです。
一方、計画やスケジュールの調整なども部下に任せるため効率が下がり、短期間で成果を出すことは難しくなる可能性があります。
チーム内での議論が長引いて結論が出にくいこともデメリットです。
さらに、チームの意見として無難なところで落ち着く傾向があり、大きな変革をもたらすことは難しいでしょう。
放任型リーダーシップ
「放任型リーダーシップ」とは、行動や意思決定にリーダーが一切関与せず、すべてを部下に任せるタイプです。
このタイプでは、各メンバーが自由に行動できるため、各人のスキルや能力が高い場合は、成果が出やすいのがメリットとなります。
しかし、すべてを部下に任せることでまとまりにくい側面もあり、協調性や団結力が低下する可能性も否定できません。
また、各人の自己管理能力が低い場合は、モチベーションが低下したり生産性が下がったりすることもあります。
どのタイプにもメリットとデメリットがあり、いずれかのタイプを使うだけでは不安に感じるでしょう。チームメンバーの特性を把握することはもちろん、状況によって使い分けるなど、さまざまなタイプを組み合わせてみることをおすすめします。
リーダーシップ能力が高い人の7つの特徴とは?
リーダーシップは、さまざまな経験を通して培うことができ、後天的に身につけられる能力です。
リーダーシップ能力が高い人には、どのような特徴があるのでしょうか?ここでは、7つの特徴について解説します。
①行動力がある
リーダーシップを発揮できる人には、「部下の先頭に立って行動している」というイメージがある人が多いのではないでしょうか。
例えば、失敗を恐れて行動を起こさないことよりも、まずは行動して前に進んでいく力があるといった人です。
そんなリーダーは、周りにも良い影響を与えるでしょう。掲げた目標を達成するため、リーダーにはさまざまな課題をクリアしていく行動力が求められます。
②信頼を得ている
リーダーの資質において欠かせないのが、部下から信頼されることではないでしょうか。
部下に注意してばかりで行動が伴わないリーダーは、信頼を得ることができません。
一度発言したことに責任を持ったり、時間を守ったりすることはもちろん、人によって態度を変えないなど、基本的なことを実行することが部下の信頼を得る大切なポイントとなります。
③誠実である
信頼を得るためには、誠実さが必要です。
クライアントや社外の人だけでなく、チームメンバーに対しても敬意を持って接することが大切でしょう。能力やスキルがいくら高くても、誠実でないリーダーには、ついていきたいと思えないはずです。
④ミュニケーションスキルが高い
チームメンバーとの意思疎通がスムーズに図れる人は、リーダーシップ能力が高いといえます。
例えば、「言いたいことが言えない」「相手に伝わっていないことをそのままにしておく」といった人は、コミュニケーションがとれているとはいえません。
丁寧にコミュニケーションをとっていけば、メンバーに適切な行動を促し、成果を上げることが期待できます。
⑤決断力がある
チーム全体のことを考えて最良の案を選択し、決断する能力のある人にはリーダーの資質があるといえます。
いつまでも悩んでなかなか決断できない優柔不断なリーダーでは、部下に悪影響を与えかねません。
判断する軸を持ち、状況に応じて正しい決断ができる人はチームを引っ張っていくことができるでしょう。
⑥厳しい局面で逃げない
「トラブルや困難な局面から逃げない=責任を果たす」ともいえます。
先述したドラッカーが提唱するリーダーシップの3つの要件でも、「責任」について述べられていました。
具体的に、「人のせいにしない」「厳しい局面に立ち向かう勇気を持つ」などは、リーダーに求められている要素です。
⑦気持ちが安定している
リーダーシップを発揮するためには、常に冷静な判断が必要です。
感情の起伏が激しいリーダーで、部下に怒りちらしているだけでは、萎縮して意見が言える環境が構築できません。
そのため、リーダーには「気持ちの浮き沈みが少なく、安定している」といった精神的なタフさが求められるでしょう。時には、批判や反論を受けることもありますが、それらを受け止めて解決する器の大きさが必要です。
リーダーシップを高める方法
リーダーシップを高めるためには、さまざまな方法があります。ここでは、3つの方法に注目してみましょう。
①優秀なリーダーの例からノウハウを身につける
リーダーシップには、一つの決まった型があるわけではありません。
チームメンバーの適正や状況などに応じて、目標とするタイプは異なります。
まずは、身近なところで尊敬できるリーダーを参考に、リーダーシップのノウハウを学ぶことがおすすめです。他社の経営者や異なる部署のリーダーなどでも良いでしょう。
具体的な事例をロールモデルとすることで、理想のリーダーの資質を身につけることが期待できます。
身近にモデルとする対象がいなければ、松下幸之助や本田宗一郎、スティーブ・ジョブズといった著名人を参考にするのも一手です。
②リーダー自らが率先して行動する
いくら能力やスキルのあるリーダーでも、口で指示するばかりで行動が伴わない場合は、メンバーの信頼を得ることはできません。
掲げた目標をチームメンバーと共有し、目標達成のためにリーダー自らが率先して行動を起こしましょう。
その際、リーダー自身も自分ならではの目標を設定することがポイントです。また、各メンバーがそれぞれの目標を達成できるよう、フォローすることも必要になります。
③チームのメンバーを信頼する
リーダーシップを発揮して自ら率先して動くことは重要ですが、すべてを指示してしまうと部下が成長しません。
細かくチェックされて口出しされると、部下は「信用されていない」と思ってしまう可能性もあります。
仕事は、一人ではできないため、メンバーを信じて仕事を任せることも大切です。
プロセスがうまくいっていないと思えば、アドバイスをしたり、モチベーションが下がっている場合には声をかけたりして、円滑なコミュニケーションをとることが求められます。
まとめ
リーダーシップで必要となるのは、チームメンバーとの信頼関係を築くことです。
信頼を獲得するためには、まずリーダー自らが率先して行動し、メンバーの仕事に対して責任を持つ覚悟が必要となります。
メンバーの適正や状況などを冷静に判断し、「どのようなリーダーシップを発揮すればよいか」を的確に選択しましょう。
チーム全員で目標達成へのビジョンを共有し、能動的に行動できれば結果的に企業全体の成長にもつながります。