
目標管理制度は、経営学者ドラッカーが提唱した「社員が自ら目標設定し、その目標を達成するためにセルフマネジメント力を高めていく中で、組織貢献と自己成長の両方が得ることを目的とした人事制度」のことです。しかし、現実にはこのような理想的な運営がされているケースは少なく、制度が形骸化している企業がほとんどではないでしょうか。
そこで今回は、目標管理制度に関して以下のようにまとめました。
1.目標管理制度とは?
2.目標管理制度の2大メリット
3.目標管理制度の3大デメリットと対策
4.目標管理制度導入3ステップと成功への5ポイント
5.目標管理制度で効果を引き出すための4つの課題と対策
最後までお読みいただければ、目標管理制度が持つ本来の大きな組織観が把握でき、その有効性を理解していただけます。これから導入する企業、すでに制度としてはあるが、正しい使われ方をしていない企業とも、今後の人事マネジメントに大きなプラスになります。
1.目標管理制度とは?
本章では、目標管理制度の概要をまとめてあります。
①発案者:ピーター・ドラッカー
目標管理制度は、1945年に経営学者ピーター・ドラッカーが自著『現代の経営』の中で「Management By
Objectives and Self Control(目標とセルフコントロール経営)」として紹介したマネジメント法です。最初の大文字の頭文字をとってMBOとも呼ばれています。
具体的には、社員に自分で目標設定をさせ、その目標達成のために、自分で自分を管理して主体性を養い、最終的に組織全体の成果につなげていくという、新しいマネジメントの概念です。多くの世界企業が導入した結果、人事評価制度のグローバル・スタンダードになりました。日本には1960年代に日本に上陸しています。
【参照:ピーター・ドラッカー 「現代の経営」】
【参照:目標管理制度MBO】
②日本での経緯・現状
日本上陸当時の1960年代の日本では、導入はされたものの現場で定着せず、言葉だけが一人歩きしている状態でしたが、バブル崩壊後の1990年代、企業の成果主義導入に伴い、目標管理制度によるマネジメントに再び再び注目を集めました。
上陸当初、目標管理制度が日本で定着しなかった要因の1つに、日本では企業は人なりという考えの下、「職能資格制度」という、「職務遂行能力」によって社員をいくつかの等級に分類して評価する方法を採用していました。この評価方法では、役職に見合った「職務遂行能力」がある社員は、実際に役職についていなくても役職者同等の処遇を受けることが出来たため、「成果」による評価は日本の企業風土とは相性が良くありませんでした。
しかし1990年代バブル崩壊以降、日本経済は長い経済低迷期に突入し、企業は業績悪化によるコストダウンを迫られ、終身雇用制度・年功序列制度を前提とした運営を維持していくのが難しくなります。総人件費が上げられない中、限られた原資の配分を変え、高い「成果」を出した人には高給待遇をするなど、従来とは違った評価の仕組みが必要になり、その「成果」の評価尺度として再び取り入れられたのが目標管理制度です。
本来、ドラッカーが著書の中で提唱した目標管理制度は「部下のモチベーションを高めた結果、生産性が高まる」仕組みを作るための人事マネジメントなはずなのですが、日本では成果主義の付属品としてノルマ管理ツールのような位置付けで、正しい使われ方がされてないのが現状です。
【参照:職能資格制度】
③目標管理制度の目的
目標管理制度の主たる目的は現場マネジメントです。
もちろん、この制度を導入した企業全体の最終目的は業績が上がることであり、当然、人事評価や給与査定の参考にも使います。しかし、業績や給与が上がった理由が、単に数字を追った売上至上主義や成果至上主義によるものではなく、あくまで
・社員が自分の所属企業の目標達成とリンクした個人目標を自ら設定している ・それを自分でマネジメントしながら、企業内でスキルアップや能力向上をしている |
など、社員と企業の連帯、社員の自律が両立した形で業績達成されるのが目的なのです。そのために主にやることは
(1)自分で目標達成の指標を設定する
(2)個人目標を組織の目標と関連づける
の2点だけなのですが、これらの目標を達成するための手助けとして
- 上司と部下の間のコミュニケーションを密にする
- 上司は部下のモチベーションを高めて育成する
など、目標のために「成果」だけを追うのではなく、目標のために
- 部下の仕事内容
- 自分の仕事内容
- 部下と自分の行動管理
など、全般的にマネジメントすることに重点が置かれています。
④OKRとの違い
とても類似したマネジメント方法としてOKRがあります。OKRとは、組織が掲げるゴール達成(目標)のために
- 達成目標(Objective)
- 主要な成果(Key Results)
をリンクさせ、組織と個人の方向性を揃えて、最終的には組織文化の形成などを目的にした目標管理方法です。
目標管理制度との違いは、OKRは役員と全社員を巻き込んだ全社コミュニケーション運動に近い大掛かりなものであるのに比べ、目標管理制度は上司と社員との関係に止まります。
目標管理制度 |
|
OKR |
マネジメント+人事評価と給与の査定 |
目的 |
生産性向上 |
社員と上司 |
運用範囲 |
全社社員・役員クラス |
組織と社員個人の目標がリンク |
違いの共通点 |
組織と社員個人の目標がリンク |
従業員のスキル・能力の向上 |
最終目標 |
組織文化形成(個人評価には使用しない) |
【参照:OKR】
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2.目標管理制度の2大メリット
本章では、目標管理制度を導入した際に得られる2大メリットをまとめています。
①社員のモチベーションが向上・維持する
目標管理制度では、目標設定をする社員そのものが目標管理者であり実行者でもあります。従来のように、上から与えられた仕事を単に作業やノルマとしてこなすのではなく、自分が設定した目標に向かって仕事をしていく過程であることを自覚できるため、常にモチベーションが高い状態で維持されます。
また、自分がしている仕事が企業全体の業績にも貢献できていることが理解できているため、目の前の仕事をこなしていくことに納得感があり「やらされ感」がなくなります。さらに、自分で目標を何度でも設定できることから、「次はあれをやってみよう」という前向きな意欲が湧き、喜びと期待を持って仕事に取り組むことができます。
②人材育成・能力開発ができる
目標管理制度が上手に機能すると、社員の人材開発や能力開発につながります。
うまく機能させるポイントは、目標設定時に「ちょっと頑張らないと出来ない」少し高めのゴール設定をすることです。ゴールを達成したいというモチベーションが仕事の創意工夫を産み、今までの仕事の仕方では達成できなかった目標を軽々とクリアすることがあります。
また、一緒に目標設定をした上司は、部下がちゃんと目標を達成できるようなアドバイス、部下の良さを引き出すような指導、必要なタイミングで励ましの言葉などをかけながらサポートをしていきます。このように上司と部下が緊密なコミュニケーションをとりながら仕事をしていくプロセスそのものは
部下の
- コミュニケーション力
- 情報収拾力
- 課題発見力
- セルフコントロール力
- 判断力
といった企業にとって必要な能力を育てます。また同時に、部下をサポートしている
上司の
- 指導力
- コーチング力
- 観察力
- セルフマネジメント力
- 調整能力
- 交渉力
など、より大きな組織のリーダーとして全体を見渡し牽引できる人的な器と能力が開花されていきます。
3.目標管理制度の3大デメリットと対策
本章では、目標管理制度を導入した際に生じる3大デメリットについてまとめました。
①達成コントロールができる
社員が目標管理制度をよく理解していないと、数字至上主義的な行動を取ってしまい、本来の目標管理制度の目的から外れてしまいます。例えば
- 目標を低めに設定する
数字目標も自分で決められますので、あらかじめ確実に達成できるように、数字を低く設定することも可能です。また、達成目標を明確な数値で表すことができない場合には、目標設定者のさじ加減で、仕事の難易度を低く見積もることができます。
- 達成そのものが目的になる
上司が売上至上主義的にノルマを設定し、部下に分配して押し付けるためのノルマ管理ツールとして使ってしまうケースがあります。仮にその目標数字が適正だったとしても、このやり方では本当に必要なモチベーション向上や能力開発の機会を奪ってしまいます。
<対策>
このような達成コントロールをする理由の1つに、目標管理制度の結果が人事考査や給与査定に関わることを考慮しているケースがあります。実際にその材料にはされますが、数字を達成したことに対しての評価ではありません。
達成コントロール操作をする社員は、目標管理制度の意味がよく理解できていない可能性が高いので、社内の勉強会などに参加させ、正しく理解をさせましょう。また、自社が目標管理制度における人事評価の比重を大きく取っているのであれば、そのこと自体を見直すべきでしょう。
②目標設定以外のことをしなくなる
目標管理制度の目的が「目標による自己管理」であることが理解できていないと、目標設定をした社員が自分の目標を達成することだけにこだわり、ゴールに振り回されてしまう可能性があります。
例えば、とにかく設定した件数をこなすことが目的になってしまい、目標設定の達成に直接的に繋がらない業務が後回しになることがあります。本来の目標管理制度は、自ら設定したゴールを中心に、仕事をそのものを自分で自律的に管理進行出来る能力を伸ばして、長期にわたりモチベーチョンを維持していくことにあります。
<対策>
上司が関与する必要があります。故意に仕事の一部を放棄しているのでなければ、簡単なアラートやメモ機能を使って自己管理できるようにアドバイスをしましょう。また、長いこと数字を追ってきたタイプは、頭で理解していても、無意識に数字至上主義的な行動をするケースもあります。例えば、数字が合っていれば、
・多少は会議に遅れてもいい
・業務連絡が遅くてもいい
・細かい作業はアシスタントに丸投げ
など、数字を必死に追いかけるあまり、視野狭窄になって業務全体の一部しか目に入らなくなってしまうケースです。自分で気が付けるようになるまで、上司が繰り返しアドバイスとサポートをしてあげましょう。このタイプには、1日の振り返り日誌メールのようなもので、自分がした行動の「動機」に何があったかを繰り返しリマインドさせると効果があります。
【参照:自己認識欲求モデルとその実証的研究】
③目標管理制度を正しく評価できる人が少ない
実は、目標管理制度を正確に評価できる人物は多くはありません。理由は、部署や業務によっては細かな目標設定が難しく、これといった正解がない業務も数多くあるためです。
また、評価者として適切な人物には、最低でもその部門である程度の経験が必要ですが、さらにマネージメント能力が必要なため、従来のような「ただ長期間その部署に存在していた(職務遂行能力)」だけでは能力不足でお願いすることができません。
人事考査と給与に反映する評価であるがゆえに、人材不足でも誰かに評価者になってもらうしかなく、能力不足の自覚がある上で評価者を担当しなくてはない場合のストレスは想像を絶するものがあります。また、現在のところ、このような評価者を育成するための機関はありません。
<対策>
今の所、これといった対応策はありません。社内に、評価者にふさわしいと思える人物が存在しない場合は、目標管理制度の導入をいったん見送るか、専門ツールなどを使って管理する方向を検討しましょう。
ツール名 |
説明 |
コンピテンシーという、自社にとって「仕事ができる人」のモデルを元に能力を査定・比較していく人事評価ツール。成果主義寄りだが、多面的な評価方法が揃っていてバランスが良い。カスタマイズも可能。1つの評価に対する差し戻し回数が多く、手間がかかる分、評価担当者がいなくても結果的にモレのない人物評価ができる。 |
|
目標管理制度とOKRを主軸とした人事評価ツール。テンプレが多く、一人の人物に対して多彩な切り口で評価ができる。目標管理制度で作成した目標に合わせた1対1の面談内容も残すことができるため、評価者となる上司の数が足りなくても目標管理制度が滞らない。 |
4.目標管理制度導入3ステップと成功への5ポイント
4章では、目標管理制度を導入するステップと、導入してから気をつけるべきポイントをまとめました。
4-1.目標管理制度導入への3ステップ
①まず、会社に方向性を決めてもらう
目標管理制度の成功は、企業戦略あってこそです。
目標管理制度では、社員と企業の目標がリンクします。社員に目標設定をさせる前に、企業の目標を役員クラスに見直してもらい、修正すべき部分は先に修正してもらいましょう。経営陣が組織としてのゴールを明確に示すことができれば、現場が出すべきゴールも明確になります。
②いつ・どこから導入するかを決める
まずは、導入結果がわかりやすい営業部などの測定しやすい業務をしている部門から導入しましょう。
部門によっては目標管理制度を入れても評価基準がわかりにくいところもあり、そのような部門からすれば、会社都合で一斉導入されても、単に通常業務の進行に支障が出るだけの場合があるからです。評価に関わることなので、慣れない部署はピリピリしがちです、なるべくソフトランディングを心がけましょう。
③マネジメント体制を作る
管理職(上司)が部下を適切にマネジメントできる体制作りをします。具体的には経営陣も目標管理制度を実施し、各部門の統括者に対して目標管理制度によるマネジメントをしてもらいます。
理由は、目標管理制度では企業と社員の目標がリンクしますので、各部門のトップは企業方針に近い人物と整合性が高いのが理想だからです。一見、手間がかかる印象ですが、結果的にはこの方が企業全体に経営陣の考えと企業の目標が正確に浸透し、目標管理制度の成功率が高くなります。
4-2.目標管理制度導入成功への4ポイント
目標管理制度導入が成功する秘訣は4ポイントあります。主に、目標について上司と部下が話し合う時に押さえるべきポイントに集約されます。
<ポイント①:明確で具体的な目標設定をする>
設定される目標は、企業や上席からの依頼や命令、提案ですらなく、その業務担当である本人が、納得して自ら実践しようと思える、明確かつ具体的な目標設定である必要があります。
面談時の上司の役割は、部下が決める目標が
- 上司の目標設定とリンクしていること
- ほかの担当者の目標ともリンクしていること
- チーム全体の目標達成につながること
を意識してリードをし、必要な場合はその場で修正提案をします。修正結果も、やはり、部下が自ら再設定したものである必要があります。
上司は部下との面談が、自分の役職としての課題「チームマネジメント」「組織マネジメント」にリンクしていることを自覚し、あらかじめ、組織全体の利益と発展に繋がるような目標設定をしておく必要があります。
<ポイント②:目標レベルは適正範囲に設定する>
設定する目標は、現実的にできる範囲にします。具体的には「ちょっと頑張りが必要なレベル」の目標設定が理想です。
あまりに難易度の高い目標は、最終的に本人の負担になります。達成できないケースが続くと「達成できなかった」という体験がモチベーション低下を誘引します。だからと言って、カンタンに到達できるレベルの目標では、成功した時の達成感も低く、能力の成長もありません。
今のレベルより少しだけ努力すれば達成できるという範囲が適正であり、できれば
- 具体的に数値に表すことができる
- 視覚的に確認できる
タイプの目標設定が理想的です。
【参照:ハーバードビジネススクール 「ゴールは遥か彼方へ:過剰な目標設定がもたらす副作用とその仕組み」(原文題:Goals Gone Wild: The Systematic Side Effects of Over-Prescribing Goal Setting )】
<ポイント③:期限を切って計画を立てる>
目標には期限をつけましょう。目標設定を短期・中期・長期の目標にわけ、それぞれに期限を設定します。こうすると、達成のためには何をするべきなのかという計画が浮き彫りになります。
例えば
- 目標設定:自分の担当地区の売り上げを1.25倍にする
- 期限:今から半年間
- 長期目標:2020年◯月決算時期に◯◯円の売り上げ達成をクリア
- 中期目標:3ヶ月後に目標設定の4割をクリアしている
- 短期目標:リスト20%増
などのように、1の目標設定の段階では半年後のイメージだけがポンと宙に浮かんでいる状態ですが、これに期限をつけると、大まかな計画になります。長期・中期・短期の段階まで期限を落とし込むと、限られた時間の範囲ですべき行動・できる行動が明確になり、達成への具体的な道程が見え始めます。
仮に期限のない目標であったとしても、人工的な期限をつける方が目標が達成する可能性は高まります。
【参照:石倉洋子 一橋大学名誉教授 世界級キャリアの作り方】
【参照:日本心理学会 福山大学 学長 松田文子 時間研究者の時間管理術】
<ポイント④:アクションプランを立てる>
アクションプランを立てましょう。目標設定をし、期限を切ったら次は行動に移すのですが、「行動の具体的な内容」を理解していないと、計画倒れになります。アクションプランは目標達成のためにやらなくてはならないことの洗い出しです。アクションプラン作成のポイントは7つあります。
1.6W2Hを意識して具体的にしておく。
以下の要素を元にアクションプランを作って行動すると、即行動ができます。
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(誰が)
- Whom(誰に)
- Why(なぜ)
- What(何を)
- How(どのように)
- How much(いくら)
2.優先順位を意識する。
常に、目標達成に一番大切なものから着手します。
3.設定した目標の範囲で作る
目標管理制度を使って設定した範囲でアクションプランを考えます。例えば、多くの目標管理制度は年度で区切っていますので、今期にできない事・する必要のない事は記入をする必要がありません。
4.測定可能な目標に置き換える
できれば、測定ができる指標に置き換えてアクションプランを作ります。例えば
- 財務指標:売上高・売上高成長率・売上高利益率
- 顧客指標:顧客満足度・ブランド
- 業務プロセス指標:原価・資産効率・達成率
- 学習と成長指標:人材能力・組織への満足度・点数や等級
など数字で表せて記録できるものにして、面談の際に上司に具体的に進捗状態を報告できるものが理想です。こうしておくと、自分で見た時でも、数字ではっきりと「こんなに出来てる!」とわかると、モチベーションが上がります。
5.現状の条件で考える
他者(他社)を変える事は出来ないので、前提条件が必要なものは除外します。あくまで、現状のままでもできる事をアクションプランにします。
6.できない改善策は書かない
改善には時間や労力がかかります。大事なのは目標管理制度で設定した目標をクリアすることですので、できない改善策は一旦、別件として置いておきましょう。また、その改善をしなくてはならない人物に任せましょう。
7.臨機応変にする
中・長期の目標の場合、進捗の途中で職場では様々なことが起こります。
- 社長の交代
- 上司の人事移動
- 自分の人事異動
- 企業方針の変更
- 社会経済の変化
など、職場環境が変わっていく中で、もしかしたら、年度のはじめに立てた目標管理制度の目標が、年度末には何の意味もなさないものになっている可能性もあります。
自分の力ではどうすることもできない変化がおきた場合は、臨機応変に対応しましょう。企業も四半期ごとに中間決算を行って事業計画の見直しをしていますので、個別の目標も定期的に見直していくのが当然だと言えます。
5.目標管理制度で効果を引き出すための4つの課題と対策
本章では、目標管理制度の今後の課題とその対策についてまとめてあります。
<課題①:管理担当者育成の必要性>
マネジメントをする側のサポートを企業がする必要があります。なぜなら、目標管理制度のマネジメントをする社員は、そのような専門的な知識と経験を持っていません。もし、過去に何かを教えたりコーチする経験があったとしても、それは目標管理制度を成功させるための方法とは違います。
自分に知識と経験がないとわかっていることを役職として課されると、大きなストレスになります。マネジメントする側の人材に対しては、目標管理制度の目標として、マネジメントスキル向上のための勉強会参加を組み込むと良いでしょう。その際、本人がその役職を希望しない場合は、自由に辞退させることをおススメします。
【参照:鈴木 義幸 図解 コーチング流タイプ分けを知ってアプローチするとうまくいく】
【参考:伊藤守 1人でも部下がいる人のための世界一シンプルなマネジメント】
<課題②:「働き方改革」との共存>
「働き方改革」の一環である ホワイトカラーエグゼンプション、テレワークなどの新しい勤務形態を取り入れる企業が増える傾向にあります。このような新しい勤務形態は成果主義を前提しているため、目標管理制度とは使い方を区別しておく必要があります。目標管理制度はあくまで「セルフマネジメント」が主眼です。
新しい働き方に対応した目標管理制度を成功させるためには、
- 上司と部下のコミュニケーションの良さ
本来であれば現場で部下の行動を観察する中で把握することができるサポートのタイミングや、アドバイスをする必要性などを見失いがちになります。
ツール(SNS・チャット・メール)などによるコミュニケーション密度がある程度必要になります。また、そのような汎用ツールやアプリ、営業ツールを企業側が用意する必要があります。
- 具体的で定量的に測れる目標設定とプロセス管理
上司部下ともにバラバラの勤務形態・勤務時間になる可能性がありますので、目標設定は測量・測定できるタイプのものに限定し、目の前にいなくても違いに進捗状態が把握できるようにしておく必要があります。
また、このような数値を各人がバラバラなソースから使わないよう、ある程度の数値データを企業側が用意する必要があります。
などの2点が要になります。成果主義的な勤務体系に引っ張られて、本来の目標管理制度の目的を見失わないように注意が必要です。
<課題③:グローバル化>
バブル崩壊後の長い景気低迷の波に洗われ、日本企業独特のルールだった終身雇用と年功序列の制度は崩壊しつつはありますが、まだ色濃く残っている企業も数多く存在しています。同時に、企業内には日本人のためのキャリアパスはあっても、外国人向けのキャリアパスは整備されておらず、日本生まれ日本育ちであっても、外国籍だからという理由だけで採用を見送る日本企業も未だに存在しています。
このような背景の中、M&Aによる海外企業の子会社化、海外からの資金提供による経営権の獲得、海外投資ファンドとの共同出資事業の設立などにより、世界共通のグローバルな人事が必要になっていきます。
現在、日本で行われている目標管理制度は、日本的慣行色の強い人事制度用にアレンジしてあり、本来、ドラッガーがグローバルスタンダードとして提唱したものとは違います。今後、止まらないグローバル化の中で企業が生き残るためには、従来の職務等級制度から、成果主義と役割等級制度による人事へと変化していく必要があります。
<課題④:経営陣の積極参加>
4章でも触れましたが、経営陣にも目標管理制度に参加してもらう必要があります。企業全体の目標を経営陣から掲げてもらい、そのゴールに向けて全社員が目標管理制度を使って目標設定されるべきです。
現時点で、日本の目標管理制度の多くは
- 社員が企業全体目標を知らされていない
- 社員が経営計画の存在すら知らない
などの理由により、所属組織のゴールを知らない状態で目標設定をするため、数字を基本としたノルマと数字の管理ツールに成り下がった状態にあります。
本来、ドラッカーが提唱した目標管理制度とは、自ら設定した目標によるセルフマネジメントによって個人の主体性が発揮された結果、組織貢献と自己成長の両方が得られるという、人間観・組織観に基づいたものなのです。この前提を元にすれば、経営陣の参加が大きな成果につながるのは、当然であると言えます。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。ピーター・ドラッカーが提唱し、今や世界のグローバルスタンダードとなった目標管理制度について
1.目標管理制度とは?
2.目標管理制度の2大メリット
3.目標管理制度の3大デメリットと対策
4.目標管理制度導入3ステップと成功への5ポイント
5.目標管理制度で効果を引き出すための4つの課題と対策
にまとめました。現在、導入済みで改定が必要な企業は、自社でどこに手を加えるべきかご理解いただけたかと思います。また、これから新規導入される企業では、導入前に準備すべき事柄が理解できたと思います。
今後、人事マネジメントに関わるみなさまにとって、より大きな成果が出せることを心から応援しています。
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