
年控序列制度の代わりに成果主義が導入されるようになった世の中。
多くの企業では人事制度としてMBO(目標管理制度)を導入しています。
MBOにより、日本企業の多くが成果主義を取り入れましたが、社員を評価する際にうまく機能しているのでしょうか? 今回は、MBOについての効果的な活用方法や、課題点についてご紹介します。
1 MBO(目標管理制度)とは?
MBOとは、「Management by Objectives」の略です。1950年代にアメリカの経営学者であるピーター・ドラッカーが、自身の著書の中でこの制度を提唱しました。
日本語に訳すと「目標による管理」となり、企業内の部署やグループ、もしくは個人で目標を設定し、それがどれだけ達成できたかによって評価を決めるというものです。 以下のデータから、2018年の段階で企業の約79%がMBOを評価制度に組み込んでいることがわかります。
区分 | 2001年 | 2004年 | 2007年 | 2010年 | 2013年 | 2018年 | 前回調査比 |
目標による管理制度の実施率 | 64.2 | 77.3 | 76.0 | 73.8 | 81.8 | 79.3 | △ 2.5 |
参考:一般財団法人 労務行政研究所・旧姓使用を認めている企業は67.5%~民間企業440社にみる人事労務諸制度の実施状況~ https://www.rosei.or.jp/research/pdf/000073723.pdf
1-1 MBOの仕組み
MBOではまず、社員一人ひとりに目標を設定してもらいます。社員は努力して仕事を進めていき、一定期間内の目標の達成度によって評価を決めるという仕組みです。
基本的に年に1回、年度の開始ごろに目標を設定し、年度末に評価します。上司と評価について話し合い、その結果を受けて翌年度に向けた設定を決める、という流れが主流です。
社員が目標を意識して仕事をしていく姿勢から、社員の成長を促す仕組みも含んでいます。
1-2 成果主義の会社で多く用いられる
MBOは定めた目標を下回ると評価が下がり、上回ると評価が上がることから、成果主義の企業で多く用いられています。
人件費のコストダウンなどの観点から、年功序列制度や終身雇用制度の崩壊が進む中、多くの企業が成果主義の一環として、MBOを社員の評価に使っているのです。
2 MBOの導入による利点
日本に根付いていた終身雇用制をやめてまで、MBOを導入する利点はどこにあるのでしょうか?本章では、主に以下の3つについて解説します。
・人事考課に応用できる
・社員の成長につながる
・社員のモチベーションが上がる
2-1 人事考課に応用できる
MBOに置ける、初めに設定した目標と、そこにいたるまでの結果が明確な部分は、人事考課に向いているといえます。
結果を分析して確認するため、社員間の評価基準を平等にできるのです。
2-2 社員の成長につながる
MBOで目標を設定すれば、後はそれを目指して社員は努力を重ねます。
日々の業務の中で改善策を考えながら働き続けることで、社員の成長にもつながるでしょう。
社員同士で互いに切磋琢磨して、部署やチーム内の生産性が高まることも期待できます。
2-3 社員のモチベーションが上がる
目標を達成したいという意識が、社員のモチベーションを高めていくことが期待できます。
MBOで決めた目標は企業の発展にとっての一部であり、目標を達成すれば社内で認められたという承認欲求を満たすことも可能です。
モチベーションの高まりは次第に自信へと変化し、より大きな目標の達成を目指したいと思うようになるでしょう。
3 MBOの活用手順3ステップ
では実際にMBOを活用していくうえで、どのような流れで行えばよいかを解説します。
1:適切な目標の設定
2:面談などでの定期的な進捗確認
3:上司による評価とフィードバック
上記の流れを意識しながら手順を踏んでいきます。
3−1 1:適切な目標の設定
MBOではまず、目標設定について話し合います。この時、社員一人ひとりにとって本当に適切な目標であるかを吟味する必要があります。また、目標を決めるうえで重要なのは、「組織の目標と本人が立てる目標が合致しているか」どうかです。
まずは企業や部署、チームといった広い範囲で全体の目標を決めます。社員は「目標にいかに貢献できるか」というラインで自分の目標を設定します。これにより、社員たちが定めた目標のゴールが、自然と組織の目標になるのです。
目標の例として、営業の社員なら、「半期の売上目標を昨年対比110%にします。そのためにアポイント数を110%に増加させます」といった具合に、具体的な期限や数値を盛り込むようにしましょう。目標設定を行う際には、以下の点を意識してください。
目標設定で意識すべき点 |
・実現不可能な目標でないこと ・数値を盛り込み具体性を持たせること ・個人の能力に合わせた適切な目標であること ・組織の目標と個人目標に乖離がないこと |
3−2 2:面談での定期的な進捗確認
目標に対する行動がどう進んでいるかを、週や月ごとに行われるミーティングで上司と確認しましょう。
社員は上司からの客観的な視点によるアドバイスを受けて、目標達成のために足りていないものを把握し、実現するために何が必要かを明確にするのです。それをモチベーションにし、次の進捗確認までに問題解決を進めます。
上司としては、あまり注意しすぎて部下の心を折らないように気をつけましょう。あくまでもアドバイスにとどめ、本人の意欲にかけてみるのです。
3−3 3:上司による評価とフィードバック
部下からの自己評価を元に、上期や下期など半年に一度、上司による評価を行います。
きちんと目標を達成できたかどうかという視点から、客観的な評価をしましょう。目標を達成した場合は、きちんと評価するのが大切です。
目標が未達だった場合、なぜそうなったかという原因の解明と、失敗を次回に活かすために必要なことは何かを考えさせてください。上司として部下を見守りながら、次期へとつながるフォードバックになるのが理想です。
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4 MBOの課題点
MBOにもいくつかの課題点があります。社員のモチベーションを高めるためのMBOですが、うまく機能しなければ逆にモチベーションを下げてしまう恐れがあります。
制度を効果的に運用していくためにも、以下の主な3つの課題点について把握しておきましょう。
4-1 目標を低く設定する社員がいる
MBOでは自分で目標を設定できるため、あえて達成が容易な低めの目標にする社員も中にはいます。
MBOと人事考課が密接に関係している企業も多く、目標の達成によって社内での評価を上げようという考え方です。そのため、達成できるように目標を低めに設定する社員がいた場合は、上司が能力を加味して判断し、一緒に適切な目標値を定めましょう。
最後に評価する際にも、目標の難易度に合わせた評価軸を設けることも大切です。
4-2 目標だけに注力しがちに
社員が評価に直結する目標の達成のみに注力し、それ以外の業務などを行わなくなる可能性があります。
結果にいたるまでの過程を軽視したり、周囲とのコミュニケーションをおろそかにする可能性も考えられます。上司など管理者側も、社員が目標というノルマを達成することだけを評価するのではなく、きちんと成長につながるように見ていかなくてはなりません。
4-3 未達で社員のモチベーションが低下
社員の自主性ややる気を高めるためのMBOですが、うまく機能しなければ、逆にモチベーションの低下につながります。
目標の未達が長く続く社員の場合、自己否定しがちになるでしょう。未達になる主な理由としては、「目標設定がうまくいっていない」「目標達成に必要な能力が不足している」といったことが考えられます。
上司や管理者は目標設定の時から一緒に達成可能なものかを判断し、毎回的確なフィードバックを行うことで、社員が成長し続けられるようにする必要があります。
5 MBOをうまく活用するには
MBOをうまく活用するには、上司による適切なフォローが重要です。また、それを受けた社員側も次回へと活かせるような体制作りが必要といえます。
5-1 上司によるきちんとしたフォローが不可欠
MBOでは、社員一人ひとりが自主的に目標を掲げ、その達成へ向けて尽力することが重要ですが、上司によるきちんとしたフォローが必要になります。
うまく社員のやる気をコントロールしつつ、目標達成のための意欲や関心の高まりをしっかりと維持させることが重要です。
次回の目標設定へと活かせるように、的確なフィードバックを心がけましょう。
6 まとめ
MBOで設定する目標はノルマではなく、社員の自主的な成長を促すためのものです。中には毎回目標を達成できず、モチベーションを下げてしまう社員もいるでしょう。そんな時は、上司が努力した部分をしっかりと褒める必要があります。
MBOの効果的な運用のためには、適切なコミュニケーションが欠かせないのです。部下と上司の良好な関係性を築きながら、MBOの運用を心がけましょう。トップダウンになるのではなく、社員と管理する側の両方がモチベーションを高めていける企業風土づくりをめざしてください。