メンター制度とは?メリットデメリットと事例から学ぶ失敗しない方法

近頃、人材の定着率を高める施策として注目を集めている制度に「メンター制度」があります。

メンター制度とは、先輩社員が後輩社員と1対1のペアになって、会社生活を送る上でのさまざまな支援を行う企業の仕組みです。

メンター制度には、次のメリットとデメリットがあります。

魅力的な制度ではありますがデメリットもあります。メンター制度を成功させるためには「メンターの役割」「制度の運用」について、正しい理解が不可欠です。

本記事では、メンター制度の基礎知識から企業事例まで、

  • これからメンター制度の導入をしたい方
  • 今あるメンター制度の見直しをしたい方

が、メンター制度で失敗しないために役立つ情報を、わかりやすくコンパクトにまとめました。

読み進めるうちに、メンター制度に関わる疑問が解決し、誤解していた部分まで明らかになっていきます。

メンター制度の導入・見直しへ着手する前に本記事をご覧いただき、意義あるメンター制度導入の一助としていただければ幸いです。

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目次

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  1. 1. 先輩社員が後輩社員をサポートするメンター制度の基礎知識
    1. 1-1. 「メンター」とは?
    2. 1-2.メンターにまつわる用語を整理
    3. 1-3. 企業における「メンター制度」とは?
  2. 2. 押さえておきたい「上司」「先輩」とメンターの違い
    1. 2-1. 「上司」との違い
    2. 2-2. 「先輩」との違い
  3. 3. エルダー/チューター/ブラザーシスター制度との違い
  4. 4. 企業がメンター制度を導入する2つの目的
    1. 4-1. 新入社員のスムーズな育成
    2. 4-2. ソフト面が原因の離職防止
  5. 5. メンター制度が企業にもたらす5つのメリット
    1. 5-1. 新入社員が戦力になるスピードがアップ
    2. 5-2. 組織のヨコのつながりが強化される
    3. 5-3. 企業文化や風土が伝承できる
    4. 5-4. メンター自身の成長につながる
    5. 5-5. 厚生労働省から助成金がおりる
  6. 6. メンター制度が抱える2つのデメリット
    1. 6-1. メンターの負担が増える
    2. 6-2. メンターの選び方が難しい
  7. 7. メンター制度の導入で大きな効果が期待できる企業とは?
    1. 7-1. 人間関係の問題で離職率が高い
    2. 7-2. 業務だけでは伝えきれない社内風土がある
  8. 8. メンター制度を導入している企業の事例
    1. 8-1. 株式会社メルカリ
    2. 8-2. キリン株式会社
  9. 9. メンター制度の導入ステップ
    1. 9-1. ステップ①メンター制度の対象者を決める 
    2. 9-2. ステップ②メンタリングの頻度や内容を決める
    3. 9-3. ステップ③メンターの選定と変更のプロセスを決める
    4. 9-4. ステップ④メンター用マニュアルを作成し研修を実施する
    5. 9-5. ステップ⑤メンター活動実績の評価方法を決める
  10. 10. メンター制度がうまくいかない4つのケースと解決策
    1. 10-1. 新入社員とメンターの相性が悪い
    2. 10-2. メンターが上司に近い
    3. 10-3. メンターと上司が対立している
    4. 10-4. メンターが1人に集中する
  11. 11. メンター制度の参考書籍・資料
    1. 11-1. 『メンタリング入門』
    2. 11-2. 『メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル』
  12. 12. まとめ

1. 先輩社員が後輩社員をサポートするメンター制度の基礎知識

さっそく「メンター制度とは何か?」の基礎知識から学んでいきましょう。

冒頭でもお伝えした通り、メンター制度を一言でいえば「先輩社員(=メンター)が後輩社員(=メンティ)をサポートする制度」となりますが、本章ではより具体的に解説します。

1-1. 「メンター」とは?

組織上の仕組みである「メンター制度」について学ぶ前に、「メンター」の意味から理解するとスムーズです。

メンター(mentor)とは「良き指導者、助言者」という意味の英語。ビジネスシーン以外でも使われる言葉で、例えば「あの人は、私の人生のメンターだ」といった使い方をします。

ここで押さえておきたいのは、メンターという言葉が含む、以下のようなニュアンスです。

  • 経験の浅い未熟な若者を支援する経験豊かな年配者
  • 精神面も含めてサポートを行う人
  • 支援されている人との間に強い信頼関係がある

単なる指導者・助言者にとどまらず、支援される側の「心の支え」となり大きな影響を与えるのがメンターの特性です。

例えば、あなたが今までに接してきた人生の先輩・年長者・恩師との間で、次のような経験をしたことはありませんか。

  • 行き詰まったときもらった一言で、大事なことに気付かされた
  • 対話をしているうちに、自然と視野が広がる感じがする
  • 人生の節目では、いつも心の支えになってくれた

信頼関係のもとに、相手にこういったサポートをもたらすのがメンターとイメージすると、わかりやすいでしょう。

1-2.メンターにまつわる用語を整理

ここでメンターにまつわる用語を整理しておきましょう。

メンターに支援される側の人のことは「メンティ(mentee)」、行われる支援全般を指して「メンタリング(mentoring)」と呼びます。

※1 「メンティ」は「プロテジェ」と呼ばれる事もあります。

※2 詳しくは次項で解説しますが、企業におけるメンター制度では「メンタリング」という言葉を面談に絞って使われることが多くなっています。

「メンター」について理解ができたら、次は企業における施策としての「メンター制度」について、詳しくみていきましょう。

1-3. 企業における「メンター制度」とは?

企業における「メンター制度」とは、組織が特定の社員をメンターとして任命することで「メンター⇔メンティ」の関係性を仕組みとして意図的に作る制度のことです。

メンター制度において「メンター役」を引き受けるのは先輩社員、「メンティ役」は主に新入社員となります。

 

先輩社員と新入社員が11でペアになり、信頼関係を築きながら新入社員をサポートするのがメンター制度の特徴です。

具体的なメンタリング(メンターがメンティに行う支援)の内容は、次のようなものです。

  • 仕事上の秘訣・やり方に関するサポート
  • 職場での人間関係の築き方に関するサポート
  • メンティが仕事上で抱えている悩み相談

業務上の指導・教育以外の面で、「その会社で生きていく上で必要な知恵」を授けたり、メンティが困っているときに頼れる先輩として相談に乗ったりするのが、メンター制度におけるメンターの役割です。

メンター制度では、基本的にメンタリングは「面談」での対話を通して行います(メンタリング=面談、という意味で使われることもあります)。

対話の形式には、決まりはありません。教え・アドバイス・サポート・傾聴など、状況および相手に合わせて選びます。

ここで「人生の先輩・年長者がメンターの適役なら、上司がやれば良いのでは?」という疑問が浮かんだ方もいるかもしれません。

また「普通の先輩とメンターって、何が違うの?」というのも、わかりづらい点かと思います。この2点については、次章でさらに詳しく見ていきましょう。

2. 押さえておきたい「上司」「先輩」とメンターの違い

 

メンター制度を運用する上でしっかり押さえておきたいのが「上司」「先輩」とメンターの違いです。

  • 上司部下の関係とは何が違うのか?
  • 先輩後輩の関係とは何が違うのか?

本章では、この2つを理解することで、メンター制度の本質を浮き彫りにしていきましょう。

2-1. 「上司」との違い

 

まずは「上司」とメンターの違いから見ていきましょう。

メンター制度には「メンターは上司以外の人物から選ぶ」という原則があります。

上司はメンターには適しません。なぜなら、仕事の指示・命令を下し評価を行う上司と部下には、利害関係が発生するからです。

メンター制度は、仕事上の利害関係とは無縁の関係性を通じて若手社員を支援するところに特徴があります。それは「斜めの関係」とも呼ばれます。

 

例えば、仕事上の悩みを抱えてしまったとき、上司に相談するのは誰しも気が引けるものです。

「上司との関係が悪くなって、会社に居づらくなったらどうしよう」
「こんなことを上司に相談したら、評価が下がるかもしれない」

そんなとき、上司ではなく「斜めの関係」であるメンターであれば、「不安や悩みの良き相談相手」になることができるのです。

2-2. 「先輩」との違い

次に「先輩」とメンターの違いですが、本質的には先輩・後輩関係とメンター制度におけるメンター・メンティの関係は同じです。

 

例えば、自分が新入社員だった頃を思い出してみてください。

「職場の雰囲気になじめずにいたら、先輩がランチに誘ってくれた」
「上司に怒られて落ち込んでいるとき、先輩が声をかけてくれた」
「会社をやめたいと思ったとき、先輩が思いとどまらせてくれた」

このような「先輩の存在」に助けられた経験のある人は、少なくないはずです。

しかし「先輩が後輩を助ける仕組み」は、意図的に作られたものではありません。あくまで先輩社員の自主性に依存したもの。自然発生している企業もあれば、していない企業もあります。

この先輩が後輩を助ける仕組みを、自然発生に依存せず、制度として意図的に作り上げるのが「メンター制度」なのです。

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3. エルダー/チューター/ブラザーシスター制度との違い

 

ここで、メンター制度と似ている制度について、整理しておきましょう。メンター制度と混同されやすい制度として「エルダー制度」「チューター制度」「ブラザーシスター制度」があります。

以下は、それぞれの制度の概要をまとめたものです。

エルダー制度
エルダーとは「年上の人・年長者」という意味で、企業でのエルダー制度は新入社員に対するOJT制度を指す。比較的経歴の浅い先輩社員が、新入社員と21組となって仕事をする体制に対して使われることが多い。

チューター制度
チューターとは「個人指導教官」という意味で、チューター制度とは大学の個別指導制度のこと。学生1人〜数人単位に1人の指導教官(チューター)がつき指導を行う。企業では新入社員に教育係がつく制度を指して使われることが多い。

ブラザーシスター制度
ブラザーシスターとは「兄弟・姉妹」という意味で、新入社員と年齢の近い若手先輩社員が担当としてつき、会社に慣れるまでのサポートをする制度のこと。新卒採用の社員が対象になることが多い。

注意点として、それぞれの制度に全国共通の決められた定義があるわけではないので、制度の呼称や運用方法は、企業によってさまざまです。

例えば、本記事で解説しているメンター制度と同じ実態でも「エルダー制度」の名称で運用している企業もあります。

その前提の上でですが、一般的にいわれる違いを下表にまとめました。参考までにご覧ください。

メンター制度以外は対象が新入社員のみですが、メンター制度は若手社員などに対象を広げて運用している企業もあります。

また「実務上は関係のない斜め上の先輩」がメンター役を担いますので、「他部署」の先輩社員が担当することも特徴です。

加えて、他の制度が「早く業務に慣れること」に重きを置いているのに対し、メンター制度では業務とは直接的には関係のない、精神的な側面でのサポートにも注力します。

4. 企業がメンター制度を導入する2つの目的

さて、本章では「そもそも何のためにメンター制度を導入するのか」について触れたいと思います。企業がメンター制度を導入する目的は、どこにあるのでしょうか。

大きく捉えると、次の2つが挙げられます。

新入社員のスムーズな育成
ソフト面が原因の離職防止

それぞれ詳しく解説します。

4-1. 新入社員のスムーズな育成

第一の目的は「新入社員のスムーズな育成」です。たとえるなら、メンター制度は新入社員を育てる上での「潤滑油」です。

上司は、新入社員を業務を通して育成します。ですが、上司1人でフォローできる範囲には限界があることを、実感している方も多いのではないでしょうか。

新入社員がチームに入っても最初は業務上の指導で手一杯。次に挙げるような「会社生活や精神面のサポート」には手が回らないのが、正直なところかと思います。

  • 新入社員が職場で良い人間関係を築くためのサポート
  • 新入社員が抱えている悩みや不安へのきめ細やかな対処
  • 暗黙の了解とされている社内ルールなど今後うまくやっていくための知恵の共有

そんなとき、メンターの先輩社員がいれば、これらをすべてフォローアップすることができます。先輩社員が新入社員の面倒を見てくれることで、上司は業務上の教育に専念することが可能です。

入社したばかりの時期、新入社員は毎日が緊張と不安の連続です。メンター制度があれば、新入社員のストレスを和らげることができ、結果としてスムーズな成長へとつながっていきます

4-2. ソフト面が原因の離職防止

メンター制度を導入するもうひとつの目的は「ソフト面が原因の離職防止」です。

あなたの会社では、どんな理由で離職する社員が多いでしょうか。表向きには「夢を追いかけたい」「キャリアアップのために」「家業を継ぐので」などの理由を述べる社員が多いでしょう。

しかし「転職理由と退職理由の本音」は以下の通りだったという、興味深い調査結果があります。

1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)
2位:労働時間・環境が不満だった(14%)
3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)
4位:給与が低かった(12%)
5位:仕事内容が面白くなかった(9%)
6位:社長がワンマンだった(7%)
7位:社風が合わなかった(6%)
7位:会社の経営方針・経営状況が変化した(6%)
7位:キャリアアップしたかった(6%)
10位:昇進・評価が不満だった(4%) 

出典:転職理由と退職理由の本音ランキングBest10

注目すべき点は、1位〜3位の理由が「仕事の仕方」「環境」「人間関係」という、いわば組織のソフト面であることです。この3つだけで離職理由の半数(50%)を占めます。

組織のソフト面のケアは、メンター制度が最も得意とするところです。

  • その会社独自の仕事のやり方
  • 上司・経営者とのコミュニケーションの取り方
  • 職場環境への不満のヒアリング
  • 人間関係を構築するためのサポート

これらをメンターがフォローすることで、新入社員の離職率を大幅に下げることが期待できるのです。

5. メンター制度が企業にもたらす5つのメリット

実際にメンター制度を導入したら何が得られるのでしょうか。

「メンター制度による具体的な成果」を確認したい方のために、本章では「メンター制度が企業にもたらす5つのメリット」を解説します。

5-1. 新入社員が戦力になるスピードがアップ

1つめのメリットは「新入社員が戦力になるスピードがアップする」ことです。

今までに、あなたの会社で迎え入れた新入社員のことを思い出してみてください。すぐに職場に慣れて即戦力となった人もいれば、慣れるまで何ヶ月も要した人もいるでしょう。

「新しく入社した社員が、早く職場に慣れて戦力になってくれるかどうか」は、企業にとって重要な問題です。メンター制度を使えば、このスピードを意図的に速められます。

というのも、「職場に早く慣れるために必要な、業務以外のこと」を、メンター制度を通じて効率的に学ぶことができるからです。

それは例えば、以下のようなものです。

  • その会社での効率的な仕事の進め方を学ぶ
  • チームのメンバーと仲良くなる
  • 上司との適切なコミュニケーションの取り方がわかる

今までは、新入社員が空気を読みながら時間をかけて学んだ事柄も、メンターの先輩社員がフォローすれば素早くマスターできます。

5-2. 組織のヨコのつながりが強化される

2つめのメリットとして、「組織のヨコのつながりが強化される」ことが挙げられます。

「メンターは直属の上司ではなく斜め上の先輩」という原則があることをお伝えしました。これはつまり、部署・チームを超えた【メンターメンティ関係】が、組織の中に多数生まれるということです。

 

仕事上では絡むことのない社員同士がメンター制度を通じて関係を深めていくので、組織のヨコのつながりが強化されていきます。

今までは対立していた部署間であっても、
「メンティの後輩がいるから、助けたい」
「お世話になったメンターの先輩がいるから、恩返ししたい」
と、組織全体のチームワークが良くなっていきます。

メンター制度は新入社員のフォローのみならず、「組織全体の強化」にも効用があるのです。

5-3. 企業文化や風土が伝承できる

3つめのメリットとして、「企業文化や風土が伝承できる」ことも見逃せません。メンター制度は「明文化されていない、その組織特有の空気感」を伝えるのに適しています。

  • DNAとして新入社員に受け継ぎたい価値観
  • 仕事への取り組み姿勢
  • その会社の人間としてどうあるべきか

など、メンター制度を通じて「その会社特有のらしさを新入社員に伝えることができます。これらは、上司から伝えるよりも、新入社員に立場の近い先輩から伝えた方が、スムーズに浸透しやすい事柄です。

5-4. メンター自身の成長につながる

4つめのメリットは、少々意外かもしれませんが、「メンター自身の成長につながる」ことです。

メンター役を担う先輩社員は、後輩社員であるメンティに「教える・サポートする」立場になります。

人には「誰かに教えることで、教えた自分の方が急速に成長する」という一面があることを、経験則的に感じている方も多いでしょう。

業務上は部下を持っていない若手社員でも、新入社員のメンター役を引き受けることで「教える」立場を経験することができます。

成長してほしい若手にあえてメンター役を依頼することで、メンター自身の成長を促すこともできるのです。

5-5. 厚生労働省から助成金がおりる

最後に、5つめのメリットとして「厚生労働省から助成金がおりる」ことをご紹介しておきましょう。メンター制度は、厚生労働省でも推奨している制度です。

新たにメンター制度を導入することで最大72万円の助成金を受給できる可能性があります。対象となる助成金の名称は「人材確保等支援助成金」です。

詳しくは「『メンター制度の助成金』最大72万円を確実に受給する方法と注意点 」の記事で解説していますので、併せてご覧ください。

6. メンター制度が抱える2つのデメリット

一方、メンター制度にはデメリットもあります。メンター制度の導入前にデメリットを理解できていないと、トラブルの原因となりますのでご注意ください。

本章では、メンター制度が抱えるデメリットを2つ、解説します。

6-1. メンターの負担が増える

1つめのデメリットは「メンターの負担が増える」ことです。この負担には「時間的な負担」「心理的な負担」の両方が含まれます。

先輩社員側の視点から見れば、メンター役を依頼されることは「通常の業務に加えて、メンティ(新入社員)の面倒を見なければならない」状況となります。

メンタリング(面談)の時間確保はもちろんのこと、それ以外でも、メンティから相談を受ければ対応しなければなりません。

「メンター役としての仕事に時間を取られて、通常業務が終わらずに残業」は、実際の運用上よく見かけるパターンです。

さらに心理的な負担も見逃せません。メンター制度は「メンターとメンティの11の人間関係」を土台とする制度です。

このような人間関係を築くのが得意な人もいれば、不得意な人もいます。不得意な人がメンター役を指名されれば、メンター側が大きなストレスを抱える場合もあります。

6-2. メンターの選び方が難しい

2つめのデメリットは「メンターの選び方が難しい」ことです。メンターを選ぶときには、メンティ(新入社員)と相性が良いメンター(先輩社員)を選ばなければなりません。

メンターとメンティのバックグラウンド、年齢、性格などの諸条件を考慮して組み合わせを決める必要があります。

さらに、メンターを引き受ける社員の時期的なタイミング(業務量や心理的な状況)も見極める必要があります。一人にメンター役が集中するのも避けなければなりません。

人間関係をベースにした制度なので一筋縄ではいかない局面も多く、難しさを感じることは多いかもしれません。

この問題をクリアするためには、メンター制度を導入する際に、メンター選定のルールを定めて運用することが重要になります。その方法は、後ほど「8. メンター制度の導入ステップ」の章でご紹介します。

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7. メンター制度の導入で大きな効果が期待できる企業とは?

メンター制度のメリット・デメリットを見比べながら、
「うちの会社では、メリットとデメリット、どちらが大きいのかな?」
と迷っている方もいらっしゃるでしょう。

本章では「メンター制度の導入で大きな効果が期待できる企業」について、触れておきます。結論からお伝えすると、以下の2パターンの企業には、メンター制度の導入がおすすめです。

人間関係の問題で離職率が高い
業務だけでは伝えきれない社内風土がある

7-1. 人間関係の問題で離職率が高い

まず、メンター制度の導入で目に見える成果が得やすいのは、「人間関係の問題で離職率が高い」企業です。メンター制度の導入により、離職率が大幅に下がる可能性があります。

特に、次のような状況ではダイレクトな効果を実感しやすいでしょう。

  • 性格的にクセのある管理職がいて、新入社員とぶつかりやすい
  • 厳しくあたる古参社員に、新入社員が負けてしまう
  • 社員同士の仲が良すぎて、新入社員が入りにくい雰囲気がある

もちろん、本来は問題のある管理職や古参社員側の態度を改善すべき状況です。しかし、改善を促してもなかなか変わらないのが現実……というケースもあるのではないでしょうか。

そんなときでも、新入社員のそばに寄り添い理解してくれる先輩社員(メンター)がたった一人いるだけで、離職率は大きく変わるものです。

7-2. 業務だけでは伝えきれない社内風土がある

2つめは「業務だけでは伝えきれない社内風土、DNA、価値観などがある」企業です。例えば、採用人数を増やした後に、次のような課題に直面したことはありませんか。

  • 新しい社員が増えて「うちの会社らしさ」がなくなってしまった
  • 取引先から「最近なんだか雰囲気が変わりましたね」と言われた

新しい人材が会社に入ることで、組織の雰囲気が変わること自体はよくあります。好転的な反応であれば、歓迎すべきことです。

しかし一方で、その会社らしさとして継承すべき価値観や、ビジネス上の強みとしてきた良い雰囲気が失われるのは、避けなければなりません。

「業務だけでは伝え切れない、会社にとって大切なことを伝承したい」というシーンで、メンター制度は打開策となるでしょう。

8. メンター制度を導入している企業の事例

メンター制度は、実際にどのように運用されているのでしょうか。ここで「メンター制度を導入している企業の事例」を2社、ご紹介します。

各企業がどんな狙いで、どんなメンター制度を展開しているのか、参考にしてみてください。

8-1. 株式会社メルカリ

出典:メルカリ

最初にご紹介するのは株式会社メルカリです。メルカリは急成長に伴い積極的な採用活動を行っていますが、特に海外メンバーの入社が多いのが特徴的です。

そんな状況に対応するため、メルカリにはオンボーディング(人材定着プロセス)の部門があり、数々のユニークな施策を行っています。そのひとつがメンター制度です。

メルカリに新たに入社するメンバーは「Merookie(メルーキー)」と呼ばれ、Merookieにはメンターがつきます。新卒メンバーが入社する月には「メンター研修」が実施され、メンターとMerookieがペアでワークショップを行います。

以下は、メルカン(メルカリメンバーによるブログ)からの引用です。

研修のメインコンテンツは、メンターとMerookieがペアで行うワークショップ。自己紹介から始まり、人生で一番感謝していること、自分がどのような人生を歩んできたかの共有、そして、なぜメルカリに入社したか・どういった挑戦をしたいかなど、仕事に対する価値観を話しました。 

後半は、先輩外国籍メンバーによるパネルディスカッションを実施。日本で働く上で直面した課題や、困ったときにメンターや同僚にどのようにサポートをしてもらうと良いかなど、Merookiesとメンターそれぞれに対し実体験に基づくアドバイスを行いました。
出典:メルカン

ワークショップを利用して「価値観ベース」の対話を増やす仕掛けや、ディスカッション形式で実体験に基づくアドバイスを促していることがうかがえます。

軸足は「メンターとメンティによる自主的な対話」に置きつつ、それが促進される仕組みを設計している点が秀逸です。

この他に、メルカリのメンター制度で特徴的なのは「メンターランチ制度」です。メンターランチ制度とは、メンターが、Merookieやメンターの所属チームはもちろん、他にも関わりのあるチームとのランチを設定するというものです。

ちなみにこのランチ代はすべて会社負担。毎回メンターランチを楽しみにしているMerookieが多いそうです。

メンターランチ制度に近い制度を実施していても、ランチ代の負担まで行っている企業は少ないのではないでしょうか。ここにも、メルカリの「人材定着」に対する本気度が見受けられます。

8-2. キリン株式会社

出典:キリン

次にキリン株式会社の事例をご紹介します。キリンでは、新入社員の定着ではなく、女性社員の離職防止とキャリア支援を目的にメンター制度を導入しているのが特徴です。

2006年より発足した社内組織「キリンウィメンズネットワーク」が、女性の活躍とネットワークづくりを積極的に支援する活動を開始。その中で重要な役割を担っているのがメンター制度です。

女性総合職の継続就業と女性経営職のキャリア支援を目的に、役員とのメンタリングを経験した女性経営職が次のメンターになっていく「メンタリング・チェイン」の仕組みを展開しています。

狙いは、キャリアビジョンが描けない理由として挙げられるロールモデルの不在や、周囲に相談できる人の不足への対応です。メンタリングによって新たな気付きや心的サポートを受けるだけではなく、具体的に継続就業や管理職意向の向上へ結びついています。

例えば、女性リーダー数の推移は、以下の通り伸長しています。

参考:女性の活躍推進|多様性の尊重|CSV活動|キリン

キリンのメンター制度のユニークな点は、「メンタリングを経験した女性が、また次の人のメンターになっていく」というチェーン式の仕組みです。

「同じ経験をしたからこそわかる女性ならではの悩み」を、自分がメンターに支援してもらったようにまた後輩を支援していく。そのサイクルが、組織全体に好影響を与えています。

参考:キリンメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル

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9. メンター制度の導入ステップ

「メンター制度を導入したい」と考えている方のために、本章では「メンター制度の導入ステップ」をご紹介します。

以下が基本の5ステップです。

順に詳しく解説します。

9-1. ステップメンター制度の対象者を決める 

ステップ「メンター制度の対象者を決める」ことです。

メンター制度の対象者は、一般的には「これから入ってくる新入社員」ですが、「すでに入社している若手社員」まで範囲を広げ、メンター制度導入前の入社組までサポートすることもできます。

制度導入の目的に照らし合わせて、最適な対象者を検討してください。同時に「いつまでメンター制度でサポートするか」の期限も、明確に定めておきましょう。

メンター制度におけるメンターとメンティの関係性は、永久に継続させるものではありません。明確な期限がないとメンターの負担が大きくなりますので、期限はあらかじめ設定するようにします。

一般的には1年〜3年以内を期限とするケースが多く見られます。さらに短く「試用期間の3ヶ月が終わるまで」といった運用をしている企業もあります。

9-2. ステップメンタリングの頻度や内容を決める

ステップ「メンタリングの頻度や内容を決める」ことです。

「メンター制度の対象者に対して、メンターが何をするか」を決めます。

メンタリング(面談)はどれくらいの頻度で何回行うのか、そのタイミングはいつにするのか、またすべてのメンティに共通にして必ず教える内容を明確にします。

面談によるメンタリング以外にメンターが行うべき支援があれば、それもルール決めしておきましょう。例えば、メルカリの「メンターランチ制度」やサイバーエージェントの「不定期飲み会」がそれにあたります。

ここで重要なのは、メンター個人の力量だけに支援の質が左右されないよう、具体的な仕組みを制度の運用に組み込んでおくことです。

9-3. ステップメンターの選定と変更のプロセスを決める

ステップ「メンターの選定と変更のプロセスを決める」ことです。

メンターの選定は誰がいつまでにどんな基準で行うのか、また途中でメンターを変更する場合には、どんな手順を踏めば良いのかを明確にします。

新入社員をメンティ対象者とする場合は、メンターの選定を入社準備のプロセスに組み込んでおくと良いでしょう。

もうひとつ、盲点となりやすいのが「メンター変更」についてのルール決めです。メンターとメンティの関係性がうまくいかない場合、どのようなプロセスを踏めば変更できるのか、あらかじめ決めておきましょう。

9-4. ステップメンター用マニュアルを作成し研修を実施する

ステップ「メンター用マニュアルを作成し研修を実施する」ことです。

初めてメンター制度を導入する企業では、まず「メンターとは何なのか?」「メンターの心得」といったメンターに関する基本知識の研修が必要です。

その上で、自社のメンター制度のマニュアルに基づき「メンター制度」自体の解浸透を図る必要があります。

社内マニュアルを作成する上では、メンターに関する書籍や資料を参考にすることをおすすめします。詳しくは、この後ご紹介する「8. メンター制度の参考書籍・資料」をご覧ください。

9-5. ステップメンター活動実績の評価方法を決める

ステップ「メンター活動実績の評価方法を決める」ことです。メンター制度がうまく機能しているのかどうか、評価する仕組みをあらかじめ設計しておきます。

具体的には、新入社員の離職率を計測したり、メンター・メンティへのアンケート調査で満足度を測ったりといった方法があります。

評価の結果、問題点が見つかれば改善し、自社に適したメンター制度へと練り上げていきましょう。

10. メンター制度がうまくいかない4つのケースと解決策

導入後、メンター制度がうまくいかない原因には、どのようなケースが考えられるのでしょうか。また、どう解決したら良いのでしょうか。

本章では「メンター制度がうまくいかない4つのケースと解決策」をご紹介します。

10-1. 新入社員とメンターの相性が悪い

最も多くみられるのが「新入社員とメンターの相性が悪い」ケースです。

メンター制度のデメリットの章でもお話しましたが、メンター制度は「メンターの選び方が難しい」という問題を抱えています。メンターとメンティの相性を見極めて、適切なマッチングを行うよう努めなければなりません。

しかしながら、社員数の少ない中小企業では、そもそもメンターのなり手の人数が限られています。マッチングの精度を高めることが難しいケースもあるでしょう。

現実的な対策としては、以下の2つを意識してください。

メンターとメンティの相性にかかわらずメンター制度の効用が得られるように、メンターマニュアルの精度を高める
相性が悪かった場合のメンター変更プロセスと、メンター・メンティ双方へのフォロー方法を決めておく

メンターもメンティも人間ですから、メンター制度を運営する以上「相性問題」をゼロにすることは難しいのが現実です。「もし相性が悪かった場合には、どうリカバリーするか?」という発想で対策しておくことが必要です。

10-2. メンターが上司に近い

2つめのケースは「メンターが上司に近い」場合です。

本記事の前半で「メンターは利害関係のない斜めの関係」から選出するという原則をお伝えしました。

しかし、メンティから見て斜めの関係であっても、「自分の上司とメンターの距離が近い」「上司とメンターの仲が良い」というケースの場合、メンティはメンターに心を開きにくいものです。

「メンターに相談したことが、上司に筒抜けになっているのでは?」と不安になってしまうからです。

注意点として、このような関係性のメンター選出がNGというわけではありません。「将来の幹部候補の養成」「若手社員のスキルアップ」など、目的次第では意図的にこのようなメンター選出を行うこともあります。

しかし、特別な意図がなく、新入社員の定着を図るためのメンター制度であれば「メンティよりも数年程度の先輩社員」が好ましいでしょう。

10-3. メンターと上司が対立している

2つめのケースとは逆ですが、「メンターと上司が対立している」場合にも、メンター制度がスムーズに機能しにくくなります。

というのは、メンティが自分の上司とメンターの間で板挟みになるリスクがあるのです。「上司とメンターの言っていることが違う」となれば、無用に新入社員を混乱させてしまいます。

まして、新入社員が派閥争いに巻き込まれるようなことがあっては、メンター制度の意味がまったくありません。

メンターは、メンティの上司に協力的で、一緒にメンティを育てていく意識を持てる人を選びましょう。

10-4. メンターが1人に集中する

最後に「メンターが1人に集中する」というケースをご紹介します。

メンター役を担う社員のメンタースキルは、社内マニュアルや研修の工夫で向上させることができます。しかし、人それぞれの個性として「メンターが向いている人」「向いていない人」が存在するのは事実です。

例えば、以下の人はメンター向きの性格です。

  • 兄貴分・姉御肌で面倒見が良い
  • 人と1対1の関係性を築くのが得意
  • コミュニケーション能力が高く他の部署への顔が広い
  • 悩み相談を受けるのが苦にならない

メンター適性のある人にメンターを依頼しようとすると、どうしても特定の人へ集中してしまう傾向があります。また、メンティの上司となる人から「ぜひ、●●さんにメンターをお願いしたい」とリクエストが集中するケースも見られます。

しかし、前述の通り、メンター役には時間的・心理的な負担があるため、負荷が大きくなりすぎないよう配慮しなければなりません。

さらに、メンター制度には「メンター自身の成長につながる」側面があることに着目すれば、できるだけ幅広い社員に経験させたいところです。

対策として、次のようなルールを決めて、メンター役を分散させながら運用しましょう。

<メンターの集中を避けるルール例>

  • すべての社員が入社後3年以内に1回以上メンターを引き受ける
  • 1度メンターになったら次回まで1年以上の期間を空ける

11. メンター制度の参考書籍・資料

最後に、より良いメンター制度の導入のために役立つ書籍および資料を2つ、ご紹介します。

『メンタリング入門』
『メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル』

11-1. 『メンタリング入門』


出典:Amazon

まずご紹介したいのが渡辺 三枝子・平田 史昭著『メンタリング入門』です。

「メンターとは何なのか」「企業がメンター制度を導入する上で何に気をつければ良いのか」など、メンターに関する濃密なエッセンスが詰まった名著です。

文章は平易で読みやすく、初めてメンター役を引き受ける社員がメンターについて勉強する本としても適しています。

「メンターになるメリット」「よいメンターになるには」という章があり、メンターとして何をすべきなのかヒントを与えてくれる本です。

11-2. 『メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル』


出典:厚生労働省

次に、厚生労働省のホームページで閲覧できる『メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル』も参考になります。

「女性社員の活躍を推進するための」メンター制度、という枕詞が付いているのですが、メンター制度の解説は、男性・女性関係なく読める内容になっています。

例えば、メンター制度の導入について書かれた章の目次を引用すると、以下の通りです。


出典:メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル

メンター制度の設計前に一読することで、より深い理解が得られます。

12. まとめ

メンター制度とは、先輩社員が後輩社員と1対1のペアになって、会社生活を送る上でのさまざまな支援を行う企業の仕組みです。

直属の上司部下の関係では補い切れない、「先輩後輩の関係性」を利用した社員へのサポートを制度として意図的に行うのがメンター制度の特徴です。

その導入目的は、新入社員のスムーズな育成ソフト面が原因の離職防止 が挙げられます。

メリット・デメリットは以下の通りです。

人間関係の問題で離職率が高い企業や、業務だけでは伝えきれない社内風土がある企業は、メンター制度の導入で大きな効果が期待できるでしょう。

メンター制度の導入は以下の5ステップで行います。

メンター制度がうまく行かないケースとして、以下の4つが挙げられます。事前に対策をしておきましょう。

 

メンター制度について、より深く学びたい方には『メンタリング入門』『メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル』がおすすめです。

メンター制度は人材の定着はもちろんのこと、メンター自身の成長を促したり横のつながりを強化したりと、組織に対して非常に広範囲で好影響を与える制度です。

制度の設計や運用の手間はかかりますが、多くの企業にとって価値のある制度といえます。ぜひ導入を検討してみてください。