
ネガティブフィードバックの必要性をある程度理解してはいても、
「部下に対してネガティブフィードバックがうまく行えない」とお悩みの管理職の方や、「自社組織内でネガティブフィードバックが適切に行われていない」と課題意識をお持ちの人事担当者の方は多いのではないでしょうか。
ネガティブフィードバックは、部下・組織の成長や目標達成に効果を発揮する、大切なフィードバックの方法です。
一方で、伝え方がわからないままネガティブフィードバックを行おうとすると、部下のモチベーション低下をはじめ予期せぬ事態に発展する可能性があります。
そこで本記事では、ネガティブフィードバックはなぜ「伝えにくい」と感じるのかということや、ネガティブフィードバックの目的、メリットなどを解説します。
記事の後半では、ネガティブフィードバックの上手な伝え方や注意点などを例文付きでご紹介するので、ネガティブフィードバックのストレスを軽減しつつ効果的に伝えられるコツを知りたいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
1.ネガティブフィードバックはなぜ伝えにくいのか
そもそもビジネスの場面における「フィードバック」とは、より良い成果を得られるよう、相手の行動や行動の結果に対して評価を伝えることを意味します。
広い意味では、消費者や取引先などの第三者を相手とするフィードバックもありますが、本記事では、同一企業内もしくは部署内の上司や部下との間で行われる「フィードバック」を想定して解説していきます。
人材育成という観点から、上司が部下の行動や行動による結果に対して行うフィードバックですが、特に「ネガティブ(否定的な)フィードバック」は、改善が必要な点を強調して指摘するフィードバックの考え方です。
現状維持ではなく、さらにパフォーマンスを高めてほしいときに、相手を正しく指摘することで成長を促す目的があります。
しかし、部下などにネガティブフィードバックを伝えることに対して、「どのように伝えるのが正解かわからない」「否定的なことを伝える勇気がない」「部下に嫌われたくない」などと苦手意識を持つ方は少なくありません。
日本人には「否定的なことを言いにくい」という性質があるといわれ、さらには日本の若者が叱られ弱くなっているという風潮もあります。
実際に、入社前の大学生の意見として「悪いところは言ってほしいけれど、実際に言われると結構へこんでしまう」というものが多いのです。
一方で、部下に「よい上司」の定義を尋ねると、「ちゃんと悪いところを言ってくれる」という表現がよく出ます。
なぜこのように矛盾した意見になってしまうのかを考えたときに、ネガティブフィードバックについて、伝える側・伝えられる側ともに、過剰に否定的な批判だと捉えてしまうことがひとつの原因だと考えられます。
また、職場の文化や組織風土、上司と部下の人間関係によっても、ネガティブフィードバックの伝えにくさは大きく変わってくるでしょう。
普段からポジティブなコミュニケーションによって良い人間関係が育まれ、上司と部下の間にもよい信頼関係が築かれている組織なら、お互いにネガティブフィードバックを「批判」ではなく「知っておくべき情報」の一つと捉えやすくなります。
参考:何が「ダメ出し」フィードバックの効果に影響を及ぼすのか 繁桝 江里氏 | 人材・組織開発の最新記事(コラム・調査など)
2.ネガティブフィードバックの目的
ネガティブフィードバックの目的を、あらためて整理していきましょう。以下では、ネガティブフィードバックの主な3つの目的を解説します。
2-1.相手の成長を促す
ネガティブフィードバックの目的は、相手のパフォーマンスを向上させ、成長を促す点にあります。
上司は、部下の課題をあらかじめ把握し、業務の結果や結果に至るまでの行動などに対して改善すべき点を正しく伝えます。
パフォーマンスを向上させるため、効率や生産性を意識したフィードバックとなるでしょう。
そのようなネガティブフィードバックを受けた部下は、効率や生産性について考え、自主的に行動できるようになるとともに、取るべきではない行動を自然と避けられるようにもなります。
また、そもそもパフォーマンスを数値化しにくい業務に携わっている部下は、自身の成長度合いがわかりにくい面がありますが、ネガティブフィードバックによって自分の立ち位置や今後の道筋が見えやすくなることも期待できます。
2-2.定めた目標を達成する
ネガティブフィードバックでは、部下個人が定めた目標や、部下の属するチームとしての具体的な成果を達成するために、目標と現状とのズレを軌道修正し、精度を向上させることが可能です。
行動は一つひとつの成果につながっているか、目標達成のために至らないスキルは何か、目標達成までの見通しで不十分な点はどこかなどをネガティブフィードバックをとおして振り返ることで、より良い進め方を考え直せるでしょう。
2-3.常に「改善」している状態をつくる
ネガティブフィードバックを一度で終わらせるのではなく、定期的に実施することで、ネガティブフィードバックを活用したPDCAを回すことができます。
すなわち、一人ひとりが常により良い状態を目指している、または改善に向けた取り組みをしている状態を生み出せるのです。
ネガティブフィードバックを繰り返すうちに、成長するために必要な考え方や行動が染み付いていくため、人材育成の観点からも大きな効果が得られるでしょう。
3.ネガティブフィードバックのメリット
部下の成長を促し、定めた目標を達成するなどの目的によって行われるネガティブフィードバックには、大きく分けて以下の2つのメリットがあります。
3-1.モチベーションやエンゲージメントの向上
ネガティブフィードバックでも、部下のモチベーションやエンゲージメントを向上させることは可能です。
「ネガティブな内容を指摘したら、むしろ部下はモチベーションが下がってしまうのでは?」と思われるかもしれませんが、上手にネガティブフィードバックを活用すれば、そのような事態は避けられます。
ネガティブフィードバックを通して、部下は「どうすれば自分がつまずいている問題を解決できるのか」などといった目標達成までの道筋を自分の中で整理しやすくなります。
そして、実際に自分の行動や行動の結果に変化が表れることが実感できるようになり、さらに仕事への意欲も高まるとともに、適切な指摘をしてくれた上司への信頼度も高まるでしょう。
3-2.組織全体の目標達成
ネガティブフィードバックの目的は、相手のパフォーマンスを向上させ成長を促すこと、部下個人としての目標・部下の属するチームとしての目標を達成することにあります。
このような目的を理解したうえで、組織内でネガティブフィードバックが適切に行われるようになれば、結果として組織全体の目標達成にもつながります。
常に一人ひとりが自分の行動や行動がもたらす結果について意識するようになるため、組織全体の効率や生産性も向上するでしょう。