
「新卒採用に力を入れているけれど、離職率が高くて困っている…」
「優秀な社員が早期離職してしまい、戦力を失っている…」
そんなお悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
働き方が多様化し、これまで以上に人材の流動性が高まっている昨今、社員の離職に関する問題はどんな会社にとっても頭を悩ませるポイントです。
特に、期待に胸を膨らませて入社してきたはずの新卒社員が、まもなく退職してしまう。そんな事態が頻発しているのなら、組織に何かしらの問題があるのではと疑うべきかもしれません。
そこで今回は「離職率」をテーマに、新卒社員の離職率が高くなる理由、そして早期離職を防ぐための対策について詳しく解説していきます。
早期離職が既に問題となっている企業はもちろん、今は顕在化していないけれど早めに対策を打っておきたいという企業にも参考になる内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください!
1.日本の新卒離職率は高い?厚生労働省発表の早期離職率
厚生労働省は、毎年「早期離職率」についてのデータを発表しています。
早期離職率の定義について確認した上で、データの内容を見ていきましょう。
早期離職率の定義
厚生労働省が出しているデータでは、新規学卒として雇用保険に加入した者を対象に、就職後3年以内に離職した人の割合を計算したものを「早期離職率」としています。これは、「3年後離職率」と呼ばれることもあります。
なお、離職者の算出においては、離職理由や離職後の就業の状態に関わらず「離職者」として計上します。
厚生労働省発表の早期離職率に関するデータ
新規学卒就職者の離職率
令和2年10月30日に厚生労働省から発表されている「早期離職率(平成29年3月卒業者の状況)」は【新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者39.5%】【新規大卒就職者32.8%】という結果になっています。
過去のデータと比べてみてもここ数年で大きな変動はなく、高卒・大卒ともに平均で30%程度の離職率で推移しています。
これは、見方を変えれば直近で急上昇しているわけではないとも言えます。「最近の若者は忍耐力がない」などと言われることもありますが、データ上ではそういった傾向は特に見られていません。
事業所規模別の離職率
事業所規模別では、中小企業ほど離職率が高い傾向があります。例えば、大卒を例に取ると、最も大きいセグメントである1,000人以上の事業所では離職率が26.5%なのに対し、最も小さいセグメントである5人未満では56.1%と2倍以上の開きがあります。
これは、事業規模が小さいほど一人あたりの業務負荷が大きい、人間関係が閉鎖的になりがちなどの理由が考えられるでしょう。
産業別離職率
産業別のデータを見てみると、離職率が最も高い「宿泊業・飲食サービス業」については高卒が64.2%で前年比+1.3ポイント、大卒が52.6%で前年比+2.2ポイントとなっており、前年度と比較しても上昇傾向にあることが分かりました。
最近では新型コロナウイルスの影響もあり、宿泊業・飲食サービス業は大きな打撃を受けました。業界の形態上、長時間勤務や休日出勤が多いことに加え、景気の変動も受けやすいとなると、転職を考える人が増えることは容易に想像できます。
出典:厚生労働省HP「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)を公表します」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00003.html)
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2.早期離職率の高さが企業に与える影響
早期離職率が高いことが企業にとって悪影響を及ぼすということは、誰もが納得いくところでしょう。
では、具体的にどんな影響があるのでしょうか。想定される内容を挙げてみましょう。
影響①:採用コストが無駄になってしまう
一人の社員を採用するために、どれだけのコストがかかっているのか、経営者や人事担当者の皆さんであれば、痛感しているはずです。
新卒社員にかける採用コストや、研修などの教育コストは、会社にとっては大きな初期投資。将来的に会社で活躍する存在となることを期待するからこそ、かけることのできるお金と言えます。
しかし、早期離職となってしまえば、採用にかけたコストはそのまま消えてしまったも同然。非常にもったいないことですよね。
また、その社員を採用したコストだけでなく、例えばその補填として中途採用を行なったり、翌年の採用人数を増やしたりすることで、さらに追加費用がかかることになってしまいます。
影響②:同期社員や職場の同僚のモチベーションを下げてしまう
早期離職する社員が出てくることによって、周りの社員のモチベーションに悪影響が及びます。
特に、連続して退職者が続いたり、せっかく教育を行なったにも関わらず早々に離職されたりすることは、他の社員にとって大きなダメージとなるでしょう。
モチベーションへの影響の他にも、「自分もこの会社にいて大丈夫なのだろうか?」という不安を煽ることにもなりかねないため、会社全体の雰囲気が悪くなってしまう可能性もあります。
影響③:会社の評判を下げてしまう
早期離職が及ぼす影響範囲は、周囲にいる社員だけではありません。採用活動においても悪影響となるでしょう。
就職活動において企業選びをする際、皆さんはどんな情報収集をしていたでしょうか?
ネットで会社の評判、いわゆる「口コミ」を確認していた人も多いはずです。
通常口コミは退職者によって投稿されているケースが多く、会社に対して負の感情を抱いて退職した場合は、口コミに悪評を書き込む可能性が高くなります。
そうした口コミがネット上に掲載されることで、会社のイメージが下がり、応募数が減るなどの採用活動における悪影響が想定されます。
3.新卒社員の離職理由
ここまでの内容で、早期離職は極力避けるべきであることを改めて実感いただけたのではないでしょうか。
早期離職に対する対策を行うためには、そもそもなぜ早期離職が起こってしまうのか、何がきっかけとなるのかといった原因を押さえておく必要があります。
よくある離職理由についてご紹介しましょう。
理由①:労働環境への不満
新卒社員に限らず、どの年代の社員にとっても当てはまりますが、やはり労働時間の長さや休日の少なさといった労働環境の悪さは、離職の大きな理由となります。
特に、最近はワークライフバランスが重視され、仕事とプライベートの両立を優先する人も増えています。
入社したばかりの新卒社員にとって「想像していたより仕事がハードだった」「自分の時間が全く取れない」といった不満は、上の世代の社員が想像するよりも重大事項である可能性が高いです。
理由②:コミュニケーション不足
新卒社員にとって、入社後半年〜1年くらいは右も左も分からない状態。何か困ったことや不安があった時に、それを打ち明けられる人がいなかった場合、悩みを抱えてしまいます。
特に、年の近い先輩がいない職場だったり、そもそも職場の雰囲気があまり良くなかったりする場合は要注意。
「もっと早く変化に気づいていれば離職を防ぐことができたのに…」となってからでは遅いので、日頃からコミュニケーションをこまめにとり、職場の雰囲気の改善を行うことが、早期離職を防ぐ上で非常に重要なポイントです。
理由③:仕事内容に対する不満
「思っていた仕事と違った」という入社前後のギャップや、「仕事にやりがいを見いだせない」「スキルアップしていると感じられない」というネガティブな感情は、早期離職につながります。
新入社員に任される仕事は、最初は単調で瑣末だと感じられるものもあります。昔は「石の上にも三年」のように、下積み期間の重要性が謳われる風潮もありましたが、最近は「その三年さえ耐えるなんてもったいない」と捉えられることもしばしば。
優秀な社員ほど早く見切りをつけるなんてこともあるでしょう。
実際のところ、こうした仕事の捉え方自体はなかなか対策がしづらいものです。ただ、長期的な目線でキャリアを考えた時に、果たして早期離職という選択肢が本当に望ましいのか?という観点を与えることは、早期離職を思いとどまらせる1つの打ち手になるはずです。
4.新入社員の定着化に必要な対策5選
早期離職の理由から考えられる、社員が定着するための対策にはどんなものが挙げられるでしょうか。
対策方法として参考になるものを5つ取り上げ、ご紹介します。
早期離職対策は、地道に取り組む必要のある内容も多く、すぐに効果が現れるとは限りません。今はまだ組織課題として早期離職が浮上していなかったとしても、早め早めに手を打つことが肝心です。
対策①:労働時間の管理や、給与レンジの見直しなどを定期的に行う
労働時間が必要以上に長くなってはいないか、業務負荷に対して給与レンジが見合っているかなどの見直しを定期的に行い、労働環境の改善を図りましょう。
昨今は、「ブラック企業」などのワードも浸透しており、会社選びの観点でも労働環境が整っているかどうかは重要なポイントとなります。
世間水準と比較した時にどうなのか、社員の声からはどんな要望が吸い上げられるのかなど、社員の不満が爆発する前に、会社がきちんとコントロールしていくことが大切です。
対策②:情報の透明性を向上させる
給与や評価制度など、社員が不満を抱きやすい項目については、できる限り積極的に会社が情報を公開していくと良いでしょう。採用活動においては、求人票に情報をしっかりと明記しておくのも有効です。
人間の心理として、隠されている情報が多ければ多いほど、不信感が高まったり不満を抱いたりするもの。情報が公開されていることで、例え最高の条件でなかったとしても会社への信頼感は高まるのです。
最近では、あえて会社にとってマイナスになるような情報や、従来非公開にされがちだった人事情報についても積極的に開示する方針を掲げている企業も増えています。
もちろん、人事情報は機密性も秘めた内容だからこそ限界はありますが、できる限り透明性を上げようとしている姿勢が伝わるだけでも、大きな前進です。「社員からの信頼度が低いかもしれない…」と感じられる場合は、情報の透明性を高めることを意識してみましょう。
対策③:指導先輩やメンターの協力体制を強化する
職場でのコミュニケーション不足を防ぎ、困った時に頼れる存在を作っておく目的で、メンターや指導先輩の体制を整えることはオススメです。
ここでポイントとなるのは、業務指導を直接行う指導先輩とは別にメンターも配置するということです。
仕事内容に関して困りごとがあった時に、すぐに頼れる指導先輩の存在は、新入社員にとって非常に心強いものです。
しかし、職場によっては指導先輩が何十歳も上の社員になってしまったり、性格が合わず一向に距離が縮まらなかったりすることもあります。
一方でメンターは、同じ職場の社員である必要はないため、他部署の年の近い社員や、話がしやすい同性の社員、性格が合いそうなタイプの社員など、自由に決めることができます。
明確な基準はないですが、年次で言うと大体3年目〜5年目くらいまでの社員がメンターとして配置されることが多いでしょう。メンターは、業務内容に関わらずプライベートも含めた相談相手として機能するため、新入社員を多角的にサポートすることができるメリットがあります。
指導先輩とメンターの両方を適切に配置することで、より手厚いフォロー体制を敷けることでしょう。
対策④:入社前にネガティブな情報も伝えておく
対策②と重複する部分もありますが、採用活動の時点でネガティブな情報もしっかりと発信していくことで、入社前後のギャップを最小限に抑えることができます。
例えば、社員の残業時間はどれくらいなのか、休日出勤はあるのか、離職率はどれくらいなのか、職場の雰囲気がどうなのかといった点は、選考の段階ではなかなか直接確認しにくいけれど、誰もが気になるポイント。
ただ、例えばサービス業などは労働時間が長くなりがちだったり、休みが不定期だったりすることもあるでしょう。そんな時は、そうしたネガティブな要素を打ち消すだけの自社の魅力がどこにあるのかを伝えていく努力が求められます。
その会社の弱みも知った上で入社を決めてくれた社員であれば、弱みを上回るだけのメリットを仕事に見出してくれるはずです。
対策⑤:人事面談や上司との1on1の機会を増やす
仕事内容への不満に対しては、入社後の人事面談や1on1などを通じて、継続的にフォローしていくのが得策です。
どんな点に不満を感じているのか、どんな点にギャップを感じているのかなどを丁寧に洗い出し、本人が望むことと、会社が期待することのすり合わせを行っていきましょう。
特に、キャリア志向の強い社員が、今の仕事に物足りなさを感じているがゆえに退職を決意することは、会社にとっても大きな戦力を失う意味で非常にもったいないことです。
こうした優秀な社員の流出を防ぐためにも、会社はできる限りのことを積極的に検討していくべきです。
例えば、業務分担を見直してみる、職場の異動を考えてみる、目標となるような社員と交流させてみるなど、できる手立ては打ってみましょう。
「一社員のワガママに付き合ってはいられない」と感じられる方もいるかもしれませんが、優秀な社員が流出していくことと天秤にかけた時にどちらを重視すべきなのか、考える余地があるはずです。
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まとめ
今回は「早期離職」をテーマに、その理由と対策についてご紹介しました。
ここまでの内容をおさらいしてみましょう。
・早期離職率とは、一般的に入社してから3年以内に離職をする社員の比率を指す。
・日本の新卒社員の離職率は、例年約30%程度となっており、大きな変動はないものの明らかな改善傾向もない状態である。
・早期離職率が高まると、採用コストの無駄や社員のモチベーション、会社の評判に悪影響がもたらされる。
・新卒社員の離職理由として挙げられるのは、労働環境に対する不満やコミュニケーション不足、仕事内容に対する不満などが挙げられる。
・新卒社員の定着化を図るためには、労働環境を整えたり定期的に見直すこと、ネガティブな情報も開示すること、入社後のフォローアップ体制を強化することが効果的である。
社員は「人財」とも呼ばれるように、社員の働きぶりや定着次第で、会社は成長も衰退もします。
これから、労働力がますます減少していく世の中で、ご縁あって入社した社員は会社にとってかけがえのない存在です。
そんな社員が生き生きと働き続けられるよう、面談や従業員満足度調査などのアンケート結果も参考にしながら、社員の期待や声に応えることも経営者や人事担当者の大切な仕事。
ぜひ本記事をきっかけに、現状の課題を見直し、改善できる点や対策を打てる点がないかを考える機会につなげていただければ幸いです。