
職場環境は、社員のやる気を左右するだけでなく、生産性や離職率にも大きな影響を及ぼします。 近年、職場環境の改善は単なるオフィス整備や制度変更に留まりません。特に重要視されているのが、周囲の反応を気にせず安心して発言・挑戦できる状態、つまり**「心理的安全性の確保」**です。
職場環境の改善において、多くの企業が陥る落とし穴が「設備の充実」だけで満足してしまうことです。数多くの組織改善を支援してきた知見から言えるのは、本当に重要なのは目に見えるハード面(オフィスや制度)以上に、目に見えないソフト面(称賛や感謝の文化)の整備であるということです。本記事では、心理的安全性を土台とした職場環境改善のポイントを解説します。
心理的安全性が職場環境改善において重要な理由

職場環境の良し悪しは、従業員のモチベーションや組織全体の成果に直結します。その理由は、大きく分けて以下の4つです。
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生産性の向上: 効率良く働けるだけでなく、心理的安全性が確保された職場では意見交換が活発になり、イノベーションが生まれやすくなります。
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離職率の低下: エンゲージメントが高まり、社員が組織に愛着を持つことで定着率が向上します。
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採用力の強化: 「働きやすい職場」という評判が外部に伝わり、優秀な人材が集まりやすくなります。
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ストレスの軽減: リラックスして実力を発揮できるため、心身の健康維持にも繋がります。
▼ 調査データで見る「心理的安全性」の衝撃 弊社Uniposが実施した『仕事と心理的安全性に関する実態調査』では、「離職意向がある社員」は「働き続けたい社員」に比べて、心理的安全性のスコア(特に助け合い因子)が著しく低いことが判明しました。この結果からも、離職を防ぐには給与などの条件面だけでなく、日々のコミュニケーションによる安全性の確保が不可欠であることが分かります。
ここで注目すべきは、**管理職と現場社員の「認識のギャップ」**です。組織調査のデータでは、管理職が「設備や給与」を重視する一方で、現場社員は「自分の貢献が認められること」や「心理的な繋がり」をより強く求めている傾向があります。このズレを解消し、心理的安全性を高めることこそが、真の環境改善のスタートラインです。
職場環境を構成する5つの重要要素
職場環境は、オフィスや制度だけでなく、人間関係やコミュニケーションといったソフト面も含めて考えることが重要です。具体的には、次の要素で構成されます。
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労働条件と福利厚生
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オフィスの立地や設備、空調、清潔さ
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社内の設備
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仕事の負担
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ハラスメント対策
いずれも職場環境を左右する重要な要素です。それぞれの要素を構成するものや、快適な環境に必要とされるものについて説明します。
労働条件と福利厚生 職場環境は、仕事を取り巻く環境だけを指すのではありません。社員1人ひとりが良好な状態で働くためにも、妥当性の高い給与が支給されるなどの労働条件が整っていることも大切です。 また、有給休暇を取得しやすいこと、夜間や休日などに業務関連の連絡を入れないことなどのプライベートを守れることも重要な要素といえます。独自の休暇制度があったり、スポーツジムなどを手軽な料金で利用できたりなどの福利厚生が整っていることも、働きやすい環境をつくる要素です。
オフィスの立地や設備、空調、清潔さ 例えば、駅からの距離や建物の入りやすさ、エレベーターの有無などのオフィスを取り巻く環境も職場環境の1つです。ほかにも1人ひとりの作業スペースや、休憩室や社員食堂、トイレ、洗面所などのオフィス内部の環境が使いやすく清潔であることも重要なポイントといえます。 また、空調設備が快適であることもオフィスの物理的環境を左右します。暑すぎる・寒すぎる・湿度が高すぎるなどの環境では、業務に専念することはできません。
社内の設備 物理的な設備が整っているだけでは、優れた職場環境とはいえません。それぞれの設備が、働きやすい状態に整っていることが大切といえます。 例えば、長時間座っても疲れにくい椅子、作業しやすい高さに調整されたデスク、快適なインターネット環境などは、働きやすさを左右する要素です。また、待ち時間が少ないように工夫されたエレベーターや、動線が短くなるように計算しつくされた空間配置なども、社員の働きやすさを引き出す環境だといえます。
仕事の負担 仕事の負担も、職場環境を構成する要素の1つです。社員1人ひとりに多すぎず少なすぎない適切な業務量が割り振られているか、また、ノルマが厳しすぎないかなども調べておくことが必要です。 なお、仕事の負担は常に変動するため、定期的にチェックして適切な状態に調整することが求められます。
ハラスメント対策 ハラスメント対策を実施することも、働きやすい環境をつくるための1つの要素です。ハラスメントを受けたときに相談できる窓口をつくったり、管理職などを対象にハラスメント研修を実施したりすることも必要になります。心理的安全性の確保は、ハラスメントの予防や早期発見にもつながります。 また、いじめや嫌がらせが起こりにくい環境にするためにも、風通しの良さに注目した職場環境づくりが必要です。
【5分で診断】あなたの職場は大丈夫?心理的安全性チェックリスト

以下の7項目について、あなたのチームはいくつ「YES」と答えられますか?
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[ ] チーム内でミスをしても、それを非難されず、学習の機会として捉えられる。
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[ ] 課題やネガティブな問題について、気兼ねなく指摘できる。
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[ ] チームのメンバーは、自分と異なる考え方を受け入れている。
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[ ] リスクのある挑戦をしても、誰かがサポートしてくれる安心感がある。
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[ ] 他のメンバーに助けを求めることは、恥ずかしいことではない。
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[ ] 意図的に誰かの努力を邪魔したり、足を引っ張るような人はいない。
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[ ] 自分のスキルや才能が、チームの中で尊重され活かされている。
判定: YESが3つ以下の場合は、心理的安全性が低下しており、離職リスクが高まっている可能性があります。以下の「改善アイデア10選」を参考に、早急な対策をおすすめします。
ここでは、制度やオフィス改修といったハード面だけでなく、コミュニケーションや称賛文化などのソフト面を中心に、心理的安全性やエンゲージメント向上に直結する施策を、具体例とともに見ていきましょう。
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テレワークやフレックスタイム制を導入する
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多様な休暇制度を導入する
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社員1人ひとりに適切な仕事を割り振る
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情報共有アプリやチャットアプリを導入する
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居心地の良いオフィスにリフォームする
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福利厚生を見直す
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健康増進につながるサポートを提供する
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社員専用の相談窓口を開設する
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称賛文化を作る「ピアボーナス」の導入
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本音を引き出す「1on1ミーティング」
それぞれのアイデアについて具体的に説明します。
テレワークやフレックスタイム制を導入する
日常的な小さな取り組みでも、コミュニケーションが活性化し、職場環境の改善につながります。社員の働きやすさを向上する目的で、テレワークやフレックスタイム制を導入できます。例えば自宅からオフィスが遠く、通勤が大きな負担になっている社員なら、テレワークにより働きやすさが改善されるかもしれません。 また、家族の介護や育児などで家を空けるのが難しい方も、テレワークと時短勤務を組み合わせることで、無理のない範囲で仕事に取り組めるようになることがあります。 子どもを保育園に預けている場合であれば、始業時間・終業時間を調整できるフレックスタイム制は嬉しい制度です。社員1人ひとりの働きやすさに注目し、多様な制度を用意して仕事を継続しやすい環境を構築しましょう。
多様な休暇制度を導入する
働きやすさの向上のためには、休暇制度にも注目できます。例えば、週休3日制を導入している企業もあります。 また、出産や育児以外にも、さまざまなタイミングで利用できる休暇制度を導入している企業も少なくありません。例えば、自分の誕生日などの記念日に利用できるアニバーサリー休暇や、ボランティア活動に利用できるボランティア休暇などもあると、社員1人ひとりが自分らしい働き方を実現しやすくなります。
社員1人ひとりに適切な仕事を割り振る
社員の経験やスキルを考慮し、適切な仕事を任せることも大切です。適切な仕事を割り振られていないときは、高いパフォーマンスを発揮できなくなるだけでなく、モチベーションの維持も難しくなります。 また、適切な仕事量に調整することや、特定の社員に負担が偏らないように配慮することが求められます。
情報共有アプリやチャットアプリを導入する
チームで進めていく仕事なら、とりわけお互いの情報を共有することが重要です。情報共有がうまくいかないと、確認の重複が増えたり、特定の社員に偏って負担がかかることもあります。 チーム内の関係を円滑にするためにも、情報共有アプリやチャットツール等の気軽に連絡できるツールの導入が必要です。グループ内で利用できるトークルームやスケジュール表を作っておくと、ほかのメンバーの進捗状況を理解しやすくなり、作業効率の向上を実現できます。 気軽な発信が増えることで、組織全体の心理的安全性が高まり、ミスや課題の早期発見にも繋がります。
称賛文化を作る「ピアボーナス」の導入
また、チーム内や社内で感謝を表現する制度(ピアボーナス制度)を採り入れることもおすすめのアイデアです。例えば、次のようなことで同僚や上司、部下などに感謝を感じることがあるかもしれません。
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仕事のやり方やコツを教えてくれた
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士気が上がる話をしてくれた
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みんなが抱えていたもやもやとした気持ちを、会社側に問題提起してくれた
社内表彰するほどのことではなくても、感謝を気軽に伝える習慣があれば、良いことをした人のモチベーションが上がります。称賛を仕組み化することは、心理的安全性を醸成する最短ルートです。 Uniposでは、社内で用いるチャットアプリに表彰制度を組み合わせ、良い行動を見える化するサービスを提供しています。拍手(いいね!)をデータ化して連携し、より客観的かつ公平感のある評価を実現します。ぜひお気軽にお問い合わせください。
居心地の良いオフィスにリフォームする
オフィス内が物理的に暗いと、社員の気持ちにも影響を与えます。仕事に対してモチベーションが持ちにくくなることや、人間関係にもネガティブな影響を及ぼすこともあるでしょう。 気持ちを明るく前向きに保つだけでなく、作業効率を高めるためにも、オフィスは適度な明るさに保つ必要があります。オフィスの照明に詳しいリフォーム業者などにも相談し、明るく快適な場所に変えてもらいましょう。 トイレや休憩室の居心地が悪いときも、社員にとって良い職場とはいえません。明るく衛生的な場所にするだけでなく、過ごしやすいように工夫することが必要です。
ただし、物理的な変化が逆効果になるケースもあります。実際、あるIT企業ではフリーアドレスを導入した結果、『誰がどこにいるか分からず会話が減った』という課題に直面しました。物理的な変化が逆効果にならないよう、『誰がどこでどんな貢献をしているか』を可視化し、心理的安全性を維持する仕組みをセットで考えましょう。
福利厚生を見直す
福利厚生を見直すことで、職場環境を改善できることがあります。例えば、食堂やカフェの設置、個別スペースの設置などを検討してみましょう。 社員にアンケートを取り、必要性が高い制度を導入することもおすすめです。また、従業員間で感謝の気持ちを見える形で贈り合うピアボーナス制度の導入も検討できます。
健康増進につながるサポートを提供する
社員の健康は企業にとっても大きな財産です。社員が健康でなければ、仕事のパフォーマンスは低下し、ひいては企業の売上にも大きな影響を及ぼします。 福利厚生の一環として、スポーツクラブを優待価格で利用できるようにしたり、医師や看護師などの医療の専門家にオンラインで相談できるサービスを無料で提供したりできます。 運動や健康に関連する社内サークルをつくるのもおすすめの方法です。
社員専用の相談窓口を開設する
社内の人間関係を良好に保つために、気軽に話せる雰囲気づくりは不可欠です。また、陰口をいわないようにするなどの基本的なことを1人ひとりが意識し、風通しが良い環境をつくることも大切です。 しかし、風通しが良い環境を構築しても、人間関係の悩みを抱えることはあります。自分の言いたいことが言えないことが多いときや、他の社員から嫌がらせを受けているときなどは、精神的なストレスを感じるでしょう。 社員専用の相談窓口を開設することで、トラブルを1人で抱えこまないようにサポートできます。
本音を引き出す「1on1ミーティング」
職場環境を改善するうえで欠かせないのが、上司と部下の対話の質です。その手段として多くの企業が取り入れているのが、定期的な1on1ミーティングです。 1on1ミーティングは、評価や指示を目的とする場ではなく、部下の考えや悩み、業務上の課題を安心して話せる対話の場として設けることが重要です。これにより、業務の進めにくさや人間関係の問題といった、表に出にくい課題を早期に把握できます。
【実践】心理的安全性を高める1on1質問テンプレート例

1on1で部下の本音を引き出し、心理的安全性を高めるために、以下の質問を活用してみてください。
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「最近、仕事の中で『助かったな』と感じたことはありますか?」
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「今の業務で、もっとこうした方がいいと感じる『小さな違和感』はありますか?」
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「私があなたの仕事をサポートする上で、もっと力になれることはありますか?」
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「今、チームの中で発言しにくいと感じることはありますか?」
職場環境を改善する手順
職場環境の改善は、次の手順で進めていきます。
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ストレスチェックを実施する
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問題点の洗い出し
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改善計画の立案・実行
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効果の検証、改善
それぞれのステップを説明します。
1.ストレスチェックを実施する
まずはストレスチェックや従業員アンケートを活用し、現状の課題を可視化することが重要です。 2015年12月以降、従業員が50人以上の職場ではストレスチェックを実施することが義務化されました。心理的安全性を客観的に測る指標として、エイミー・エドモンドソン教授が提唱した『7つの質問』や、組織の健全度を測る『eNPS(従業員推奨スコア)』の活用も有効です。 定期的にこれらの数値を可視化することで、環境改善の効果をデータで把握できるようになります。厚生労働省の『令和5年 労働安全衛生調査』でも、仕事に強い不安やストレスを感じる労働者の割合が高いことが示されており、企業としてのメンタルヘルスケアは今や必須の経営課題といえます。
2.問題点の洗い出し
職場ごとに抱えている問題点は異なります。何が問題なのか、社内で話し合って分析していくことが必要です。 なお、職場環境の改善はプロジェクトチームを組んで進めていきますが、問題点の洗い出しはチームスタッフだけでなく、社員全員が携わる必要があります。すべての社員に意見を求めることで、職場の問題点が客観的に洗い出せるようになり、誰もが居心地の良い職場へと変えていけます。
3.改善計画の立案・実行
問題点を洗い出した後、改善計画を立案します。例えば、通勤時間が長く、遅刻や欠勤をする社員が多いのであれば、テレワークの導入を検討できます。また、社員間の連絡がスムーズにできていないときは、チャットツールの導入も検討できるでしょう。
4.効果の検証・改善
改善計画を実行してから一定期間後に、どのような効果が見られたのか検証します。例えば、テレワークを導入した場合なら、利用者の仕事のパフォーマンスがどの程度向上しているか確認できます。思うような効果がなかったときは、再度、改善が必要です。 なお、職場環境の改善には終わりはありません。より良い職場を目指して「問題点の洗い出し→改善計画の立案・実行→効果の検証・改善」のサイクルを繰り返していきます。
職場環境改善の良好事例を紹介

近年、働き方改革を実現し、生産性向上を実現するために、職場環境の改善に取り組んでいる企業が増えている状況です。ここでは、職場環境の改善に成功した企業の事例を3つご紹介します。
在宅勤務制度の改革/日本航空株式会社
日本航空は、企業の人材力・組織力の向上と、従業員の人生を充実の両立を図る「ワークライフバランス」に対する取り組みとして、在宅勤務制度の改革を行いました。フルタイムの勤務時間帯を選択できる制度や、毎週水曜日の定時退社推進といった施策を実施することにより、働きやすい職場環境を実現しています。
ユニバーサルレイアウトの活用/株式会社ニコン
ニコンはオフィスのレイアウトを工夫することによって、職場環境を改善した企業です。部門に関係なくデスクなどを均一に配置できるユニバーサルレイアウトを採用しました。従業員が移動するだけで組織変更が完了するため、スムーズに業務を継続できるようになったそうです。
組織崩壊の危機からエンゲージメントスコア全国上位2%へ / 株式会社リーディングマーク
急成長による組織の縦割り化が課題だった同社では、感謝・称賛を可視化する仕組み(Unipos)を導入。日々の小さな貢献が認められる文化を醸成した結果、エンゲージメントスコアが全国上位2%という驚異的な水準まで向上しました。単なる制度導入に留まらず、現場の「心理的安全性」を土台にした改善が、急成長を支える組織基盤を作った好例です。

専門家の視点:なぜ「称賛」が組織を変えるのか?

心理的安全性の専門家であり、弊社主催「Unipos 心理的安全性サミット」にも登壇いただいた早稲田大学商学学術院の村瀬俊朗 准教授は、組織づくりについて次のような見解を示しています。
「組織が変わるためには、メンバー同士が互いに関心を持ち合う土壌が必要です。心理的安全性は自然には生まれません。リーダーやメンバーが互いにポジティブなフィードバックを送り合い、『ここにいていいんだ』という居場所感を作ることが、挑戦を支える基盤となります。」 (※Uniposサミット登壇内容より要約)
制度というハード面だけでなく、こうしたアカデミックな知見に基づいた「称賛文化(ソフト面)」の醸成こそが、強い組織を作る鍵となります。
働きやすい環境を構築していこう
本記事で紹介した施策は、中小企業から大企業まで、すぐに取り入れられる内容です。まずは自社の課題に合った取り組みから、小さく始めてみてください。ツールや仕組みを上手に活用することで、働きやすい職場環境を構築することは、社員のためだけでなく企業のためにも不可欠です。大切な社員により良い環境で働いてもらうためにも、定期的に問題点を洗い出し、改善案を構築し、効果検証をするサイクルを繰り返していきましょう。
この記事を書いた人:Unipos 組織改善コラム編集部 数百社のカルチャー変革を支援してきたUniposの知見を元に、最新のHRトレンドや「心理的安全性」を高める組織づくりのノウハウを発信しています。現場のリアルな悩み(離職・生産性低下)を解決する一次情報をお届けします。
