
人材育成の要ともいえる「OJT」。しかし、「OJTを実施しているものの、うまく進められていない」「効果的な組み立て方・受け方がわからない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、効果的なOJTを実施するため、OJTの意味や教え方・受け方について、わかりやすく解説します。併せて、OJTと似ている制度との関係についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
1.OJTとは?
「OJT」とは「On the Job Training」の略で、職場の上司や先輩社員が、部下や後輩社員に対して、実践を通じて知識やノウハウを身に付けさせる、人材育成方法のことです。
まずは、OJTが用いられるようになった歴史的背景と、現在の日本におけるOJTの実態について説明します。
1−1.OJTの歴史的背景
そもそもOJTが生まれたのは、第一次世界大戦中のアメリカといわれています。当時アメリカでは、軍隊を大幅に増員し、育成する必要が生じていました。
そこで、現場での教育訓練を通し、多くの人材をスピーディーに教育する方法として、「4段階職業指導法」が考案されました。
「4段階職業指導法」とは、以下の4つのプロセスから成り立つものです。
・Show(やってみせる):実際に仕事をやってみせて、全体像を把握させる
・Tell(説明する):仕事の内容を具体的に説明し、その意味や必要性を理解させる
・Do(やらせてみる):実際に仕事をやらせてみる
・Check(評価や追加指導をする):できた点とできなかった点を、それぞれ評価・追加指導する
このプロセスは、OJTの基本手順として知られています。
日本に「4段階職業指導法」が輸入されたのは、戦後1950〜1970年代の高度経済成長期といわれています。
1970〜1980年代の年功序列・終身雇用の時代に、PDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)を基本とした、OJTによる教育研修が行われるようになり、現在のOJTへと発展しました。
なお、第二次世界大戦中には「4段階職業指導法」を発展させた手法として、「TWI研修(Training Within Industry for supervisors)」すなわち「企業のリーダーのための教育訓練」がアメリカから広まっています。
これは、仕事の教え方や改善の仕方、人の扱い方などに関する研修です。
1−2.現在のOJTの実態
OJTは、時代とともに変化しながら発展し、現在では幅広い企業において、効果的な人材育成方法として活用されています。
特に、新入社員を教育する場面で用いられることが多いOJTは、1人の新入社員に1人の先輩社員・上司がつくのが一般的です。経験豊富な職場の上司や先輩社員が、実際の業務を通じて知識やノウハウを伝えることで、研修やマニュアルだけでは身に付きにくい、実践的なスキルを磨くことができます。
ここで、厚生労働省が実施した令和2年度「能力開発基本調査」を見てみると、「正社員または正社員以外に対して計画的なOJTを実施した」と回答した事業所は59.4%と、約6割という結果であったことがわかります。
一方で、「能力開発や人材育成に関して何らかの問題がある」と回答した事業所は74.9%、そのうち「指導する人材が不足している」が54.9%、「人材育成を行う時間がない」が49.4%という結果になっています。
これらのデータから、実践的な知識やノウハウなどを身に付けさせるためOJTに取り組んではいるものの、指導する側の育成も含めた制度の進め方がうまくいっていないと考える企業も、少なからず存在するといえるのではないでしょうか。
この記事の後半では、担当者に向けたOJT制度の進め方や組み立て方についても解説しますので、併せてご覧ください。
参考:令和2年度「能力開発基本調査」の結果を公表します|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_19368.html)
2.OJTと似ている制度との関係
実践的な人材育成方法であるOJTですが、OJTには似ている制度がいくつか存在します。
ここでは、「OFF-JT」・「ティーチング」・「コーチング」・「メンタリング」の4つの制度とOJTとの関係を見ていきましょう。
2−1.OJTとOFF-JTの関係
「OFF-JT」は「OFF the Job Training」の略で、実務の場を離れて行う人材育成方法のことを指します。新入社員や中堅社員、管理職といった階層別の研修や、個々のスキルアップのためのプログラムなどを対象者に受講させることで、知識やスキルを身に付けさせるものです。
前述した、厚生労働省の令和2年度「能力開発基本調査」によると、「正社員または正社員以外に対してOFF-JTを実施した」と回答した事業所は69.8%であり、OJTの59.4%と比べても、大きな差はないといえるでしょう。
OJTとOFF-JTとの大きな違いは「実務の場を離れるか否か」という点にあります。加えて、OJTは原則業務の一環として行いますが、OFF-JTは研修などのために時間を割いて行うという点も、両者の違いです。
とはいえ、効果的に人材育成を進めるのであれば、どちらか一方だけでなく、OJTとOFF-JTを組み合わせるとよいでしょう。
OFF-JTで学んだことを、あらためてOJTで実践することによって、知識やスキルの定着が期待できます。
参考:令和2年度「能力開発基本調査」の結果を公表します|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_19368.html)
2−2.OJTとティーチング・コーチングとの関係
「ティーチング」とは、必要な知識やスキルについて、その答えそのものを相手に直接指導することをいいます。すなわち、ティーチングは、OJTの「Show(やってみせる)」「Tell(説明する)」のプロセスに該当するといえるでしょう。
一方の「コーチング」とは、ティーチングのように直接答えを与えることはせず、相手が答えを見つけられるように、対話や質問を通してサポートすることをいいます。
あくまで間接的な指導であることから、直接的に指導するOJTのプロセスとは異なるものです。
また、OJTの場合は、教える側と教えられる側は上下の関係にあるのに対し、コーチングの場合は、教える側と教えられる側は対等であると考えられる点も両者の違いといえるでしょう。
2−3.OJTとメンタリングの違い
「メンタリング」は、仕事についてだけではなく、プライベートの悩みも含めて相談に乗ることで、メンタル面を含めたサポートを行うのが目的です。
そのため、OJTのように直属の上司や先輩社員が教えるわけではなく、業務上の接点が少ない先輩社員が教える側を担います。
必要な知識やノウハウを教え、人材の早期育成を目的とするOJTとメンタリングは、異なるものだといえるでしょう。
3.担当者向け|OJTの進め方・組み立て方
ここから、OJTを教える側の担当者の方や監督者の方向けに、OJTに向いている業務や向いていない業務、OJTの設計方法について説明します。
併せて、OJTをうまく進めるコツについても、確認していきましょう。
3−1.OJTに向いている業務・向いていない業務
まずは、OJTに向いている業務と向いていない業務について、あらためて整理していきます。
3−1−1.OJTに向いている業務
OJTに向いている業務は、「教える側の能力によって差が出にくい業務」です。
したがって、すでに職場内で一定のルールが確立されており、イレギュラーな問題が発生しにくい業務がOJTに適しているでしょう。
また、そのような業務は、教える側のためのマニュアルも整備しやすいため、個々人の負担を抑え、安定したOJTの実施が期待できます。
3−1−2.OJTに向いていない業務
一方、OJTに向いていない業務は、「教える側の能力によって差が出やすい業務」です。
内容や進め方が変わる可能性が高く、イレギュラーな問題が発生しやすい業務は、教える側だけでなく、教わる側の負担も大きくなります。
もし、そのような業務でOJTを実施するのであれば、基礎知識や前提となるスキルについては、OFF-JTであらかじめ習得を目指し、そのうえでOJTを実施するようにしましょう。
3−2.OJTの設計方法
OJTは、「計画の策定」・「業務の量と質の決定」・「業務遂行」・「内省支援」の4つのステップで設計していくのが理想です。それぞれのステップについて、以下で詳しく見ていきましょう。
3−2−1.育成計画の策定
最初のステップとして、育成計画の策定が求められます。育成計画を策定する際には、以下の3つのポイントを意識しましょう。
(1)育成対象者に、どのような仕事ができるようになってもらいたいか
(2)そのためには、どのような知識やスキル、経験が必要か
(3)(1)と(2)を踏まえ、どのような仕事を・どのように・どのタイミングで経験させるか
漠然としたものではなく、ポイントにそってできるだけ具体的に決定していきます。
3−2−2.業務の量と質の選定
続いて、上記ステップを踏まえ、育成対象者に与える業務の量と質の選定を行います。
本人のキャパシティを大幅に超える内容だと、諦めやモチベーションの低下につながる可能性がある一方で、キャパシティを大幅に下回る内容だと、仕事への甘えを引き起こしてしまうかもしれません。
そのため、育成対象者の力量を把握し、与える業務の量と質のバランスを適切にコントロールすることが必要です。
3−2−3.業務遂行
業務遂行のステップでは、実際にOJTに取りかかります。OJTの「Show(やってみせる)・Tell(説明する)・Do(やらせてみる)・Check(評価や追加指導をする)」の4つのプロセスをもとに、教える側は育成対象者に実務を観察させたのち、同じことを本人にやらせてみます。
必要に応じて、繰り返し行ったり、アドバイスをしながら行っていきましょう。
3−2−4.内省支援
最後のステップとして、育成対象者の内省支援を行います。内省支援のポイントは、振り返りと概念化です。
振り返りでは、育成対象者が行った業務について、成功または失敗の理由を考えさせます。
併せて、概念化として、次に同じ業務に取り組む際にどのような点を活かせるかを考えさせます。
2つのポイントを踏まえた内省支援を行うことで、育成対象者が次回以降成功する確率が高まり、業務の定着率も向上するでしょう。
3−3. OJTをうまく進めるコツ
OJTを進めるにあたっては、いくつかのポイントを意識するとよいでしょう。ここでは、OJTをうまく進める3つのコツをご紹介します。
3−3−1. OJTの取り組み方を正しく理解する
OJTは、その時々で場当たり的に実践しても、効果が上がりません。
OJTはどのような目的で行われるのか、そのためにはどのように取り組むのが効果的なのかといったOJTの取り組み方を、教える側が正しく理解している必要があります。
前述した育成計画に基づき、反復的かつ段階的にOJTを実施していきましょう。
3−3−2. OJT担当者の心構えを変える
OJTの担当者にも、もちろん自身の業務が存在するため、そのなかで育成対象者をサポートしていくのは、少なからず負担となるでしょう。
したがって、担当者がOJTの意義をきちんと理解していなければ、自身の業務を優先したり、場当たり的な指導をしたりすることによって、結果的にOJTが形骸化してしまう恐れがあります。
担当者には、OJTの意義ややりがいを伝え、教える側としての心構えや自覚を持ってもらわなければなりません。
まずは、OJTは担当者自身の成長にもつながるということを理解してもらったうえで、「OJTで教えることを通じて自分はどのように成長したいか」という点を明確にしてもらうとよいでしょう。
3−3−3. OJT担当者の内省も行う
OJTは、育成対象者だけのものではありません。
OJTの最後のステップに育成対象者への内省支援があるように、担当者の内省も必要です。担当者自身が、OJTを通じてどのような成功・失敗をし、そこからどのようなことを学んだのかを振り返る機会を設ける必要があります。
ただし、内省については管理職などの監督者が考え方を押し付けるのではなく、監督者はあくまで担当者の内省のサポートにとどめるというのも大切なポイントです。
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4.研修生向け|OJTを受けるメリット・デメリット
ここから、OJTを受ける研修生の方向けに、OJTを受けるメリットとデメリットについて説明します。
併せて、OJTを受ける際に意識すべきことについても、確認していきましょう。
4−1.OJTを受けるメリット
OJTを受けることで、大きく3つのメリットが得られます。それぞれのメリットについて、以下で見ていきましょう。
4−1−1.実務を通じて実践的なスキルを学べる
OJTでは、職場の上司や先輩社員から、実務を通じて知識やノウハウを教えてもらいます。
実際に仕事をしながら教育を受けることで、実践的なスキルをわかりやすく学べるでしょう。また、OJTは業務の一環として指導を受けるため、休日や業務時間外に研修のために時間を割く負担がないという点も、メリットの一つになります。
4−1−2.フィードバックをすぐに受けられる
OJTは「Show(やってみせる)・Tell(説明する)・Do(やらせてみる)・Check(評価や追加指導をする)」の4つのプロセスから成り立っています。そのため、上司や先輩社員から説明を受けたあとは、実際に自分でやってみて、その場ですぐにフィードバックやアドバイスを受けられます。
OFF-JTの場合は、「自分がそもそも何を理解できていないのかわからない」という状況に陥る可能性も考えられますが、OJTの場合はそのような心配がいりません。
4−1−3.人間関係の構築につながる
基本は1対1で、コミュニケーションをとりながら仕事を学んでいくことで、上司や先輩社員との人間関係を築きやすくなります。
右も左もわからず不安が大きい新入社員のときに、比較的早い段階で人間関係を構築できるのは、大きなメリットになるでしょう。
4−2.OJTを受けるデメリット
OJTには、少なからずデメリットも存在します。OJTの効果を高めるためにも、デメリットをきちんと理解しておきましょう。
4−2−1.教える側の能力によってばらつきがある可能性も
OJTでは、上司や先輩社員に指導力が伴わない場合、期待した効果が得られない可能性もあります。
特に、イレギュラーが発生しやすい業務については、教える側の能力に左右されやすくなるでしょう。
また、OJTでは、教える側が不在であったり、忙しかったりするときには、別の人に変わることもある点がデメリットの一つといえます。
OFF-JTであれば、一堂に会した研修によって、全員を均一に指導してもらえますが、OJTでは原則1人につき1人、多くても数人しか指導してもらえません。
そのため、教える担当者によって、指導内容にばらつきが生じる可能性もあるでしょう。
4−2−2.体系的に学びにくい
OJTは、自分の業務を中心に、目の前のことについて学びやすい方法である一方、全社的な業務内容やプロジェクトの全体像などを体系的に学びにくい面もあります。
そのため、「今教えてもらっているこの業務は、何のために必要なのか」といった、体系的な視点を意識してOJTを受ける必要があるでしょう。
4−3.OJTを受ける際に意識すべきこと
OJTを受けることは、メリットとデメリットがそれぞれ存在します。しかし、以下で紹介するポイントを意識すれば、より効果的なOJTになるでしょう。
4−3−1.積極的に質問する
特に繁忙期は、教える側の上司や先輩社員に質問しにくいという状況も考えられます。
しかし、分からないことや不安なことをそのままにしてしまうと、実践的に学べる貴重な機会を無駄にしてしまうので、積極的な質問を心がけましょう。
また、質問に限らず、担当者と自ら意思疎通を図ろうとすることも大切です。十分なコミュニケーションによって雰囲気も良くなり、以後の仕事も円滑に進められるでしょう。
4−3−2.臨機応変に判断する
OJTのデメリットで触れましたが、担当者が不在であったり、忙しかったりするときには、担当者が別の人に変わることも十分に想定されます。
OJTがマニュアルに沿った内容であれば、担当者によって生じる差は少ないと考えられますが、そうでない場合、担当者によって教え方や重視する点が異なる可能性もあるでしょう。
そのため、言われたことをただ受け入れるのではなく、疑問があればその都度質問し、指導内容は臨機応変に判断・対応することが大切です。
5.まとめ
今回の記事では、「OJT」について、意味や似ている制度との関係、担当者と研修者それぞれの観点からOJTの効果を高めるポイントなどを解説しました。
改めて、記事の内容について振り返ってみましょう。
・OJTとは、実践を通じて知識や技術などを身に付けさせる、人材育成方法のこと
・OJTのプロセスは以下の4つ
・Show(やってみせる)
・Tell(説明する)
・Do(やらせてみる)
・Check(評価や追加指導をする)
・厚生労働省 令和2年度「能力開発基本調査」によると、「計画的なOJTを実施した」と回答した事業所は59.4%
・OJTと似ている制度は、以下の4つ
・OFF-JT:実務の場を離れて行う育成方法
・ティーチング:知識やスキルの答えそのものを相手に直接指導する育成方法
・コーチング:相手が答えを見つけられるようにサポートする育成方法
・メンタリング:メンタル面を含めたサポートを行う育成方法
・OJTに向いている業務は、すでに職場内で一定のルールが確立されており、イレギュラーな問題が発生しにくい業務
・OJTに向いていない業務は、内容や進め方が変わる可能性があり、イレギュラーな問題が発生しやすい業務
・OJTの設計方法は、以下の4ステップ
・育成計画の策定
・業務の量と質の選定
・業務遂行
・内省支援
・OJTをうまく進めるコツは、以下の3つ
・OJTの取り組み方を正しく理解する
・OJT担当者の心構えを変える
・OJT担当者の内省も行う
・OJTを受けるメリットは、以下の3つ
・実務を通じて実践的なスキルを学べる
・フィードバックをすぐに受けられる
・人間関係の構築につながる
・OJTを受けるデメリットは、以下の2つ
・教える側の能力によってばらつきがある可能性も
・体系的に学びにくい
・OJTを受ける際に意識すべきことは、以下の2つ
・積極的に質問する
・臨機応変に判断する
この記事を参考に、OJTによる人材育成を実践し、新入社員や若手社員の早期戦力化を図っていきましょう。