
「新入社員がなかなか組織になじめていない…」
「せっかく採用しても、社員の早期離職が続いている…」
優秀な人材を採用したはずなのに、なぜか活躍できていない。そして、コストをかけて採用しても、なかなか定着してくれない。
そんなお悩みを抱える経営者や人事担当者は多いのではないでしょうか?
近年、「オンボーディング」という用語をよく耳にするようになりました。
社員が能力を最大限に発揮できている会社は、採用活動と同じくらいオンボーディングにも力を入れています。
本記事では、「オンボーディング」とは何か?という基礎知識から、具体的な導入事例まで、網羅的に解説しています。
「そういえば、社員を『採用して終わり』になっているかも?」
そんな心あたりがある方は、ぜひこの機会に「オンボーディング」についての理解を深めましょう。
1.オンボーディングとは
「オンボーディングってそもそも何?」と感じられた方もいるかもしれませんね。
まずは前提となる基礎知識について解説します。
オンボーディングの定義
オンボーディングとは、新卒・中途問わず、新入社員が入社した際になるべく早いタイミングで戦力化すること、そして早期離職を防ぐことを目的として、業務に必要な知識や技術の習得を支援したり、組織の一員としてなじめるようにサポートしたりする一連のフローを指します。
英語に訳すと「on-boarding」となり、新入社員を船や飛行機の乗組員や乗客に例え、搭乗を歓迎する様を表現しています。
従来多くの企業で実施されてきた新入社員向けの「集合研修」とは異なり、オンボーディングは新卒社員だけではなく中途社員に対しても実施されます。また、若手社員に限らず幹部クラスの人材に実施されることもあります。
その他にも、特徴として、一時的に研修期間を設けるのではなく、継続的なプログラムが組まれる点が挙げられます。
ちなみに、今回のテーマは社員に対するオンボーディングとなりますが、対顧客についても「オンボーディング」の言葉を用いることがあります。
具体的には、顧客に対して自社のサービスやプロダクトを継続的に利用してもらうために、使い方のレクチャーや、導入後のサポートを行うことを指します。
オンボーディングが注目されている背景
オンボーディングへの注目度が高まっている背景には、「採用形態の多様化」と「人材の流動性の高まり」があります。
背景①:採用形態の多様化
これまでの日本では、新卒一括採用が主流であり、多くの新入社員が同じタイミングで入社することが一般的でした。
その場合、一斉に集合研修を行った方がコストを抑えることができ、効率的に人材育成をすることができたのです。
しかし、最近では中途採用で入社する社員も増え、必ずしも同時期に社員が入社してくるとは限りません。中途採用を中心に、定常的に採用活動を行なっている企業では、毎月数名〜数百名規模の新しい社員が入社してくるということもあります。
また、既にある程度のビジネス経験を有する中途社員に対しては、新卒社員とはまた別の観点で教育プログラムを考える必要があるでしょう。
中途社員の方が戦力化が早いため、教育よりもフォロー体制を手厚くするなどの工夫が求められるのです。
背景②:人材の流動性の高まり
中途社員が増加している理由とも言えますが、現在の日本では終身雇用の概念が薄れつつあり、転職を前提としたキャリア形成を意識する人たちが増えています。
人材の流動性が高まることによって、組織の活性化が促されたり、能力の高い社員が入社してきたりすることは、もちろんメリットでしょう。しかし裏を返せば、せっかく採用した社員もそれだけすぐに離職してしまう可能性が高いということです。
つまり、採用して終わりではなく、入社後も継続的なサポートを行い、組織への定着を図ることが重要なのです。
2.オンボーディング施策の効果
オンボーディングの必要性を実感したとしても、実際に導入するとなれば人事部門や現場の負荷はそれなりにかかってしまうもの。費用対効果がどの程度あるのかは担当者として気になるポイントではないでしょうか。
自信を持ってオンボーディング施策を検討できるよう、期待できる効果を確認しておきましょう。
従業員エンゲージメントの向上
エンゲージメントとは、人事やマーケティングの分野でよく使用される用語であり、社員が抱く会社への「愛着」や「思い入れ」といった内発的な貢献意欲のことを指します。
新入社員が入社する前に知ることができる会社の情報や知識はほんの一部です。よって、入社直後の期間は、会社への理解を深め、愛着や思い入れを高めてもらうタイミングとして、絶好のチャンスと言えます。
オンボーディングを通じて会社への理解が深まると、理念や事業内容、社風に対する共感につながります。
「この会社で活躍したい」「この組織に貢献したい」と思ってもらえるようなエンゲージメントの向上が期待できるでしょう。
心理的安全性の向上
心理的安全性とは、気兼ねなく自身の意見や考えを発信できる組織への安心感・信頼感を指します。つまり、周りから非難されることを恐れず、ありのままの自分でいられる心理状態のことです。
新入社員は初めての環境に飛び込むことになるため、何かと気を使ったり、不安になったりすることが多いものです。
そこで、歓迎の場を設けて社員との接点を増やす、1on1などの個別でじっくりと話ができる環境を整えるといったオンボーディングを実施できれば、心理的安全性を向上させることができます。
心理的安全性が高い状態で仕事に臨めると、本来の能力を発揮しやすくなり、早期に戦力として活躍することができるでしょう。
離職防止による採用コスト抑制
経営者や人事担当者であれば、常々痛感するところではありますが、採用活動にかかるコストというのは非常に大きなものです。
せっかく採用できた社員を早期離職によって失うことは、本人に費やしたコストが無駄になるだけでなく、再度採用活動を行うコストもかさんでしまいます。
そもそも、入社したばかりの社員が早期離職を考えるのはなぜでしょうか?
多くの場合、組織になじめないことや、入社前後のギャップが理由として挙げられます。
こうした理由への対策として、居心地が良いと思える雰囲気作りや、丁寧な業務レクチャーを意識することで早期離職を防ぐことができ、ひいては採用コストの抑制につながります。
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3.オンボーディングの企業事例5選
オンボーディングと一口に言っても、取り組むべき内容の範囲は広く、方法もさまざまです。
オンボーディングが上手に活用できている5つの企業の事例を参考に、具体的な施策を検討してみましょう。
事例①:Google
Googleでは、新入社員を受け入れるチームが主体となり、入社前から念入りな準備を始めます。
入社日の直前に、上司となる社員にチェックリストがメールで送られます。チェックリストの内容は、具体的に入社後に取り組むべきTodoが5つ挙げられています。
<5つのチェックリスト>
・仕事の役割と責任についてきちんと会話をする
・メンター役となる先輩社員を指名する
・社内のネットワーク作りをサポートする
・最初の6か月は毎月面談を実施する
・気兼ねなく話せる環境を作る
これら5つの点が確実に実施できているかを確認すること自体が、上司の重要なタスクとして位置付けられているのです。
また、入社初日には担当業務についてはもちろんですが、会社の説明にも力を入れています。そうすることで、会社の仕組みや社風、価値観などを学ぶことができるからです。
事例②:Twitter
Twitterのオンボーディングは、新入社員の採用が決まってすぐに始まります。
このことを、採用のオファーを受けて(Yes)から、当日席につく(Desk)までという意味で、”Yes to Desk”と呼んでいます。
新入社員が入社するまでに、PCのセットアップやメールの設定はもちろん、席に歓迎の証としてTシャツとワインを置いておく習わしもあるのだとか。
また、新入社員の席は仕事で関係が深い同僚の隣に配置し、質問などがしやすい環境を整えています。
そして、入社当日の朝食はCEOと一緒にとり、その後オフィスツアーも行います。
その後も月に1度は経営陣との交流があったり、他の部署の仕事を学ぶ機会も用意されていたりと、企業文化の理解を深めるためのさまざまな工夫が施されています。
事例③:キャスター
全社員が完全フルリモートで仕事をしているキャスターでは、もちろんオンボーディングも全てオンラインで実施しています。
同社のCASTER BIZ事業部での具体的なオンボーディングの流れは、以下の通りです。
<オンボーディングの流れ>
・入社初日:全体研修
・2日目:事業部研修
・3日目以降:チーム配属でのOJT
リモートワークが前提になるからこそ、全体研修にてコミュニケーションツールなどの基本ルールを丁寧に説明しています。また、OJTに際してもリモートワークによって孤独を感じたり、相談事を抱え込んだりしないよう、ツールの活用方法を工夫しています。
例えば、チームごとに相談専用のオンラインルームを常設し、何かあればチャットで連絡したのち音声で会話するなど、ミーティングなどの人が集まる場以外でも、相談がしやすい環境づくりに注力しています。
事例④:DeNA
DeNAでは、新卒社員の集合研修もオンボーディングの一環として位置付けています。
その中でも、オンラインでの実施にあたり、リモートワーク特有のストレスを軽減できるようなさまざまな施策に取り組んでいます。具体例は以下の通りです。
<オンライン施策の例>
・連続でのオンライン会議は実施せず、法務などの入社時に必須の研修については、自身のタイミングで受講できるようにする。
・グループ研修では、Zoomのブレイクアウトルーム機能やGoogleのオンラインホワイトボード「Jambord」を活用する。
・事業部の説明時は、一方通行の説明にならないよう、パネルディスカッション形式で双方向コミュニケーションを促進する。
・入社前にZoomのバーチャル背景として使用できる「DeNAオリジナル壁紙」を配布し、チームワークの醸成を図る。
新卒社員だからこそ、基礎的なレクチャーが多くなってしまうところ、オンラインでの一方的な情報発信にならないように作り込まれています。
事例⑤:日本オラクル
日本オラクルでは、毎年200〜300人の中途採用を行なっており、オンボーディングを強化しています。
まず、オンボーディングにおける受け入れプロセスを「全社員の仕事」と位置付けた上で、会社の印象を決める最初の1ヶ月を特に意識し、5週間のプログラムを実施。具体的には、以下のような取り組みを行なっています。
<5週間で取り組むこと>
・会社のルールなどの基礎知識を学んだあと、OJTトレーナーによる実地的な学びに移行。
・ナビゲーターが業務の細かな部分をサポートし、サクセスマネージャーが毎週1時間の面談を実施してエンゲージメントを測るなど、あらゆる方面からサポートする。
・メンター制度の導入や定期的な1on1ミーティングで関係性を構築する。
・ランチ会や歓迎会、交換日記などを用いて、社員との交流を促す。
一般的に中途社員は即戦力採用の前提のため、オンボーディングが疎かになりがちですが、日本オラクルでは、長期間にわたって手厚いサポートを行なっている点が特徴です。
4.オンボーディングで失敗しないためのポイント
ここまで、先進的なオンボーディングに取り組む企業の具体事例をご紹介してきましたが、事例から学ぶことのできる「失敗しないためのポイント」とは何でしょうか?
3つのポイントを押さえておきましょう。
ポイント①:入社前の準備を怠らない
GoogleやTwitterの事例からも分かるように、オンボーディングは入社後対応だけではなく、入社前から念入りに準備を行うことでより良いものになります。
具体的にどんなフローでオンボーディングを行なっていくのか、Todoとして何があるのかを整理しておくことをオススメします。必要に応じて説明資料などのコンテンツも準備しながら、万全の体制で新入社員を迎え入れましょう。
そうすることで、新入社員が入社してから手持ち無沙汰になったり、不安や不満を感じてしまったりすることを避けることができます。
ポイント②:人事部門以外の社員の協力体制を構築する
日本オラクルの事例では特に顕著でしたが、既存社員の協力はオンボーディング成功の秘訣です。
従来の「研修」では、どうしても人事部門が実施するものという印象が強く、人事部門の社員があれもこれも対応しなければと背負いこんでしまうケースもあるかもしれません。
しかし、実際は受け入れ部署のマネージャーはじめ、同僚のサポートは必須ですし、日本オラクルのように、「全社員の仕事」としてオンボーディングを捉えていた方が、新入社員にとって有意義な内容になることは間違いありません。
既存社員を上手に巻き込むことで、中身の薄い表面的なオンボーディングにならずに済むのです。
ポイント③:短期ではなく継続的にサポートする
キャスターや日本オラクルの事例では、継続的なサポート体制が特徴的でした。
特に、中途社員に対しては会社側も即戦力としての活躍を期待してしまうため、入社後数日の最低限のレクチャーを経て、すぐに現場に送り込まれるというケースも多いでしょう。
しかし、短期的なオンボーディングによって業務が上手く進められなかったり、社員との関係構築に失敗してしまったりすると、早期離職のリスクが高まってしまいます。
当然、中途入社であれば、新卒社員よりも早いタイミングでOJTに移行することはありますが、その後のフォロー体制も合わせて強化していくことが望ましいでしょう。
チームの心理的安全性を向上させ、離職を防ぐ ピアボーナスⓇ「Unipos(ユニポス)」とは?
まとめ
今回は「オンボーディング」をテーマに、具体的な導入事例と、そこから明らかになった失敗しないためのポイントを中心に解説してきました。
ここまでの内容をおさらいしましょう。
・オンボーディングとは、新入社員の早期戦力化や離職防止を目的に業務に必要な知識や技術の習得を支援したり、組織の一員として馴染めるようにサポートしたりする継続的な取組み。
・オンボーディングが注目される背景には、採用形態の多様化や、人材の流動性が高まっていることが挙げられる。
・オンボーディングを行うことで、新入社員のエンゲージメントや心理的安全性の向上が期待でき、離職を防止することで採用コストを抑制することにつながる。
・オンボーディングで失敗しないためには、入社前の準備を怠らないこと、人事部門だけではなく受け入れ部署を中心とした既存社員の協力を得ること、継続的に実施することがポイントである。
いかがでしたか?
ますますその重要性に注目が集まるオンボーディング。社員の能力を最大限に発揮できる環境を構築するため、ぜひ本記事を参考に実践してみてくださいね。