給与体系とモデル賃金とは|独自の新しい給与体系モデル実例企業3選

自分がもらっている給与はどのように仕事内容から評価され、算出されているのか、知らない人も多いのではないでしょうか。

この記事では給与体系やモデル賃金、給与に含まれる手当の詳細など、給与にかかわる知識を説明します。
またユニークな給与体系をつくり、実施している企業を紹介します。読み終わったときには自社に合った給与体系のモデルが発想できるようになっているでしょう。

1.給与にかかわる3つの知識と概要

この章では企業における給与(賃金)制度について見ていきます。日本の給与制度は欧米の給与制度とは異なる独自の慣習にもとづき作られ、使われています。現在の日本の抱える給与制度の問題についても簡単に見ていきましょう。

1-1. 給与(賃金)体系とは

給与体系または賃金体系とは、労働者の給与の支払い項目の組み合わせを示します。

この給与体系という言葉は日本独自のものです。欧米では付加的な給付は給与とは別として考えられます。一方日本では「給与」の中にさまざまな「手当」などの基本給以外のものが組み込まれているため、トータルで受け取った給与の内訳がどうなっているのか、算定方法を明確に示すために給与体系というものが存在しています。

第二次世界大戦中から戦後を経て現在に至るまでに、給与体系は複雑化しています。1960年代以前は年功序列の基本給に手当を上乗せされていました。これは被雇用者の生活を保障する目的が大きかったとされています。当時はまだ特に女性の社会進出もあまり進んでおらず、そのため結婚し子供が増えるなど扶養家族が増えるごとに家族手当、住宅手当などの所定外賃金(後述)が必要でした。

近年に至り、給与体系は様々な変遷を経て多様化しています。年功制度だけではなく仕事内容や能力、役職などに応じた給与体系が、各企業ごとに定められて運用されています。とくに勤続年数だけで給与が上がっていく年功制度は徐々に排除される流れになっています。

またベンチャー企業などではそれまでになかったユニークな給与体系を生み出し、社員のモチベーションを高めることに一役買っています。
いずれにせよ、これからは従来の日本の給与体系はますます変化を遂げると推察されています。

画像引用元:平成 23 年度 厚生労働省委託「中小企業モデル賃金制度の研究開発等事業」
中小企業のモデル賃金
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/model/dl/model-00.pdf

1-2. モデル賃金とは

ある企業に就職した人物の標準的な賃金推移をモデル化したものをモデル賃金といいます。
学歴や年齢、職種、勤続年数などを加味して算出されることが多いようです。

(1)理想モデル賃金

モデル賃金とは、新卒で企業に就職した「労働者」が、ある企業に同じ年数、継続して勤務し、標準的に昇進・昇給したと想定した場合に支払われる見込みの給与を指します。学歴や職種も加味して算出されます。「理想モデル賃金」と呼ばれ、基準の給与として活用されます。

(2)実在モデル賃金

一方、ある特定の(実在の)人物をモデルとし、その人物の職種と給与をひとつの標準とするケースがあります。「実在モデル賃金」と呼ばれます。
例えばある社員が中途採用で入ってきた際、その人のそれまでの経歴に近い実在モデルを探してその給与にあてはめます。条件に合う人がいなければ、近いケースから算出します。

モデル賃金を作成するメリットは、

・将来の人件費を予測できる
・人材採用などに役立てられる

ことが挙げられます。

モデル賃金については、公的機関や民間法人等も調査を継続して行い独自に算出し、公表しています。

1-3. 昇給テーブルとは

給与は、かつては年功序列制度の意味合いが強く、仕事の出来不出来や個々の能力で評価されることはほとんどありませんでした。現在は年功制度が崩れてきているため、給与はさまざまな要素が絡み合うため複雑化しています。そのため、従業員への評価と給与をリンクさせ、どのような場合に昇給するのか、役職になれば給与はどのように上がるのか、上限と下限をどうするのか、技能や資格をもつ者とそうでない者の区分けはどうするかなどの要素を入れた「昇給(給与、または賃金)テーブル」を、各企業がつくっていることが多くなっています。

公務員などで主に現在も利用されている「号俸」は昇給テーブルとして扱われることが多いようですが、実際には号俸では職能や職務による「社員一人一人の違いを反映させた昇給」が難しいことから、企業独自の昇給テーブルには号俸を取り入れない動きも出てきているようです。

2.給与の種類

ここでは日本独自の「給与体系」における「給与」に何が含まれているのか、その構成を見ていきましょう。

2-1. 基準内賃金(所定内賃金、所定内給与とも)

給与または賃金には、大きくわけて二つの要素があります。
一つは通常の労働に対して支払われる基本給である「基準内賃金」、もう一つは残業や休日出勤など基本外の労働に対して支払われる「基準外賃金」です。
なお、基準外賃金にあたる時間外手当や休日出勤手当は「諸手当」と呼ばれますが、所定内賃金に含まれる「住宅手当」などの常に継続して支払われる追加分は単に「手当」と呼ばれます。

2-2. 基準外賃金(所定外賃金、所定外給与とも)

上記、基準内賃金に対する賃金の呼称であり、基準内賃金の範疇におさまらないものを指します。

例えば一般的に、所定労働時間を超過して働いた分に対して支払われる時間外手当や深夜割増手当、休日出勤手当などがこれにあたります。

なお、どの項目(賃金費目)を「基準内賃金」とするかは、各企業の労使(労働者および使用者。被雇用者と雇用者)の裁量に任されています。そのため、同じ労働条件に対する報酬でも、企業によって「基準内賃金」なのか「基準外賃金」なのかは異なるため、注意が必要です。

2-3. 給与の3つのタイプ

基本給の算定には以下の3つのタイプがあります。

・属人給
・仕事給
・総合級

(1)属人給型

年齢や勤続年数、学歴などの属人的要素を主とする、従来の終身雇用・年功序列型の給与体系で得られる基本給。年齢給、勤続給、固定給などがあります。継続的に発生する家族手当、住宅手当、食事手当などの手当も含まれます。

*メリット :収入が安定するため安心感がある。離職者を防げる
*デメリット:特に成果を出さなくても昇進し給与も上がる場合(公務員など)仕事への意欲が低下する。仕事のできない上司などへの不満が募るケースが考えられる

(2)仕事給型

能力や職務内容、職務遂行能力など能力に合わせたもの、成果などで決定される給与。成果給、能力給、時給、歩合(インセンティブ)制、年俸制などという名称があります。

*メリット :自己の仕事の成果が給与に反映される
*デメリット:成果がどのように評価されているのか見えにくく不満が起きる可能性がある。離職者につながりやすい傾向がある

(3)総合型給

上記2つを複合させ総合的に判断する給与。

給与体系には上記のうち一つだけを用いるものと、組み合わせるものがありますが、現在の日本では、これらのうち一つだけを用いている給与体系はほとんどなく、多くの企業で総合型が用いられ、昇給テーブルが作られています。

3. モデル賃金の作り方概要と外部資料の利用

モデル賃金については、簡単に1章で説明しました。
企業ごとにモデル賃金を作成する場合、どのようにすればよいのでしょうか。ここではモデル賃金の作成方法を簡単に説明します。

3-1. 理想モデル賃金の場合

(1)年齢を区切る

20歳、25歳、30というように年齢を区切り、モデル設定とします。

(2)役職や家族構成を設定する

例えば「新卒、事務、20歳、扶養家族無し」「部長職、営業、50歳、扶養家族3人」などのように、具体的にモデルを設定します。
あまりに現実的ではない設定はせず、標準的な内容にします。
なお「部長」クラスが、一般の社員の最終的な役職(定年時の役職)と設定されることが多いようです。

(3)昇給は社内の給与体系に合わせる

設定した人物ごとに、定期的に昇給し、役職にも就いていくと仮定してそれぞれの給与がどのように上がっていくかを表とグラフなどで視覚化します。

このほかにも男女別のモデル、職種や技能、企業の規模なども想定してつくられる場合があります。

3-2. 実在モデル賃金の場合

実在モデル賃金は、想定する条件に近い実際の人物を選び、その人物の給与をサンプルとします。想定した人物に似た条件の人がいない場合は、なるべくそれに近い人を選び、推察して作ります。

モデル賃金は実際に一社で作ろうとすると情報量が少なく難しい場合があります。公的な機関や一般企業などが作成しているものがあるため、それらを参考にするとよいでしょう。

<参考>
中小企業のモデル賃金/浜銀総合研究所・厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/model/dl/model-00.pdf 
株式会社日本人事労務研究所資料 
http://nihon-jinji.co.jp/2016binransample.pdf

4. 給与体系を見直す場合の注意点 

1990年代半ば以降、それまでは年功などに合わせた賃金制度だったものが、おもに仕事や役割を基準にした賃金制度へと徐々に移り変わりました。しかし中小企業では現在も多く普及しているのは職能給となっています。

賃金制度には各企業の歴史や社風が色濃く反映されます。給与体系を見直す場合、すべてをいちから完全に変更することには無理があります。

最も大切なことは、

①賃金決定のための要素として、何をもっとも重視するのか
②評価が反映された場合、社員ごとに給与に差がつくが、それはどの程度の開きがあるのか

の二つとなります。

また給与体系の構築は非常に手間がかかり、精密な給与の算出をして作成する必要があるため、膨大な情報量と時間が必要になります。
この分野に詳しいプロの手を借りることをおすすめします。それによって、自分たちでは気づけない、自社の課題や良い点なども見つかるでしょう。

5. 企業による給与体系の改革的な実例3つとメリット・デメリット

日本人は「お金の話は品がない」と考える傾向がまだ根強く、給与額を明確にしていない企業も多くありますが、特に問い合わせない人もいるようです。
しかし働き方改革の推進や社会情勢の変化から、近年、給与を従業員または外部に公開する企業が増えてきました。給与の不明瞭さをなくし、働く人の不公平感をなくす試みが進行しています。

5-1. 給与体系のユニークな会社3

例えばユニクロは給与体系である「年収テーブル」を一般公開、GMOインターネットは従業員全てに公開しています。
どちらの場合も、従業員は自分が何年働きどのポジションについた場合にどれくらい給与がもらえるのか、が明確にわかるため、人生のプランが立てやすくなります。
ユニクロの場合は役員以上の社員の給与も一般公開されたため、その額が大きいことで会社自体の評価も上がる効果があったそうです。

以下、上記2社以外の3社の、実際の取り組みを紹介します。

(1)三菱UFJ銀行 

国内最大手銀行の一つ、三菱UFJ銀行は2019年より新しい給与制度を導入しました。

従来は大手銀行のならいとして年功序列型の給与体系でしたが、ここ数年ですでに職能給(年功色が強い)と職務給(成果給の色合いが強い)の比率を徐々に近づけた総合型の給与体系になっていたといいます。直近の変更ではこの比率を逆転させ、成果型である職務給を増やしています。

また年齢が上がれば自動的に給与も上がっていたものを、今後は上昇を緩やかにし、上がりにくくするとのこと。
また業務により給与は大きく異なることになったそうです。

これらの改革の理由として、近年の金融AIフィンテックの進出やキャッシュレス化の波により店舗削減や人員削減を行っていることがあります。金融業と他業種の垣根が低くなり、他の業種からの参入も増えています。
また長く続く超低金利政策により、旧態依然では生き残れないという判断のもと、給与体系にもメスが入れられることになりました。

旧くからある金融大手が成果主義を年功制度より多くの比率で取り入れることは珍しく、人材獲得へつなげる狙いもあるようです。今後の成長や効率化、業績好調化への変革が期待されます。

(2)株式会社クラウドネイティブ

企業向け情報システムベンチャー・クラウドネイティブの給与体系は「自己申告制度」です。
これは社内で「雰囲気給与」と呼ばれています。(創業時から実施)

・評価制度がなく上下関係もない
評価制度がなく、上司と部下という関係も存在しません(ホラクラシー組織に近い)。

・給与は申告制
自分で自分を評価し、社長に「私の価値はこれくらいなので、給与はこれだけほしい」と申告します。

・就業形態はリモート推奨
コワーキングスペースを利用したオフィスがありますが、基本的にはフルリモートワークを推奨しています。

自分で申告するからには好きなように言えるように思えますが、それぞれの給与は公開されているため、先輩より後輩が多くなる場合もあります。また前年より給与が上がっている場合、その根拠はどこにあったのか?と他の社員にも考えられることになります。
自分自身で自分の評価をすることは、自分の実績や、自分が企業や社会に対してどれくらい貢献できたのか、なぜ給与を上げてほしいというのか。根拠や理由を、自分自身でしっかりと考え申告することになるため、仕事に対する責任感が増すそうです。

(3)株式会社カヤック

「サイコロ給」と「スマイル給」という2つの画期的な制度があります。

・サイコロ給
サイコロを毎月振り、自分の給料を決める。
全額ではなく、基本給は決まっており、それに対してサイコロの目の分が賞与として上乗せされる。

例えば月給40万円の人がサイコロを振って6を出した場合、40+40×6%=424,000円と、24,000円が増えます。

この制度はカヤックの「面白法人」というネーミングを存分に表しているといえるでしょう。
給与体系にも「遊び」「面白さ」を取り入れ、従来の考え方では思いつかないような評価制度が生み出されることになりました。

サイコロ給は、クラウドネイティブと同じく「他者を評価しない」という考え方から端を発しています。人の評価を気にせず楽しく仕事に打ち込み働く。そんな社風がこの給与システムにあらわれているのではないでしょうか。

・スマイル給
もうひとつ、このスマイル給とは、社員同士でランダムに笑顔(感謝や称賛)を贈り合う制度です。給与明細に毎月、誰かからの「〇〇給」がつけられます。ただし、スマイルなのでゼロ円です!
平たく言えば、「ありがとう」の贈り合いです。

「即戦力給 0
作業スピード超特給 0
鎌倉のザッカーバーグ給 0

各自の「スマイル給」が、なぜそのようなネーミングなのか、解説を社内ネットワークで公開。全社員が、みんなのスマイル給を閲覧できます。」(公式ページより引用)

誰かが仕事を見ていてくれて、それに「ありがとう」の気持ちをこめて褒めてくれる。それが仕事へのモチベーションにつながり、また新しいものを生み出す原動力になるのでしょう。

スマイル給は、現物のお金ではありません。しかし「やりがい」「誰かの役に立つ喜び」を実感できる、「非金銭報酬」です。これも立派な給与のひとつとして、似たような取り組みを行っている会社は増えています。

<参考:非金銭報酬とは>
「キャリア・やりがい」「他者からの承認」など、金銭報酬である給与とは異なる「報酬」のこと。
以下のようなものがあります。

①「キャリア・やりがい」
留学制度や、社内公募など。例えば社内環境改善案を応募し選ばれた場合、金一封やランチチケットなどがもらえる、など。

②「他者からの承認」
社長表彰や、営業成績優秀による表彰など。

③「他者からの感謝、感謝の贈り合い」
社員同士で感謝を表し伝えます。
感謝されることはやりがいにつながり、仕事へのモチベーションが上がる効果があります。また職場でのコミュニケーションが円滑になり、よい環境が作られます。

③については、上記のスマイル給のほか、サンクスカードを贈るなどの従来型の方法のほかにも、チャットツールや社内SNSなどで簡単に「感謝」を「見える形」で贈り合えるシステムもあります。

仕事への意欲は給与などの金銭報酬だけではありません。非金銭報酬も有効に使い、仕事の効率を上げ、職場環境を良くして社員全体のモチベーションアップと業績アップにつなげましょう。

5-2. 給与を公開することのメリットとデメリット

ここで紹介したいくつかの企業では、給与を社内従業員に、または一般に公開しています。給与を公開することにはメリットとともにデメリットもあります。

(1)メリット

・透明性や組織の風通しが上がり、評価への理解がすすみ不公平感がなくなる
・将来の給与ラダー、役職ラダーがはっきりと見えるため、仕事へのモチベーションにつながる
・正当な評価を与えられることで仕事への責任感が上がる

(2)デメリット

・給与が明らかになるため、プライバシーが守られない
・評価に納得できない、現実とあわない給与体系になっている場合は非公開の場合よりもさらに不満が大きくなるおそれがある

公開するか非公開にするかは、企業の方向性や社風によるでしょう。

まとめ

給与体系と、賃金モデル等について説明しました。

近年は、これまでの給与体系にとらわれない企業が現れています。また古くからある企業でも新しい給与体系を取り入れる動きがみられます。
大切なことは

①賃金決定のための要素として、何をもっとも重視するのか
②評価が反映された場合、社員ごとに給与に差がつくが、それはどの程度の開きがあるのか

の二つとなります。

自社が何を目指すのか、それに賛同してくれる社員とともに業績を上げていくのか、そのために最も適している給与体系は何か、社員が満足できるのかどうか。この記事で見つけられたなら幸いです。