人事評価制度とは?評価の基準と制度の作り方、導入方法を解説

人事評価制度を制定しているものの、企業の特性や風土にあった制度で運用されていない場合も多いのではないでしょうか。

人事評価制度にはさまざまな評価の方法がありますが、可能な限り客観性と公平性をもち、明確な評価目的と評価の基準が定められていなければなりません。しっかりとした制度があり正しく運用されていれば企業の業績や人材育成へもよい成果を与えられますが、一方で適切に運用されていない場合、企業経営に悪影響を与える可能性もあります。

ここではより従業員のモチベーションを高められる、ひいては企業の業績向上へ繋げられる人事評価制度のあり方と運用方法について説明します。人事評価制度を自社の成長と業績アップに有効利用したいがどのようにすればわからないとお考えの方の参考になることでしょう。

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1. 人事評価制度とは

「人事評価」は、「従業員の日常の勤務や実績を通じて、その能力や仕事ぶりを評価し、賃金、昇進、能力開発等の所決定に役立てる手続き」(白井秦四郎『現代日本の労務管理』, 東洋経済新報社, 1992)と定義されています。この手続きを制度化したものが人事評価制度です。「人事考課(制度)」ともよばれます。

人事評価制度は企業・団体・業種や、雇用者の職能資格、その企業の経営理念に基づき定められるため、それぞれに異なります。
ほとんどの企業では、この人事評価制度が従業員の等級(役職など)や報酬(給与、賞与など)と連動しています。評価が良ければ等級が上がり役職も上がり、ひいては給与も上がります。
従業員の職務遂行能力や企業に対する貢献の度合いを企業内のものさしで測り、それを人事評価へ反映させるためにも、人事評価制度が根拠に基づいて確立されていなければなりません。人事評価制度の内容に問題があれば、等級や報酬において不公平になりかねず、結果的に従業員のモチベーションが上がらなくなります。最終的には企業の売上、業績に重大な影響を与える可能性もあり得ます。

2. 人事評価制度の目的と役割

この章では日本企業の多くが人事評価制度を取り入れている理由とその役割を詳しく見ていきます。

2-1. 人事評価制度の目的

従業員が職務に必要な能力や資格をどの程度のレベルで持っているのかを確認し、その能力や仕事の出来、仕事への向き合い方を総合的に判断して報酬(給与)に反映させること、すなわち「職能管理」「人材育成」を通じて「報酬決定」の拠り所になることが人事評価制度の目的といえます。
さらにいえば、「人材育成」を「会社の業績向上」へつなげることが本質的な目的であり、役割といえるでしょう。

職務遂行能力を役職や給与などの「処遇」に結びつけるためには、個々の従業員の能力水準を確認することが必要不可欠です。そのため人事評価制度は職能管理制度とも密接にかかわっています。

人事評価制度を、単純に労務管理の観点だけから考えてしまう(社内での人材育成と業務の向上にも関わっていると考えない)と、評価する立場の管理職がその評価制度自体に理解を示さず、評価される立場である現場の従業員が不公平感や拒否感を抱くことになりかねません。

2-2. 人事評価制度の役割

(1)等級や報酬などの処遇を決定する(職能管理と報酬決定)

人事評価制度を用いて、従業員一人ひとりの職務遂行能力や資格、会社への貢献度によって、その人に適した等級や報酬などの「処遇」を決定することができます。

すでに述べたとおり、職務遂行能力を役職や給与などの「処遇」に結びつけるためには、従業員の能力のレベルを明確にすることが必要です。
そしてそれを等級として制度化し、役職などの序列を決め、報酬が決まります。この「等級制度」は人事評価制度の根幹であり、従業員それぞれの企業への貢献度を視覚化し、公平に判断するためのものになります。

(2)従業員の能力開発促進(人材育成)

人事評価を適切に制度化し運用することで、従業員の能力やその仕事ぶりから課題を視覚化し、客観的に評価し、その評価内容を従業員本人にフィードバックすることでさらに能力を成長させることができます。

  • 従業員の能力や会社への貢献度を測り、等級化する
  • 等級化された制度を元に、報酬や役職を決める

などの人事評価制度へ至る道筋が健全に取り決められ運用されていることで、従業員は「認められている」「期待されている」という満足感を持つことができ、「さらに積極的に会社に貢献しよう」とモチベーションを上げることができるでしょう。

(3)会社の業績向上(課題の解決と成長)

従業員一人ひとりが適切に評価されることで、自分の問題や何が評価されているのか、今後何をすればよいのかという課題がはっきりし、成長に向けての行動が起こしやすくなります。また人事評価の基準を従業員全員で共有することで評価への公平感も出るため、モチベーションもアップします。
その結果、会社全体の業績が向上する可能性が高まります。

3. 人事評価制度の3つの基準と用い方

多くの日本企業における人事評価制度では、従業員の評価はおおむね以下の3つの基準で行われています。

(1)能力評価(職務遂行能力や、スキルなど「能力」)
(2)情意評価(従業員の生活態度や仕事への取り組む「姿勢」)
(3)業績評価(目標達成度や企業の業績への貢献度などの「成果」)

ここではこの3つの基準と、それぞれの評価をどのようにバランスよく運用すべきかについて述べていきます。

3-1. 3つの基準 

(1)能力評価

仕事経験や教育訓練をとおし、従業員個人にストックされた「職務遂行能力」を評価します。仕事に取り組むことで積み上げられた経験値への評価ともいえます。
能力評価は、一般的に年1回行われます。評価の結果は等級や給与に反映される割合が大きくなります(ただし、従業員の場合。役職がつくと職能よりも職務で給与が決定される割合が増える)。

(2)情意評価

仕事に対して取り組む姿勢、出勤など勤務態度を対象にした、ストック型の能力に対する評価です。
勤怠については評価がしやすいものの、「仕事への取り組み方」「勤務態度」などは数値化することが難しい評価対象となります。
情意評価は半年に1度~年1回行われることが多いようです。

(3)業績評価

一定期間に、どのくらい企業に貢献したかを表す「顕在的貢献度」が対象の評価です。
こちらは上記2つの「ストック」すなわち蓄積された能力に対する評価ではなく、「フロー」つまり、期間を区切り、その間に限って、個々の従業員(またはチームや所属部署単位で)がどの程度実績や成果を上げているかが評価対象となります。
金額など数字で結果が明確に出るため、客観性が高いとされています。
業績評価は半年に1度~年1回行われることが多いですが、週ごと、月ごと、3か月ごとで達成度を見る企業もあり、それぞれに異なります。

3-2. それぞれの評価のメリット・デメリットと効果的な用い方

上記の3つの評価は、それぞれにメリットとデメリットがあります。また各評価を用いることで期待される効果が異なります。

(1)能力評価のメリット・デメリット

【メリット】
能力評価は業績評価=成果主義のため、成果が数字で表され、客観性があります。
例えば、一般的に欧米は成果主義だとされており、日本でも近年は成果主義に応じた評価(業績評価)を大きな割合で用いる企業が増えました。短期間での業績の向上を目的とする場合には業績評価は有効だとされています。

【デメリット】
成果主義に偏ると、成果が出せない従業員のモチベーションが低下し、業務効率が下がるおそれが出てきます。

(2)情意評価のメリット・デメリット

【メリット】
情意評価は業績評価に比べると数字などで表しにくく、その分客観性は低くなります。

【デメリット】
中長期的な視点で考えると、情意評価を取り入れることで従業員の仕事への熱意と企業への愛着を高めます。

(3)能力評価のメリット・デメリット

【メリット】
能力評価は、人材育成という面で非常に効果的です。スキルマップなどを用いることで客観的な評価も可能になり、能力による評価基準を公開し企業全体で共有することで不公平感もなくなり従業員全体のモチベーションもアップします。

【デメリット】
能力を評価される対象スキルやかかわる仕事のみに集中し、業務全体に対してのモチベーションが薄くなってしまう可能性があります。

(4)3つの評価を効果的に用いるには「バランス」が重要

これら3つの評価における構成要素をどういう配分にして、実際の評価を行うかが大切です。ほとんどの企業では「能力」「姿勢」「評価」を組み合わせた評価体系を作り上げています。
なぜなら、どれかの評価に偏った場合、上記例のような弊害が出てくるからです。

仮に「成果」だけを評価対象にしているとします。従業員2人がほとんど同じ能力と姿勢をもっていたとしても、置かれた環境は全く同じにはなりません。職場環境、人間関係などさまざまな条件によって「成果」は異なって発現するでしょう。
また、例えば評価制度の見えづらい(数字の出にくい)部署まで成果のみで評価するとなると、その部署の従業員は全員が低い評価しかされないことになってしまいます。その結果、労働へのモチベーションが低くなり、業務効率が下がる遠因になりかねません。
逆も然りで、「能力」「姿勢」だけを中心にして評価を行った場合、「成果」が重視されなくなり、結果的に企業業績が悪化することに繋がります。
つまり、この3つはどれが欠けてもバランスのとれた評価ができなくなるということです。

企業の風土や業種、従業員の構成によってもこれらの用い方、配分バランスは異なるでしょう。
自社に合った効果的な評価の用い方を、シミュレーションを行い、実際に運用し、フィードバックを適切に行いながら検討します。そしてこれらのデータから、最適な評価基準と制度を構築することが必要です。

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4. 人事評価の具体的な方法

この章では、具体的な評価の方法を見ていきましょう。

4-1. 評価主体と評価段階・評価方法

【評価段階・評価主体・評価方法】

評価段階

評価主体

評価方法

能力評価

業績評価

一次評価

直属上司

絶対評価

相対評価

二次評価

部門長

相対評価

相対評価

最終調整

人事部門

相対評価

相対評価

(引用元:『新しい人事労務管理』佐藤博樹ほか著,有斐閣アルマ,p81

例えば能力の評価において、直属の上司が行う一次評価は、その従業員がどの程度スキルとレベルをもっているかを「絶対評価」で評価します。スキルマップや職能管理シートなどで評点をつけて判断する場合が多いでしょう。
一方、その後に部門長と人事部門が評価を行う場合、他の従業員との比較も用いた「相対評価」で調整が行われます。最終的には全ての評価結果に基づいて、企業内での分布を人事部門が調整します。

業績評価は、一次から最終まで相対評価となります。これは成果が一定の目標を超えることは絶対評価となりますが、同じ目標値を達成した者が多数いた場合、「競争の原理」によってランク付けされるためです。

4-2. その他の評価方法4

(1)コンピテンシー評価

上記3つの評価は「ストック(蓄積される能力や姿勢、継続度合い)」と「フロー(一定期間における成果)」に分かれていましたが、コンピテンシー評価は「プロセス(行動過程)」も評価対象とします。ある行動(プロセス)によってどのような成果が得られたのかを客観的に評価するための制度です。

【メリット】

  • 上司との相性など人間関係における環境の差異や男女の性差を盛り込める
  • 行動の特性を分析し、一人ひとりの長所とともに短所を明確にし、指導やコーチングへ利用して人材育成の足がかりにできる
  • 優秀な従業員のプロセスにおける特性を分析し、それに基づいた評価方法をつくることで新たな人材評価の指標が作れ、ほかの従業員にもそれを周知させ利用でき、ひいては業績向上につなげられる。

【デメリット】

  • あらかじめ提示された正しいプロセスを踏まないと、期待どおりの効果は得られない。

(2)目標管理制度(MBO)

ある目標をその従業員の能力や等級に応じて設定し、一定の期間で目標をクリアすることで評価が与えられる方法です。目標の設定は、直属の上司と相談のうえ、従業員自ら決定し業務を進めます。
元々モチベーションアップのためにはマイルストーンを設定すること(短期的な目標を定めること)は効果的とされており、この方法の応用ともいえそうです。

【メリット】

  • 目標管理制度は達成感が得られやすく、またやるべきことや取り組む期間が具体的で明確であり、従業員自身の責任感や課題の発見にも役立つ。
  • 結果が明確なため、評価に反映しやすい。
  • 最初は短期間にリスクなく達成できるものから始め、従業員の能力に応じて徐々に期間や内容、責任範囲を広げていくことで、リスク管理と人材育成につながる。

【デメリット】

  • 指示が無いと動けない従業員を生み出す可能性がある。
  • 目標を達成するために、わざと目標値を低く設定するおそれがある(成長が望めない)。
  • 個人目標に固執し、その目標以外の業務は手を抜くようになる場合がある。

(3)360度評価(周囲評価、多面評価)

直属の上司や部門長、人事部門と、これまでは関わる部門や部署に直接関連する上司(にあたる役職)が従業員を評価してきました。
これに対して、ひとりの対象者について部門関わらず複数の人がさまざまな観点で評価を行う方法となります。
なお360度評価は、どちらかというと人事評価(等級や報酬)に直結するものではなく、本人に直接その評価をフィードバックし、改善や成長を促すものとして使われることが多いようです。

【メリット】

  • 多くの人の目で判断することで、評価の公平性が高まり、評価自体への従業員からの信頼度が上がる。
  • 多数からの意見が得られるため意見の偏りがなくなりやすく、従業員は得られた評価に納得できる。

【デメリット】

  • 人事評価に適さない者(「他者を評価する」ことに慣れていない者や意図的に評価を偏らせる者)が評価する側になった場合、適切で公平な評価にならない場合がある。
  • 評価という業務が増えることで通常業務を圧迫し業務効率が下がるおそれがある。
  • 誰が評価したのかが分かる場合、また評価の方法に問題がある場合、企業や部署、職場全体の雰囲気や人間関係の悪化を招くおそれがある。

(4)ノーレイティング

ノーレイティングは「従業員のランク付け(レイティング)を行わない」、近年欧米を中心に広まった新しい人事評価制度です。
ノーレイティングでは従来の評価のように年度単位、期末ごとなどの評価は行いません。

ノーレイティングは従業員一人ひとりにマネージャーがつき、対面でマネジメントと育成を行います。従来の等級制度では同じ等級に多くの従業員がいるため、ひとまとめに同じランクで扱われる可能性があります。このため個性などが表に出しにくく成長が阻害されるおそれがあるとも考えられます。また評価が実際に給与などに反映されるスピードも遅くなります。
新しい考え方に柔軟に対応できる、例えばベンチャー企業やグローバルな視点を持ち変化を続けている企業には向いているといえるでしょう。

【メリット】

  • 企業を取り巻く環境の変化に柔軟に、評価制度自体も迅速に対応できる。(そのため従業員個人単位で目標を立て、それを企業の目標につなげていく)
  • 個人を起点としているため、従業員一人ひとりの意識改革ができ、指示待ちではなく自ら業績を上げるために何をすべきか、評価につながる行動を考えられるよう育っていく。
  • 上司と部下で頻繁に対話が発生するため、リアルタイムで部下を評価でき、時代や環境、社会情勢の変化に柔軟に対応して評価制度そのものも必要に応じて変化させられる。

【デメリット】

  • 導入事例が日本ではまだ少なく、合う企業と合わない企業がある。合わない企業が無理に導入した場合、実績に必ずつながるといえない。
  • 職場における社員同士のコミュニケーションが十分にとれる環境づくりと、上司や部下、チーム内メンバー同士の信頼関係の構築が必要。ここがしっかりできていない組織の場合はノーレイティングを導入してもうまく機能しない。
  • マネジメント担当者の負担が大きい。

5. 人事評価制度を導入する際の問題点と注意点

人事評価制度を新たに導入する、またはこれまでの制度から変更することになった場合、起こり得る問題と注意点にはどんなものがあるのでしょうか。ここでは問題が起こる前に心得ておくべき事柄について説明します。

5-1. 代表的な6つの「評価エラー」に注意する

(1)「ハロー効果」による評価エラー

ハロー効果とは対象物のもつある特徴に影響され、本来評価すべき特徴へ影響を与えてしまうことをいいます。社会心理学の専門用語で、認知バイアスのひとつです。第一印象でその人物のことをすべて理解できたような気分になる、決めつけてしまうことと似ています。
例えば、有名大学出身であるというだけでその人が人格者だと考えたり、仕事ができると思い込んだ場合、それはハロー効果が起きていると考えられます。

(2)「寛大化傾向」・「中央化傾向」・「酷評化傾向」が招く評価エラー

寛大化傾向は、評価者が評価する対象へ気遣いをしたり、自分の評価能力に自信が無かったりする場合に評価が甘くなることをいいます。例えばほとんどの評価が上位のポイントになってしまうと評価に差が付きづらくなり公平な評価といえなくなります。嫌われたくない、職場の雰囲気を悪くしたくないという心理が働く際に起きやすくなります。

一方、中央化傾向は評価を「普通」に集中させてしまうことであり、原因としては寛大化傾向と同じように人間関係の悪化を避けるために行っている場合があります。ほかには、単純にきちんと評価対象をチェックしていない、面倒がって適当に評価している場合もあります。

酷評化傾向は寛大化傾向の逆で、ほとんどの評価が真ん中より下位に集中してしまっているケースです。評価者の性格(完璧主義者である、こだわりが強いなど)により、酷評化は起きやすいといわれます。また、自分に絶対的な自信をもっている人、トップとして成功体験のある人も酷評化傾向が出やすいとされます。

(3)「論理誤差」が引き起こす評価エラー

論理誤差は評価者が評価する対象を、推測や憶測で評価してしまうエラーです。客観的な事実や情報、それらの確認と分析を行わずに対象者を自分の思い込みで決めつけてしまいます。
例えば、「血液型がA型だから几帳面で神経質な人だろう」というのも論理誤差による評価エラーの一例です。

(4)「対比誤差」が引き起こす評価エラー

対比誤差は相対評価と言葉が似ていますが、人事評価制度における相対評価のように全体の中でランクづけされるものではなく、対象者2人を比較して片方を上位、片方を下位に評価してしまうことです。全体で俯瞰し制度の中で評価されたものではないので、実際のその人の能力から大きくかけ離れた評価を下してしまうおそれがあります。

例えば、先に話した部下Aがたまたま上司の好きな話題に詳しく話が盛り上がったとします。後から話した部下Bが同じ話題に詳しくなく話が弾まなかったとき、「Aは話し上手だから営業向き、Bは話下手だからバックヤード向き」と決めつけると、これは対比誤差による評価エラーの可能性があります。実際はAは話が苦手かもしれませんし、Bは論理的に話を組み立てて営業トークが得意かもしれません。

このほかにも評価エラーを引き起こす要因はありますが、いずれも重要なのは「評価される側も評価する側も納得のできる、公平で客観的な制度のもと、私情をできるだけまじえずに評価すること」といえるでしょう。

5-2. 評価者には必要な「適正」があるか確認する

(1)客観的な評価ができる人が行う

すでに述べたとおり、例えば評価者が偏見を持っていたり思い込みが激しかったりする場合、あるいは自分の意見やものさしを他者におしつける者である場合、評価エラーが起きやすくなります。
評価をする側に立つ者はこの点をふまえ、私情を挟まず、企業の業績アップや社員全員のモチベーションアップのために人事評価を行っていることを認識して評価ができる人でなければなりません。

(2)直属の上司は必ず評価する

通常の評価でもそれ以外の評価(コンピテンシー、360度など)でも、直属の上司は必ず評価する必要があります。何故なら、現場において最も近くで評価対象となる従業員を見ているからです。
評価制度は、評価される従業員も納得して受け入れられるものでなければなりません。まったく自分の働きぶりを見ていない人ばかりが評価しているとなれば到底納得はできないでしょう。このため、多人数で行う評価方法を用いる場合でも必ず直属の上司はメンバーに入っていることが重要です。

5-3. 自社に最適な人事評価制度を用いる

例えば同業他社が成果型評価、能力主義をメインにして会社の業績を上げたからといって、自分の企業でもそれが適しているとは限りません。
自社に最適な人事評価制度を用いるためには、自社の特徴や風土をつかみ、運用を始めてからも意見聴取とフィードバックを重ねてより良い制度をつくっていく心構えが必要です。

6. 人事評価制度の設計と導入の6つの手順

ここでは人事評価制度の設計と導入方法について段階を踏んで伝えます。

6-1. 評価制度の方針と評価におけるバランスを決める

評価項目は、3章で述べた3つの評価を軸にします。

  • 能力
  • 情意
  • 成果

これらのどの部分に比重を置くか、バランスを決めます。一般的には能力と情意はおもに絶対評価で、成果は相対評価で行います。

また企業の経営理念や風土、職種ならではの特性などを含めて、組織課題を洗い出し、その課題解決も目的として評価の配分を決定します。

6-2. 評価対象の決定

従業員のどのような項目に対して評価するのか、評価対象を決定します。すでに述べたように「能力」「姿勢」「成果」「行動プロセス」など、さまざまな評価対象があります。

  • 能力(職務遂行能力のほか、スキルや専門的な資格など)
  • 姿勢(まじめさ、勤勉さなど)
  • 成果(売上への貢献度、目標達成度合いなど)
  • 行動プロセス(成果をもたらす行動パターンを踏襲できているかどうか)

6-3. 評価段階と基準、処遇の策定

4章冒頭の表を参考に評価段階と担当者をさらに細かく取り決めます。
また等級や各評価ごとにつける評価のレンジを決め、絶対評価の場合はどこまでできればどのレベルになるのか、可能な限り細かい基準も取り決めておきます。
これに紐づけて、処遇(報酬)をあてはめていきます。 

6-4. 従業員への周知と情報共有

従業員全体に新しい人事評価制度が適用されることを周知させます。
評価に対応して紐づけられる等級、給与などをすべて情報公開し共有する企業もあれば、おおまかな区切りのみ公開する場合、職能などに関わる部分(スキルシートなど)のみ公開する場合があります。これは企業ごとの方針や情報保護の観点によるため、自社の風土や事業状況に合うかを考え取り入れましょう。

6-5. 評価制度のシミュレーションと実際の導入

実際に従業員に対し、まずは予備導入としてシミュレーションを行います。評価対象となる従業員はなるべく様々なレベル、職種などばらけるように選抜し、どの人物においても評価制度が適用でき、上司など評価する立場の人物たちがエラーを最小限に抑えて客観的に、公平に評価できるかどうかを見定めます。問題がある場合はフィードバックし修正します。
またシミュレーション対象となった従業員からも評価制度について意見を汲み取り、有効な意見はできる範囲で反映させるようにします。
さらに、シミュレーションに関わらなかった者のうち、現場マネージャーなどからも意見をもらい、項目設定や評価の点数などが現実と合っているかヒアリングします。
最終的に人事部門と経営陣で調整し、導入決定となります。 

6-6. 導入結果を精査フィードバックを繰り返す

実際に導入された後も定期的に見直しを行い、常に新しく実情に合ったものにアップデートしていくことが理想的です。細かい修正は随時行い、大きな改変はスパンを決めて行います。

 

7. まとめ

この記事では人事評価について具体的な評価方法や評価する対象、導入と運用の仕方について見てきました。

  • 人事評価制度は等級や報酬など従業員の「処遇」と深く連動しておりどちらがおろそかになっても客観的で公正な評価制度は整えられない。
  • 人事評価には「能力評価(職務遂行能力や、スキルなど「能力」)」「情意評価(従業員の生活態度や仕事への取り組む「姿勢」)」「業績評価(目標達成度や企業の業績への貢献度などの「成果」)」の3つの基準がある。
  • 人事評価を行う際には評価を行う立場が評価エラーを起こさないよう注意が必要である。そのためいくつかの評価方法を組み合わせて行うことが公平性のためにも推奨される。
  • 人事評価制度の導入は現場の意見をくみ上げながら調整する。

人事評価制度を自社に合った形に作り上げ導入することは様々なコストや労力、時間がかかります。とはいえ人事評価制度は企業の業績向上、従業員の育成、経営理念の表明など企業の根幹に深くかかわるものです。この記事を従業員が納得する、適正な人事評価制度の設計と運用の参考にしていただければ幸いです。

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