人事考課の意味とは?目的・効果・やり方について解説!

多くの企業で導入されているのが「人事考課」という制度です。

人事考課は、適切に実施すれば、企業にとってさまざまなメリットがあります。

しかし、いくつか気を付けるべきポイントもあるため、実施前にきちんと確認しておくことが肝心です。

そこで、この記事では人事考課の意味や実施する目的、期待できる効果や方法について網羅的に解説します。

1.そもそも人事考課とは?

そもそも人事考課とはどのようなものなのか、概要を見ていきましょう。

・人事考課の意味

人事考課とは、さまざまな判断材料をもとに、従業員を一定の基準で公平に査定し、評価する制度を指します。査定結果をもとにして、従業員への適切な処遇を決定する仕組みです。

人事考課の判断材料としては、主に従業員のスキルや業務実績、貢献度や職務態度などが挙げられ、これらを個人の主観を交えず適切に査定することが求められます。

査定結果をもとに、従業員の給与・昇給・配置を決定するなど、人事に反映することが一般的です。

人事考課の頻度は、企業によっても異なりますが、おおむね半期に1回、1年に1回などのペースで実施されるケースが多いでしょう。

従業員の処遇や配置を決定する人事考課は、組織にとって非常に重要なものだとされています。

・人事考課における3つの観点

人事考課では、評価項目や評価基準を定めるにあたり、「業績考課」「能力考課」「情意考課」という3つの観点が重要となります。

1つ目の「業績考課」とは、従業員が出した成果や業績に関する観点です。

一般的には、会社への貢献度や目標に対する達成率を評価します。その際、業績を上げるための過程は加味されません。

売上額や貢献度など、あくまでも数字をベースにした客観的な査定を行います。プロセスは考慮されず、結果のみを評価に反映させることが特徴です。

そのため、従業員に十分なスキルが備わっているにもかかわらず、社会情勢などの影響で思うような業績を上げられなかった場合、査定が低くなる可能性もあるでしょう。

このような不当な査定となることを防ぐため、ほかの2つの観点が有効活用されます。

なお、業務評価を補完するものとして、「プロセス評価」という手法があります。

これは、結果までのプロセスを評価するものです。プロセス評価を取り入れることによって、より精度の高い評価を実現できます。場合によっては、業務評価とプロセス評価を組み合わせることも良いでしょう。

2つ目の「能力考課」は、従業員の知識や能力を正当に評価するための観点をいいます。

能力考課では、主に業務を行う中で身に付けた能力を評価します。

例えば、まったく同じ成績の従業員がいる場合に、その結果に至るまでの過程がより難しかった人に対し、高い能力考課を与えるというものです。

具体的には、職務知識・企画推進力・判断力、熟練技能・判断能力・指導力などのスキルが評価対象となります。

周りの人へのフォローやチーム全体の売上に貢献するなど、業績の数字に反映されないものの、組織にとって欠かせないスキルは少なくありません。

能力考課はこうした表面化されにくいスキルを持つ従業員を公平に査定するため、非常に重要な観点の一つです。

3つ目の「情意考課」は、態度考課とも呼ばれるものです。

成果を出すまでの過程における、従業員の態度や仕事への姿勢を評価するための観点を指します。

情意・態度は、主に「規律性」「積極性」「責任性」「協調性」などの性質によって評価されます。

規律性は、ルールや指示に従う性質、積極性は現状に満足せず向上心を持つ性質のことです。責任性は、与えられた仕事を最後まで全うする性質、協調性はチームで協力して共同業務にあたる性質のことをいいます。

ほかの2つの観点では、成果や能力が評価対象ですが、経験や知識が浅い人材は高評価につながりにくいという側面があります。

このような場合に、情意考課によって今後の成長が期待できる従業員を評価できる仕組みです。

ただ、情意考課では従業員の内面的な性質が評価対象となるため、根拠を示すことが難しい傾向にあります。これは、評価を行う人物の主観が反映されやすく、不公平につながりやすいためです。

適切な評価を行うには、複数人からの意見を集めるなどの工夫が必要になるでしょう。

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2.人事考課と人事評価の違いについて

人事考課と似た言葉に「人事評価」というものがあります。

両者は、ほぼ同義語として捉えられるケースも多く、実際に同じ意味合いで使用されることもあるでしょう。ただし、厳密にいうと以下のような違いがあります。

  • 人事考課:従業員に対する処遇の査定や決定のためのもの

  • 人事評価:業務・業績についての良し悪しを判断するためのもの

つまり、人事考課と比較した場合、人事評価はより大きな概念を表すものといえるでしょう。

3.人事考課を実施する目的

人事考課制度を実施する主な目的には、どのようなものがあるでしょうか。ここでは、5つの目的について解説します。

・適材適所の配置

人事考課によって、従業員の能力をより的確に把握することができます。その結果をもとに、より効果的な配置転換や昇格などの検討材料に活用することが可能です。

・インセンティブ付与

人事考課を行う目的の一つが、従業員へのインセンティブを付加することです。インセンティブとは、従業員の心理的なやる気を生み出す誘因となるものを指し、簡単にいえば「動機づけ、報酬」のこと。

主に金銭などの報酬人事考課を通じて、評価に応じたインセンティブを与えることが可能になります。

・会社と従業員の意識のすり合わせ

人事考課を通じて企業やチームの方針を見直し、それに基づいた目標を設定できます。

これを定期的に実施することにより、企業と従業員が目指すべき方向性をすり合わせることが可能です。

従業員のモチベーション維持

人事考課による明確な評価基準を設定することで、従業員は自分がすべきことをより明確に理解できるようになります。

人材のマネジメントおよび開発

人事考課によって、従業員の成果や能力を適切に管理することが期待できるでしょう。その結果をもとに、個々に必要な教育や研修を用意することができます。

4.人事考課によって得られる効果

人事考課が多くの企業で実践されているのは、多くのメリットを享受できることが理由として挙げられます。人事考課によって得られるメリットには、以下のようなものがあります。

・企業の方針・理念に基づく行動規範を示せる

人事考課の評価基準を従業員に示すことで、企業の方針や理念に基づいて行動するための指針が明確化されます。

企業が従業員に対して求めることを、人事考課という制度を通じて可視化することが可能です。その結果、企業と従業員とが同じ方向を向き、目標を共有できることが期待できます。

・従業員の成長を促せる

人事考課は、主観ではなく客観性が重視される制度です。

具体的な評価基準に基づき、上司・同僚・部下など、さまざまな視点から査定することになります。その結果、個々の従業員における問題点や課題が浮き彫りになり、今後のキャリアに必要なものを可視化することが可能です。

将来のために必要な評価や求められるスキル、目指すべき人物像などのイメージが明確になるでしょう。具体的な目標を設定でき、従業員のさらなる成長を促すことができます。

・従業員の満足度向上につなげられる

従業員のモチベーションを保つうえで、適切な評価は欠かせません。

評価の基準が不明瞭な場合、従業員は何を目的にすればいいのか理解しにくくなります。また、評価されたときにも達成感が得られにくくなってしまうでしょう。

人事考課で明確な基準を設けて公正な評価を実施することで、適切な給与や役職を与えられるようになります。自身の行動や成果がきちんと評価されることは、従業員の満足度向上につながるでしょう。

企業への貢献が認められると、より評価を得るために努力しようという気持ちが生まれるものです。

がんばりが正当に認められる環境をつくることで、従業員のモチベーションの維持や向上が見込めます。

人事考課を適切に実施することは、結果的に企業の利益拡大や存続にもつながるため、従業員の課題を提示しつつ長所を伸ばすことで、企業利益に還元されていくでしょう。

・コミュニケーションの円滑化

人事考課の良い点は、一方的な評価にならないことです。

上司が部下を一方的に評価する制度の場合、主観頼りとなるため適切な評価にならない可能性があります。人事考課では、上司と従業員との面談の場が設けられる仕組みであり、話し合いのもと査定することになります。

お互いの合意のもと査定する仕組みのため、不公平さが軽減されるでしょう。また、面談では上司が従業員のスキルや性質について理解し、そのうえでアドバイスを行うことが求められます。これにより、コミュニケーションの円滑化が見込めるでしょう。

従業員は「自分をきちんと見てくれている」という納得感を得られ、安心して評価を受け入れることができるのです。

定期的な面談と評価の実施によって、「自分の能力を理解してもらえない」「がんばっても誰も見てくれない」というマイナスの心理を排除することができます。

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5.人事考課のやり方と手順

人事考課は、企業と従業員にとってさまざまなメリットをもたらします。

ただ、適切な評価を行うためには、きちんと流れや要点を押さえておくことが必要です。ここでは、一般的な人事考課の方法と手順を4つのステップに分けて見ていきましょう。

ステップ1:企業基準の決定

人事考課の導入にあたり、まず考えなければならないのが「企業基準の策定」です。

人事考課のサンプルケースは、たくさんありますが、それらを丸ごと参考にしてしまうと、本来の人事考課の効果が得られにくいでしょう。

なぜなら、自社の現状を把握しそれを踏まえて企業基準を策定することが必要だからです。企業独自の基準を設けることで、適切な評価および人材育成につなげられます。

企業基準は、まず企業理念や戦略などに基づいた評価項目を策定しましょう。そのうえで、重視する点や平均などをもとに基準値を定める必要があります。

特に、従業員に階級を設ける場合は、評価者の主観が影響しないように基準値を明確にしておくことが重要です。

例えば、5段階評価とする場合、どのレベルに達していれば「5」とするのかを判断するための基準が必要となります。

の基準が不明瞭だと、査定にムラが生じてしまいかねません。評価者が迷わず客観的に判定できるよう、評価項目・基準値・評価方法を明らかにしておきましょう。

ステップ2:目標の設定

企業基準が決定したあとは、目標設定を行います。

上司と部下とで話し合いを行い、目標を設定しましょう。その際、目標設定は現実的なものにすることが重要です。なぜなら、あまりにも現実離れした目標を掲げてしまうと、従業員のモチベーションが下がってしまう可能性があるからです。

企業・部署・従業員の意向を加味したうえで、実現できる範囲の目標を設定しましょう。ただし、苦労せずに達成できてしまう簡単な目標設定にすることは避けたほうが無難です。

「努力すれば達成可能」というレベルの目標を設定することで、モチベーションを高めることができます。

そのためには、過去の業績や従業員の資質などを上司が的確に判断したうえで、目標設定ができるよう導くことが必要です。

従業員本人が納得して目標設定できるようにすることが理想的でしょう。取り組むべきことが明確にわかり、数値で表せる目標を立てることが大切です。

ステップ3:企業基準による評価

設定した企業基準に基づき、従業員の評価を行います。

その際、できる限り客観的な観点を持って評価することが重要です。個人的な性格の相性や交流などの要素から、主観や先入観が入ってしまうと公平な評価ができません。

上司が部下を評価する際、期待するあまり厳しく評価したくなることもあるでしょう。しかし、人事考課ではあくまでも企業基準と客観的な事実を照らし合わせた評価が求められます。

できる限りフラットな視点で、公平に評価することを心がけましょう。

ステップ4:従業員へのフィードバッグ

人事考課は、「面談し昇給や昇格が決定して終わり」というわけではありません。

評価へのフォローを行うことが、人事考課の重要な役割なのです。評価者となる上司は、部下との面談を行い、評価結果とともにその具体的な根拠を示す必要があります。

評価が低く改善すべき点だけでなく、評価が高く伸ばすべき点を理由とともに説明しましょう。悪い点のみを伝えると、どうしてもマイナスのイメージが強く従業員のモチベーションが低下しやすくなります。

良い点と悪い点の両方を伝えることで従業員のモチベーションが向上し、育成しやすくなるのです。

なお、評価者は低評価になったことを責めたり追求したりするのではなく、あくまでも自主的に改善点を見いだせるように導く必要があります。

反省点を生かして「次にどうつなげればいいのか」「そのためには何をすべきか」など、自発的に考えられるように誘導できる状態を目指しましょう。

長所と短所を可視化し、従業員の成長につながる効果的なフィードバックを行うことが重要となります。

6.人事考課を導入する際の注意点

人事考課において、注意しなければならないのが「人事考課エラー」です。

人事考課は、定めた基準をベースに、機械的に評価することが前提ですが、人が人を評価する制度のため、どうしてもヒューマンエラーが発生する可能性があります。

このような意識的・無意識的を問わず発生し得る評価の誤差が「人事考課エラー」です。

適切な評価を実現させるためには、人事考課エラーを防ぐことが重要となります。評価の精度を高めるためにも、注意すべき人事考課エラーの種類と内容をチェックしていきましょう。

・ハロー効果によるエラー

ハローは、英語で「halo」と表記され、後光・光輪などの意味です。部下の持つ性質の中で、目立ちやすい優れた部分が強く印象に残り、ほかの評価ポイントも高くなってしまうエラーを指します。

・先入観によるエラー

学歴・年齢・性別といったスペックに関する先入観から、評価を行った場合に生じるエラーです。例えば、「難関大学の出身者だから仕事もできる」「若手社員だから知識が浅い」というような本人の資質と関係のない先入観によるエラーを指します。

・帰属によるエラー

従業員の行動以外の外的要因を必要以上に大きく捉え、それを評価に結びつけた場合に発生するエラーです。

例えば、従業員本人の努力や資質による成果でも、景気など環境の良さが理由だとして、否定的な見方をすることを指します。その結果、不適切な評価につながってしまう可能性があるため、注意が必要です。

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まとめ:適切な人事考課で企業の発展につなげよう

人事考課は、多くの企業が実践している制度です。

実施することで企業だけでなく、従業員にとっても多くのメリットがあります。

適切な人事考課を実践できれば、「従業員のモチベーション維持」「業務効率」「生産性の向上」といったことにもつなげられるでしょう。

その結果、企業のさらなる発展も見込めます。実践における基本的な流れや注意点を把握し、適切な人事考課を行いましょう。