
自身のキャリア形成やスキルアップをするうえで、管理職への昇進は重要なきっかけです。
しかし、管理職への打診を受けた際や、いざ管理職へ昇進した際に「自分にはマネジメントはできない」と思ってしまう方は多くいます。
管理職になると、仕事の幅や責任の範囲が広がるため、今までにはなかった悩みも出てくるでしょう。
そこで本記事では、マネジメントができないと感じる自分と決別することを目標に、管理職が陥りがちなお悩みとその解決方法をご紹介します。
1.マネジメントとは
はじめに、マネジメントの定義と管理職の役割について、あらためて確認しましょう。
マネジメントの定義
本来「マネジメント(management)」とは、「経営」や「管理」(またはそれらの方法)などと直訳される言葉です。
ビジネスシーンでは、組織としての成果を上げるために、経営資源であるヒト・モノ・カネを効率的に活用することを意味します。
マネジメントの概念は、「マネジメントの父」とも呼ばれるアメリカの経営学者、P.F.ドラッカーが提唱したことで生まれたといわれています。
1973年に彼が刊行した著書『マネジメント』では、マネジメントは「組織に成果を上げさせるための道具・機能・機関」であり、マネージャーは「組織の成果に責任を持つ人物」であると定義されています。
マネジメントは、マネージャーが一方的に指示したり・管理したりすることだと誤解されがちですが、ドラッカーの定義するマネジメントとは、メンバーの力を引き出し、協力して成果を上げることです。
「マネジメントができない」という悩みを解決するためには、まずはマネジメントの意味を正しく理解することが重要です。
参考:マネジメント【エッセンシャル版】│著作詳細│ドラッカー日本公式サイト – ダイヤモンド社
管理職の役割
管理職(マネージャー)の基本的な役割には、次の5つが挙げられます。
【1】目標の設定
組織が果たすべき目標を明確にする
【2】組織の形成と仕事の分配
成果をあげるための体制づくりをする
【3】積極的なコミュニケーションによる動機付け
部下のモチベーションを向上させる
【4】評価と分析
部下の仕事ぶりと成果を評価・分析し改善へつなげる
【5】人材の育成
自分自身が成長したうえで部下を育成する
これらの役割をすべて網羅できればベストですが、何より大切なのは「組織としての成果を上げるためにはどうしたら良いか」という視点を忘れないことです。
マネジメント業務をこなすこと自体が目的になってしまうと、部下も目的を見失い、組織としての成果は挙がらなくなってしまいます。
参考:専門家に学ぶ「マネジメント」の本当の定義。優秀な人ほど部下に嫌われる理由とは?|新R25 – シゴトも人生も、もっと楽しもう。
2.マネジメントができない!管理職の5大お悩み
「マネジメントがうまくできない……」と悩んでしまうのには、いくつかのパターンが考えられます。以下では、管理職の代表的な5つの悩みについて見ていきましょう。
誰にも相談できない孤独感
管理職は、責任範囲が広がりプレッシャーの度合いが大きくなります。
一方で、立場が上がっていけばいくほど、「自分がリーダーとして手本とならなければ」と周りに弱みを見せにくくなるでしょう。
また、以前は先輩や上司が相談に乗ってくれたかもしれませんが、管理職の自分へアドバイスできる人となると、社内では限られてきます。
実際に、株式会社ビズヒッツが中間管理職経験者238人を対象に実施した「中間管理職がつらいと思う瞬間ランキング」のアンケート調査によると、中間管理職の「仕事の悩みを相談する相手」について「いない」と回答した方は全体の35.3%でした。
誰にも相談できず、ちょっとした愚痴や不満をこぼすことさえためらってしまう……。
管理職は、そのような状況でも重要な判断をたくさんしなければならないため、プレッシャーを抱えながら孤独を感じやすくなります。
参考:【中間管理職がつらいと思う瞬間ランキング】238人アンケート調査
部下の育成が難しい
部下と衝突してしまったり、部下がなかなか育たないように感じられたりして、部下の育成に苦手意識を持つ管理職の方も少なくありません。
部下の能力やスキル、モチベーションなどはさまざまで、どのように育成するのが正解なのか悩む場面も多いのではないでしょうか。
また、自身が優秀なプレイヤーである方は「自分が成果をあげること」と「部下に成果をあげてもらうことを同一視してしまい、「なぜ(自分ができたように)部下はできないのだろうか?」と思ってしまうケースもあります。
上司と部下の板挟みがつらい
管理職という立場上、上司(上層部など)と部下との板挟みになってしまいます。
前述した株式会社ビズヒッツによるアンケート調査では、「中間管理職がツライと感じる瞬間」の1位は「板挟みになるとき」でした。
管理職は、上層部からの期待に答えなければならない一方で、部下の意見も尊重しなければなりません。
仮に上層部からの指示が理不尽なものであれば、部下からは不満が出てしまうため、間を取り持つ必要がでてきます。
上層部の意図と部下の気持ちの両方が理解できる管理職だからこそ、ストレスが溜まってしまうでしょう。
参考:【中間管理職がつらいと思う瞬間ランキング】238人アンケート調査
業務量が増えて時間がない
多くのケースでは、管理職になったからといって、メンバーのマネジメントだけに専念できるわけではありません。
学校法人産業能率大学が公表した「第5回上場企業の課長に関する実態調査」の結果によると、98.5%の課長がプレイヤーとマネージャーを兼務している「プレイングマネージャー」であることがわかりました。
また、課長として最も多く時間を割いている業務の1位は「部下とのコミュニケーション」であり、自分の業務を抱えながらも部下とのコミュニケーションを積極的に行うなど、非常に忙しい状況が見て取れます。
参考:第5回上場企業の課長に関する実態調査|学校法人産業能率大学
マネジメントではなく現場仕事がしたい
管理職になったものの、現場でプレイヤーに専念していたときのほうが、楽しさややりがいを感じていたと思ってしまうケースもあるかもしれません。
まだ管理職としての経験が浅く「食わず嫌い」で現場仕事のほうが良かったと思ってしまうパターンもあれば、ある程度管理職としての経験は積んでいるものの魅力を見出だせないというパターンもあるでしょう。
プレイングマネージャーであるなら尚更、現場仕事だけに専念できたらいいのに……などと思ってしまいがちです。
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3.今日からできる解決方法5選
前の章「マネジメントができない!管理職の5大お悩み」を踏まえ、管理職の方が今日からできるお悩みの解決方法を以下の5つご用意しました。
・管理職の孤独感を解消する方法
・部下の育成で押さえるべきポイント
・周囲とのコミュニケーションのとり方
・タスクマネジメントの方法
・マネジメント志向のキャリアのメリット
自分のお悩みに合わせて、解決方法をチェックしていきましょう。
管理職の孤独感を解消する方法
管理職の孤独感を解消するためには、他社の管理職と接点を持つようにしましょう。
もちろん、社内で同じ立場の信頼できる仲間をつくるのも良いですが、近い立場にいるからこそ気軽に相談しにくいというケースは意外にも多いものです。
会社は異なっても、多くの管理職が自分と同じように孤独感を抱えています。お互いに視野を広げて新しい視点を得るためにも、積極的に社外の人との関わりを広げてみてください。
部下の育成で押さえるべきポイント
部下の育成には、次の3つのポイントが欠かせません。
部下との信頼関係の構築
何よりもまず、部下との間に信頼関係を築く必要があります。信頼関係が成り立っていないのにもかかわらず、一方的に指示をしたり目標を押し付けたりしては、部下の育成はできません。
まずは、積極的なコミュニケーションを通して、部下の考えや価値観を理解するところから始めましょう。その際、「自分が部下くらいの頃は、これくらいできたのに」などという考え方は捨ててください。
部下が主体的に動き、能力を発揮しやすくする環境づくり
管理職の役割は、部下を指示に従わせることではなく、部下が主体的に動けるようサポートすることです。部下が「指示待ち」するのが当たり前になってしまうと、いつまでも育成が進まなくなってしまいます。
部下の育成は、最終的には組織としての目標を達成するために必要なものですが、最初は成果よりも、部下の主体性や自主性を評価するようにしましょう。
部下の成長を促すためのフィードバック
フィードバックとは、より良い成果を出せるよう、相手の行動に対して評価を伝えることです。信頼関係を強化し、部下の成長を加速させるためには、定期的なフィードバックが大切です。
フィードバックを行う際は、相手がすぐに行動を起こせたり、改善したりできる内容にしましょう。それにより、部下は自分の役割を再確認でき、モチベーションやパフォーマンスの向上につながることが期待できます。
周囲とのコミュニケーションのとり方
上司と部下の板挟みがつらいと感じる方は、対上司・対部下のコミュニケーションのとり方を意識してみましょう。
上司に対するコミュニケーションのコツ
上層部や経営層の意見は必ずしも正しいとは限りません。部下の気持ちもわかる管理職だからこそ、上司の意見の違和感に気づくことができるはずです。
上司だからといって遠慮し、その違和感を飲み込んでしまうと、あとから部下の不満などに対応しなければならず、大変になるのは管理職である自分です。
イエスマンにならないようにすることが、後々の板挟みストレスを軽減することにつながります。
部下に対するコミュニケーションのコツ
一方、部下に対しては「共感しすぎないこと」がカギとなります。部下の悩みや不満などの相談を受ける機会の多い管理職は、相手に共感しすぎるがゆえに心が疲れてしまうことがあります。
部下の話に耳を傾け、寄り添うことは重要ですが、感情移入しないこともストレス軽減のためには大切です。
また、部下の悩みや不満に客観的なアドバイスをするためにも、共感しすぎないことは有効に働くでしょう。
タスクマネジメントの方法
業務量が増えて時間に追われている方は、タスクマネジメントを実践しましょう。
タスクマネジメントは、以下のステップで進めていきます。
タスクを洗い出す
最初に、現時点でのタスクを具体化・細分化しながらすべて書き出します。
単にタスクを羅列していくだけでなく、プレイヤーとしてのタスクなのか、またはマネージャーとしてのタスクなのかなどジャンル別に大まかに分類しておくことも大切です。
タスクの優先順位をつける
続いて、タスクの優先順位をつけます。緊急度と重要度の2つの軸をベースに、タスクを4つに分類しましょう。
A:緊急かつ重要なもの
B:重要だが緊急度は低いもの
C:緊急だが重要度は低いもの
D:緊急度も重要度も低いもの
これにより、何が最優先事項かが見えやすくなるはずです。
スケジュールにタスクを組み込む
優先順位をもとに、タスクをスケジュールに組み込みます。
管理職の業務は、上層部や部下など外部からの影響で流動的に変化しやすいものです。
そのため、あらかじめスケジュールには余裕を持っておきましょう。
マネジメント志向のキャリアのメリット
自分にはマネジメントができないから管理職は向いていない、だから現場仕事に専念していたい、などと考える方もいるかもしれませんが、管理職に限らず、企業は社員に対して多かれ少なかれマネジメント志向を求める傾向にあります。
マネジメント志向のキャリアのメリットには、仕事の幅が広がりやりがいが増えること、「ポータブルスキル」が身に付くことが挙げられます。
仕事の幅が広がりやりがいが増える
今はまだ、現場仕事のほうがやりがいがあると感じられるかもしれませんが、キャリアを重ねるにつれ、必然的に成長の余白が感じにくくなっていきます。
管理職になれば、身の回りで動く情報のスピードや量、質が大きく変化し、仕事の幅や影響力の範囲が広がります。そのことは、のちに大きなやりがいにつながるでしょう。
ポータブルスキルが身に付く
「ポータブルスキル」とは「業種や職種が変わっても持ち運びできる能力」のことです。
マネジメントスキルはポータブルスキルの一つで、どこでも通用する汎用性の高いスキルといえるでしょう。
従来は、年齢が上がれば上がるほど即戦力となる「専門知識や専門技術」が重視されてきましたが、変化の激しい現代においては、ポータブルスキルの重要性が高まっているのです。
今後、転職をしなければならない状況に陥ることは誰にでもあり得ます。ポータブルスキルが備わっていれば、そうした状況でも柔軟に選択できる選択肢を増やすことにつながります。
参考:昇進を拒む女性ほど気づいていない、いま管理職になることで得られる意外なメリット3つ | PRESIDENT WOMAN Online(プレジデント ウーマン オンライン)
4.まとめ
今回の記事では、管理職が陥りがちなお悩みと、その解決方法などを中心に解説しました。
あらためて、記事の内容について振り返ってみましょう。
・ドラッカーの定義では、マネジメントは「組織に成果を上げさせるための道具・機能・機関」、マネージャーは「組織の成果に責任を持つ人物」である
・管理職の基本的な役割は、以下の5つ
【1】目標の設定
【2】組織の形成と仕事の分配
【3】積極的なコミュニケーションによる動機付け
【4】評価と分析
【5】人材の育成
・管理職の5大お悩みは、以下の5つ
【1】誰にも相談できない孤独感
【2】部下の育成が難しい
【3】上司と部下の板挟みがつらい
【4】業務量が増えて時間がない
【5】マネジメントではなく現場仕事がしたい
・今日からできる解決方法は、以下の5つ
・他社の管理職との接点を持つ
・部下との信頼関係の構築、部下が能力を発揮しやすくする環境づくり、部下の成長を促すためのフィードバックを心がけ、部下の育成を進める
・対上司、対部下のコミュニケーションのとり方を意識する
・タスクマネジメントを実践する
・マネジメント志向のキャリアのメリットを理解する
いかがでしたか?
今回ご紹介した内容を参考に、ぜひ明日から実践してみてくださいね。