
「令和2年度厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年の間に職場でパワハラを経験した人の割合は31.4%でした。約3割の人がパワハラを受けており、非常に身近な問題といえるでしょう。
本記事では、パワハラが起こりやすい職場の特徴やパワハラと心理的安全性の関係、心理的安全性を高める方法などを解説します。
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1.パワハラが起こりやすい職場の特徴
職場内で、肉体的もしくは精神的な苦痛を与える行為がパワーハラスメント(以下、パワハラ)です。
行為によっては、コンプライアンス上の問題に該当するケースもあります。厚生労働省が運営する「あかるい職場応援団」では、以下の3つの条件を満たすものがパワハラと定義されています。
・優越的な関係を背景とした言動
・業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
・労働者の就業環境が害されるもの
そのため、パワハラは上司と部下の間だけで成立するものではありません。例えば、先輩・後輩間や同僚間でも成立します。パワハラは、どのような職場で起こりやすいのでしょうか。
パワハラが起こりやすい職場の特徴
パワハラが起こりやすい職場の特徴は、「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」を参考にすると分かりやすいでしょう。
同報告書では、パワハラを経験したものとパワハラを経験しなかったものの職場を比較しています。両者の回答割合で差が大きかったのが「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」です。
パワハラを経験した人は37.3%、過去3年間にパワハラを経験していない人は15.1%となっています。良好な人間関係を築けない職場は、パワハラが発生しやすい傾向にあるといえるでしょう。
「残業が多い/休暇をとりづらい」も、両者の回答割合の差が大きかった項目の一つです。
パワハラを経験した人は30.7%、過去3年間にパワハラを経験していない人は13.4%となっています。過重労働が常態化していると、従業員に大きなストレスがかかり、その結果立場の強いものが立場の弱いものにパワハラをしてしまうことが推測されます。
また、「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」は、パワハラを経験した人が23.7%、過去3年間にパワハラを経験していない人は7.0%です。
このような環境で働いていると、失敗をした人への風当たりが強くなるため、失敗を隠そうとする従業員も現れます。失敗した人に対する厳しい対応や、失敗を隠そうとする人に対する憤りなどがパワハラを引き起こしてしまう可能性があるといえるでしょう。
ほかにも「従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的に見られる」は、パワハラを経験した人が13.3%、過去3年間にパワハラを経験していない人は3.3%でした。
言動や行動の受け止め方は、人によって大きく異なります。ささいな冗談のつもりでも、パワハラと受け取られることもあれば、励ましと受け取られることもあるのです。
言動や行動の受け止め方に、大きな影響を与えているのは、人間関係といえます。そのため、人間関係が希薄な職場は、同じ言動や行動でもパワハラと受け止められやすい傾向です。
引用:厚生労働省(令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査)
2.職場環境に影響を与える心理的安全性
パワハラは、上司などのキャラクターだけで引き起こされるわけではありません。職場環境も、パワハラの重要な要因としてあげられます。パワハラが起きにくい職場環境を考えるうえで、無視できないキーワードが「心理的安全性」です。
心理的安全性とは、どのような状態を指すのでしょうか。
従業員が自分らしく振る舞える状態
心理的安全性とは、「職場でマイナスに捉えられる可能性のある行動をしても、誰も拒絶したり罰したり邪魔者扱いしたりしないと確信できる状態」を指します。
対人関係上のリスクを気にせず自分らしく振る舞える状態といえるでしょう。例えば、以下のような職場は、心理的安全性が高いといえます。
・上司や先輩の反応を気にせずミスを報告できる
・同僚の冷やかしを心配せず新しいアイデアを表明できる
・わからないことを堂々と質問できる
心理的安全性は、ハーバードビジネススクールで組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念です。
Googleが実施したプロジェクト・アリストテレスで、チームの効果性に影響する重要な5つの因子に取り上げられたことで注目を集めました。
プロジェクト・アリストテレスとは、「効果的なチームを可能にする条件はなにか」を明らかにする取り組みです。
心理的安全性が職場にもたらす影響
一般的に、心理的安全性の高い職場は、生産性も高いと考えられています。
なぜなら、安心してコミュニケーションをとれるため、情報の共有がスムーズとなり新しいアイデアが生まれやすいからです。否定を前提としないため、職場に前向きな空気も生まれ、新しい挑戦にも取り組みやすくなります。
お互いを尊重し合うことで、各従業員が能力を発揮しやすくなる点も見逃せません。他人に遠慮していた従業員も、持っている力を発揮しやすくなるでしょう。
以上の結果、従業員のエンゲージメントも高まります。エンゲージメントとは、会社への愛着や貢献意欲のことです。心理的安全性は、生産性が高く居心地の良い職場を作るため重要といえるでしょう。
3.心理的安全性とパワハラが起きやすい職場の関係
心理的安全性は、パワハラが起こりやすい職場と深い関係があります。具体的に、どのような関係があるのでしょうか。
心理的安全性が低いと4つの不安が増す
心理的安全性が低い職場で働く従業員の多くは、周囲から自分がどのように見られているか気にしています。心理的安全性が高い職場よりも、4つの不安が増してしまうからです。どのような不安が増すのでしょうか。
1. 無知だと思われる不安
周囲から「基本的なこともわからないのか」などと思われることが心配になり、必要な質問や相談を行えなくなります。
2. 無能だと思われる不安
周囲から「仕事ができない」「こんな初歩的なこともできない」などと思われることが心配になり、失敗を報告できなくなったり、自分の弱みを認められなくなったりします。
3. 邪魔をしていると思われる不安
「自分の言動がミーティングの邪魔をしている」「自分の行動がプロジェクトの進行を妨げている」などと思われることが心配になり、積極的に意見を述べたり行動したりする難しくなります。
4. ネガティブだと思われる不安
「あの人はいつも他人を批判している」などと思われることが心配になり、改善策を提案することや問題点を指摘することができなくなります。
このように、4つの不安が増すと自分をより良く見せようとしたり自分の弱みを見せないために攻撃的に振る舞ったりするようになります。なぜなら、「無知・無能・邪魔・ネガティブ」と周囲から思われたくないからです。
心理的安全性が低いとパワハラが起こりやすくなる
心理的安全性が低い職場は、パワハラが起こりやすいといえます。
なぜなら、職場内のコミュニケーションが希薄になり、良好な人間関係を構築できないからです。前述の通り「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」といった職場は、パワハラが起こりやすい傾向があります。
また、良好な人間関係を築けていないと、なにげない言動がパワハラと受け止められることも少なくありません。例えば、上司から厳しい叱責を受けた部下がネガティブだと思われる不安が増して意見ができず、一方的なコミュニケーションとなりパワハラにつながるなどが考えられます。
心理的安全性が低い職場は、「残業が多い/休暇を取りづらい」といった点も大きな特徴です。
なぜなら、定時で帰ろうとしたり休暇を取ろうとしたりすると、「邪魔をしていると思われるのでは?」といった不安がよぎるからです。残業が多く休暇を取れないと、従業員に大きな負担がかかり、社内全体でイライラし始める人が増えてパワハラが起こりやすくなります。
失敗への許容度が低い職場も、注意が必要です。心理的安全性が低い職場は、無能だと思われる不安が増すため、実際の許容度にかかわらず失敗を報告しにくくなります。
失敗の報告が遅れると、より一層問題が大きくなってしまい厳しく叱責するケースが多くなってしまうでしょう。
厳しく叱責することが日常的に発生している職場は、「失敗への許容度が低い」と捉えられてしまいます。良好な人間関係が構築できていない状態で厳しく叱責すると、パワハラと受け取られる可能性があるため、注意が必要です。
4.職場で心理的安全性を高めるために心がけたいこと
パワハラを予防したい場合、職場の心理的安全性を高めることが重要です。
職場の心理的安全性は、どのように高めればよいのでしょうか。ここでは、職場で心理的安全性を高めるために心がけたいことを紹介します。
管理職が心がけたいこと
職場の心理的安全性は、管理職の姿勢から大きな影響を受けます。
例えば、管理職がいつも不機嫌そうに振る舞っている職場は、心理的安全性が低いといえるでしょう。なぜなら、従業員が安心して働けないからです。
そのため、管理職は意識的に行動しなければなりません。先述したエイミー・エドモンソン教授は、管理職が心理的安全性を高める方法として以下の点を挙げています。
・目の前で展開されている会話に集中する、話をするときは相手と目を合わせるなどを心がけて積極的な姿勢を示す
・相手の発言を要約して繰り返す、否定的な表情・姿勢に注意するなどを心がけて理解している姿勢を示す
・部下の努力に対して感謝の言葉を伝える、部下のために時間を割くなどを心がけて1人の人間として相手を受け入れている姿勢を示す
・部下の話を妨げない、方針決定の理由を説明するなどを心がけて意思決定の過程に相手を受け入れている姿勢を示す
・異なる意見がある場合は反論を促す、失敗談を部下に伝えるなどを心がけて強情にならないように意識しつつ自信・信念を持つ
他にも、「言い訳をしない」「間違いを認める」といったことも重要です。
管理職が言い訳をしない姿勢を日ごろから見せていれば、部下も言い訳をしにくくなります。また、管理職が率先して間違いを認めることで、失敗を許容する空気が職場に生まれやすくなるでしょう。
職場内のコミュニケーションで気をつけたいこと
職場の心理的安全性は、職場内の人間関係からも影響を受けます。
管理職が意識的に行動しても、職場内で良好な人間関係を築けないと心理的安全性は高まりません。職場のコミュニケーションで気をつけたいポイントとして以下の点が挙げられます。
一緒に働く従業員をありのまま認める
苦手なことがあっても、感情的な対立があっても、一緒に働く従業員の存在をそのまま認めましょう。
なぜなら、「〇〇だから」「□□だから」などの理由をつけて自分を信頼してくれない人を信頼する人は少ないからです。お互いに無条件で認め合うことは、信頼関係構築の第一歩となります。
お互いに弱みを見せあってサポートし合える関係を構築する
前述の通り、管理職が率先して弱みを見せると部下も弱みを見せやすくなります。
安心して弱みを見せられるようになると、「無知だと思われる不安」「無能だと思われる不安」などの軽減が期待できるでしょう。結果的に、質問や相談、失敗の報告などを行いやすくなります。
建設的な人間関係を構築するためには、重要な取り組みといえるでしょう。
サポートしてくれた人に感謝や称賛の気持ちを伝える
感謝や称賛をすることで、相手のサポートを肯定することができます。「相手の役に立った」「相手に肯定されている」といったことが伝わると、さらに貢献したい気持ちが生まれるでしょう。
積極的に感謝や称賛の気持を伝えることで、お互いにサポートし合う関係が育まれていくのです。感謝や称賛は、職場の心理的安全性を高めるうえで欠かせない取り組みの一つといえます。
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組織づくりで心がけたいこと
職場の心理的安全性は、組織づくりの方法によって変化します。どのような点に気をつけて組織を構築すればよいのでしょうか。
評価基準を明確にする
基本的なポイントとして押さえておきたいのが、評価基準を明確にしておくことです。評価基準がわかりにくいと、「反対意見を述べると評価が下がってしまうのでは」「失敗を報告すると評価が悪くなってしまうのでは」などの不安を抱かせてしまいかねません。安心して行動できるように、評価基準を明らかにしておくことが重要です。
従業員間の相互理解を深める仕組みを導入する
例えば、同じ部署内の先輩社員を新入社員の指導役に据えるブラザー・メンター制の導入、定期的な食事会・飲み会の実施などが考えられます。相互理解が深まることで、批判などを気にせず自分らしく振る舞えるようになります。
このほかにも、ピアボーナスを導入することで職場の心理的安全性を高められる可能性があります。
なぜなら、従業員間で感謝の気持を伝えやすくなるからです。ピアボーナスの仕組みについては次項で解説します。
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5.職場の心理的安全性を高めるピアボーナス
ピアボーナスとは、英語で同僚をあらわす「peer」と報酬を表す「bonus」を組み合わせた言葉です。具体的には、従業員間で報酬や感謝の気持ちを贈りあえる仕組みやサービスを指します。
ピアボーナスは、会社からではなく一緒に働く従業員から報酬や感謝の気持ちを受け取れることが大きな特徴です。
受け取った報酬(ポイント)の扱いは、ケースによって異なりますが、基本的に金銭報酬または非金銭報酬で還元されます。
評価の対象になるのは、仕事の成果ではなく、企業が考える好ましい行動や同僚をサポートする行動などです。そのため、普段はあまり評価されないささいな気配りも評価の対象となります。
ピアボーナスを導入するメリットは、従業員間で感謝・称賛し合う企業文化が生まれることです。コミュニケーションが活発になる点も見逃せません。
これらの特徴から、職場の心理的安全性の向上に役立つと考えられています。ピアボーナスは、パワハラが起こりにくい職場づくりに役立つ可能性があります。
6.おすすめのピアボーナスはUnipos
現代では、さまざまな企業が類似サービスを展開しています。なかでも、おすすめのサービスは「Unipos」です。
Uniposの特徴は、従業員同士が「称賛のメッセージ」と「少額のインセンティブ」を贈り合うことで、見えにくい貢献を可視化して称賛文化を醸成すること。
例えば、仕事の相談に乗ってくれた先輩社員に感謝のメッセージと少額のインセンティブを贈ることが可能です。一緒に働く従業員は、「拍手」をしてこの行動を肯定することにより後輩社員(贈った側)と先輩社員(もらった側)に少額のインセンティブを贈ることができます。
これらを通して、心理的安全性の向上やエンゲージメントの向上、マネジメントの強化などを図れる点が魅力です。参考に、Unipos公式ページに掲載されている導入事例を抜粋して紹介します。
相互理解を育んだUnipos
ガス事業やリフォーム事業、介護サービス事業などを手がける株式会社シンサナミは、事業部間の対立や従業員同士の交流の少なさに悩んでいました。
これらの問題を解決するために導入したのが「Unipos」です。従業員間で感謝や称賛を贈りあい、皆が気持ちよく働ける社内文化を築くことを目指しました。
導入後は、これまで見過ごされてきた「ちょっとした行動」がきっかけとなり、営業所や世代を超えたコミュニケーションが生まれています。部下を厳しく育てるタイプの上司が、Uniposで新人にポイントを贈っている点も見逃せません。
厳しい指導の背景に隠れていた愛情が見える化されています。結果として、株式会社シンサナミでは、従業員同士の相互理解が深まり、事業部間の対立も解消に至りました。
心理的安全性を高めてパワハラを防ぎましょう
心理的安全性が低い職場は、パワハラが起きやすいと考えられています。
なぜなら、従業員間で良好な人間関係が築かれておらず、コミュニケーションも希薄だからです。心理的安全性は、お互いに弱みを見せてサポートし合える関係を築いたり感謝や称賛を積極的に伝えたりすることで向上させられます。
感謝や称賛は、ピアボーナスを活用すると伝えやすくなるため、パワハラが起きにくい職場を実現してみてはいかがでしょうか。