
心理的安全性とは、誰もが安心して発言・行動ができる職場環境です。対話が増えてアイデアが生まれるなどのメリットがあり、個人のパフォーマンスも向上します。
本記事では、心理的安全性とは何かを説明するとともに、高めるメリットやマネジメント手法などを紹介します。
心理的安全性とは
心理的安全性とは、組織の中において自然体でいられる状態のことです。心理的安全性が確保された職場では他者からの反応に怯えることなく、自分の考えを安心して発言しやすくなります。ハーバード大学で組織行動学を研究するエドモンドソン教授により、1999年に提唱された概念です。
近年、心理的安全性は世界中の企業から注目を集めています。注目される背景はなにか、詳しくみていきましょう。
注目される背景
心理的安全性は2015年、Googleが「成功するチームは心理的安全性が高い」という研究発表をしたことで、一躍注目を集めました。
Googleでは2012年から4年間、生産性が高いチームの共通点を見つけるプロジェクトを実施しています。社内のさまざまなチームを研究対象として、より生産性の高い働き方をしているのはどのようなチームなのかを確認するプロジェクトです。
その研究成果として、心理的安全性の高いチームのメンバーには次のような傾向があることがわかりました。
- Googleも実践し、成功を収めている
- 他のチームメンバーが発案したアイデアをうまく利用できる
- 管理職から評価される機会が2倍多い
最終的に「組織の生産性向上には心理的安全性が重要である」という結論に至ったのです。
Googleの発表以来、心理的安全性の考え方が世界中に広まりました。多くの企業で心理的安全性を高める取り組みが行われています。
心理的安全性がぬるま湯といわれる組織との違い
「自由に発言ができて何を言っても批判されない」といった心理的安全性の高い職場は、「ぬるま湯のような組織」なのではないかと感じる人がいるかもしれません。
しかし「ぬるま湯」といわれる組織は、ただ居心地が良いだけで仕事に対する社員のモチベーションが低く、生産性のない職場を意味しています。
ぬるま湯のような組織は、頑張らなくても地位や給与が保証されているような企業にありがちです。空気を読んで対立を避ける傾向があり、表面的な人間関係は良くても仕事への意欲はあまり感じられません。
一方、心理的安全性が高い職場ではアイデアや改善策を生み出すために議論が活発に行われ、相手に気兼ねなく発言できるために意見の対立もあります。
社員一人ひとりの業務に対する意欲は高く、生産性が上がるという点において、ぬるま湯という状態とはまったく異なります。
関連記事:心理的安全性が高い=ぬるま湯組織ではない!正しい考え方から高める方法まで徹底解説
心理的安全性の低い職場で起こること
心理的安全性が職場環境に与える影響は小さくありません。先述したエドモンドソン教授は、心理的安全性が低い状態で見られる4つの不安を以下のように説明しています。
- 無知だと思われる
- 無能だと思われる
- 邪魔をしていると思われる
- ネガティブだと思われる
例えば「そんなことも知らない」「そんな簡単なこともできない」「話しかけられて仕事が進まない」「その発言は前向きではない」などと思われないか不安になって発言ができない場合、心理的安全性は低いといえるでしょう。
“心理的安全性の低い職場になると、次のような状況に陥りやすくなります。”
- 社員が発言せず、重要な課題が発見されない
- 心配ごとを相談しづらい
- 社員は常に不安を感じている
- メンバー同士の協力体制がなく、各自が孤独な作業をしている
- 考えや情報を共有できていない
- 活発なコミュニケーションが生まれない
- 議論が生まれず、意見を言う人が限られる
- 指示を受けないと行動しない
- 新しいアイデアが生まれず、イノベーションが起こらない
- 誤りに気づいて学習するチャンスを逃す
- 協力体制が生まれないため生産性が低下する
- 社員のストレスが溜まり、離職する社員が増える
- ミスや隠蔽が起こりやすい
- 報告漏れが起きやすい
心理的安全性の低い職場はパワハラも起きやすくなります。上司と部下のコミュニケーションが少なくなり、良好な人間関係を築けないためです。
パワハラなどのハラスメントが起こりやすい理由のひとつに、コミュニケーションが一方通行であるという点があげられます。これに対し、心理的安全性の高い職場は双方向のコミュニケーションがあり、ハラスメントも起きにくい点が特徴です。
仕事と心理的安全性について行なったアンケートでは「この職場について働き続けたくない」と答えた社員が「働き続けたい」と答えた社員に比べ、心理的安全性スコアが0.84ポイント低いという結果が出ています。
心理的安全性が低下すると社員の就業継続意欲が下がり、離職率が高くなるということがわかります。
関連記事:離職防止に心理的安全性が効く3つの理由を事例と共に解説!
参照:Unipos株式会社「 仕事と心理的安全性に関するアンケート」
職場の心理的安全性を高めるメリット
心理的安全性を高めることで職場にもたらされるメリットは多く、主に以下のような成果が期待できます。
- アイデアが生まれやすい
- 生産性が上がる
- 一人ひとりのパフォーマンスが向上する
- 職場のコミュニケーションが活性化する
- 速やかに報告・共有が行われる
- 離職率が下がる
さまざまなメリットにより、職場の生産性も上がります。それぞれのメリットについて、詳しくみてみましょう。
対話が増えてアイデアが生まれる
心理的安全性が高まり自由に発言できるようになると、対話が増えて社員からアイデアや改善提案を引き出しやすくなります。
社員は「どのような意見でも受け入れてもらえる」という安心感が得られるため、これまでにない斬新なアイデアも生まれやすくなるでしょう。多様な価値観からアイデアが生まれることは、イノベーションが起きやすい環境をつくります。
心理的安全性は「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」という4つの因子で構成されています。
「話しやすさ」は、心理的安全性の土台となる要素です。職場の全員が「何を話しても大丈夫」という話しやすさが確保されていなければなりません。
「助け合い」は、トラブルが起きたときに迅速、かつ確実に対応するために重要な因子です。
「挑戦」は、何が正解かわからない場合にも模索しながら行動するという因子です。斬新なアイデアや提案も歓迎される状態を表します。
「新奇歓迎」は、多様性を受け入れ、社会の変化に対応するために重要な因子です。「新奇」という文字は新しさや奇抜性という意味で、それらを歓迎するという意味があります。
これら4つの因子を前提に改善提案についてアンケートを実施したところ、「もっとこうした方が仕事がうまくいく」と思った場合、「提案をしたいと思わない」と答えた人は「したいと思う」と答えた人よりも「挑戦」の因子が0.44ポイント低いという結果が出ました。
したがって、アイデアや改善提案が生まれる職場をつくるためには、心理的安全性を高めることが欠かせないといえるでしょう。
参照:Unipos株式会社「 仕事と心理的安全性に関するアンケート」
個人のパフォーマンスが向上する
心理的安全性の高い状態になると安心して仕事に取り組めるため、個人のパフォーマンスが向上するというメリットがあります。
心理的安全性が低い場合はアイデアを持つ社員も発言を控えがちで、十分に能力を発揮できない場合があるでしょう。
心理的安全性が高まることで自由に発言できるようになり、社員が本来持つ強みを発揮できます。社員は自分の意見が受け入れられ、尊重されることでやりがいを感じるでしょう。責任感が芽生えてモチベーションが高まり、パフォーマンスも向上します。業務効率が改善し、業績アップにつながるでしょう。
心理的安全性を高めて社員のパフォーマンスを発揮させ、業績を高めた事例をひとつ紹介します。創業134年の老舗企業では、社員の承認欲求を満たせる施策の一環としてピアボーナス「Unipos」を導入しました。
「Unipos」は、社員同士がオープンな場で「貢献に対する称賛のメッセージ」と「少額のインセンティブ」を送り合い、心理的安全性を高めるサービスです。導入の結果、職場に「称賛文化」と「感謝体質」が根付き、売上前年比132%増という過去最高の業績を実現したという事例もあります。
参照:Unipos株式会社「 売上32%増!ITリテラシーゼロの老舗がDXに成功」
コミュニケーションが活性化する
心理的安全性が高まると発言することへの不安がなくなり、コミュニケーションが活発になります。社員同士の情報交換が円滑に行われ、問題が起きた場合でも早い段階で対応が可能です。
情報交換が活発になり、得意分野の知識を共有することもできるでしょう。社員全体のスキルが向上します。
さらに、心理的安全性の高い職場はお互いを尊重し合う風土が生まれるのもメリットです。他者の失敗に寛容になり、結果だけでなくプロセスにも注目する姿勢が生まれます。パワハラなどハラスメントも起こりにくくなるでしょう。社員は活力をもって働ける環境が整い、メンタルヘルスの向上も期待できます。
報告・共有が迅速になる
心理的安全性の高い職場では、ミスを報告をする心理的なハードルも下がります。ミスや問題が起きたときはすぐに報告・共有が行われ、解決に向けて迅速な対応ができるでしょう。
活発な意見交換が行われる中で、さりげない発言が問題の早期発見・解決につながることもあります。
また、心理的安全性により、社員一人ひとりが現状をより良くしていこうという前向きな姿勢を持つようになることもメリットです。新しい業務や課題にも積極的に立ち向かう組織づくりができるでしょう。
社員の定着率が上がる
心理的安全性が高い職場では社員のスキルや能力を存分に発揮できるため、仕事へのやりがいや意欲が生まれます。その結果、社員の定着率が上がることもメリットです。
心理的安全性を高めて、離職率を下げた事例があります。千葉県の認可保育施設では保育士の離職率が34.7%に上がり、自治体から改善勧告を受ける状態になりました。
同社は改善のため、Uniposを導入して組織改革を行いました。Uniposを通して保護者の「感謝の声」を共有したところ社員のモチベーションが向上し、結果として離職率が7%まで改善したそうです。
さらに、モチベーションの向上がサービスの質を高め、入園希望者が増加して売上が前年比7%増という成果も生まれました。
参照:Unipos株式会社「 保育士の離職率を27%改善!原因は意外なところに」
職場の心理的安全性を確認する方法
組織の心理的安全性がどの程度なのかを確認する方法は、以下の2つがあります。
- 7つの質問
- 心理的安全性が高い職場であることを示すサイン
7つの質問は、概念的な心理的安全性の状態を数値で表し、現状把握するために役立ちます。心理的安全性が高い職場であることを示すサインは、職場を管理する上司から見て判断できるサインです。
どちらもエイミー・エドモンドソン教授が提唱した方法で、職場の心理的安全性を確認する際におすすめです。
7つの質問
これから紹介する7つの質問に「あてはまる」から「あてはまらない」まで5段階評価で回答してもらうことで、職場の心理的安全性を測れます。
1・3・5は、スコアが低い(あてはまらない傾向)ほど心理的安全性が高いと判断できる質問です。2・4・6・7の質問は、スコアが高い(あてはまる傾向)ほど心理的安全性が高いと判断します。
社員への質問は匿名で実施する方が、より正確に現状を把握できるでしょう。
ここから、7つの質問を紹介します。
1.職場内でミスをすると、よく批判される
自分がミスをしたとき、周りからどのような反応があるか確認する質問です。励ましてくれたり、ポジティブな対応をされる場合は心理的安全性が高めであり、ネガティブな対応をされている場合は心理的安全性が低い傾向です。
2.職場内では課題やネガティブなことを指摘し合える
心理的安全性が低い場合、課題や問題点などを指摘すると「嫌われてしまう」「言いにくい」「怖い」といった感情が湧きます。心理的安全性が高くお互いに信頼し合える関係にあれば、指摘しづらい内容も遠慮なく指摘できるでしょう。
3.職場の中に、考えが違うことを理由に他者を拒絶する人がいる
性格や考え方は人それぞれであり、心理的安全性が高い職場であれば、各自の個性や違いを受け入れやすくなります。しかし、他者を受け入れられない社員がいる職場は周囲も自分の本心を抑える傾向があり、心理的安全性は低いといえます。
4.職場内でリスクのある発言や行動をとっても安全だと感じられる
他者の意見に対して反論したり問題点を指摘したりすることは、相手を不快にさせて関係性を壊すリスクがあります。「初歩的な質問をしたら笑われるかも……」と不安を覚えることもあるでしょう。そのようなリスクのある発言をしても、安全であると感じられれば、心理的安全性は高いといえます。
5.職場内でほかの社員に助けを求めることは難しい
チームの目標達成は、メンバーのスキルや能力を補完し合いながら目指すものです。しかし、自分が成果を出すことだけを重視する社員がいる場合、困ったときに助けを求めづらいでしょう。助けを求めることは「自分の能力が足りないと思われるのではないか」と、躊躇してしまう可能性もあります。
6.職場内には、自分を陥れたりだましたりする社員はいない
職場内に自分を陥れようとする社員がいる場合は協力し合うことが難しく、心理的安全性は下がります。相手を警戒して発言や行動に気をつけるようになり、安全な職場ではなくなるでしょう。
7.職場の社員と一緒に働く際、自分の能力・スキルが十分発揮されていると感じる
社員同士がお互いの人間性や能力・スキルを尊重し合える職場は居心地が良く、本来の強みを発揮できます。モチベーションが高まり、意欲的に業務に取り組めるでしょう。
関連記事:心理的安全性をアンケートで測定できる?意識調査のアンケート結果もご紹介
心理的安全性が高いことを示すサイン
職場を管理する上司から見た、心理的安全性を測るサインがあります。こちらもエドモンドソン教授が提唱したもので、以下の3つのサインをあげています。
1.部下が次のようなポジティブな言葉を口にする
「互いに尊敬し合っている」
「問題が起これば、全員でそれに取り組む」
「職場内の誰もが、プロジェクトに責任を持っている」
「職場ではありのままの自分でいられる」
2.部下は、成功だけでなく失敗や問題についても話題にする
一例として、以下のような状況があげられます。
部下はミスしたとき・問題が起きた時にすぐ上司に報告する
1on1ミーティングや評価面談の際に失敗についての話し合いができ、上司はフォローしながら改善の後押しをしている
3.職場はいつも笑いとユーモアにあふれている
これら3つのサインが確認できれば、心理的安全性は高いと判断できます。サインを意識して、職場を観察するようにしてみましょう。普段は気づかなかった職場の状態が、わかるようになるかもしれません。心理的安全性が低いと感じた場合、上司は心理的安全性を高める行動をとる必要があります。
上司が心理的安全性を高めるためにできること
上司は、職場における心理的安全性が低いと感じたら、社員の不安を解消し、社員同士が信頼・尊重し合える関係性を構築しなければなりません。そのためにできることは、以下の4つです。
- 相手を理解していることを態度で示す
- 自分から積極的に交流する
- 感謝の気持ちを伝える
- 発言しやすく、信頼できる環境をつくる
上司ができる、心理的安全性の高め方を紹介します。
理解していることを表現する
職場の心理的安全性を高めるには、上司の振る舞いが重要です。まず、上司が部下にとって安全な存在にならなければなりません。部下を理解し、受け入れていることを態度で示しましょう。
部下が話しているときには、自分の表情や仕草、態度などに否定的な反応がないか注意します。お互いの認識が一致していることを確認するため「〇〇君が言っているのはこういうことだよね?」などと、問い返すことも大切です。
相手の話には頷いたり相槌をうったりして反応し、理解していることを示します。ミスや問題が起きた場合でも部下を責めるのではなく「次にミスしないためにはどうしたらよいか」「どうしたら早く解決するか」など、解決策を見つけるための前向きな姿勢を示しましょう。
積極的に交流する
心理的安全性を高めるためには、社員と積極的に交流することも大切です。上司から部下への声がけを積極的に行い、相手を尊重したコミュニケーションを意識します。上司が年齢や立場に関係のない意見交換をすることによって、社員同士も話しやすい環境が生まれるでしょう。
職場以外の場所で交流することも効果的です。飲み会や食事会の場ではリラックスした状態になり、心理的安全性も高まるでしょう。
全員での会食が難しい場合でも、昼休憩に2~3人の社員を誘ったり休憩時間に話しかけたりするなど、こまめな交流を重ねてみてください。部下にとって上司はより安全な存在になっていくでしょう。
感謝の気持ちを伝える
部下の働きに対して感謝の気持ちを伝えることも、心理的安全性を高めるために重要です。感謝や称賛を与えることによって、相手を受け入れる姿勢を示せます。
部下は「自分は認められている」「役に立った」「肯定されている」と感じ、さらに貢献したいという気持ちになるでしょう。仕事へのモチベーションを高め、生産性も向上します。
心理的安全性を高めるため、「感謝」を意図的・戦略的に使うこともできます。以下の手順を試してみましょう。
- どのような状況で、誰(個人・チーム)が、何をしてくれたかを考える
- 自分が助かった、ありがたいと感じた出来事や行動を思い返す
- 実際に感謝を言葉にして伝える
感謝すべき状況は、意外に多く見つかるものです。なぜもっと感謝の言葉を伝えなかったのかと思う場面もあるかもしれません。相手への感謝は、今後職場の社員を注意深く観察することにも役立ちます。感謝すべきことを見つけて感謝を言葉で伝えることを繰り返すことにより、職場の心理的安全性は自ずと高まるでしょう。
感謝や称賛のメッセージを伝える機会は、制度としてつくることも可能です。チームに貢献した社員を選び、部署で表彰するのもよいでしょう。
信頼できる環境をつくる
職場を信頼できる環境にするのも、上司の役割です。業務に関する悩みがないか自ら声をかけ相談しやすい状況にしていけば、仕事で発生した問題や悩みをすぐに相談できる環境がつくれます。問題の早期解決にもつながるでしょう。
メンバー全員が自由に発言できる環境をつくることも大切です。誰もが緊張せず、批判を恐れずに発言しやすい環境をつくらなければなりません。はじめのうちは、上司から社員に発言を促すことも必要になるでしょう。プライベートな話や世間話などで発言する機会をつくるのも効果的です。
会議の進行方法も見直しをしていきましょう。積極的な特定の社員だけしか発言できないという環境は、変えていかなければなりません。会議で発言のなかった社員には最後に感想を話す時間を設けるなど、全員が発言できるよう配慮する必要があります。
関連記事:マネジメントを成功させるなら、職場の「心理的安全性」を醸成しよう
心理的安全性の高い職場をつくる5つの方法
心理的安全性の高い職場をつくるには、上司だけでなく会社や人事でも積極的な取り組みが必要です。効果的な方法として、以下の5つがあげられます。
- 新人は会社全体でサポートする
- 社員一人ひとりの多様性・価値観を受け入れる
- 自由に対話できる機会を設ける
- 評価制度を定期的に見直す
- 感謝し合う制度をつくる
それぞれの内容について、詳しくみていきましょう。
1.会社全体で新人をサポートする
心理的安全性の高い職場にするためには、新人のサポートを会社全体で行うことが必要です。新卒や中途採用、異動などで職場に配属された新人は、業務や職場環境に慣れず不安を抱えています。心理的安全性の低い状態で、本来のパフォーマンスを発揮できるようになるまでには時間がかかるでしょう。周囲とコミュニケーションがとれず、当然ながら自由な発言もできません。新人が一日でも早く職場に定着して戦力になれるよう、会社ではOJTや研修プログラムなどを積極的に取り入れたサポートが求められます。
新人が職場で心理的安全性を感じるには、既存社員の協力も得ながら全社をあげて新人をサポートしなければなりません。
2.多様な価値観を受け入れる
心理的安全性を高めるためには、一人ひとりの多様な価値観を受け入れることも大切です。これは、近年多くの企業が注目している「ダイバーシティ&インクルージョン」にもつながるものです。ダイバーシティ&インクルージョンとは、多種多様な人材が組織に属していることを指し、多様性を受け入れて個々の特性を活かす考え方や経営を意味します。
ダイバーシティ&インクルージョンを実現するためには、心理的安全性の存在が欠かせません。各自の価値観が受け入れられ、安心して働ける環境があってはじめて多様性を尊重した経営を推進できます。
3.対話の機会を設ける
心理的安全性がある職場といえるためには、誰もが萎縮せずに話せる環境でなければなりません。そのような状態にするためには、会社側が自由に発言できる対話の機会を設けることが求められます。
対話の機会としては上司と部下が1対1で会話をする1on1ミーティングが重要な役割を果たすでしょう。1on1ミーティングについては、あとの項目で詳しく紹介します。
対話の機会をつくるため、休憩室やミーティングスペースを確保することも、心理的安全性を高めるために会社ができる方法です。
毎日同じ職場にいて、仕事をしているだけでは、コミュニケーションは活性化しません。全社員が使える休憩室やミーティングスペースを設けることによって、業務以外で社員が顔を合わせる機会が増えます。自然と会話が生まれ、自由に話し合える風土が培われるでしょう。
フリーアドレスを採用するという方法もあります。フリーアドレスとは、固定された自分の座席を持たず、自由に着席場所を選んで仕事をする方法です。毎日席を変えることで、部署を超えた社内コミュニケーションが実現します。普段は会話しない人と交流ができ、仕事につながるアイデアを得ることもできるでしょう。
4.評価制度を見直す
心理的安全性を高めるには、評価制度の見直しも効果的です。個人の成果に基づいてメンバーをランク付けする評価方法では、ミスを恐れる意識や周囲への競争意識を生み出します。安心して仕事ができる状態にはなれない可能性があるでしょう。
個人評価ではなくチーム・プロジェクトごとの評価に代えたり、メンバーのランク付けを廃止してノーレイティングの方式を導入したりする方法が考えられます。
ノーレイティングとは年度単位での評価やランクを行わず、リアルタイムで目標設定を行い、その目標に対して上司と対話しながらフィードバックをもらう評価方法です。
ただし、職種や業種によっては適さない場合もあるため、自社の業務に合うかどうかの判断は必要になります。うまく採用できれば、心理的安全性を高める効果が大いに期待できるでしょう。
5.お互いを感謝し合う制度をつくる
心理的安全性を高める方法として、感謝や称賛があげられます。社員同士で感謝・称賛をおくることは、お互いのモチベーションを高めるでしょう。しかし、日頃あまり交流のない社員に直接感謝や称賛を伝えるのは、なかなか難しいかもしれません。
そこで、会社側がお互いに感謝を伝えられる制度をつくるという方法があります。活用されている制度として代表的なものが、サンクスカードやピアボーナスです。
サンクスカードとは、社員がお互いに感謝や称賛の気持ちを伝えるためにおくり合うカードのことです。手書きのメッセージカードをおくる運用のほか、さまざまな専用ツールも開発されています。
ピアボーナスとは、社員同士が互いの行動や成果などを評価し合い、それにふさわしい報酬をおくるシステムです。
どちらも上司が部下を評価するのでなく、社員同士が互いに評価し合い、感謝を伝え合う制度だといえるでしょう。制度の導入で感謝や称賛をおくり合う風土が生まれ、心理的安全性を高めることが可能です。
ピアボーナスについては、このあとの項目でも紹介します。
心理的安全性を高めるマネジメント手法
心理的安全性の重要性を唱えたGoogleでは、心理的安全性を高めるマネジメント手法として次の5つを紹介しています。
- 1on1ミーティング
- ピアボーナス
- OKR
- 上司へのフィードバック
- 雑談
Googleでは、これらマネジメント手法により職場の信頼関係を醸成し、生産性を高める環境づくりを実現できるとしています。どのような手法なのか具体的にみていきましょう。
1on1ミーティング
1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で行う面談のことです。
週に1回、最低でも月に1回など定期的に行います。上司が一方的に部下を評価し、指示・指摘する関係にある評価面談とは異なり、1on1ミーティングは部下の成長促進が目的です。
評価面談が「上司が部下を管理するための面談」であることに対し、1on1ミーティングは部下の現状や悩みに耳を傾け、部下の能力を引き出す「育成のための面談」だといえます。
心理的安全性の高い組織をつくるには対話が重要であり、1on1ミーティングの活用は部下との対話の機会をつくり、信頼できる関係を構築するのに効果的です。
その目的からは、業務の話だけでなく雑談もしながら部下の価値観を理解していくことが大切です。上司からは「Yes」「No」では答えられない「オープンクエスチョン」を投げかけるなど、会話に工夫をすることで1on1ミーティングをより価値あるものにできるでしょう。
関連記事:1on1導入の成功事例と失敗しないポイント、調査から判明した課題を解説!
ピアボーナス
ピアボーナスとは、社員同士が成果や貢献の度合いに応じて報酬をプレゼントし合う制度です。ピアボーナスという言葉は、同僚を意味するPeer(ピア)と、特別手当のBonus(ボーナス)を組み合わせています。
社員の一人ひとりにポイントが付与され、いつでも称賛したい行為を見つけたときにポイントをおくります。ポイントは金銭や賞品と交換でき、称賛を受けた社員は多くの報酬を獲得できる制度です。
ピアボーナスでは感謝のメッセージをおくることもでき、受け取った社員のモチベーションを高める効果を発揮します。
ピアボーナスを通じて社員同士のコミュニケーションが生まれ、活性化する効果も期待できるでしょう。
また、ピアボーナスは評価が可視化しにくい職種の成果を評価できるというメリットがあります。営業のように成果が数字に現れる場合は評価しやすいものの、事務職など細かい働きが可視化しにくい裏方の仕事は評価を見落とされることも多いです。ピアボーナスの感謝・称賛によりそれら職種にも評価される機会が増えることで、社員は仕事へのモチベーションを高められるでしょう。
関連記事:ピアボーナスとは?メリット・デメリットやツールの選び方、事例を紹介
おすすめは「Unipos」
ピアボーナスのツールは各社から提供されていますが、おすすめはトヨタやメルカリなど多くの大企業も導入する「Unipos」です。Uniposは感謝や称賛メッセージをおくる従来のサンクスカード機能に加え、ポイントを添えて投稿できるのが特徴です。
ポイントは少額の金銭やSDGsを支援するための寄付、オリジナルの景品など、社風や企業文化に合わせて設定できます。管理職が多くの部下へ、一斉に偏りなく評価をおくることも可能です。個人だけでなく、良いチーム・プロジェクトを称賛することによって、組織・チームの活性化を促します。
メッセージの投稿は全社員がリアルタイムに閲覧できるため、隠れた貢献や挑戦が可視化されて社員同士の相互理解も深まるでしょう。
感謝と称賛のポジティブな体験により職場の心理的安全性を高め、強い組織づくりを実現します。
OKR
OKRとは、会社の目標と個人を紐づける目標管理の手法です。「Objectives and Key Results」の略で、「達成目標(Objectives)」と、目標の達成度を測る「主要な成果(Key Results)」を設定し、会社全体の目標を社員一人ひとりに落とし込みます。
会社の目標を個人とリンクさせることにより、社員は会社のビジョンを深く理解し、会社やチームでの役割を明確に把握することが可能です。OKRを公開することで社員同士の助け合いが起こり、コミュニケーションの活性化にも役立ちます。
OKRは「目標と主要な成果」という言葉のとおり、単に目標だけではなく「求められる主な結果」を明確に測定する指標を持つのが特徴です。
例えば「シェアを拡大させる」ことをOKRにする場合「新たに10店舗の新規開店を目指す」「〇日までに〇%拡大する」など、数値で成果を出せる具体的な目標も同時に設定します。
Googleでは、OKRで設定する達成度を60〜70%としています。100%達成できるOKRでは、社員は挑戦心が失われてしまうためです。一方で、達成が難しい目標を設定してしまうと、社員は意欲を失います。本来であれば達成できそうなレベルよりも、さらに高い100%を目指すことで、成長を促す仕組みといえるでしょう。
なお、OKRの達成率は評価には使用しません。評価に反映してしまうと高いレベルの目標設定がされにくくなるためです。
挑戦的で結果を測定できる目標を立てることが、心理的安全性を高める効果をもたらします。
関連記事:OKR導入事例から学ぶOKR成功のポイントと注意点
上司へのフィードバック
Googleでは上司を成長させるため、メンバーから上司(マネジャー)へのフィードバックを行っています。社員が匿名でアンケートに答え、マネージャーはレポート形式でフィードバックを受け取る仕組みです。
上司の能力向上を目的とし、誠実かつ建設的にフィードバックに向き合うことを期待して実施されています。
フィードバックは「マネージャーは人と人として自分と向き合ってくれます」など、8つの項目からなる形式です。上司はこれらの項目を高いレベルで実現することで、マネジメント能力を高められるといわれています。マネジメント能力が向上すれば、職場の心理的安全性を高められるだけでなく、チームのパフォーマンスも高められるでしょう。
雑談
雑談は仕事と関係なく、業務に支障をきたすものとも捉えられることもありますが、信頼関係を築くために重要な役割を果たします。
なにげない会話がコミュニケーションを活発化させ、チームワークを良くしてパフォーマンスを高めることもあるでしょう。心理的安全性の低い職場では、他愛のない雑談を気軽にできません。
会議の冒頭に2〜3分の雑談を、ルール化している企業もあります。仕事とは関係ない話で場を盛り上げるためです。雑談ありの会議は雑談なしの会議に比べて発言数が多くなり、発言者数も増加したという統計もあります。つまり発言者が増えても、予定された時間内で会議が終わる確率は高まったということです。
心理的安全性を高めるときに注意したいこと
心理的安全性を高めることは、単に社員に対して優しい職場をつくるということではありません。単純に人間関係が良いだけの、「ぬるま湯」のような組織にしないことが大切です。
安心して働ける職場だからぬるま湯体質になるわけではなく、反対に仕事に集中しやすい環境が整います。
ここでは、心理的安全性を高める際に注意したいことを紹介します。
馴れ合いにならないようにする
心理的安全性を高めようとして、上司と部下が慣れ合いになることに注意しましょう。心理的安全性の高い職場とは、たとえ部下であっても上司の意見に異論を唱えられる環境のことです。
表面的な関係は良くてもお互いに気を遣い、言いたいことの言えない環境は心理的安全性の高い職場とはいえません。
各自の個性が受け入れられることで、多様な価値観からさまざまなアイデアが生まれます。発言を恐れない社員からは斬新なアイデアが提供され、イノベーションの創造にもつながるでしょう。しかし、馴れ合いのままアイデアを受け入れない組織はぬるま湯になりやすく、現状維持のままで成長も期待できません。
まとめ
心理的安全性の高い職場は社員の誰もが自然体であり、自由な対話によりアイデアが生まれやすくなります。各自が本来の能力を最大限発揮できるようになり、パフォーマンスを向上させるでしょう。
職場の心理的安全性が低いのではないかと感じたら、7つの質問など匿名のアンケートを実施してみるのもおすすめです。心理的安全性の低い職場は、上司が率先して改善に乗り出すことが求められます。部下との接し方に配慮し、相手への理解を態度で示すなど、振る舞いを変えていくことが大切です。
会社や人事では、評価制度の見直しやミーティングルームの設置、ピアボーナスの導入などを検討してみてください。職場の心理的安全性を高め、生産性の高い強い組織づくりを行いましょう。