
企業にとって、イノベーションを生み出し成功させられる組織であるかどうかは、今後の経営をも左右する重要な課題です。
本記事では、イノベーションの定義や種類とともに、イノベーションを生み出す組織に必要な「心理的安全性」について解説します。
記事後半では、心理的安全性を高める具体的な方法についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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1.イノベーションとは?
「イノベーション」という言葉にどのようなイメージをお持ちでしょうか。
「新しい物事に挑戦すること」や「何か大きな変革を起こすこと」など、ざっくりとした言葉の意味は把握している方も多いかもしれません。
以下では、そもそも「イノベーション」とは何なのか、定義や分類を解説します。
イノベーションの定義
「イノベーション(innovation)」は、日本語で「技術革新」と訳されることがあります。
しかし、単に新しい技術を開発することや新しいモノをつくることだけで「イノベーション」とは呼べません。
イノベーションとは、製品やサービス、組織、ビジネスモデルなどに新たな考え方や技術を取り入れることで、社会に影響をもたらす新たな価値を生みだしたり、改革・変革をもたらしたりすることを指します。
近年、ビジネスシーンで用いられている「イノベーション」の概念は、次の3名の提唱者による理論から発生したものといわれています。
- ヨーゼフ・シュンペーター
- クレイトン・クリステンセン
- ヘンリー・チェスブロウ
それぞれが提唱するイノベーションの種類について、確認していきましょう。
参考:誤解されたイノベーションの本当の意味とは | 企業経営・会計・制度 | 東洋経済オンライン
5種類のイノベーション
オーストリアの経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションには5つの理論があるとしています。
その5つとは、次のとおりです。
- プロダクト・イノベーション
→今までにない、革新的な新しい製品・サービスを生み出すこと
- プロセス・イノベーション
→製品やサービスそのものを変えるのではなく、その作り方や作業の順番、流通方法などを改善すること
- マーケット・イノベーション
→新たな市場に参入し、新たな顧客とそのニーズ、販路を開拓すること
- サプライチェーン・イノベーション
→製品をつくるための原材料の供給源を新たに開拓すること
- オーガニゼーション・イノベーション
→組織やシステムの変革により、企業や業界全体に大きな影響を与えること
創造的イノベーションと破壊的イノベーション
ハーバード・ビジネススクールの教授であるクレイトン・クリステンセンは、イノベーションには「創造的」と「破壊的」の2種類があるとしています。
- 創造的イノベーション
顧客の意見やニーズを取り入れながら進めるイノベーションのことで、持続型イノベーションとも呼ばれる
- 破壊的イノベーション
既存の概念にとらわれず(=破壊して)、新たな考え方を積極的に取り入れながら進めるイノベーションのこと
クローズドイノベーションとオープンイノベーション
ハーバード大学経営大学院の教授であるヘンリー・チェスブロウは、イノベーションを「クローズド」と「オープン」の2つのパターンに分類しています。
- クローズドイノベーション
研究から製品開発までを自社の経営資源のみで行うことが主流だった、1990年代以前に流行したイノベーションのこと
- オープンイノベーション
自社以外の技術、すなわち外部資源や他業種が持つノウハウや技術を組み合わせて
活用する、1990年代以降に見られ始めたイノベーションのこと
なお、近年国が積極的に推進しているのがこの「オープンイノベーション」です。すなわち、複数の力を合わせてイノベーションを実現しようというスタンスが重視されています。
2.イノベーションを促進するのは”多様性”と”挑戦”
では、具体的にどうすればイノベーションは促進されるのでしょうか。
その鍵となるのが「多様性」と「挑戦」です。
それぞれについて、以下で詳しく見ていきましょう。
多様性とイノベーションの関係
そもそもビジネスシーンにおいて「多様性(ダイバーシティ)」が語られるとき、焦点となるのは、性別・年齢・国籍などの「属性的条件」と、価値観やライフスタイルなどの「思考的条件」です。
属性的条件や思考的条件が多様な人材が一つの組織に集まることで、異なる視点からのさまざまな発想や意見が相乗効果を生むと期待されています。
実際に、2016年にミュンヘン工科大学とBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)が共同で行った調査によると、多様性が高ければ高いほど、「イノベーション収益(新商品・サービスの収益)」が多くなる傾向にあることがわかりました。
参考:The Mix That Matters: Innovation Through Diversity
挑戦とイノベーションの関係
多様性とイノベーションには大きな関係がありますが、単に多様性の高いチームであるだけでは、イノベーションを起こすことなく終わってしまうでしょう。
イノベーションを生み出す人材・組織を育てるには、多様な人々が意見を交わし合いながら挑戦できる環境を整える、挑戦する風土を醸成することが重要です。
そのためには、挑戦して仮に失敗してしまっても許容される(挑戦した人が損をしない)組織であること、挑戦する人を適切に評価する組織であることがポイントとなります。
そこで理解しておかなければならないのが、「心理的安全性」についてです。
次の章では、心理的安全性について詳しく見ていきましょう。
参考:イノベーションが生まれないのは人的要因ではなく組織風土の問題|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
3.率直に意見を交わすのに必要な「心理的安全性」
先にご説明したとおり、イノベーションを促進するためには、単に多様性の高いチームであるだけでなく、率直に意見を交わし合い、一人ひとりが挑戦しやすい環境でなければなりません。
そこで欠かせないのが「心理的安全性」です。
以下では、心理的安全性の概要や、心理的安全性が低いことで起こり得る問題などを中心に解説します。
心理的安全性とは
「心理的安全性(psychological safety)」は、組織行動学の研究者であるエイミー・C・エドモンドソン氏によって初めて提唱された概念です。
チームや組織のなかで、従業員が「相手にどう思われるか」を懸念することなく、自分の能力や個性を安心して発揮できる状態のことを表しています。
すなわち、心理的安全性の高い組織は、「メンバー一人ひとりがが自分らしくいられる」「誰でも遠慮なく発言できる雰囲気がある」組織とも言い換えられるでしょう。
関連記事:心理的安全性とは?高める5つの方法とメリットを解説
心理的安全性が注目されるようになったきっかけ
多くの企業が心理的安全性に注目するようになったのは、米Google社の「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれるプロジェクトが大きなきっかけです。
同プロジェクトでは、チームメンバーの年齢・性別やメンバー同士の関係性などが、チームの生産性にどのように影響するのかを大規模に調査・分析しました。
その結果「誰がチームのメンバーであるかよりも、チームメンバーがどのように協力し合っているかが重要である」ことがわかり、特に心理的安全性は、成功するチームに欠かせない要素だと判明したのです。
この研究結果によって、心理的安全性という言葉が世界中に知れ渡るようになりました。
参考:Google re:Work – ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る
心理的安全性が低いことで起こり得る問題
心理的安全性が低い組織では、メンバーが以下の4つの「不安」を引き起こしてしまうと懸念されています。
(1)無知だと思われる不安
1つ目は、発言や質問をすることで自分が無知だと思われてしまう不安です。
心理的安全性が低い組織では、例えば業務でわからないことがあったときに、「こんな簡単なこともわからないのか」と思われるのではと不安が生じてしまいます。
その結果、メンバーは必要な質問や相談がしにくくなり、組織のコミュニケーション不足や業務効率・質の低下を招いてしまう可能性があるでしょう。
(2)無能だと思われる不安
2つ目は、ミスを報告したり失敗を認めたりすることで、自分が無能だと思われてしまう不安です。
心理的安全性が欠けていれば、「このミスが知られたら無能だと思われてしまう」という不安が大きくなり、ミスを素直に認められなくなってしまいます。
ミスを隠したり、他人のせいにしたりすることが増えれば、いずれ大きなトラブルに発展してしまう可能性もあるでしょう。
(3)邪魔をしていると思われる不安
3つ目は、発言や提案をすることで自分が邪魔をしていると思われてしまう不安です。
例えば、ミーティングの際に周囲とは異なる意見や提案をすることで、「せっかく意見がまとまっていたのに」「議論の進行を邪魔された」などと思われる不安に駆られてしまう状態です。
心理的安全性が低い組織では、画期的なアイデアを持っていたとしても、邪魔をしていると思われる不安のほうが勝り、自ら発言や提案をすることがなくなってしまいます。
(4)ネガティブだと思われる不安
4つ目は、発言や提案をすることで、他人を否定していると思われてしまう不安です。
心理的安全性が不足していることによって、「自分が指摘したらほかのメンバーに否定的に捉えられてしまう」という不安が大きくなり、間違っていることを「間違っている」と指摘したり、周囲と異なるアドバイスをしたりできなくなってしまいます。
ネガティブだと思われる不安を抱えていると、チームとして機能しなくなる可能性があるでしょう。
心理的安全性が高い職場は「ヌルい」職場?
心理的安全性と聞くと、「ヌルい」職場、すなわち「ただ仲が良いだけの」職場だと感じてしまう方もいるかもしれません。
しかし、そのイメージは誤りです。
心理的安全性の高い職場では、全員で高い基準の目標を達成しようとするため、むしろ厳しい意見が飛び交い、衝突することも大いにあり得ます。
心理的安全性が低ければ、対人関係を気にして相手と真逆の意見は言いにくくなるはずです。
対人関係を気にすることなく、健全に意見を言い合える職場こそが、心理的安全性の高い職場といえます。
4.心理的安全性を高める方法
心理的安全性を高める方法はさまざまありますが、今回はそのなかから以下の3点を紹介します。
・ オープンマインドを心がける
・ 発言する機会を均等に設ける
・ 評価方法を改善する
それぞれについて、詳しく確認していきましょう。
オープンマインドを心がける
「オープンマインド」とは、自分を正しいと決めつけず、多様な考えや意見を受け入れる心のことです。チームメンバー全員がオープンマインドを持っていれば、お互いに気兼ねなく自分の意見を言えるようになり、その意見がきちんと受け止められていると感じることで心理的安全性が向上します。
とはいえ、いきなり「オープンマインドを持ちましょう」といっても、抽象的でどうすれば良いのかメンバーは困惑してしまうでしょう。
そこで重要なのが、リーダーの役割です。リーダー自らが、メンバー一人ひとりの考えや意見を分け隔てなく聞く姿勢を見せるとともに、自分と異なることを理由に相手を否定したり、嘲笑したりするような場面を見つけた際には、毅然とした態度で注意するようにしましょう。
そうすることで、メンバーはどうあるべきかを理解しやすくなります。
発言する機会を平等に設ける
多様な人材が集まる組織のなかには、自分の意見を積極的に示すことが苦手な人もいるはずです。
発言するメンバーの顔ぶれがいつも同じで、意思決定にもその発言内容が採用されていると、ほかのメンバーはますます発言しにくくなり、心理的安全性の低下につながります。
そのためチーム内では、すべてのメンバーが平等に発言できる機会を設けるようにしましょう。
例えば、ミーティングの際には必ず1人1回発言するような進行にする方法があります。
もし、その場で必ず発言しなければならないことが逆にプレッシャーになるのであれば、あらかじめテーマを共有し、意見を考えておいてもらうようにするのも一つの方法です。
誰もが発言する機会を得られることで、メンバーは自分もチームの意思決定プロセスに含まれていると感じ、心理的安全性が高まります。
評価方法を改善する
成果主義の評価方法を取り入れている組織の場合、ミスができない、常にプレッシャーを抱えているなどの状況が、心理的安全性の低下につながる可能性もあります。
そのような場合には、個人単位での評価方法からチーム単位での評価方法に変更する、ランク制の評価制度を廃止するなどの方法を検討しましょう。
また、OKRの導入も効果的です。
OKRは、まず組織全体の目標を設定し、その下に連なる形で部門やチーム、さらには個人としての目標を設定していく方法です。
あらゆる目標が組織全体の目標と紐付いているため、組織全体の目標に向かってメンバー同士がコミュニケーションをとりながら協力しやすくなり、心理的安全性を高める効果が期待されています。
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5.まとめ
今回は、イノベーションの定義や種類とともに、イノベーションを生み出す組織に必要な心理的安全性の概要と、心理的安全性を高める方法について解説しました。
あらためて、記事の内容を振り返ってみましょう。
・イノベーションとは、今までとは異なる考え方や技術を取り入れることで、新たな価値を生みだしたり、改革・変革をもたらしたりすること
・イノベーションを促進するのは、「多様性」と「挑戦」
・「多様性」を活かし「挑戦」を促すには、「心理的安全性」が不可欠
・心理的安全性とは、相手にどう思われるかを懸念することなく、自分の能力や個性を安心して発揮できる状態のことを表す言葉
・心理的安全性が高い職場は「ヌルい職場」ではなく、むしろ厳しい意見が飛び交い、健全な衝突が起こることもある
・心理的安全性を高めるおすすめの方法は次の3つ
・オープンマインドを心がける
・発言する機会を均等に設ける
・評価方法を改善する
本記事を参考に組織のイノベーションを生み出せる組織づくりを目指しましょう。