
近年、どんな環境下であっても個人や組織の能力を最大限に発揮するために、「レジリエンス」を向上させる取り組みに注目が集まっています。
「事業環境が変わっても、柔軟に適応していける組織でありたい」
「多少ストレスがかかる仕事であっても、社員には心を折らさず前向きに取り組んでほしい」
組織作りや社員の育成を行う上で、こんな思いを持っていませんか?
本記事では、レジリエンスの考え方や、レジリエンスを向上させるための方法や効果などを詳しく解説していきます。
個人や組織のレベルアップに役立つ情報ですので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
1.レジリエンスとは?
言葉の意味、定義
レジリエンスという言葉には非常に多くの定義が存在し、確固たる定義がないとも言えますが、一般的に「回復力」「復元力」「弾力性」などと訳されています。
現代は“VUCAの時代”と呼ばれるように、予測不能で環境の変化が大きな時代です。こうした環境下では、常に変化に適応していくことが求められますが、まさにそうした適応能力を「レジリエンス」と呼びます。また、例え困難な事象が起きても、ストレスを跳ね返すような「打たれ強さ」や「精神的回復力」もレジリエンスです。
各分野における「レジリエンス」の使われ方
レジリエンスはさまざまな場面で用いられるワードですが、元々は心理学の用語であることをご存知でしょうか。
レジリエンスの概念の浸透に大きく寄与したのが、精神分析学者のアンナ・フロイトが行なった第二次世界大戦下のホロコーストから生還した孤児の追跡調査です。この調査では、同じ孤児であっても戦争のトラウマから脱却し新たな環境に適応できている孤児と、過去のトラウマから脱却できずにいる孤児がいることを指摘し、その本質にはレジリエンスの差があるとしました。
では、現代においてレジリエンスという言葉がどのような使い方をされているのか、各分野ごとに詳しく見ていきましょう。
教育
学校教育において、レジリエンスは非常に注目されている分野です。いじめや不登校など、心の課題を抱える子どもたちの増加を背景に、課題や困難に直面しても立ち直ることを支援する目的があります。
小中学校の学習指導要領には、レジリエンスの用語が直接的に用いられているわけではありません。しかし、近年の改訂内容には、悩みや不安への対処法について言及されており、レジリエンスの育成につながるような内容へと変化をしていることが分かります。
実際にレジリエンス向上プログラムを実践している学校では、保健体育の授業に取り入れていることもあれば、学校行事を通じて体験的な学びを促していることもあります。
中でもユニークな例として、兵庫県では「野外での一人泊」を通じて、自分の力で困難を乗り越える力や、挑戦する心を育てる体験プログラムを行なっています。
このように、今後もますますレジリエンスに着目した学校教育が進められ、レジリエンスの高い人材の育成につながっていくことが期待できるでしょう。
参考:「小学生のレジリエンスを高めることを目的とした保健教育プログラムの開発」
ビジネス
ビジネスシーンでは、社員一人ひとりの適応力やストレス対応力はもちろんですが、企業としてのレジリエンスの高さ、いわゆる「組織レジリエンス」が重視されることが特徴的です。
組織レジリエンスは、組織の持続的な発展を実現するために、突然の社会情勢の変化や事業環境、顧客ニーズの変化などにも柔軟に対応することが求められます。これらの変化は企業経営において大きなリスクとなりますが、組織レジリエンスが高ければ、リスクをチャンスに変えることができます。
また、実は企業のセキュリティ対策もレジリエンスに影響する大事な要素です。近年、 IT分野は目覚ましい進化を遂げていますが、その一方で、企業の脆弱なセキュリティを狙った攻撃なども発生しています。こうした攻撃から身を守りながら事業を発展的に継続させていくことも、レジリエンス向上の一環なのです。
防災
日本は地震や異常気象による水害など、さまざまな災害に見舞われる災害大国です。昨今では、自然災害だけでなく、新型コロナウイルスの蔓延なども含めた幅広い分野での災害対策が必要になっています。
こうした想定される災害リスクに対応する観点でもレジリエンスの考え方が導入されており、「国家レジリエンス」や「ナショナルレジリエンス」と呼ばれています。
日本で災害が起きてしまうことはやむを得ない側面があるため、もし災害が起きてしまったとしても、早期の復旧ができるような事前の備えや訓練をしておくことや、一人ひとりの防災リテラシーを高めていくことが重要です。
レジリエンスを構成する要素
レジリエンスを向上させるために身につけておきたい要素は以下の5つです。
・自己効力感
・自制心
・楽観性
・自尊心
・柔軟性
自己効力感
自己効力感とは、「自分にならできる」という自信を持ち、自分を肯定的に捉えることです。自己効力感を持っていると、困難な場面に遭遇した時に、自分には無理かもしれないと諦めるのではなく、失敗を恐れずに前向きに取り組むことができるようになります。
自制心
自制心とは、自身の感情や思考を必要に応じてコントロールし、適切な行動を取ることです。自制心を持っていると、気分やモチベーションを安定させることができ、アウトプットの質も高まります。
楽観性
楽観性と言うと、どんな事象に対しても「何とかなる」と考えるイメージが強いですが、レジリエンスの観点では、その意味合いだけではありません。
自分にとって厳しいと感じられるようなストレスのある環境に身を置いた時であっても、「これは自分の成長のために良い機会だ」というように、ポジティブに捉えられる力のことも楽観性と捉えます。
自尊心
自分には価値があり尊重されるべき存在であるという認識を自尊心と言います。
自尊心を備えていると、周りの評価などに左右されず、安定した精神を保つことができます。
また、自己効力感と同様に、困難な状況に置かれても「自分ならできる」という自信を持つことができるため、レジリエンスを高めるためには欠かせない要素です。
柔軟性
レジリエンスは変化への適応能力を指しているため、変化を拒んだり、不必要に恐れたりせず、柔軟に対応していく姿勢が大切です。
柔軟性を持っていると、自身の考え方や従来のやり方に拘らず、変化を前向きに捉えられるだけでなく、何事もポジティブに考えられるようになります。
レジリエンスが高い人、低い人の特徴
レジリエンスが高い人・低い人にはそれぞれ特徴があります。それぞれのポイントを見ていきましょう。
レジリエンスが高い人の特徴
レジリエンスが高い人は、上記でご紹介した「レジリエンスを構成する要素」を持ち合わせている人と言えますが、より性格的なアプローチをするならば、主に以下の3つが挙げられます。
・ポジティブ思考
・自責で物事を考える
・物事に一喜一憂しない安定感
ポジティブ思考
レジリエンスが高い人は、困難なことに対して心を折らさずに継続的に取り組んだり、多少厳しい状況にあっても、「この厳しさは自分のための試練だ」と前向きに取り組むことができます。
自責で物事を考える
新しいことや少し難しいと感じられることに挑戦した結果、失敗をしてしまうことはもちろんあります。
そんな時に、人のせいにすることなく、次回への改善につなげることができる人は、失敗に挫けないレジリエンスが高いと言えます。
物事に一喜一憂しない安定感
変化が大きい環境下ではちょっとしたことにも一喜一憂してしまいがちなので、自分を信じて突き進む精神的安定感を保っていることは、とても重要です。
レジリエンスが低い人の特徴
一方、レジリエンスが低い人はどんな特徴があるのでしょうか。レジリエンスが高い人の特徴の反対要素でもありますが、主に以下の3つが挙げられるでしょう。
・他人の目を気にする
・他責で物事を考える
・自分なりの目標や目的がない
他人の目を気にする
レジリエンスが低い人は、他人からの評価を過度に気にしたり、実際に言われていないようなことも想像でネガティブに思い込んでしまったりします。
これらは要らぬストレスを自らかけることになるので、決して良いこととは言えません。
他責で物事を考える
何かに挑戦して失敗してしまった時などに、常に人のせいにする他責思考を持っていると、基本的に受け身な姿勢で物事に取り組むことになるため、何に対してもモチベーションを上げることができなくなります。
自分なりの目標や目的がない
日頃自分なりの目標や目的を持っていないのも、レジリエンスが低い人の特徴として挙げられます。
なぜなら、目標や目的がないと「何でこんなことをしているのだろうか?」などと、ふと我に返ってしまうことが増え、気分が落ち込んだりモヤモヤしたりすることが増えてしまうからです。
2.レジリエンスの効果、高めるメリット
レジリエンスがさまざまな分野で注目を集めていること、また、レジリエンスが高い人・低い人の特徴についてそれぞれお分かりいただけたでしょうか。
ここからは、こうしたレジリエンスの特徴を踏まえた上で、レジリエンスを向上させることの効果やメリットについて解説していきます。
レジリエンスにはどんな効果があるか
レジリエンスの向上によって期待できる効果は、主に以下の3つが挙げられます。
・高い集中力やパフォーマンスを発揮することができる
・ストレスを成長につなげることができる
・ネガティブな事象への柔軟性を高めることができる
高い集中力やパフォーマンスを発揮することができる
レジリエンスが高まると、何事に対してもモチベーションを高く維持しながら取り組むことができるため、最大限の能力発揮につなげることができます。
ストレスを成長につなげることができる
学校や職場など、自分が日々生活を送る場所では、時に予想できないことが起きます。こうした想定外の出来事や変化は時にストレスにもなります。
しかし、こうしたストレスをバネにして前向きに対処することで、逆に成長材料にもなり得るのです。
ネガティブな事象への柔軟性を高めることができる
自分にとってネガティブな事象が起きてしまった時、それが精神的なダメージとなってしまうか否かは、考え方次第です。
レジリエンスを高めることで、どんなことが起きようとも柔軟な物の見方ができ、ストレスや不安で落ち込んでしまうこともなくなるでしょう。
レジリエンスを高めるとどんなメリットが得られるか
レジリエンスの向上は、個人にも、企業をはじめとした組織にもメリットがあります。
個人の観点では、どんな環境下であっても自らの能力を最大限に発揮できることです。最近では以前に比べて、転職やフリーランスなど、さまざまな生き方を自分で選択することができるようになっています。だからこそ、環境の変化に遭遇する場面は多く、自分の送りたい人生を実現するには、こうした変化に適応する力は欠かせません。
一方で組織の観点では、ストレス耐性のある社員が増えることで、安定した業務遂行を期待できます。社員が健康に前向きに仕事に取り組み、高いアウトプットを出すことは、企業の持続的成長につながります。
次ページ「レジリエンスを高める方法」