
「タレントマネジメントを導入することでどんな効果がもたらされるか知りたい」
「タレントマネジメント導入を考えているが、どういうステップが必要になるのだろうか」
昔は普通だった「終身雇用」や「年功序列」という制度が、世の中の価値観の変化によって合わなくなり人材の流動化が進んでいる今、脚光を浴びているのが「タレントマネジメント」です。
そこでこの記事では、
1.タレントマネジメントとは
2.タレントマネジメントの5つのメリット
3.タレントマネジメントの2つのデメリット
4.タレントマネジメント導入の5ステップ
5.タレントマネジメントの事例
についてくわしくご紹介します。
事業発展のためにタレントマネジメントは非常に有効です。是非この記事を読んで、導入への一歩を踏み出してください。
1.タレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは、自社で働くスタッフが持っているタレント(才能、資質、スキルなど)や経験をデータとして把握・集約・管理することによって、最適な人材配置ができるようになり、教育・育成などの取組みを容易にする人事戦略のことです。
タレントマネジメントと従来行われてきた人事管理には違いがあります。
従来の人事管理は、各従業員の労働時間や給与および報酬、昇進・昇格、人事考課などについて行われるいことがほとんどですが、タレントマネジメントの場合、個人のパーソナルなデータ(素質、才能、ポテンシャル等)をデータ化し管理することで、将来のリーダー候補を選定して育成するほか、従業員の能力・スキルにマッチした適材適所の配置を実現し、従業員の本来持っていた能力を開花させて経営戦略実現の可能性を高めます。
1-1.タレントマネジメントの目的
タレントマネジメントの主な目的は、経営目標を達成するための経営戦略を人事の側面から支えて実現させることにあります。
経営目標達成のためには、
・人材配置を的確に行うこと
・各従業員が持つ能力やスキルを存分に発揮してもらうこと
・将来の中核を担うリーダー候補を選び出して育成すること
・有能な人材の採用と流出を防いで定着させること
これらが非常に重要なポイントとなります。
タレントマネジメントは上記4つのポイントに対して効果を出すことを目的とした人事戦略であり、勤怠状況・給与・人事考課などを一元管理して、人事や給与計算等に利用する人事管理とは目的が違います。戦略なしにタレントマネジメントを導入したとしても活用して効果を出すことは難しいでしょう。
1-1.タレントマネジメントが注目されている理由
冒頭で少しご紹介しましたが、タレントマネジメントが注目されている理由は、人材の流動化が大きな理由のひとつですが、大まかに2つの理由が挙げられます。
・人材の流動化と多様化
労働や雇用の環境が大きく変化し、「終身雇用」や「年功序列」と言った制度は過去のものになり、転職が当たり前になりました。人材が固定せず流動化する時代には、いかに優秀な人材を確保しておくことができるかが、将来的な企業の経営に大きな影響を及ぼします。
また、働き方改革等による在宅ワーカー・時短ワーカーの増加、外国人労働者の増加など、人材が多様化していることもタレントマネジメントが求められる背景となっています。従来の画一的な人事管理のみでは対応することが難しくなってきており、ひとりひとりの能力を引き出すためには、各々の個性を把握して活かすための人事戦略を行うことが必須となります。
・少子高齢化による労働力不足
少子高齢化によって人材の採用自体が厳しくなっている現状では、できるだけ雇ったスタッフには自社の仕事に生きがいを感じてもらい長く働いてもらわなくてはなりません。
タレントマネジメントを導入することで、各スタッフの持っている適性に合わせた業務への配置が可能になり、スタッフのモチベーションアップができ離職率も下げることが可能になります。
2.タレントマネジメントの5つのメリット
タレントマネジメントの主な5つのメリットを見ていきましょう。
1.人材配置のマッチング精度が高くなる(適材適所)
2.埋もれている人材を発掘し、潜在的な能力やスキルを発揮させることができる
3.個人個人の能力に合わせた人材育成ができるようになる
4.適性に合った業務ができるようになるので社員のモチベーションアップが望める
5.採用基準が明確化するのでアンマッチ採用が減り、離職率を下げることもできる
タレントマネジメントを導入することでそれぞれのメリットが相乗的に効果を高め合い、最終的に業績をアップさせることに繋がります。
2-1.人材配置のマッチング精度が高くなる(適材適所)
タレントマネジメントにより、各個人の能力やスキルの性格な把握ができるようになるほか、各スタッフが持つ目標やキャリア、将来のビジョンも明確になるので適材適所が可能となります。
本人の適性に合ったポジションへの配置ができるようになることで、従業員のポテンシャルを引き出し、高いパフォーマンス発揮が期待できます。
2-2.埋もれている人材を発掘し、潜在的な能力やスキルを発揮させることができる
タレントマネジメントを行うことにより、埋もれている人材を発掘して、潜在的に持っている能力やスキルを発揮してもらうことができるようになります。
過去のキャリア、現職の評価、習得しているスキルといった基本情報だけでなく、趣味や特技といったパーソナルな情報なども情報として取得することにより、潜在的な能力やスキルが発見されすくなるからです。
さらに、各々の得意な分野やスキルを活かす場がないのであれば、新事業や新たなプロジェクトを立ち上げるなどして事業展開の幅を広げることができます。
2-3.個人個人の能力に合わせた人材育成ができるようになる
タレントマネジメントを導入することにより、各スタッフの適性に合った人材育成ができるようになるので、個々の能力にフィットした人材育成をすることが可能になります。
特にタレントマネジメントをリーダー育成に活用する企業は多くありますが、タレントマネジメントでは、リーダーとしての素質がある者を選抜してから育成することが可能になるので、適性のない人をリーダーに育てるといったアンマッチを避けることができ、将来にわたって会社を牽引していくリーダーを確実に育てていくことができるのです。
2-4.適性に合った業務ができるようになるので社員のモチベーションアップが望める
タレントマネジメントにより、人材の能力や適性に合った業務につかせることができるので、社員のモチベーションの維持や向上が望めます。
自身の強みを活かせていないことから生じる仕事への不満が除かれ、スタッフ自身の希望やキャリアステップに沿って目標を立てることが可能となり、本来の人材活用が実現できます。
自分の適性に合った業務を行うことで高い評価が得られるようになれば、自分の仕事に自信を持つようになり、さらに能力を伸ばしたり開発したりする意欲も湧きやすくなります。
2-5.採用基準が明確化するのでアンマッチ採用が減り、離職率を下げることもできる
タレントマネジメントをもとに、自社に不足している人材はどんな人材なのか可視化すれば、新たに人材募集を行う際にも、採用基準がブレることがなくなり、アンマッチ採用を防ぐことができます。
さらに、タレントマネジメントを活用することで採用後も自分と企業との間で擦り合わせがしっかりできるので、自分が目指すキャリアプランと企業側が求めるスキル・能力とのズレがなくなり、「この会社なら自分が満足できる働き方が実現できる」と確信が持てるので離職率も減らすことができます。
3.タレントマネジメントの3つのデメリット
タレントマネジメントにもデメリットがありますので確認しておきましょう。
1.タレントマネジメント導入前に挫折しやすい
2.タレントマネジメントが社内に浸透するまで時間がかかる
タレントマネジメントには多くのメリットがありますが、効果が測定しにくいことなどを理由に導入前に挫折しやすいという傾向があります。タレントマネジメント導入をスムーズに実現するために、どんなことで挫折しやすいかを把握しておきましょう。
3-1.タレントマネジメント導入前に挫折しやすい
タレントマネジメントは、導入前の検討は行うものの、結果的に導入を見送る企業が多い傾向があります。
◉導入を見送る理由として挙げられているもの
・タレントマネジメントを導入する前に社内の制度を整えたり改善する必要がある
・タレントマネジメントの効果が測定しにくい
・自社独自でマネジメントの内容を詰めるのが難しい
・外部コンサルにマネジメントを依頼した場合の費用対効果に疑問が残る
・システム導入には多額の費用がかかるが、費用をかけただけの効果が見込めるのかわからない
時間や費用をかけただけのリターンがあるかどうか疑問に思い、導入を検討したところで挫折してしまうことが多いようです。
タレントマネジメントに即効性はなく、ある程度時間をかけなければ結果が出ないことを念頭に、全社的な負担が増えることなども含めて、徹底的に検討を行うことが大切です。時期尚早ということであれば、今のうちからしっかりと導入計画を立てておくことも考えましょう。
3-2.タレントマネジメントが社内に浸透するまで時間がかかる
タレントマネジメントは導入したからといってすぐに効果が出るものではなく、社内に浸透するまでに一定の時間がかかります。
まず、全社的な取り組みを強いられるため、各スタッフおよび各部署の足並みが揃わないと情報がうまく集まらないというケースがありえます。個人個人から情報を提供してもらえなければ、マネジメント業務が行き詰ってしまいます。
事前に「組織の人材戦略上の課題解決のため」にタレントマネジメントを導入するという前提を浸透させておかないと、情報も集まらないばかりか、集められた情報を活用することも難しくなりますので、しっかりと目的や必要性を社内に周知させる必要があります。
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4.タレントマネジメント導入の5ステップ
タレントマネジメント導入の5つのステップをご紹介します。
1.導入の目的・目標の設定
2.人材(タレント)の情報の把握とデータ化
3.タレントの採用・育成の計画を立てる
4.計画に沿ったタレントの配置を行う
5.適切な人事評価体制の構築を行う
タレントマネジメント導入の肝となるのは、導入の目的をはっきりと決めることです。タレントマネジメントは導入してすぐに結果が目に見えるわけではないため、目的がはっきりしないまま導入してもあまり高い効果は得られません。まずは人事戦略も絡めて、しっかりと目的を定めましょう。
4-1.導入の目的・目標の設定
まず最初にすることは、タレントマネジメント導入の目的を明確化して定めることです。自社が抱える課題は何なのか、何を解決すればいいのか、何をゴールとするのかを明確にしましょう。
タレントマネジメントは基本的に人材戦略に対するサポートとして行うものです。人材戦略を立てるためには、経営戦略が先になければ始まりません。
そのために、まずは自社の経営戦略の中で人材戦略をどう位置づけ将来的に何を実現したいのか、タレントマネジメントをどう経営改善に活かすのかなどを明確にしてください。
タレントマネジメントをどう活用して、どう人事・採用の場に生かしていくかを明確化することで、どんな情報を集めていけばいいのか等、タレントマネジメントの具体的な内容を詰めていくことが可能になります。
4-2.人材(タレント)の情報の把握とデータ化
次に、氏名や学歴・経歴、取得資格、現在の配属先、現時点での評価等のタレント(人材)の情報を集約してデータ化します。これらのデータは常に最新の情報であることが望ましいため、リアルタイムで更新できるような体制を整えておく必要があります。また機密情報も含まれるため、厳重な管理体制も同時に整えてください。
闇雲に情報を集めても煩雑になり、あとあと整理が大変になりますので、最初のうちは、目的や目標に関係する情報に絞って集めるようにします。
大規模な会社の場合、集められたデータは膨大な量になります。情報は集めた後の処理の仕方で利用価値が決まりますので、しっかりとカテゴリ等で分類しておき、必要であれば、タレントマネジメントシステムの導入も検討しましょう。
4-3.タレントの採用・育成の計画を立てる
ステップ1で経営戦略を元にどのようなタレントがどれくらい必要なのか、タレントマネジメントの目的や目標を設定しましたが、実際に集めたデータと照らし合わせて、理想と現実のギャップを確認し、その差を埋めるための採用計画や育成計画を立てます。
このタレントの採用・育成のスケジューリングの作業は、タレントマネジメントのプロセスの中でも特に重要になります。なぜなら、ここで綿密な計画を立てておかないと、社内全体の人事プロセスに影響が出るからです。
4-4.計画に沿ったタレントの配置を行う
集めたデータや育成計画を元にして、タレントの配置を行います。配置転換、部署の異動が行われる場合は、しっかりと本人に「なぜ自分が、このポジションにつくことになったのか」を説明し、納得させるようにすることを忘れないようにしてください。
本人が理解できないまま配置を行うと、モチベーションが下がってしまい、期待した能力発揮ができないままになってしまう恐れがあります。マネジメント職は、配置後に定期的に経過観察を行うようにしましょう。
仮にタレントマネジメント計画を元に配置を行ったのに、あまり期待通りの成長が見られない場合には、再配置することも必要になります。しかし、短期間に何度も人事異動をさせることは、本人にとっても企業側にとってもデメリットが大きくなります。
なぜ計画通りにしても結果が出なかったのかをきちんと調査・分析して、同じ部署で再度育成を行うのか、配置転換をするのかを慎重に決めるようにしましょう。
4-5.適切な人事評価体制の構築を行う
人事評価体制を適切なものにすることも大切なステップです。せっかくデータを集めて、タレントが本来持つ能力が発揮できる配置にすることができたとしても、評価体制が昔のままで変わらないのであれば、高いモチベーションは維持できないでしょう。
昇給や昇格、賞与など、高い成果を出した人が適切に評価される体制を整えることが重要です。
5.タレントマネジメントの事例
すでにタレントマネジメントを導入した3つの企業の事例をご紹介します。
1.日立製作所
2.サイバーエージェント
3.日産自動車
どの企業も導入からまだ日が浅く、明確に業績などへ効果が表れているわけではありませんが、タレントマネジメントの導入から数年かけて少しずつ社内に浸透していった結果、良い循環が生まれていることがわかります。
5-1.日立製作所
タレントマネジメント導入前の日立製作所は、在籍する膨大な数の従業員について、個々に把握することが困難になっており、どこにどんな人材が配置されてどんな業務を行なっているかなどは全くわからない状態でした。
そこで、将来的に事業を担うリーダー候補を確保するためにタレントマネジメントを導入。集めた人材情報をデータベース化し、リーダー育成のプラットフォームも共通化させて、採用活動を行う人材エージェントについてもグローバルな規模で統一を行いました。
その結果、社内の人材の的確な把握ができるようになり、社内共通のリーダー育成の枠組みが作り出された結果、人材の育成が非常にスムーズになったのです。
5-2.サイバーエージェント
アメーバブログやAbemaTVを運営する株式会社サイバーエージェントの場合、タレントマネジメント導入前は、在籍する正社員数が2,000人以上という規模になってからも、人材の配置や新規スタッフの採用を、データに頼らず感覚で決めていたと言います。
このような状況を改善しようと、人材に関するデータを一元管理し、採用や人事の判断をデータに基づいた科学的なものにして適材適所を実現するために、2015年1月「人材科学センター」を立ち上げました。
自社開発したシステム「GEPPO」は、氏名や役職、資格などの客観情報だけでなく、仕事へのモチベーションやチームの状況、健康状態などの主観的な情報もデータとして取得。数値で分析が可能なので、どの社員がどの仕事でハイパフォーマンスが発揮できるかといったことも、ロジカルに確認できます。
GEPPOを使って全社員2,000人強に月1回のアンケートを実施していますが、「キャリアについて相談できるので助かる」「言いたいことが言える場があるのがありがたい」といった回答もあり、おおむね社員には好評を得ています。
5-3.日産自動車
日産自動車では、2011年から「グローバルタレントマネジメント部」という部署を創設し、タレントマネジメントを行なっています。
タレントマネジメントの目的として、「ビジネスリーダーの発掘・育成」を掲げ、社内で優秀な人材を発掘するスカウト的役割を担う《キャリアコーチ》が、各部署の上司から提出されたレポートを元に次世代のビジネスリーダー候補となる人材を探し出し、経営クラス層が行う委員会に提案します。
委員会の場で評価されビジネスリーダー候補として認められると、ハイポテンシャルパーソン(HPP)として登録されます。キャリアコーチ・上司は、HPPに対して個人ごとの育成プランを作り、さまざまなポストを経験させて人材の成長を進めていきます。
HPPは当初40代が中心でしたが、最近では20代、30代のHPPも増え、若い段階から企業のトップクラスを担える優秀な人材の発掘・育成がスムーズに行われるようになり、事業の将来的な成長の柱となりつつあります。
6.まとめ
人材が固定せず流動化する現代では、タレントマネジメントを導入することによって、優秀な人材を確保し、優秀なリーダーへと育成することが可能になります。
ここで、タレントマネジメントの5つの効果やメリットを復習しておきましょう。
1.人材配置のマッチング精度が高くなる(適材適所)
2.埋もれている人材を発掘し、潜在的な能力やスキルを発揮させることができる
3.個人個人の能力に合わせた人材育成ができるようになる
4.適性に合った業務ができるようになるので社員のモチベーションアップが望める
5.採用基準が明確化するのでアンマッチ採用が減り、離職率を下げることもできる
とはいえ、タレントマネジメントの導入にはしっかりとした導入計画を立てる必要があり、導入後も浸透するまで時間がかかります。将来の事業発展のためにも早めに検討を始めることをお勧めします。