人的資本の具体的な開示項目を先駆者に学ぶ。企業文化は開示項目となるか?|田中弦のCEOBlog-vol.3

※こちらのブログは、UniposサイトのCEOblogから転載/リライトしています。

このCEOブログは、CEOの田中がこれからの企業経営について得た人的資本経営に関する情報をまとめ、見解を踏まえて投稿していくシリーズです。

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vol.1では、人的資本を考える4つの視点と2つのキーポイントとして、多面的に人的資本経営について考えてみました。

人的資本経営とは、開示だけが目的ではなく、
いかに人的資本について継続的に「開示」しつつ、いかに人的資本を「活用・改善」するかという点が押さえるべきキーポイントと述べました。

Vol.2では、「開示」に焦点を当て、
「人的資本の開示」は上場企業だけのものでもなく、労働市場への情報供給量が格段に増し、未上場企業であってもその影響は計り知れないと述べました。

今回は具体的な「開示」項目について考えていきたいと思います。

開示項目の2つの要素とは

人的資本の開示には、以下2つの要素が存在します。

(1)自社固有の戦略やビジネスモデルに沿った独自性のある取組・指標・目標

(2)比較可能性の観点から開示が期待される事項

内閣府からも、下記の図のように、(1)と(2)はバランス確保してくださいね、とあります。

出典:内閣府「人的資本開示指針

とはいえ、どんなバランスが良いのか、よくわかないところもあるかなと正直思います。一緒に考えてみましょう。

まず、わかりやすく取り組みやすいのは(2)比較可能性の観点から開示が期待される事項の、比較できる「数値」ではないでしょうか。

過去の統合報告書にも多くが取り上げられています。(2)については、下記の図がわかりやすいです。

出典:内閣府「人的資本開示指針

開示項目は

A.価値向上、つまり、こういった数値が良いので評価してほしい

という評価を得るためのものと、

ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)の観点からも重要と思われる、

B.こういったリスクが存在しているという2つの観点がある、ということですね。

開示項目は、長期的観点で見ることが大事

例えば「サクセッションプラン(後継者が育成できているか)」という項目について考えてみましょう。

これは企業の置かれている状況により、AにもBにも変化します。

例えば、新規事業が育ち、子会社が多数伸びている。子会社社長も意欲がある。こういった場合には企業評価に値する評価すべきポイントとなりますので、Aの「価値向上」の側面ががぜん大きくなります。

一方、仮にオーナー企業でオーナーが株も多くのシェアを持たれていて、後継者育成がうまくいっていないケースにおいては、サクセションプランの開示は、Bの「リスク」の側面が大きくなるでしょう。

まとめると、これらの開示項目は企業の置かれる状況において、評価開示項目にもリスク開示項目にもなりうるということです。
(リスク、と書いていますがリスクを開示することは正しい事だと思います。その後の対処によって評価項目になりますので)

より重要なことは、開示をその瞬間瞬間ですることよりも、継続して「対処できているか」です。

一度開示して、数値が悪くなることもあり得ます。

開示義務が迫っているからといって、安易に比較可能な数値を大量に開示することは、私はおすすめしません。改善可能、対処可能な数値を開示すべきだと思います。

上記の図にあるように、開示項目には多数の項目が存在します。

育成、エンゲージメント、流動性、ダイバーシティ、健康・安全、労働慣行、コンプライアンス・・・・

開示項目は多岐に渡ります。これだけあると、「いったいどこから手をつけたのやら」となってしまいますし、ましてや比較可能な指標はともかく、(1)の独自指標はどう考えるべきか、頭が痛いものです。

人的資本の独自開示項目とは?

では、私が色々過去見た統合報告書やIR資料の中から、これは企業の強みを表す独自指標だな、と思ったものをご紹介します。

積水化学様 :「挑戦行動の発現率」を開示

出典:積水化学統合報告書より

積水化学様では、中期経営計画において特に「革新や創造」を重要視されています。

上記の記載にあるとおり、「挑戦行動の発現率」を開示しています。これは、従業員アンケートにより計測されているようです。

こういった開示を行うことにより、企業における鍵(KSF:キーサクセスファクター)は何か、がよくわかりますね。
従前からのKSFというと、ビジネスモデルなどの儲ける仕組みや、競争環境、シェア、当該事業への投資量などが開示項目として挙げられてきました。一方、積水化学様のような開示の仕方もあるのだな、と最初に気付かされた開示例です。

オムロン様:「人的創造性」を開示

オムロン様も、独自開示として「人的創造性」を開示されています。以下引用です。

“人的創造性とは、売上から変動費を差し引いた付加価値額を人件費で割ったものです。付加価値とは、オムロン が顧客や市場に向けて創り、届けた価値の大きさ、人件費とは、その価値を創出する人財への投資の大きさを指し ます。企業が適正な付加価値を得て、それを使って新たな価値の拡大再生産を行うことは、企業と社員の持続的成 長の実現に不可欠です。付加価値の成長を実現させる人財投資には、全社の経営目標や事業戦略に即した3つの 因子が重要となります。”

引用:オムロン総合レポート2022より

次々と革新的な製品を世に先読みして投入されるオムロンさんらしい独自開示項目ですよね。

丸井グループ様

丸井グループ様は、ダイバーシティ&インクルージョンをはじめとする先進的なIR活動で、いつもリーダーシップを発揮されています。人的資本経営においても、素晴らしい開示をされていたので紹介させてください。このブログでサラッと紹介するにはあまりにコンテンツが素晴らしいので私が「これはすごい」と思った箇所だけ取り上げますね。

それは丸井グループ様が開示されているこの人的資本に関する資料です。これがすごい。

企業の重要な競争力を構成する要素として、「企業カルチャー」があると考えています。企業カルチャーとはすべての土台でありますが、今までは土台であるぶん、わかりづらいものであったと思います。丸井グループさんのこの人的資本に関する資料は、企業カルチャーと人的資本を丁寧に結びつけた、珠玉の資料だと私は考えています。

出典:丸井グループ「人的資本経営」より引用

“人的資本は氷山モデルになぞらえ、財務情報として顕在化した企業価値の水面下に あって、 その源泉となっている見えない資本と捉えております。”

私もそのとおりだと考えています。これらの見えない資本の力こそが、企業の競争力、挑戦する意欲、心理的安全性などを向上させる大きな要因ではないでしょうか。

そして、丸井グループさんでの重要なカルチャーである「手上げの文化」について開示もされています。挑戦し、自ら手を上げる人の数の開示です。

出典:丸井グループ「人的資本経営」より引用

昨年度は、なんと82%の方が自ら挑戦をしているとのことです。会社としても様々な機会や制度改革も同時にされています。

まとめ

私は、今後こういった「企業カルチャー」は、「人的資本経営の開示」において非常に重要な位置を占めるようになるべきではないかと考えています。

なぜなら、それが最も見えにくいものでありつつも、企業の真の競争力の源であると確信しているからです。

現在、多くの企業において、企業カルチャーや風土の痛みが発生しています。これらが傷んだままでは、人的資本の「開示」は瞬間的にできるものの、人的資本の向上に至らないと考えています。

組織風土が傷んでいるのに、なぜか人的資本がぐんぐん向上していく、こういったことはさすがに考えにくいです。開示も重要ですが、組織風土の問題にも真剣に取り組む必要があります。

「カルチャー」を経営のど真ん中に据える のご著書の遠藤先生は以下のような図にまとめていらっしゃいます。

出典:『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える』遠藤功、東洋経済新報社より引用、Uniposにて加筆

人的資本の開示項目として、組織の卓越した実行能力としての「組織能力」が考えられます。そして、その土台は組織風土や組織文化に立脚します。

つまり、人的資本の開示においてはつまるところ、組織風土や組織文化を語り、その上に立脚する組織能力を開示することではないかと考えています。

今後このブログでは企業カルチャーと人的資本経営についても、取り上げたいと思っています。

随時更新予定ですのでまた次の機会に。

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 代表取締役社長CEO 田中 弦
1999年にソフトバンク株式会社のインターネット部門採用第一期生としてインターネット産業に関わる。ブロードキャスト・コム(現 Yahoo!動画)の立ち上げに参加。その後ネットイヤーグループ創業に参画。 2001年経営コンサルティング会社コーポレイトディレクションに入社。 2005年ネットエイジグループ(現UNITED)執行役員。モバイル広告代理店事業の立ち上げにかかわる。2005年Fringe81株式会社を創業、代表取締役に就任。2013年3月マネジメントバイアウトにより独立。2017年8月に東証マザーズへ上場。2017年に発⾒⼤賞という社内⼈事制度から着想を得たUniposのサービスを開始。2021年10月に社名変更をし、Unipos株式会社 代表取締役社長として感情報酬の社会実装に取り組む。2022年10月に著書「心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100(ダイヤモンド社刊)」を刊行。