
企業としてはもちろん、就職先を選ぶうえで気にする方も多いのが「離職率」です。離職率が高いと、採用コストの増加や自社のノウハウの流出が懸念されるうえ、世間から「何か問題がある企業なのでは?」と思われてしまい、優秀な人材を採用するチャンスを逃してしまう可能性もあります。
本記事の前半では、離職率の定義や代表的な離職理由、離職率ランキングなどをご紹介します。後半では、離職率が高い企業と低い企業の特徴、離職率の改善に向けて取り組むべきことを解説しますので、ぜひ参考にしてください。
1.離職率とは

離職率の定義と計算方法、最新のデータにもとづく離職率の平均値について解説します。
離職率の定義と計算方法
厚生労働省の定義によると、離職率とは「常用労働者数に対する離職者の割合」のことを指します。また、「常用労働者」および「離職者」については、それぞれ以下のとおり定義されています。
・常用労働者:次のいずれかに該当する労働者
(1)期間を定めずに雇われている者
(2)1か月以上の期間を定めて雇われている者
・離職者:常用労働者のうち、調査対象期間中に事業所を退職したり、解雇された者をいい、他企業への出向者・出向復帰者を含み、同一企業内の他事業所への転出者を除く
具体的に離職率を求める際には、1月1日現在の常用労働者数(年齢階級別は6月末日現在の常用労働者数)と離職者数を使用し、次の計算式で算出します。
<離職率の計算方法>
離職率 = 離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数(※) × 100(%)
(※)年齢階級別は6月末日現在の常用労働者数
仮に、1月1日現在の常用労働者数が1,000人、1年間の離職者が50名だった場合、離職率は5%となります。
離職率の平均値
厚生労働省の「令和2年雇用動向調査結果の概況」によると、令和2年1年間の常用労働者の平均離職率は14.2%でした。
前年同期の15.6%と比較すると1.4%離職率が改善しており、男性/女性の別に見ても、一般労働者/パートタイム労働者の別に見ても離職率は低下しています。
2.代表的な離職理由

そもそもなぜ人は仕事を辞めてしまうのでしょうか。以下では、データをもとに具体的な離職理由についてご紹介します。
データでみる3大離職理由
エン・ジャパン株式会社が実施した「転職のきっかけ」実態調査(総合転職支援サービス「エン転職」上で11,400名のユーザーを対象にアンケートを実施)によると、転職を考え始めた3大理由は以下のとおりとなっています。
(1)やりがい・達成感を感じない(40%)
(2)給与が低い(36%)
(3)人間関係が悪い(26%)
そのほか「残業・休日出勤など拘束時間が長い」「評価・人事制度に不満がある」なども比較的多い理由の一つです。
仕事内容が自分に合っておらず、やりがいを感じられないというケースや、給与や評価、人間関係に対する不満などがおもな離職理由といえるでしょう。
参考:『エン転職』1万人アンケート(2020年8月)「転職のきっかけ」実態調査
【新卒・若手・女性】離職が多いと言われる人の離職理由
特に離職が多いと言われる、新卒社員・若手社員・女性社員の離職理由をそれぞれ見ていきましょう。
新卒の離職理由
新卒3年以内に転職した経験がある498人を対象として、株式会社ビズヒッツが実施したアンケート調査では、新卒の離職理由について以下の結果となっています。
<離職理由>
・仕事内容が合わない
・人間関係が悪い
・勤務時間・休日への不満
そのほか、「社風になじめない」など新卒だからこその理由も見られました。
参考:「とりあえず3年」は根拠なし?新卒3年以内で転職した理由ランキング
若手の離職理由
「データでみる3大離職理由」でご紹介した「転職のきっかけ」実態調査の結果を、20代の若手社員に限定して見てみます。
<離職理由>
・やりがい・達成感を感じない
・給与が低い
・自分の成長が止まった
・成長感がない
さらに成長したい意欲はあるものの、成長できる環境が整っていないことが見受けられます。
女性の離職理由
30代で転職した経験がある292人を対象として、株式会社ビズヒッツが実施したアンケート調査では、女性の離職理由について以下の結果となっています。
<離職理由>
・結婚・出産のため
・人間関係への不満
・ほかの仕事をしたくなった
そのほか「家庭との両立のため」「育児のステージが変わった」などと、女性ならではの理由も見られます。
参考:【30代女性の転職理由ランキング】経験者292人アンケート調査
また、厚生労働省の「令和2年雇用動向調査結果の概況」では、「その他の理由(出向等を含む)」や「定年・契約期間の満了」を除くと、女性では「職場の人間関係が好ましくなかった」が最も多い結果となっています。
3.753現象とは

「753(しちごさん)現象」とは、就職して3年以内に離職する労働者が多い問題を表した言葉です。
内閣府による「平成19年度版 青少年白書(青少年の現状と施策)」で報告されたことで、広く知られるようになりました。
753現象は、平成19年時点で10年以上も前から見られる傾向だといわれ、7・5・3の数字が示すとおり、就職して3年以内に中卒者の約7割、高卒者の約5割、大卒者の約3割が離職してしまう傾向にありました。
平成から令和となった現在でも、特に大卒者の離職状況はそれほど大きくは変化しておらず、就職3年以内の離職率は3割を越えています。
実際に、厚生労働省が公表した「新規学卒者の離職状況」を見ると、新卒採用(大学卒)の従業員が3年以内に離職する割合は長年横ばいで推移しています。
<大卒者の3年以内離職率の推移>
2014年卒入社 32.2%
2015年卒入社 31.8%
2016年卒入社 32.0%
2017年卒入社 32.8%
2018年卒入社 31.2%
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4.離職率ランキング

ここから、離職率に関するさまざまなランキングをご紹介します。
なお、一般的には「離職率が低い=良いこと」と捉えられますが、なかには離職したくてもできないブラック企業なども存在すると想定されます。また、調査年の社会情勢などによっても結果は変化するため、離職率が低いからといって必ずしも良い会社・業界・職種であるとは限らない点は理解しておきましょう。
離職率が高い会社・低い会社
離職率が高い会社と低い会社、それぞれのランキングは以下のとおりです。
<離職率が高い会社>
(1)KADOKAWA
(2)アイフリークモバイル
(3)スシローグローバルHD
参考:「1位は0.7年」平均勤続年数ワースト300社ランキング2020 平均年収も全体的に低い傾向
<離職率が低い会社>
(1)島津製作所
(2)三井不動産
(3)栗田工業
(4)三菱地所
※いずれも定着率100%、ランキングは定着人数順
参考:「新卒社員が辞めない会社」ランキングTOP300 | 就職・転職
離職率が高い業界・低い業界
厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概況」内で報告された業界別の離職率から、離職率の高い業界・低い業界のランキングは以下のとおりです。
<離職率が高い業界>
(1)宿泊業・飲食サービス業
(2)サービス業(他に分類されないもの)
(3)生活関連サービス業・娯楽業
<離職率が低い業界>
(1)鉱業・採石業・砂利採取業
(2)金融業・保険業
(3)複合サービス事業
ただし、離職率が低い業界の第1位「鉱業・採石業・砂利採取業」については、前年との差が大きいため、離職率の低い業界とは言い切れない側面があります。
離職率が高い職種・低い職種
離職率が高い職種と低い職種、それぞれのランキングは以下のとおりです。
<離職率が高い職種>
(1)営業職(営業、MR、人材コーディネーター)
(2)技術系(IT、Web、ゲーム、通信)
(3)企画職(経営企画、広報、人事、事務)
<離職率が低い職種>
(1)技術系(医薬、科学、素材、食品)
(2)専門職系(コンサルタント、金融・不動産)
(3)専門サービス系(医療、福祉、教育、ブライダル)
参考:2019年「企業の人材不足」実態調査 9割の企業が人材不足を実感
5.離職率が高い企業、低い企業の特徴

離職率が高い企業と低い企業には、どのような特徴があるのでしょうか。以下では、それぞれの特徴について解説します。
離職率が高い企業の特徴
離職率が高い企業の特徴として、以下の3点をご紹介します。
教育・フォロー体制が整っていない
特に新入社員や若手社員にとって、サポートしてもらえる環境が整っていないことは大きなストレスにつながります。
例えば、人手不足などを理由に研修や指導を十分に行えていないと、不慣れな環境のなかで自信をなくしてしまい、その会社での自分のキャリア形成にも不安が生じてしまいいます。また、教育・フォロー体制が不十分ななかで本人は問題なく業務をこなせていたとしても、周囲がサポートをしない環境自体に疑問を感じる可能性もあります。
その結果、離職率が高くなってしまうでしょう。
労働環境が悪い
労働環境の悪さは、精神的にも肉体的にもダメージを与えます。サービス残業が横行していたり、休日出勤が常態化していたりすると、離職につながってしまいます。
また、例えば子育てや介護のために休みをとりたいのに、自分のタイミングでは休暇をとりにくい雰囲気になっているケースもあります。その場合、仕事を続けたくても辞めざるを得ない状況に追い込まれてしまうでしょう。
評価制度が正しく機能していない
評価制度がうまく機能しておらず、頑張っても評価されない場合や、上司の感情に左右される評価の場合、社員のモチベーションは下がってしまいます。評価制度は給与などにも影響を与えるため、「それならば正しく評価してくれる会社に転職しよう」と社員は離職を考えるようになるでしょう。客観的で公平な評価制度は、離職率を下げるうえで欠かせません。
離職率が低い企業の特徴
離職率が低い企業の特徴として、以下の3点をご紹介します。
コミュニケーションが十分になされている
コミュニケーションに積極的な風土のある企業では、コミュニケーション不足によるストレスや人間関係の悪化のリスクが少なく、働きやすさやチームワークの良さが目立ちます。
いつでもコミュニケーションがとれる環境なら質問や相談もしやすいため、特に新卒や若手社員は不安なく働くことができるでしょう。そうした環境が、離職率を低くしています。
参考:8,900人が回答!「職場でのコミュニケーション」調査 ー『エン転職』ユーザーアンケートー
社員のエンゲージメントが高い
エンゲージメントとは、簡単に言えば企業への貢献意欲です。エンゲージメントの高い状態は、社員が「この会社で働きたい」と感じ、自分が会社に貢献できる喜びを感じられる状態を指します。
離職率が低い企業では、社員は企業のビジョンや経営方針を十分に理解し、共感しています。その結果、多くの社員のエンゲージメントは高い状態が維持されており、組織全体が活気あふれる状態です。
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6.離職率改善に向けてまず取り組むべきこと

離職率改善に向けて、まず最初に取り組むべきことは次の3つです。
・社内コミュニケーションの活性化
・人事評価制度の見直し
・労働環境の改善
それぞれについて、以下で詳しく確認していきましょう。
社内コミュニケーションの活性化
1つ目の対策は、社内コミュニケーションを活性化させることです。
上司と部下などの特定の人間関係内でのみコミュニケーションを増やすのではなく、普段は関わりが少ない他部署の社員なども含めた積極的な交流を目指しましょう。
例えば、社内SNSの活用などは、テレワークを導入している企業でも社員同士のコミュニケーションのきっかけが生まれるためおすすめです。
風通しの良い職場になれば、社員の悩みや不満を拾い上げやすくなるとともに、社員はいつでも相談できる安心感が得られるでしょう。
人事評価制度の見直し
2つ目の対策は、人事評価制度の見直しです。
何が評価基準となっているのかが明確で、かつ社員が納得いく内容となっていないと、単に評価結果に不満を抱くだけでなく、給与などの待遇に納得感を得られないことにもつながります。
人事評価制度には、何より客観的な視点を取り入れることが大切です。そのためには、新たに人事評価システムを導入したり、同僚や部下など複数の評価者を置く360度評価を導入したりする方法もよいでしょう。
労働環境の改善
3つ目の対策は、労働環境の改善です。
育児や介護と両立しながら働き続ける労働者はこれからも増えていくでしょう。
多様な働き方が認められない限り、離職せざるを得なくなる人は後をたちません。
長時間労働や残業を抑制するための仕組みづくり、短時間勤務やテレワークの導入、さまざまな休暇制度の充実など労働環境を改善することで、多様な人材の定着が促されます。
また、社員の心身の健康確保にもつながるため、組織全体のモチベーション向上にも効果的です。
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7.まとめ
今回は、離職率の定義や代表的な離職理由、離職率が高い企業と低い企業の特徴、離職率の改善に向けて取り組むべきことなどを解説しました。
あらためて、記事の内容を振り返ってみましょう。
・離職率とは「常用労働者数に対する離職者の割合」のこと
・令和2年1年間の常用労働者の平均離職率は14.2%
・753現象とは、就職して3年以内に中卒者の約7割、高卒者の約5割、大卒者の約3割が離職してしまう問題のこと
・離職率が高い企業の特徴は、次の3つ
・教育・フォロー体制が整っていない
・労働環境が悪い
・評価制度が正しく機能していない
・離職率が低い企業の特徴は、次の2つ
・コミュニケーションが十分になされている
・社員のエンゲージメントが高い
・離職率改善に向けて取り組むべきことは、次の3つ
・社内コミュニケーションの活性化
・人事評価制度の見直し
・労働環境の改善
本記事を参考に優秀な人材の定着を図り、企業としての成長を目指しましょう。
